後、短めです。
松陽「私が産まれた土地は、はっきり言ってこの世の地獄でした。
飢饉に伝染病、政府からの弾圧で私達に希望などありませんでした。
生きて行くには、盗みか最悪誰かを殺めなければ明日も生きられない。それが、私の産まれ故郷です。」
松陽「そこの皆が、未来を諦めて次々と息をひきとって行くなか、私はどうしても生きて外の世界に出たかったのです。
こんな所で死ぬなんて、まっぴらゴメンでした。」
松陽「私が11になった頃、私だけになった故郷に奈々と、後に義父様になる宗次郎氏が現れたんです。」
千冬「寿 宗次郎と言えば、少し前まで世界一と言われた程、財力と影響力を持っていた人ですよね。
と言うことは、奈々さんは本当のお嬢様って事ですよね?」
松陽「えぇ、千冬ちゃんの言う通りですよ。ですが、その事を奈々に言うと、嫌な顔をされます。
奈々は、親の脛をかじったり寿家の名前を出すのを嫌う、しっかりとした子でした。
そんな奈々は、私を見ると宗次郎さんに何か耳打ちをしました。」
松陽「そして宗次郎さんは、私に『我が家で働かないか?』と誘ってくれたのです。
外に出たかった私は、二つ返事で了承しました。そして私は、奈々専属の執事として寿家に住む事になりました。
これが、私と奈々の出会いです。本当なら、最も複雑で長いお話ですので、今日は短めにしました。」
一夏「なるほど…、それでお嬢様と執事の恋が始まり、二人は結婚したんですね。
ふぅ~ん、凄くロマンチックな出会いですね!」
松陽「フフッ、ロマンチックですか。私にとって奈々や寿家は、命の恩人であると同時に、名付け親でもあります。元々名前など無かった私に松陽と名付けたのが、奈々でした。
私は奈々の旦那として、そして寿家の執事として、寿家の後継者である幸太郎を護っていかなければならないのです。」
そう言った松陽の顔からは、ただならぬ覚悟が感じられた。
松陽「ですが、幸太郎の事は息子としても愛していますよ。良き父であると同時に、私の使命を果たさなければならない。
それが、私が生きている理由ですね。」
箒「まさか、そこまでお考えになってるなんて…。それでは、心に重圧が多すぎて松陽さんが潰れそうですけども、大丈夫なんですか?」
松陽「確かに、時々精神的な疲れは襲ってきます。それこそ、押し潰されてしまいそうな程です。
ですが、それ以上に幸太郎の笑顔を見ると、そんな疲れも全て吹き飛んでしまいますよ。」
その瞬間、部屋の扉が開いた。
そして、そこには顔色が優れず体調も悪そうな幸太郎がいた。
松陽と奈々の出会いを、簡単ではありますが説明しました。
詳しい事は、またいずれアルベルトとマイルナの出会いと同時に、番外編を作りますのでお待ちください。