異世界のカード使い   作:りるぱ

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第10話 青薬無双

「ふぅ……」

 

 椅子にドカッと座り、ケーネ村代表役は大きくため息を吐き出す。

 つい先程、実に十七年ぶりの村への来客を送り返させたところだった。

 

「お前達、アレをどう思う?」

 

 もちろん、()()殿()についてである。実のところ、代表役は客人の来訪に対してかなり否定的であった。未だに彼の本名すら聞かないことからもその心中を察することができるだろう。

 

 問いかけに対し、狩猟頭ルラータと農畜産まとめ役ヘーロは顔を見合わせる。今回相談役として参加したジオも思案顔で何か考えているようだ。

 

「……私には、彼が無害であるように思えます。態度も友好的でしたし」

 

「私も同じです。こちらの話を静かに聴くお方でした」

 

 二人共肯定的な意見である。強大な力を持ちながらその力を驕らない謙虚な姿勢は、単純な彼らに好印象を与えていた。さながら不良が子猫に餌を与えている場面を見て、普段とのギャップにいい奴だと錯覚するように、賢者殿はいい人だという印象は、深く彼らの脳内に刻み込まれたのだ。

 

「ジオ」

 

「害意がないという点については賛成です。

 しかし……彼は何かを隠している。これは確実でしょう」

 

「ふむ……」

 

 思案する代表役に対し、ジオは言葉を続ける。

 

「ですがこれに関して、私はそこまで気にすることはないと思います。隠し事などそれこそ誰にでもあるでしょうから。

 今重要なのは、彼がこの魔境を単身で旅できる程の実力者であること。そして現時点において、この村をどうこうしようと思っていないこと。この二点ではないでしょうか?」

 

「……なるほど。

 ならば、これからの対応はどうするのが一番よいと思う?」

 

「まずは彼の要望を叶えていけばいいでしょう。その中で、こちらに得する条件を引き出せるものなら引き出していく。

 彼の薬師としての力量は知りませんが、根拠もなしに大言壮語を言うタイプには見えませんでした。うまくすれば、村の病人を幾人か治してくれるでしょう」

 

 妥当な案であった。代表役はルラータとヘーロに目を向けると、彼らも無言で頷く。

 

「今後の行動指針はそれで行くとしよう。

 ジオよ、客人との交渉はお前に任せる。うまくやってくれ」

 

「かしこまりました」

 

「それでは、この件はこれで一旦終わりじゃ」

 

 手を二度叩き、そう締めくくる代表役。

 

「ほれ、さっきは皆緊張して飯を殆ど食っておらんじゃろ。せっかく女衆が腕によりをかけて作ってくれた豪華な食事じゃ。余らせるのは勿体無い。改めて食事会と行こうではないか」

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◇

 

『朝である。起きられよ』

 

 やさしく肩を揺らす骨の両手。俺の朝は柔らかな骸骨の声から始まる。

 なんだろうね、悲しくなってきた。普通、この”骸骨”の部分は”幼馴染”とかのはずじゃないだろうか?

 

「おはよう」

 

『間もなく我輩達の魔力が切れる。必要なら再召喚の準備をしろ』

 

 はいはい、分かってますよ。なんでこいつは喋り方がいちいち偉そうなんだ?

 ここ来客用かまくらハウスは半径200メートル圏内に余所の民家がない。世話役のアリアとコロも昨夜家へ帰ったので、秘密行動するには都合のいい環境と言える。

 

 しばらく時間が過ぎ、モンスター達はほぼ一斉にカードへと戻った。真紅眼の飛竜(レッドアイズ・ワイバーン)とモンスター・アイを葉っぱカードフォルダに戻し、ワイドキングだけを再召喚する。

 

「ほれ、脱げ」

 

『…………ちっ』

 

 そう舌打ちをしつつ、渋々とローブを脱ぎ捨てるワイトキング。

 俺は再び彼の紫ローブに着替え、硬い木のベッドに腰を下ろす。

 多分これがこの村の普通なのだろうが、せめて藁くらい敷いて欲しかった……。

 

