tears   作:如月 苺

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出会い

 物心がついた頃から私は独りだった。私は屍の持ち物を漁りながら生きていた。生きるためなら屍の服を剥ぐことも物を盗むことも厭わなかった。

 そうして戦場の跡をさ迷い続けた私は疲労から倒れ伏した。

 もう、立ち上がる力は残されていない。ああ、このまま此処で死ぬのだろうかと思っていると、シャン、と何かが鳴る音が聞こえた。

 

(何の音だろう……)

 

 顔を上げると一人の男の人が立っているのが分かった。その男の人は顔に傷があって、特徴的な服を着ていた。

 

「……誰ですか?」

 

 男の人はその問い掛けには答えず、ただ私を見つめる。男の人の目は光がなかった。悲しい目だなと思いながら男の人を見つめ返していると、男の人は口を開いた。

 

「生きたいか?」

 

 低い声で問い掛けられ、私は直ぐに答える。

 

「生きたいです」

 

 男の人は「……そうか」と返すと私に背を向けた。

 

「ならば俺についてこい」

 

 そう言って歩き出す。

 男の人の背中が遠ざかるのを私はただ見つめた。

 私がついてこないことに気付いたのか、男の人は足を止めて振り返る。

 

「何をしている」

 

「……いや、何をしているって、もう疲れて動けないんですよ」

 

 男の人は一瞬固まって、何処か呆れたように私を見た。

 

「それぐらい歩かぬか。生きたいのだろう?」

 

「……いや、生きたいですけど、もう無理です」

 

 正直喋っているのもしんどいのだ。

 男の人は息を吐いて、私に近付いた。

 私のすぐ傍で足を止めて、右手を差し出す。

 

「俺の手に掴まれ」

 

 言われたように男の人に手を伸ばして掴んで立とうとするが、力が入らずそれは叶わなかった。

 

「……ああ、しんどい」

 

 男の人の手から手を離して地面に頭を付けると、男の人の「……仕方ない」という呆れた声が聞こえ、ぐいっと体が持ち上げられた。

 

「…………あの」

 

「何だ?」

 

「なんか……恥ずかしいです」

 

 私は男の人に横抱きにされていた。男の人の顔が至近距離にあって、男の人の声が至近距離で聞こえた。

 

「抱っこの方が良かったか?」

 

「……それも恥ずかしいですね」

 

 男の人を見ないようにして俯くと、男の人が歩き出した。

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………あの、あなたは誰なんですか?どこに行くんですか?」

 

 沈黙が気まずくて話し掛けるが、男の人は沈黙を返す。

 

(……無視ですか)

 

 男の人は私を抱えたまま歩き続ける。

 

(……私、これからどうなるんだろう)

 

 微かな不安を覚えながら、私は目を閉じた。

 

 

 

 男の人が向かった場所は、薄暗くてよく分からない場所だった。

 男の人はある部屋に入ると、私を布団に横たわらせた。

 

「眠るがよい。お前が起きたら説明する」

 

 布団の柔らかな感触に包まれて、安心した私は頷いて目を閉じる。睡魔がやってきて、私は眠りについた。

 

 

 

 目を覚ました私は、傍にいた男の人に服を渡され、着替えるように言われ、着ている服を脱いで渡された服に腕を通した。

 

「お前は今日から奈落の一員だ」

 

 服を着た私を見た男の人はそう言った。

 ならく?

 私が首を傾げると、男の人は「ああ」と返す。

 

「奈落の一員として、奈落のために生きろ」

 

 よく分からなかったが、私は「……はい」と頷く。

 

「今日からお前は霞と名乗れ」

 

「……霞?」

 

 私は目を見開くが、名前が出来たことが嬉しくて笑みを浮かべる。

 

「分かりました」

 

 男の人は私を見つめ、低く告げた。

 

「……朧だ」

 

「おぼろ?」

 

「俺の名前だ」

 

 ……朧さん。

 心の中で反芻して、笑みを深める。

 

「よろしくお願いします、朧さん」

 

「……嗚呼」

 

 朧さんは頷いて、私に奈落という組織について説明した。朧さんの説明を聞いても奈落という組織が何なのかはよく分からなかったが、私は奈落の一人として頑張ろう、と決意した。

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