セリフ多めになります。
ご了承ください。
松陽「すまないね。歳をとってくると、涙腺が緩くなってしまう。
さて、一夏くんが聞きたかった話は何だったかな…、そうだった。幸太郎の詳しい病状を、なぜ政府が知ってるか…だったね。」
松陽がそう言った瞬間、マイルナとアルベルトの顔に緊張が走った。
そして何かを言おうとしたが、言葉が出てこなかった。
アル「松陽さん、その事は俺達が説明しますから松陽さんの口から言わなくても…。」
松陽「気を使ってくれてありがとう。でも、この事だけは私の口から説明したいんだ。
それに、束ちゃんとラウラちゃんとリアネールちゃんには、幸太郎の全てを知って貰いたいんだ。」
松陽に名前を呼ばれた三人は、覚悟を決めた。
それは、どんな理由があろうとも、幸太郎への愛を捨てないでほしい。
そんな松陽の想いを、受け入れたからだ。
松陽「どこから話そうかな…。そうだね、君達が産まれてくる前の日本は、世界の中でも立場が低かったんだ。
と言っても、公には欧米列強とは対等な関係だったけどね。」
千冬「それはやはり、核の保有や軍隊の有無に関係があるんですか?」
松陽「千冬ちゃんの言う通りだ。それで日本政府は、どうにかして世界に核に変わる抑止力が欲しかったんだ。
武力を持てば、国外は元より国内からの批判があるからね。
でも、そう簡単に見つからなかったんだ。」
松陽「そこで政府が目をつけたのが、生物兵器なんだ。
これなら、目には見えないから国民には知られにくいし、それに感染した患者を標的国に送り、そこで感染させれば、決定的な証拠は残らない。
そして欧米列強に、大きな兵器としてアピールも出来る。」
松陽の言葉に、千冬と束は心から失望していた。
政府の事ははなから信用して無かったが、ここまで酷いとは考えたもなかったからだ。
松陽「そして政府は、様々なウイルスを研究したが、どれも上手くはいかなかった。どのウイルスも、ワクチンや予防法が簡単に出来てしまい、とても兵器と喚べる代物は出来なかった。
政府がこのプロジェクトを諦めかけた時に、私達夫婦の間に幸太郎が産まれたんだ。」
松陽「幸太郎の体内の病原体には、世界中のあらゆるワクチンも特効薬も聞かない。だから政府は、それに目をつけた。
でも、その病原体の感染力や他人に感染した時の効果を政府はまだ知らなかった。
人体実験をするにも、世間の目がある。そこで選ばれたのが…。」
束「ま、まさか…嘘ですよね。」
松陽「束ちゃんの予想通り、私達夫婦だった。政府としては、私達紅グループが邪魔だったんだろう。
裏社会の人間を雇い、私達夫婦と他数名を拉致したんだ。」
アル「その頃に、俺達の会社はまだ無かったんだ。だから…だから!
助けることが出来なかったんだ!」
そう言ってアルベルトは、拳を握りしめ涙を流した。
松陽「だから、そんなに自分を責めるなと言ってるだろう?
話を戻そう。そして政府は、私達を感染させ実験を行ったんだ。
その実験で…。」
そこまで言うと松陽は、体を震わせながら大粒の涙を流しだした。
マイルナ「松陽さん、それ以上は!」
松陽「大丈夫だよ。ここまで来たからには、話さなくてはね。
その実験で、私は臓器の幾つかと、右目の失明。私の妻、そして幸太郎の母である奈々は、死んでしまったんだ…。」
松陽が話した真実に、千冬達は言葉を失い、同時に絶望した。
アル「そして政府は、その機関を表向きは取り締まり、関係者を裁いた。
けど真実は、政府がその機関がバレない様に吸収しただけだ。だから実験結果も、全て政府に渡ってるのさ。」
松陽「本当なら、今すぐにでも政府に復讐してやりたい。でも、私が成すべき事は復讐ではなく、幸太郎を護ることだと思っている。
それが、奈々の最後の言葉でもあるからね。」
松陽は、涙を拭いながら話終えた。
何処までも、救いようのない政府ですね。
自分達の為だけに、奈々さんを殺すなんて!
本当に最低な政府ですね!