アナザーラバー   作:なめらかプリン丸

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第88話

その後も、パーティーは盛り上り続けていた。

 

一夏はその持ち前の元気と、フレンドリーさで参列者達と仲よく雑誌等をしながら楽しんでいた。

 

そんな一夏の姿を、千冬は少し寂しそうに眺めていた。

 

リズ「どうしたのですか?なにかご不満な点でもございましたか?」

 

そんな千冬の元に、リズリーはワイングラスをふたつ持ちながら近づいてきた。

そして千冬に、グラスを差し出した。

 

差し出されたワインを一口飲んだ千冬は、静かにため息を吐いた。

 

千冬「別に、そんなんじゃ無いですよ・・・。ですが、宗次郎さんのさっきの話を聞いたら、なにかモヤモヤするモノが心にあるんです・・・。」

 

リズ「モヤモヤですか・・・。私達にとっては、とても素晴らしい日なのですが、千冬様のお気持ちはわかりません。」

 

そう言ってリズは、千冬の隣に腰を下ろした。

突然の事でドキドキしている千冬だが、それがバレないように顔をそらした。

 

千冬「私だって、今日がとても重要な日だって事は重々理解しているつもりです。

でも・・・、それでも何かが引っ掛かるんです。」 

 

宗次郎「それは簡単だよ。教えてやろうか?」

 

すると二人の目の前に、宗次郎と桜華が立っていた。

 

リズ「桜華様、宗次郎様。この度は、ご引退お疲れさまです。」

 

そう言いながら立ち上がろうとするリズリーを、宗次郎は止めた。

 

宗次郎「良い良い、座ったままで良い。今日は無礼講だと言っただろう?」

 

宗次郎の言葉に、リズリーは仕方なしに座り直した。

 

千冬「それよりも、私の胸のモヤモヤが何かわかっているって、本当なんですか!?」

 

宗次郎「あぁ、折角だから教えてやる。どうせ決断しなくちゃいけない時期がくるしな。

お前のモヤモヤは、引退の事だ。」

 

宗次郎「若い世代に託そうと俺は引退を決意した。それはさっき話したよな?それでお前も、引退を考え・・・いや、心の何処かにはずっと自分の引退の事を、考えてたんだろう。」

 

千冬「で・・・ですが、私はまだ誰かに何かを託せるほど、人生は歩んでいなません。幸太郎と同い年ですし・・・。」

 

宗次郎「確かに、それはあんたの言う通りだ。だが、何かを託す人間は何もヨボヨボの年寄りだけじゃ無い。

分かりやすく言えば、時代を造り上げた人間が託す人間になる。

俺はこの寿家を発展させ、今の時代のトップにして完全な存在にした。おまえはどうだ?」

 

宗次郎「この時代の代名詞ともいえるISを、大いに盛り上げて、Is業界では一つの歴史そのものになった。

だが、いずれ歴史は変わる。お前も感じてるんだろ?自分がいつまでも前線に立っていられない事を。」

 

宗次郎の言葉に、千冬は顔を下に向けていた。

自分がぼんやりと感じていた事を、全て言い当てられてしまっているからである。

 

宗次郎「そんなお前にアドバイスだ。人びとにとって、自分の功績が過去の物と思われ始めた時点で、もう手遅れなんだ。

その時点ですでに、世界は次の流れになってしまっている。その前に、次の歴史を創る若人を育て上げ見まもるのが、俺達託す者の使命なんだ。」

 

千冬「託す者の使命ですか・・・、ですがこれからのISを引っ張って行く人間は、まだ私は見つけていません。

一夏達がそれに当たると思うのですが、まだその段階ではありません!」

 

宗次郎「心配しなくても、引退するべきタイミングはその時になったら、自然と理解しているもんだ。まぁ、その時を待ちな。

さて、少し長話だったな。それじゃあ後は若いお二人で。」

 

そう言いながら、宗次郎と桜華は千冬から離れていった。




託す者ですか・・・。
確かに、千冬は確実にそっち側の人間ですよね。

そしていずれ、幸太郎も誰かに託す人間になるんですね。
それが、人としての成長と人生のゴールなのかもしれません。

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