外の空気を吸おうと思って奈落の隠れ家からら外に出ると、朧さんの姿があった。朧さんは烏に餌をあげていた。私は少し離れたところからその様子を眺める。
烏達は餌を食べて、朧さんの肩や腕に止まった。朧さんが烏の頭を撫でると、烏は嬉しそうに鳴いた。彼らの姿に微笑ましくなって、ふふ、と笑うと、朧さんが私を見た。
「朧さんって烏と仲良しですよね」
朧さんに笑いかけると、朧さんは少しの沈黙の後に「別に仲良しではない」とクールに答えた。
「いや、仲良しですよ!朧さんよく烏に懐かれていますよね。羨ましいです」
朧さんに近付くと、烏のうちの何羽かが飛び去ってしまった。それに少し落ち込むと、朧さんは私に餌を差し出した。
「定期的に餌を与えれば、お前にも懐くだろう」
私は「そうですよね!」と返して餌を受け取って、烏に差し出す。すると一匹の烏が私に近寄って、私の手に嘴を近付けて餌を口に入れた。
「わ、食べてる食べてる」
烏は餌を呑み込むと、カー、と鳴いて、羽を広げて飛んで私の肩に止まった。
「早速懐かれたようだな」
朧さんの言葉に目を見開いて、烏を見て、嬉しくなって顔を綻ばせる。
「私も烏と仲良くなれるかな?」
朧さんは私を見つめ、「お前ならばなれるだろう」と優しく言った。
私は烏に手を伸ばして、朧さんがしたように烏の頭を撫でる。すると烏はカー、と嬉しそうに鳴いた。
(可愛いなぁ……)
何となく烏は怖いイメージがあったけど、こんなに可愛い生き物だったなんて。
「……あ、この子に名前を付けようかな。うーん……烏だから、かっちゃんとか」
「……安直だな」
朧さんにビシリと言われ、ええー、と声を上げる。
「可愛いと思いますけど……」
「……可愛いか?」
「うーん、じゃあ、らっちゃんとか」
「……先程と大して変わっていないな」
「じゃあ……すーちゃん!」
「……」
「朧さんはこの中で何がいいと思いますか?」
朧さんは長い沈黙の後、
「……かっちゃんだな」
私は思わず吹き出す。
「……何故笑う」
「い、いや、朧さんがちゃんって、似合わな……ふふ」
肩を震わせる私に、朧さんは少し眉を寄せる。
暫く笑って、私は肩に止まっている烏を見る。
「かっちゃん、これからよろしくね!」
烏はカー!と応えるように鳴いた。
新しい友達が出来たな。
嬉しくなって、私は烏に笑いかけた。
*
世間では今日はクリスマスだ。そう、世間では。
(奈落でクリスマスパーティー……なんてする訳ないよね)
奈落の人達がクリスマスツリーを囲んでパーティーを開いている光景を想像して、ないない……と打ち消す。
(クリスマスに限らず、奈落の人達って季節の行事を楽しんでいるところをイメージ出来ない……)
実際、奈落の人達は季節の行事には興味がないのだろう。
(クリスマスパーティー、ちょっとやってみたかったな)
でも奈落にいる限りは一生出来ないだろうな……。
何だか残念な気持ちになって肩を落として、あ、と思い付く。
(クリスマスプレゼントとして朧さんに何か送ろうかな)
前に簪を貰ったお礼もしたいし。
うん、そうしようと決めて、何を送ろうかなと思案する。
(朧さんの好きな物とか?……朧さんって何が好きなのかな?)
考えても分からず、頭を悩ませる。
(とりあえず、町に行こう)
そう決めて、私は部屋から出た。
町へ出た私は立ち並ぶお店の品を見る。
(……宝石は、変かな?時計は……うーん……)
あーでもない、こうでもないと考えていると、お店の人が声をかけてきた。
「お嬢ちゃん、お父さんへのプレゼントでも探しているのかい?」
「……ええと、お父さんではなくて……上司です」
「上司かい。その歳で仕事をしているなんて大変だねぇ」
「まあ、大変ですね……でも自分で決めたことですから」
「偉いねぇ」
お店の人は感心したように言って、「上司へのプレゼントなら……」とあるものを指差す。
「このボールペンがいいんじゃないかい?」
あるもの――ボールペンを見た私は「ボールペンかぁ……」と呟く。
ボールペンなら、仕事にも使えるし、確かにいいかもしれない。
(……休みにも仕事をしているような人だしね)
少し苦笑して、ボールペンを手に取る。
「これをください」
「まいどあり!」
ボールペンを買った私は奈落の隠れ家に戻って、烏に餌をあげている朧さんの姿を発見した。
(なんか、緊張するなぁ……。朧さん、喜んでくれるかな)
少し不安になりながら朧さんに近付く。
「……あ、あの、朧さん」
声を掛けると、朧さんは私を見る。
「何だ?」
私は手に持っているボールペンを朧さんに差し出す。
「メ、メリークリスマス!!ということで朧さんにプレゼントでふ!」
あ、しまった噛んだ。
冷や汗を流すと、朧さんはボールペンを凝視する。
「……プレゼント?俺にか?」
「は、はい。この前簪を貰いましたからそのお礼にと……」
朧さんは私とボールペンを交互に見る。
「礼などいらぬがな」
(あ、余計だったかな……?)
眉を下げると、朧さんはボールペンを手に取った。
「だが……有り難う。使わせて貰う」
朧さんがボールペンを受け取ってくれたことに安堵して、息をつく。
「誰かにプレゼントというものを貰うのは初めてだな」
「そうなんですか?」
「嗚呼」
「あの……余計でしたか?」
「いや……嬉しいぞ」
朧さんが喜んでくれたことに嬉しくなって私は顔を綻ばせる。
(朧さんにプレゼントを渡せて良かった)
心から思った時、不意に冷たい感覚がして頭を上げると、空から白い粉が降っていた。
「これって……雪ですよね!」
雪が降ってきたことに感動して両手を握り締める。
「朧さん、雪が積もったら雪だるまを作りましょう!」
朧さんは目を見開いて私を見つめる。
「……構わないが」
「やった!どっちが大きな雪だるまを作れるか勝負しますからね!」
宣戦布告する私に、朧さんは目を瞬かせる。
そんな朧さんに私は笑いかけて、空を見上げた。
(奈落の人達は……朧さんは、季節の行事には興味がないんだろうけど……)
それでも、朧さんと色々な行事を楽しめたらいいな。
落ちてくる雪を眺めながらそんなことを思って、私は笑みを深めた。