「非常食、ブルー・ポーション、発動」

 

 目の前に現れる缶詰、乾パン、それに回復薬と言う名の飲み水。

 朝食である。流石に食中毒が怖くなったので、自分で用意することにした。

 

 腹が痛くなったのは昨晩世話役の二人がいなくなってからなので、朝食がいらないことをまだ告げていない。もし用意してくれてるんだったら、素直に好意を受け取って食べよう。後でもう一度治療の神ディアン・ケトを発動させればいい。消費魔力3は勿体無いが……。

 

「それにしても……。ステータス」

 

 

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未熟なカード使い      -闇ー

               ☆

 

【上位世界人族】

異世界に迷い込んだカード使い。魔力を

消費してカードに秘められた力を解放す

ることが出来る。しかし、その力はまだ

未熟だ。

 

ランクアップ条件

信奉者を獲得せよ 0/10

 

魔力 6/9    ATK/80 DEF/130 

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 よく見ると守備力が50から130に上昇している。きっとワイトキングのローブを着ているからだろう。

 守備力0のワイトキング。そのローブを着たら、守備力が80上がるとか……色々と謎が多い。

 

 そして俺を悩ませているのは次のランクアップ条件。

 ――信奉者を獲得せよ。

 教祖様にでもなれと言うのだろうか? とりあえずクリアーする目途がまるで立たない。

 

「ほんと、どうすっかな……?

 病気を治されたくらいで、信奉者までにはならんよなぁ……普通」

 

 

◇◇◇◇

 

「おはようございます、賢者様」

 

 朝一番に戸を叩いたのは、茶色のポンチョを着た三毛猫――ジオさんだった。まるきり俺の偏見だが、ポンチョを見ると、どうしてもメキシコあたりをイメージしてしまう。

 

 それにしても、てっきり世話役のアリアとコロが最初に来るものだと思っていたんだが……。

 

「おはようございます、ジオさん」

 

 無難に挨拶を返す。

 

「昨夜はよくお眠りになられましたか?」

 

「はい、大丈夫でした」

 

 これまた無難な社交辞令を無難に返し、俺とジオさんは客間のテーブルに着く。

 

「すみません賢者様。少々お訪ねしたいのですが……外にいた真紅眼の飛竜(レッドアイズ・ワイバーン)は今どちらに……?」

 

「彼なら森に放しましたよ。皆が怖がるでしょうから。

 呼ぶまで帰ってこないよう言ってあります。今頃、狩りに勤しんでいることでしょう」

 

「なるほど……。あ、申し訳ない、少し興味があったもので」

 

 そう言って姿勢を正すジオさん。

 興味どうこうより、きっと村の安全問題に関わるから聞いたのだろう。

 

「今回お邪魔したのは、一度賢者様の欲しいものをお聞きしたいと思いまして。旅に必要な日常雑貨程度なら用意できると思いますが、物によっては準備に時間のかかる物もあるかもしれませんので」

 

 そう言いながら白い紙のメモ帳を取り出すジオさん。

 どうやら製紙技術はすでにあるらしい。

 

「はい、そうですね――」

 

 少し考えを巡らす。

 

「今回調達したい物は、まず服上下三着ずつ。下着五着。靴二足。タオル三枚。それから大き目の(かばん)とポーチが欲しいですね」

 

 俺が喋る内容をさらさらと書き込むジオさん。

 驚くことに、メモに書き込まれた文字はひらがなカタカナそして漢字と、どこからどう見ても完全無欠に日本語であった。

 これで俺が不思議な力で耳に届く異世界言語を日本語に翻訳している訳じゃないことが分かった。

 

「タオルと(かばん)などはすぐにでも用意できますが、衣服はこれから採寸して縫うことになります。ですので二日程お時間を頂くことになるでしょう。よろしいでしょうか?」

 

「はい。宜しくお願いします」

 

