tears   作:如月 苺

10 / 16
お花見

 雪が溶けて、春がやって来た。

 

(お花見がしたいなぁ……でも、奈落の人達はお花見なんてしないよね)

 

 思って肩を落とすと、カー?と私の肩に止まっている烏が気遣わしげに鳴いた。

 

「あ、かっちゃん。何でもないから大丈夫」

 

 烏に笑いかけると、烏は私を見つめる。

 烏を見つめ返して、そうだ!と声を上げる。

 

「かっちゃん、私と二人でお花見に行こう!」

 

 烏はカー!と鳴いて頷く。

 

(ふふ、楽しみだなぁ)

 

 胸が弾むのを感じながら、私は笑みを浮かべた。

 

 

 

 仕事が休日の日に、烏と一緒に奈落の隠れ家から近い大きな公園に向かう。

 公園に着いて、立ち並ぶ桜を見た私は目を見開いた。

 

「凄い綺麗……」

 

 私の肩に止まっている烏も「カー」と同意するように鳴く。

 

「かっちゃん、見に来て良かったね!」

 

 烏に笑いかけて、桜に視線を戻して桜を眺める。

 暫くそうしていると、近くで笑い声が聞こえた。そちらに顔を向けると、桜を見ながら談笑している人達の姿が視界に映った。

 

「……いいなぁ。私も奈落の人達と一緒にお花見がしたかったな」

 

 呟いて目を伏せると、肩にいる烏が突然バサリと飛び立った。

 

「かっちゃん!?」

 

 目を丸くして烏に手を伸ばす。烏の姿はみるみるうちに小さくなり、消え去った。

 

「かっちゃん……」

 

 友達がいなくなってしまい、私は肩を落とす。

 

(……もういいや。一人でお花見をしよう……)

 

 とりあえず何か食べよう。そう決めて、屋台に向かう。

 

(何を食べようかな)

 

 屋台を見回して、ある食べ物が目に止まってその屋台に近付く。

 

「お嬢ちゃん、一人かい?」

 

 屋台にいる男の人が声をかけてきて、「はあ、そうです」と頷く。

 

「こんな可愛いお嬢ちゃんが一人でいたら危ねぇよ」

 

「……え、大丈夫ですよ!」

 

 男の人に笑いかけると、男の人は気さくに笑い返して、パックに入ったたこ焼きを私に差し出した。

 

「特別にサービスだ。持っていきな」

 

「え、いいんですか?ありがとうございます!」

 

 たこ焼きを受け取って、顔を綻ばせる。

 

(タダでたこ焼きゲットしちゃった)

 

 嬉しさから鼻歌を歌いながら屋台から離れて桜の並木道を歩く。

 

(この辺でたこ焼きを食べようかな)

 

 一等大きな桜の木の下に腰を下ろした時、不意に「お嬢ちゃん」と声をかけられた。

 

「お嬢ちゃん、可愛いねぇ。俺と遊ばねぇか?」

 

 舌足らずな話し方でそんなことを言われ、私は眉を寄せる。

 

「お断りします」

 

 立ち上がって去ろうとすると、強い力で腕を掴まれた。

 

「!」

 

「待てよ。俺の言うことが聞けねーのか?」

 

 私の腕を掴んだ男からは酒の臭いがした。

 

(この人、酔っぱらってる……)

 

 まともに相手をしては駄目だと思って、しかし、こんな所で暗殺術を使ったら騒ぎになると考えて、混乱と恐怖から体を震わせる。

 

(……と、とにかく抵抗しなきゃ!)

 

 強い力で腕を振ると、それより強い力で押さえつけられた。

 

「動くな餓鬼!」

 

「っ……!」

 

 もうやむを得ない、と懐から毒針を取り出そうとした時――

 

「ぎゃああああ!!!」

 

 男の悲鳴が聞こえて、驚きから目を見開くと、地を這うような低い声がした。

 

「……何をしている」

 

(!この声は……朧さん!?)

 

 顔を上げると鬼のような形相をした朧さんが男の腕を捻り上げていて、私は驚きの余り固まる。

 

「ひいいい!!お許しをおおお!!」

 

 朧さんは男の言葉を無視して更に男の腕を捻った。

 その容赦のなさに私は思わず慌てる。

 

「お、朧さんやめてください!!やりすぎですよ!!」

 

 朧さんは私を見て男から手を離す。

 酔っぱらいの男は悲鳴を上げて逃げていった。

 心の中で男に合掌して、私はその場に座り込む。

 

「……大丈夫か?」

 

「……大丈夫、ですけど……」

 

 目を閉じて息を吐き出して、疑問に思ったことを問い掛ける。

 

「朧さんはどうして此処に?」

 

「烏が、俺を此処に連れてきたんだ」

 

「かっちゃんが……?」

 

「嗚呼。俺に来て欲しいと訴えていた」

 

(……もしかしてかっちゃん、私の呟きを聞いて……?)

 

 顔を上げると、少し離れた場所にいる一羽の烏が私を見下ろしていた。

 

(……ありがとう)

 

 心の中で伝えて、朧さんを見据える。

 

「ありがとうございます、私を助けてくれて」

 

 ちょっと、やりすぎですけどね。

 口にして、朧さんの鬼のような形相を思い出して苦笑する。

 

(あれじゃあ、どっちが悪人か分からないよなぁ……)

 

 そんなことを思っていると、朧さんは私を見返して、口を開いた。

 

「お前は花見がしたいのだろう?」

 

「……!は、はい!」

 

 頷くと、朧さんは私の隣に腰を下ろした。

 

「……もしかして、付き合ってくれるんですか?」

 

「嗚呼」

 

 朧さんは桜を見上げて、ふっと笑う。

 

「こうして桜を見るのも悪くはない」

 

 私は朧さんの笑顔を見つめて、朧さんと同じように桜を見上げる。

 

「そうですね、悪くないですね」

 

 朧さんと花見が出来た喜びから笑って、あ、と手に持っていたパックを開けて、たこ焼きを朧さんに差し出す。

 

「どうぞ」

 

「……」

 

「嫌いですか、たこ焼き?」

 

「……いや、嫌いではないが」

 

 朧さんはたこ焼きを受け取る。

 私はたこ焼きの一つを取って、口に入れた。

 

「美味しい!」

 

 口に広がる味を堪能して、再び桜を見上げる。

 

「今度は皆でお花見しましょう」

 

「……皆?」

 

「はい、奈落の皆と一緒に!」

 

 隣にいる朧さんに笑いかけると、朧さんは私を見つめて、視線を外した。

 

「……そうだな。考えておく」

 

 朧さんのその返事に嬉しくなって、両手を握りしめる。

 

(楽しみだなぁ)

 

 朧さんと桜を眺めながら、奈落の皆とお花見をする日に思いを馳せて、私は頬を緩めるのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定