意識を失っていた私は、目を開けて起き上がり、辺りを見回して、ひ、と声を漏らした。
辺りには何人も人が倒れている。その中には私をからかった先輩の姿もあった。
(皆、死んでいるの……?)
倒れている人達は血に染まっていて、ピクリとも動く様子はなかった。
(……やっと、奈落の人達と向き合えたのに)
両手をついて肩を震わせて、そうだ、朧さんは?と思って顔を上げて彼の姿を探す。
朧さんは死体が積み重なる山の先にいた。
朧さんに声をかけようとして、思い止まってただ彼を見つめていると、彼は此方に振り返った。
「……皆、死んでしまいましたね」
朧さんは「……そうだな」と低く返す。
「……何で、私は生きているんでしょう」
朧さんは私から視線を外して前方を見る。
私は死体の山を見つめて、拳を握り締めてきつく目を閉じた。
奈落の人達と過ごした日々を思い出して、目頭が熱くなって、う、と嗚咽を漏らす。
(どうして、死ななければならなかったの)
奈落の人達は、普通の人達と変わらないところがあって、普通の人達と同じように、笑っていたのに。
先輩の笑顔が脳裏に浮かんで俯くと、透明の雫が零れ落ちた。
どれだけ泣いていただろう、涙を拭って顔を上げると、此方を見つめている朧さんと目が合った。
(……悲しい、目)
出会った時と同じことを感じて、私は堪らず朧さんに駆け寄って、彼にしがみついた。
「……う、……うぅ、」
新たな涙が溢れ出して、頬を流れ落ちる。
嗚咽を漏らしながら泣く私の背中に手が回されて、ゆっくりと摩られた。
悲しくて、悔しくて、私は泣き続けた。
朧さんは何も言わなかった。ただ、黙って私の背中を摩っていた。
敵組織の襲撃により多数の死者を出した奈落は、隠れ家を移し、新たな戦力確保のために尽力していた。
(……朧さん、大変そうだな)
今まで以上に仕事に追われている彼のことを思って目を伏せると、カー、と肩に止まっている烏が気遣わしげに鳴いた。
「かっちゃん……大丈夫だよ」
私は笑みを浮かべる。
(……皆、頑張ってるんだ。私も頑張らなきゃ!)
首領室を訪れると、そこには机に突っ伏している朧さんの姿があって、私は目を見開いて彼に近付く。
(朧さん、疲れているんだな……)
朧さんの寝顔を見据える。その顔は疲労が滲んでいた。
(……首領って本当に大変だな)
ベッドに近付いて布団を掴んで、朧さんの肩に掛ける。
(朧さんが少しでも休めますように)
心から願って、私は首領室を後にした。
奈落は着実に新たな戦力を確保し続け、少しずつ元の状態に戻りつつあった。
(……でも、先輩は……亡くなった人達は帰ってこないんだよね)
曇天の空を見上げながら息を吐く。
先輩達が亡くなって、私はまた奈落の人達とは必要最低限の会話しかしなくなった。それを寂しく思ったが、仕方ないとも感じていた。
(……朧さんとも、話さなくなっちゃったな)
多忙な彼のことを思って目を伏せる。
奈落が元の状態に戻りつつあっても、私の心は晴れることはなかった。