 考えてみれば、ここの住民は皆三毛猫だ。人間サイズの服が普通にある訳がない。 

 それにしても、ジオさんは突っ込まなかったな……。旅の途中なのに、衣服や(かばん)を持ってない理由も一応用意したんだが……。

 

「私の方も、さっそく皆さんの病気や怪我を治しに参りたいのですが」

 

「それでしたらアリアとコロに案内させます。今二人共外に控えさせてますので、後で声をかけてください。大抵のことは融通を利かせるよう言ってあります」

 

「分かりました」

 

 メジャーを取り出すジオさん。今ここで採寸してしまうつもりだろう。

 

「それでは、上半身の採寸を致しますので、しゃがんでください」

 

「はい」

 

 彼の言う通り、しゃがんで高さを合わせる。

 いくら巨大三毛猫と言っても、彼らの身長は人間より随分と低い。平均120~130センチくらいだろうか。

 

 採寸されながら考える。

 そう言えば、何で彼だけ語尾に”にゃ”をつけないのだろう?

 ん~……この際だから聞いちゃえ。

 

「ジオさん、一つ質問よろしいでしょうか?」

 

「はい、何でもどうぞ」

 

「この村の方は皆語尾に”にゃ”をつけていました。私はこれがこの村特有の話し方だと思っていましたが、ジオさんは”にゃ”を語尾につけてらっしゃらない。これは――」

 

 うーん……冷静に考えてみると随分と間抜けな質問だな。語尾に”にゃ”をつけるとかつけないとか……。

 

「……は、ははははは。ははははははは」

 

 メジャーを持った手で腹を押さえ、突然愉快そうに笑い出したジオさん。

 

「や、やはり賢者様には意味が通じておりませんでしたか」

 

 そう言って彼は自分を落ち着かせるように、二回、三回と深呼吸をする。

 

「いやいや。申し訳ない。何だか代表役達が間抜けに思えてしまって。

 ――ごほんっ。

 ご質問に対するお答えですが、あの独特なニホン語は、我らミオ族に伝わる最上級の尊敬語なのです。起源を辿れば、初代ミオ族が直接神から教わったもので、何でも我らのモデルとなった”猫”と言う生き物の鳴き声からとったとか」

 

「ね、ねこ?」

 

「ええ、神の飼っているペットの名前だそうですよ」

 

「はぁ……」

 

 ペットとな。

 

「まぁ、この習慣自体かなり古い錆付いたものです。

 実際、今ではミオ族以外で知る人は殆どいないでしょう。もし賢者様に意味が伝わらなかった場合、気分を害されるかもしれないと思ったもので、私だけ念の為に普通に話していたのですよ」

 

「なるほど……そうだったのですか」

 

「はい」

 

 猫と言う生き物の鳴き声から取った……ね。

 お前も猫じゃん! って言う突っ込みは無粋かな?

 ミオ族のモデルって言ってるし、多分、猫ってあの猫だよな?

 昼間八時間くらい寝て、それに加えて夜もたっぷり寝て、かまうと嫌がって逃げるくせに、放置すると頭を擦り付けてくるっていうあの……。

 ジオさんの言いようからして、この世界に純粋な”猫”はきっと存在しないだろうな。

 ……それにしたって、神様のペットとは……。

 

 

 

◇◇◇◇

 

 俺の全身の採寸を終えたジオさんは去り、入れ替わるようにアリアとコロがやって来る。

 彼女らに朝食を準備しなくともいい旨を告げると、はぁ? 的な顔をされた。

 

「失礼したにゃ。大丈夫にゃ、ニュアンス的に朝食べる食事であると分かるにゃ」

 

 えっと……どゆこと?

