生まれてきた弟は、自分と同じ銀色の髪をしていた。
「今日から貴方がこの子のお兄ちゃんになるのよ」
母上が穏やかに笑う。
「貴方が、この子を守ってあげてね」
僕は弟を見詰めて頷いた。母上が僕の頭を撫でる。
「貴方に――銀時に出会えて幸せだわ」
母上の、慈愛に満ちた優しい笑顔。それが自分に向けられていることに幸せを感じた。
弟はすくすくと育っていった。我が儘で甘えん坊で、母上が離れるとすぐに泣き出した。
そんな時は決まって僕が弟の傍にいて、弟をあやした。
「大丈夫、大丈夫だよ」
弟を抱き締めてそう声を掛けると弟は泣き止んだ。
「あー、うえー」
弟は拙いながらも僕を呼んだ。弟に兄上と呼ばれると、暖かなものが胸に灯った。
「銀時」
僕が弟の名前を呼び返すと、弟は笑った。明るくて無邪気な笑顔。この笑顔を、守りたいと思った。
僕と弟は第三者から見ても仲が良かったのだろう、一度も喧嘩をすることはなかった。でも、母上が幼い弟にばかり構っていることに寂しさを感じた。
「――」
ある日、母上が僕の名前を呼んだ。母上に近付くと、彼女は僕を抱き締めた。
「ごめんなさい。銀時にかまけてばかりで、貴方の相手が出来ていなかったわね」
母上は僕の気持ちを分かっていたのだ。それを分かった瞬間、寂しさは消えた。
「貴方も銀時も大好きよ」
直に触れる温もりを感じながら、僕は嗚呼、やっぱり幸せだなと思った。
「あにうえー、あそびにいこ!」
2歳になってすっかり喋れるようになった弟は僕の手を握って外に出た。
鬼ごっこやかくれんぼをして、日が暮れた空を見た弟は声を上げた。
「わぁ、きれいなたいよう!」
僕も空に視線を向ける。そこには鮮やかな夕日があった。
暫く二人で夕日を眺めていると、弟が「あにうえ」と僕を呼んだ。
「あにうえは、ずっとぼくのそばにいてくれるよね?」
隣にいる弟の手を掴んで、握り締める。
「当たり前じゃないか。僕はずっとお前の傍にいるよ」
弟は僕の手を握り返す。
「やくそくしてくれる?」
「ああ、約束する。僕は必ずお前の傍にいて、お前を守るよ」
弟は顔を綻ばせた。
「ありがとう!あにうえ、だいすき!」
僕もお前が大好きだよ――そう伝えようと思った瞬間、
ドオン!!
「!?」
突然爆発音がして、目を剥いた僕は直ぐにその音がした方角を見て――絶句した。
村が燃えている。
「あにうえ……?なにがおきたの?」
幼い弟は不思議そうな顔をする。僕は弟の手を引いて駆け出した。
無我夢中で走って、家に着いて、そこでの凄惨な光景に唖然とする。
家も炎に包まれていた。
「そんな……」
茫然として、父上と母上のことを思い出して、その姿がないことに絶望する。
その場に崩れ落ちると、弟が僕の肩を叩いてきた。
「あにうえ、だいじょうぶ?」
それに反応することも出来ない。
「父上……母上……」
きつく拳を握り締める。
そうして、どれだけの時間が経っただろうか。
「あ?まだ人間がいやがるのか」
聞き慣れない声がして、はっとして顔を上げると、人間ではない顔の男達が僕達を見据えていた。
咄嗟に危険を察知して、僕は立ち上がると走り出した。
「逃げたぞ!」
「追え!」
男達の気配を後ろに感じながら、ひたすら走る。
走って、走って、走って。
「うあっ!!」
弟が足を滑らせて、僕の手を離した。
「銀時!!」
弟に手を伸ばす。
「あにうえ!!」
弟の手が伸びる。
しかし、僕達の手は離れていって。
「銀時――――!!」
僕は絶叫した。