tears   作:如月 苺

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鬼

 奈落の一員になった私は朧さんに暗殺術なるものを教えられた。

 朧さんはとても厳しく、私がミスをすると叱りつけた。

 この鬼め……と思いながら朧さんの暗殺術を聞いて、鍛練が終わり、私はその場に座り込んだ。

 

「疲れた……」

 

「この程度で疲れていては、我が組織では生き残れぬぞ」

 

 鬼――否、朧さんはそう言って去っていった。

 残された私は俯く。

 

(私、もしかしてとんでもない組織に入ってしまったのでは……)

 

 思って眉を寄せると、肩をつつかれる感覚がした。

 顔を上げると、一人の女の子が私を見ているのが分かった。女の子は私に何かを差し出している。

 

「……えーと、これは?」

 

「……ポンデリング。あなたにあげる」

 

 女の子は小さな声で言った。ポンデリング?聞いたことないなと思いながら、ありがとうと受け取って、口に入れる。

 

「……美味しい!」

 

 口に広がる甘さに感嘆の声を上げると、女の子は「……骸」と小さく呟いた。

 

「むくろ?」

 

「……私の名前」

 

 ……骸ちゃん。

 心の中で反芻して、笑みを浮かべる。

 

「私は霞。これからよろしくね」

 

 骸ちゃんは私を見つめて、「……うん」と頷く。

 ポンデリングを食べながら、私は頑張ろう、と改めて決意した。

 

 

 朧さんに暗殺術を教えられて、鍛練の後に骸ちゃんと話すのが日課になった。

 私が今までどうやって生きてきたか話しても、骸ちゃんは哀れむような顔をしなかった。それが嬉しくて、私は骸ちゃんに色々な話をした。

 

「でさ、朧さんって凄い厳しいんだよ!あれは鬼だよ!」

 

 鍛練の愚痴を言うと、骸ちゃんは「……そうね」と頷いて、「……でも」と続けた。

 

「朧は……鬼、というより、鬼になりきれない人間ね」

 

 鬼になりきれない人間?

 

「いや、絶対鬼だよ。子供の私にも容赦なく攻撃してくるんだよ。そんなこと鬼じゃないと出来ないでしょ」

 

 鍛練中の朧さんの殺気を思い出して震えると、骸ちゃんは「……そうかもしれないけど」と言って目を伏せた。

 

「……あなたも、あの人のことを知れば分かるわ」

 

 何処か悲しげな骸ちゃんの表情に、それ以上何も言うことが出来ず、私は話題を変える。

 

「しかし、奈落の人達ってストイックというか……なんか怖いな」

 

 朧さんは勿論、他の奈落の人達も張りつめた空気があって、私は骸ちゃん以外とは必要最低限のことしか話していなかった。

 

「……あなたは、此処にいるべき人間ではないのかもしれない」

 

「はは、そりゃこんなとこにいたくないけど、生きていかないといけないから」

 

 骸ちゃんの言葉に苦笑すると、骸ちゃんはじっと私を見て、「……そうね」と頷く。

 

「大変だけど、私頑張るよ」

 

 骸ちゃんに笑いかけると、骸ちゃんは悲しげな顔をした。

 

「……やっぱり、あなたは此処にいるべき人間ではないわ」

 

 骸ちゃんの呟きに、私は何も言い返すことが出来なかった。

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