tears   作:如月 苺

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幸せ

 朧さんと廊下を歩いていた私は、二人の男女の姿を認めて足を止めた。

 長髪の女の子と片眼鏡をかけた男の人は何かを話しながら私の横を通りすぎる。女の子も男の人も笑顔で、楽しそうな彼らの様子に、ふふ、と笑う。

 

「どうした?」

 

「いえ、何だか嬉しくなったんです」

 

 朧さんは不思議そうな顔をするが、そうか。と微笑む。

 職員室に入った朧さんは自分の席に腰掛けて、私はその隣に座った。

 

「校長と掛け合ったが、校長のペットについてのレポートを書いて合格すれば歴史を学ばずとも卒業させてくれるようだ」

 

「こ、校長のペットについてのレポート……?」

 

 何で校長のペット?

 疑問に思ったが、まあ、突っ込まずにいようと思って口をつぐむ。

 

「そのためにはお前は校長の家に行かねばならぬが……俺も同行する」

 

「え、一緒に行ってくれるんですか?」

 

「嗚呼」

 

「ありがとうございます!」

 

 嬉しくなって朧さんに笑いかけると、朧さんは私に笑い返した。

 

「万が一の時は、俺がお前を守る。お前は俺の大事な生徒だからな」

 

「朧先生……嬉しいです、ありがとうございます!」

 

 朧さんの言葉に胸を打たれて、笑みを深める。

 

「……お二人さん。いちゃつくのは外でやってくれねぇか」

 

 デジャブを感じてそちらに視線を向けると、柩先生が呆れたように私達を見ていた。

 

「え、別にいちゃついてないですよ」

 

「……やっぱり無自覚か」

 

「え?」

 

「こっちの話だ。まあ、せいぜい幸せになりやがれ」

 

 柩先生の台詞に何だか懐かしい気持ちになって、私はまた笑った。

 

 

 

「お前、朧先生と付き合ってるってマジか?」

 

 部活の先輩が問い掛けてきて、私はぶふ、とドリンクを吹き出す。

 

「つ、付き合ってますが……何故それを?」

 

「お前と朧先生噂になってるからな」

 

「え、噂になってるんですか!?」

 

 頭を抱えると、先輩は小さく呟いた。

 

「片想いじゃなくて、両思いだったんだな」

 

「え?」

 

「こっちの話。まあ、大丈夫だろ。俺はお前を応援してやるよ」

 

 爽やかに笑う先輩に、私はまた懐かしい気持ちになって、目を細めた。

 

 

 朧さんの協力のお陰で私は無事にレポートを完成させて、合格を貰うことが出来た。

 

「ありがとうございます朧さん、貴方には感謝してもしきれません」

 

「いや……礼には及ばぬ」

 

「私、何かお礼がしたいです!私にして欲しいことがあれば言って下さい!」

 

 朧さんは思案する様子を見せる。

 

「そうだな……俺にキスをしてくれないか?」

 

 思わぬ要求に目を剥くと、朧さんは何処か楽しげに私を見る。

 

(キ……キキキ、キスなんて無理だ……!)

 

 でも、お礼をしなきゃ……!と両手を握り締めて、意を決して朧さんに顔を近付けて、恐る恐る唇を重ねる。

 少しの間だけ唇を合わせ、唇を離そうとすると、私の背中に腕が回って、強い力で引き寄せられた。

 

「え、え?朧さん?」

 

 朧さんは私を抱き締めて、ふ、と笑う。

 

「こんなにも可愛い生徒に想って貰えるなど、俺は幸せ者だな」

 

(か、可愛い……!?)

 

 思わぬ言葉に目を剥くと、朧さんは私の髪に触れた。

 

「……霞」

 

 至近距離で名前を呼ばれて、どきん!と胸が高鳴るのを感じる。

 

「好きだ。愛している……」

 

 胸が早鐘を打つのを感じながら、私は目を閉じる。

 

(う、うう……心臓に悪いよ……)

 

 朧さんに体を預けると、朧さんは私の髪に口づけた。

 朧さんのキスを受けながら――愛しい人の体温を感じながら、私は幸せを噛み締めるのだった。

 

 

 

<完>

 

 

 




悲恋で済みません…原作設定だけだとどうしても悲恋で終わってしまうので、二人には転生して貰いました(ちなみに3Z世界という裏設定があります)。
初めての夢小説ということで、色々難産でしたが、書きたいことが書けて満足ですし、書いている間はとても楽しかったです。またこの二人の話を書けたら書きたいですね。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました!



以下読まなくてもいい解説

このお話には、あえて松陽先生も虚さんも出しませんでした。松陽先生も虚さんも知らない霞だからこそ、朧さんは霞と過ごしている間は血の契りのことを忘れられて安らぎを感じていたんじゃないかと思います。
転生した朧さんは霞との記憶だけ覚えていて、転生した霞は朧さんとの記憶だけを思い出します。これは二人が一度亡くなった事実を薄れさせたくないからです。
朧さんと霞は転生して幸せになりましたが、確かに悲恋でもあったと考えています。柩さんや先輩も全ては覚えていません。
霞のトラウマについては、あくまで親しい人との別れを恐れるようになっただけなので、暗殺は問題なくやれていましたし、心を病むことはなく過ごせていました。
朧さんはこの頃から霞が奈落に囚われないで生きていく方法の手がかりは掴んでいましたが、疎遠中であっても霞が自分の側にいてくれることを願っていたため、それを霞には伝えませんでした。

ここまで読んで下さりありがとうございました。
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