 

「賢者様の旅してきた場所のことは分からにゃいが、この辺は起きてすぐ食事をしないにゃ。

 食事は一働きをした後に食べるにゃ」

 

 んっと――

 

「つまり、一日二食ですか」

 

「当たり前にゃ。賢者様のいた場所は三回も四回も食べてたにゃ?」

 

 心なしか、呆れた目で俺を見るアリア。赤い飾り布をつけた尻尾をゆらゆら揺らす。

 同列に見ていいものか知らないが、猫が尻尾を振るのは苛立っているサインだ。

 

「け、賢者様は色んな場所を旅してたにゃ。そういう地域もきっとあるかもしれないにゃ。せ、世界は広いにゃ」

 

 慌てて右、左とアリアと俺に視線を彷徨わせ、フォローを入れるコロ。頭の羽飾りがくるくると動き回る。

 

「食事の回数はひとまず置いといて、今後私の食事はいらないとお伝え願えますか?」

 

「それくらいなら伝えますにゃ。むしろ余計な分が減らなくて助かるにゃ」

 

 はは……何か棘があるなぁ……アリアさん。

 コロはコロであたふたしてるし。

 

「それでお薬に関してですが、君達が私を患者の元へ案内してくれるとジオさんから聞きましたが」

 

「そ、それに関してはもう手配しましたにゃ。まず動ける怪我人をここに来させますにゃ」

 

 ここに患者を集めるのか。考えてみれば俺が一軒一軒回るよりその方が効率的か。

 もっと村の中を見てみたかったんだが……仕方ない。今日の所、信用を勝ち取ることに専念しよう。

 

「もうすぐ来ると思うにゃ。準備があるならするといいにゃ」

 

 アリアの俺に対する態度がどんどん雑になっていってる気がする。”にゃ”言葉って最上級の尊敬語なんだよね。……タメ口に”にゃ”をつけても尊敬語なわけ?

 

 それにしても、なぜアリアがとげとげしているのかさっぱり分からない。特に怒らせるようなことはしてないと思うけど。そもそも付き合い自体浅いし……。

 

「それじゃあ、私は中で準備するよ。患者が来たら案内を頼みます」

 

「わ、分かりましたにゃ」

 

 

 

◇◇◇◇

 

「ゴブリンに矢を射掛けようしたら木から落っこちて、そん時に切っちまってな。じゃなくて、切ってしまいましたにゃ。

 ……とりあえず(つば)つけて布巻いといたけど、動くたびに痛いんだわ。…………じゃなくて、痛いですにゃ」

 

「無理に敬語を使わなくても結構ですよ。

 とりあえずこれを飲んでみましょう。これで治ると思います」

 

 後を振り向き、かなり小さめのコップにブルー・ポーションを入れる。

 おっとっと。壺からコップへなので加減が難しい。

 今現在、俺の前に座っているのは本日八番目の患者さん。どうやらわき腹を深く切ってしまったようだ。

 

「どうぞ」

 

「お、おう」

 

 恐る恐るコップを見る中年三毛猫。やはり知らない薬は怖いらしい。

 

「ぐぃっとどうぞ。苦くないですよ」

 

 三秒程のにらめっこの末、彼は目を瞑り、コップの中身を一気にあおいだ。

 

「……お、お?

 変な味だけど、中々うまいな」

 

「どうでしょう。治りましたか?」

 

「いやいや賢者様、冗談言っちゃいけねぇ。いくら良く効く薬だからって、怪我がすぐ治るわけ……」

 

 わき腹の包帯代わりに巻いてある青い布部分をさする男性。ようやく痛くないことに気づいたのだろう。患部をつねったり叩いたりしている。

 

「う、うそだぁ。えっ? 本当に?」

 

「布を取ってもらえませんか?」

 

「お、おおぅ」

 

 布を取った後には、白い綺麗な毛皮があった。…………モフりたい……。

 

「……治った……本当に治った……。

 すげぇ……、すげぇよ賢者様。おれぁ今までこんな薬見たことぁねぇ。本当にすげぇよ」

 

「良かったですね。他の小さな傷も治ったはずですよ」

 

「…………。

 ほ、ほんとだ! 今朝母ちゃんに引っかかれた痕がねぇ!」

 

 一体何をしたんだ、こいつは。

 

「……そ、そんな目で見んなよ。ちょっとエンカちゃんのお尻の匂いを嗅いだだけだって。

 ほんと、それだけだって……。

 ………………。

 …………。

 ……お、おれ! 皆に薬のこと知らせてくるわ!」

 

 そう言って逃げるようにダッシュで出て行った中年三毛猫。

 別に俺、何も言ってないんだけど……。

 

「コロさん。次の方呼んで」

 

「は、はいにゃ!

