怪物   作:E G

4 / 5
3Q

 

 

 静寂に包まれた館内にはただボールがバウンドする音だけが響いていた。

 

 全中決勝戦、第4Q残り二分の状況で60対58。観客は息をすることも忘れコート上に釘付けになっていた。

 

 帝光対大神。キセキの世代と呼ばれ十年に一人の天才が揃った無敵のチーム対名前も聞いた事のない無名校。

 

 大方の予想を覆し大神は帝光を追い詰めていた。そしてその立役者がゆっくりとしかし力強くドリブルをついている。

 

 大神と書かれた紺のユニフォームに4の数字。今大会ダークホース、大神中エース渡辺海斗。

 

 相対するは白のユニフォームに6の数字。キセキの世代最強のスコアラーにしてエース青峰大輝。

 

 ハーフラインを少し超えたところで睨み合うようにそしてお互い隙を窺うように静かな攻防を繰り広げていた、が。

 

 それも終わりを告げる。

 

 視線を左に流し右側にドライブを仕掛けるもそれは読んでいたのか青峰はボールに手を伸ばす、が。

 

 ボールに伸ばした手は空を切った。

 

 右にドライブからの単純なクロスオーバーで海斗は青峰を抜き去る。

 

 だがスリーポイントラインを越えたところで横槍が入った。キセキの世代キャプテン赤司征十郎が海斗のボールを狙わんとしていた。

 

 だが関係ないとばかりに海斗はゴールに向かう。ボールを右手で保護しラグビーステップで強引にインサイドに突っ込んだ。

 

 だがしかしそこで待ち構えているのはキセキの世代一の長身にして最強のディフェンス力を持つ紫原敦。

 

 それでも海斗は一歩二歩と右、左と力強く跳んだ。止まってしまえば囲まれてしまい何より後ろには青峰が、横には赤司がいる中リングに向かうしか選択肢は残されていなかった。

 

 合わせるように中学生とも思えぬ巨体が飛ぶ。手を高く広げボールを奪おうとするそれは中学生レベルを遥かに超えていた。

 

 合わさるように身体がぶつかるもどちらもブレる事はない。海斗は右手をリングに向けて、紫原はボールに向かって、手を伸ばし衝突した。

 

 お互いの気迫がぶつかり合った一瞬の衝突は一秒にも一分にも感じれるがそれも終わりを迎える。

 

 やはり紫原の方が力は上で、力に押されるような形で海斗は後方に体勢を崩しながらボールを下げ左に持ち替えた。そのまま崩れるような体勢のままダブルクラッチを決める。

 

 そしてこの試合初めて同点になると館内は湧いた。館内全体が大神の大きな応援団となり帝光敗北を応援している。

 

 たまらんと言わんばかりに帝光はタイムアウトをとった。

 

 焦りと怒り、帝光メンバーが様々な表情でベンチに戻る中、海斗は手を握りしめそして吠えていた。

 

 

 

 

 

 ▼

 

 

 

 

 ピッと室内にテレビの音が鳴りDVDが止まる。紫原と海斗を帰した荒木は部員を集め今年の全中決勝戦のDVDを見せていた。

 

 荒木が周りを見渡すと岡村をはじめとして皆沈黙していた。

 

 岡村は目を閉じ何も言わず、福井は苛立ちを隠しきれないように横を向き、劉は顔を俯かせている。

 

 だがそれもしょうがないと言えるほどの内容であった。中学生離れした応酬の連続。そしてDVDでプレーをしていた選手が二人も自分達のチームに居るという現実。

 

 確かにチームは強くなるであろう。それも常に優勝候補に必ず挙げられるほどに。

 

 それでも二、三年にとってそれはレギュラー争いの激化とチームが二人を中心にして作られるという事を意味していた。

 

 その空気を払拭するかのように岡村は机を叩き立ち上がる。

 

「なーにしけたツラしとんじゃ!今日試合してわかっておった事じゃろう!そんな事よりも少しでも練習してあいつら二人に追いつくぞ!」

 

「けっ、お前に言われるとは。まだ時間あるぞフットワークからだ!」

 

「ゴリ…キャプテンの言う通り練習あるのみアル」

 

 岡村に続き福井が部員の背を叩きながら立ち上がる。次々と立ち上がり体育館に向かっていくその姿は流石上級生といえるものだ。

 

 だが岡村と福井のそれが空元気というのを荒木は分かっていた。

 

 先ほどのDVDを見てしまえば自分達が手加減をされていたというのが分かってしまうものだ。

 

 本能的に分かってしまう圧倒的実力の差と越えられぬ才能の壁。主将に副主将という立場でチームを引っ張る二人が何も思わないはずがなかった。

 

 自分よりもチームを優先する先ほどの姿勢は有難いものであったが問題は山積みであった。

 

「前途多難、だな」

 

 

 

 ▼

 

 

 入寮をしてから数日が経ちどこかぎこちない空気の中練習をこなした海斗は今、新しい制服に身を包んでいる。

 

 今日は入学式であり、灰色のチェックのズボンにカッターシャツにブレザーをはおっていた。

 

「紫原行くぞ」

 

「分かったー」

 

 寮を出て五分ほど歩くと陽泉高校が見える。正門をくぐると大きな聖人の像がありその東側に体育館、西側に礼拝堂がありそれ以外には校舎が占めていた。

 

 クラスは海斗と紫原同じで、西洋風の校舎に入り上履きに履き替え教室に向かう。

 

 担任の紹介に始まり体育館の入学式を終えた二人は今部室に向かっていた。

 

 当然の如く入学式だからといって練習が休みになるわけが無い。ましてや陽泉は強豪校である。

 

 そして紫原と海斗を獲得し全国制覇を目指す荒木が休みを入れずどこかの誰かさんに怒られるのはまた別の話。

 

「てかさー海ちん背伸びた?」

 

「ん?そうだな少し伸びたかもしれん」

 

「確か青ちんと一緒位だったよねー」

 

「あぁ、少しあいつより…」

 

 と海斗が言葉を続けようとして止めた。部室にもうすぐ着くというところで二人の目の前に人影が現れた。

 

 陽泉高校バスケットボール部主将岡村健一。

 

 陽泉高校バスケットボール部副主将福井健介。

 

 部室の前に陣取っていた二人は海斗と紫原に向かって言う。

 

 

 

「「ワシ(オレ)と勝負しろ!」」

 

 

 

 





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