仕事の依頼がない日に、俺は朧と花見に出掛けた。
新八と神楽は兄弟水入らずで楽しめるようにと辞退したため、此処にはいない。
「綺麗だな」
朧は桜を見て微笑む。
「そーだな」
桜は満開で、多くの花見客を魅了していた。
俺は持ってきた重箱を朧に差し出す。
「おぼ……兄貴、食べてくれよ。俺が作ったんだ」
兄貴と呼ぶのは慣れねーな、と内心で苦笑すると、朧は重箱を受け取った。
「有り難く頂こう」
重箱の蓋を開けて、箸で卵焼きを取り、口に入れる。
「どーよ?」
卵焼きを食べた朧は笑みを見せる。
「美味いな。丁度いい甘さだ」
「なら良かったぜ」
朧は御菜を食べていく。
朧が食べる様子を見守っていると、彼はふっと相好を崩した。
「まさか、お前が作ったものが食べられるとはな。生きてきた甲斐があるというものだ」
朧の物言いは少し大袈裟な気はしたが、素直に受け取ることにして、「そーかい」と笑い返す。
「こんな料理を、毎日食べたいものだな」
「……兄貴がよければ、いくらでも作ってやるよ」
気恥ずかしかったがそう言うと、朧の笑みが広がった。
「有り難う」
……最近、朧の笑顔が増えたように思う。弟としてはそれが嬉しい。口には出さないが。
「俺も食べるかね」
自分の重箱の蓋を開け、卵焼きに箸を伸ばした時――。
「げっ万事屋!?」
耳障りな声が聞こえ、俺は眉を寄せる。
「あー?税金泥棒が俺に何の用だ?」
耳障りな声の持ち主である土方は俺を睨み付ける。
「税金泥棒じゃねぇ!何でテメーがいるんだ!?せっかくの花見が台無しじゃねーか!」
「その台詞、そっくりそのまま返すぜコノヤロー。……つか、他の連中はいねェのな。一人で花見とは、寂しいねェ。てめー、やっぱり友達いなかったんだな」
「うるせェェェ!!喧嘩売ってんのか!?」
めんどくせー奴に絡まれたな、と内心で溜め息をつくと、低い声がした。
「お前は……真選組の副長か」
「あ?……!?……お、お前は……!」
土方が驚愕の表情で朧を見る。
「い、生きてやがったのか!」
その言葉で漸く気付く。朧と土方は敵同士だということに。
……え、これ不味くねーか?
冷や汗を流す俺を余所に、朧と土方の間に緊張が走る。それを打ち破ったのは朧だった。
「……今は、互いに袂を分つ身ではない。此処で巡り会ったのも何かの縁だ、お前も此処で花見をせぬか」
思わぬ誘いに土方は目を見開いたが、「そうだな……」と頷くと、俺の隣に腰を下ろした。
え、何なのこの図。何で土方俺の隣に座ってんの!?
ダラダラと汗を流す俺に気付いていないのか、朧は話し出す。
「真選組の動向はどうだ?」
「……まあ、好調だな。誰かさんのせいで江戸を去る破目になったが、こうして江戸に戻ることが出来て、今は勤めを果たせているな」
うわぁ。土方の全身から不機嫌なオーラが出てやがる。
「そうか。それは良かった」
朧がそう言うと、土方の眉がさらに寄る。テメーのせいなんだがな!と言いたげだ。
「土方……今は敵じゃねーんだから、許してやれよ」
俺が口を挟むと、土方は「だがな……」と険しい表情になる。
「こいつらのせいで、俺達がどんだけ……。……とにかく、こいつを許すことは出来ねェ」
……ああ、こいつは頑固だから一生許せねェだろーな。
「……それでいい。俺も謝罪などする気はないからな」
朧が重い口調で言い切る。
俺は朧と土方を交互に見て、頭をかく。
こいつらが和解するには、時間が掛かりそうだな。
土方は朧から視線を外して桜の木を見上げる。桜の花弁がはらはらと俺達の上に落ちた。
「…………だが」
土方は一度朧を見て、桜の木に視線を戻し、
「……アンタと見る桜は悪くはねーな」
「……!」
えっ土方君がデレた!?デレたよね!?
俺が驚いていると、土方は「邪魔したな」と一言告げて、俺達に背を向けて去っていった。
「……兄貴、良かったな」
「……ああ」
朧を見ると、彼は穏やかに笑っていた。
俺も嬉しくなって、笑みを作る。
不意に朧が笑みを消す。
「お前達、そろそろ出てきたらどうだ?」
朧の後ろにあったごみ箱がガタン!と倒れる。そして現れたのは見慣れた姿で。
「はは、流石朧さんだ、僕達に気付いていたなんて」
「気配を消して隠れていたのにナ!」
「新八、神楽……てめーら、辞退したんじゃねーの?」
新八は苦笑する。
「銀さん達が心配で、こっそり見てたんですよ。全く、土方さんが来た時はどうなるかと思いましたよ」
神楽が躊躇いがちに口を開く。
「銀ちゃん、ほんとは私も銀ちゃん達と花見したいアル!」
俺は朧を見る。朧は無言で頷いた。
「……しゃーねェな、来いよ」
「わ~い!」
神楽が俺達に近付く。新八も「ありがとうございます!」と言いながら駆け寄ってきた。
「このおにぎり美味いアル~!」
「馬鹿神楽、それは兄貴の分だ!」
「ああ、神楽ちゃん!すみません朧さん……!」
「……別に構わないが」
初めて家族と過ごした花見。
俺はこの日を、絶対に忘れないでいよう。