tears   作:如月 苺

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心情

 奈落の皆とお花見に行って以来、私は少しずつ奈落の人達と会話をするようになった。ストイックで怖いと思っていた奈落の人達は、普通の人達と変わらないところもあって、怖いという印象は薄れつつあった。

 

「お前、首領に気に入られているよな」

 

 最近話すようになった奈落の先輩がそんなことを言ってきて、私は目を見開く。

 

「……いや、気に入られてはいないと思います」

 

「いやいや、絶対気に入ってるぜあれは。なんかお前を見る目が優しいもんな」

 

 私は朧さんの目を思い浮かべて、そうかなぁ……?と首を傾げる。

 

「案外首領はお前を狙ってるかもな」

 

「いや……それはないですよ」

 

 朧さんはそんな趣味はないだろうし、大体あの人が誰かを狙っている姿なんて想像出来ない。

 

「首領が手を出してきたら俺を呼べよ。直ぐに駆け付けて首領を成敗してやるから」

 

 朧さんが聞いていたら怒りそうなことを言う先輩に、私ははは……と苦笑する。

 

「お前は首領のことはどう思ってんの?」

 

「え?……鬼だと思っていますけど……」

 

 先輩は息を吐いて、「……何だ、首領の片想いか」と呟く。

 

「……片想いって、違いますよ」

 

「いやいや、俺の勘はよく当たるんだ」

 

 先輩は得意気に言う。

 

「お前も首領を好きになったら応援してやるよ」

 

「だから、違……」

 

 先輩は爽やかに笑って、立ち去ってしまった。

 

(悪い人じゃないんだけど、人の話を聞かないんだよな……)

 

 はあ、と溜め息をついて歩き出す。

 首領室の前に来た私は、先輩に言われたことを思い出して足を止めた。

 

 ――案外首領はお前を狙ってるかもな。

 

(……いや、ないない)

 

 首を横に振ると、ガチャリと首領室の扉が開く音がした。

 

「……あ、朧さん」

 

 朧さんは扉を閉めて私を見る。

 

「俺に何か用か?」

 

「……あ、いえ、用は特にないんですけれど……」

 

 私は朧さんの顔を見つめて、少し考えて問い掛ける。

 

「朧さんって、ロリコンじゃないですよね?」

 

 朧さんは固まって、暫く私を見つめ返して眉を寄せる。

 

「何故そんなことを聞く?」

 

「……いや……ある人が朧さんが私を狙ってるかもなとか言ったので……」

 

 迷ったが正直に話すと、朧さんの眉が更に寄った。

 

「……誰だ、そんなことを言った奴は」

 

「そ、それは……秘密です」

 

 朧さんは不機嫌そうな顔をして、はっきりと告げた。

 

「安心しろ。俺にそんな趣味はない」

 

「で、ですよね!」

 

 やっぱり先輩が言ったことは違うんだと安堵して、私は「失礼しました!」と首領室の前から立ち去った。

 

 

 自室に戻った私は本に手を伸ばす。暫くその本を読んでいると、扉が叩かれる音がした。

 

「どうぞ」

 

 扉が開いて、現れた男の人を見た私は声を上げる。

 

「柩さん!」

 

「よぉ。ちょっといいか?」

 

 いいですよ、と促すと柩さんは部屋の中に入って私から少し離れた位置に腰を下ろした。 

 

「お前が奈落に入ったばかりの頃はどうなるかと思ったが、大丈夫そうだな」

 

 私は笑みを浮かべて、「はい」と頷く。

 

「奈落の人達は始めは怖いと思っていましたが、今は違いますし……朧さんも、私のことを気にかけてくれますから」

 

「……そうか」

 

 柩さんは目を細める。

 

「まあ、朧さんは鬼でもありますがね……」

 

 苦笑すると、柩さんは「その首領のことだが」と切り出す。

 

「お前を助けるために男の腕を捻り上げたらしいな」

 

「あ……はい。容赦がないですよね」

 

「それだけ、お前が大事ってことだ」

 

「……大事……?」

 

 嗚呼、と頷いて柩さんはニヤリと笑う。

 

「多分、あれはお前に惚れてるな」

 

「……え、ええ!?柩さんまでそんなことを言うんですか!?」

 

 柩さんは多分だけどな、と念押しして、笑みを深める。

 

「いやいや……朧さんはロリコンじゃないですし、誰かに恋なんてしませんよ」

 

 柩さんは真剣な眼差しを浮かべる。

 

「……霞。彼奴は、人間だ」

 

 はっとして目を見開くと、柩さんは目を伏せる。

 

「俺は……彼奴が何を抱えているのかは分からねぇが、これだけははっきり言える」

 

「…………」

 

 私は黙って柩さんを見つめる。

 柩さんは目線を上げて私を見返すと、ふ、と笑う。

 

「まあ、これからも変わらず彼奴の傍にいてやってくれ」

 

 そう言って立ち上がって部屋を出ていく柩さんを見送った私は、布団に横になった。

 先輩と柩さんに言われたことを思い出して目を閉じると、朧さんの笑顔が脳裏に浮かんだ。

 

(私は朧さんのことをどう思っているんだろう)

 

 考えてもはっきりとした答えは出ず、私は息を吐いた。

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