松陽「そんな事はないよ。私はただ、自分に出来る事をしたまでですよ。」
アル「謙遜しないで下さいよ。それに、松陽さんがなんと言おうとも、俺の中では英雄なんですよ!」
アルベルトの熱演に、松陽も観念したのか、軽く微笑んでいた。
千冬「それで松陽さん、今日はどの様な用件があって、IS学園にいらっしゃったのですか?
まさか、世間話をするために来たわけじゃ無いですよね?」
松陽「そうだね。もうすぐ、幸太郎が誕生日だからお祝いにと思ったけど、今日はあの日だからね。」
松陽が言うあの日とは、幸太郎が目を覚まさない今日の事である。
そう言って松陽は、キレイにラッピングされた袋を取り出して、机の上に置いた。
一夏「これってもしかして、幸太郎さんへのプレゼントですか?」
鈴音「あの紅グループの元会長だから、そうとう値のはる物でしょうね。」
一夏と鈴音が想像していると、松陽はそれも想定していた様に、優しく微笑み袋を空けた。
松陽「残念ですが、二人が想像している様な物ではありませんよ。それは、私が手作りしたチョコチップ入りのクッキーです。
このクッキーは、幸太郎が好きな物なので、気合いが入りましたね。」
袋の中には、手作りとは思えない程、キレイで美味しそうなクッキーに、マイルナとアルベルト以外は驚いていた。
先程のお茶と言い、このクッキーと言い、松陽はあの紅グループの元会長とは思えないギャップがあった。
マイルナ「今年はクッキーなんですね。確か去年は、手編みのマフラーで、一昨年は自家製のお茶っ葉でしたよね?」
一夏「あの…松陽さん、こんな事は言いたくは無いんですが、幸太郎さんの誕生日にあんまり高価な物は用意しないんですか?」
一夏がそう聞くと、松陽は腕を組んで少しだけ考え出した。
松陽「そうですね…。お金があるから使うという考え方は、ずれていると思うんですよ。
紅グループ全ての資産は、幸太郎が本当に使いたい時に使える様に、私が無駄遣いをするわけにはいきませんよ。」
松陽「それに、私が紅グループを作ったのも、私が死んでしまっても、幸太郎に不自由なく暮らして貰える様にと、妻と一緒に作ったのですよ。」
箒「そうだったんですか…。義兄さんの為に、ここまで大きな財閥を作るなんて、本当に義兄さんは愛されているんですね。」
松陽「義兄さん?幸太郎の事ですよね?」
マイルナ「そうでした、まだお話してませんでした。」
そしてマイルナは、束とラウラとリアネールが幸太郎の事を好いている事を、話した。
松陽「そうですか…、貴方達が幸太郎の事を…。」
そう言って松陽は、ラウラ達に近づいていった。
松陽に怒られるかも知れない。そう思い、周りの空気が少し静かになっていた。
すると、松陽はニッコリと笑った。
松陽「そんなに身構え無くても大丈夫ですよ。マイルナちゃんとアルくんが認めてるなら、私からとやかく言うつもりはありませんよ。
私は仕事仕事で、あまり幸太郎に直接愛を与えてあげれなかったけれども、貴方達のその真っ直ぐな眼を見れば、その心配は無さそうですね。」
松陽「病弱で、どこかずれている息子ですが、どうか心から愛してあげて下さい。」
そう言って松陽は、三人に向かって頭を下げた。
リネ「そんな事、わざわざ頼まれなくてもわかっています。」
束「そうですよ。それに、頭を下げるのは私達の方です。」
ラウラ「こんな騒がしくてめちゃくちゃな私達ですが、こちらこそ宜しくお願いします。」
ラウラ達も、松陽に頭を下げた。
松陽「そうですか。こんなに愛してくれる人がいて、幸太郎は幸せ者ですね。」
そう言った松陽の目には、涙がこぼれていた。
良いお父さんですね!
私が作ってる小説で初めて、立派で子供思いの親ですね。
双子両親は、救いようのない屑野郎ですしね。