 次の方、どうぞ~!」

 

 今度入ってきたのは若い三毛猫だった。

 因みに、若い、中年とか全部俺の主観なので、もしかしたら全然はずれているかもしれない。

 

「ど、どうもにゃ。見ての通り、この頭にゃんですが……」

 

 彼の頭の左半分には、左目を覆い隠すように包帯が巻かれていた。

 

一昨日(おととい)、西のゴブリンに斧で目ごと切られたにゃ。一日中ずっとじくじくと痛むにゃ。痛み止めが貰えるとうれしいですにゃ」

 

「はい、お薬出しますね」

 

 ブルー・ポーションをコップ二つ分注ぐ。

 

「二杯共飲んでください。これで治ると思いますよ」

 

「はい。

 これで痛まなくなれば助かりますにゃ。村の薬に効く物がないでしたにゃ」

 

 そう言ってお猪口サイズのコップに入ったブルー・ポーションを飲んでいく青年。

 

「す、すごいにゃ。すぐに痛みがなくなったにゃ」

 

「もう一杯分もどうぞ」

 

「はいにゃ」

 

 青年はもう一つのコップも飲み干す。

 

「どうですか?」

 

「とてもよく効いてますにゃ。もう痛くないですにゃ。すごい薬ですにゃ」

 

「では包帯を取ってみましょう」

 

「…………何を言ってるにゃ?

 ――なぜ後に回り込むにゃ!?」

 

「はい、取りますよー」

 

「ま、待つにゃ! やめるにゃ!」

 

 包帯の結び目を解き、ぐるぐると回しながら外していく。

 

「はいはい、大丈夫ですから動かないで下さいね」

 

「後生にゃ! 勘弁してくださいにゃ!」

 

「はい! 取れましたよー」

 

「ぎゃーにゃ!」

 

 反射的になのか、手で左目周辺を押さえる青年。

 

「あれ?」

 

「一度手をどけて、ゆっくりと左目を開けてください」

 

「…………。

 ……み、見えるにゃ……」

 

「見たところ、一部毛が禿げてますが、もう傷はありませんね」

 

「治った……? 嘘だろ……」

 

「外に水を張った(たらい)がありますから、そこで確認してきてください」

 

 水を張った(たらい)は簡易的な鏡の代わりである。アリアに聞いてみたところ、この村の鏡は代表役の家に一枚しかないらしい。もちろん家宝扱いだ。

 

「治った……嘘……治った?」

 

 茫然自失の(てい)で青年は部屋を出る。

 

「コロさん、次の患者を……あれ? アリアさん」

 

「コロなら行列整理に行ってるにゃ。あの子の方が皆に好かれてるから向いてるにゃ」

 

「行列? そんなに人が来ているのですか?」

 

「何かよく効くって評判になってるにゃ。野次馬も含めて一杯集まってるにゃ」

 

「ははは……そうですか」

 

 狭い村だ。噂なんて千里を駆けるまでもない。きっとあっと言う間だったんだろうな。

 

「それじゃあアリアさん。次の患者を」

 

「ぅぉぉぉぉおおお!」

 

 さっき目を治した青年がすごい勢いでアリアを突き飛ばし、部屋へ再突入してきた。

 

「賢者様! ありがとうございます! おかげでまた見えるようになりました!」

 

 そう言って青年は深く頭を下げた。

 

「では! 母さんにも知らせてきます! 本当にありがとうございました! にゃ。

 アリア姉、突き飛ばしてごめん! うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ………………――」

 

 そして、青年は嵐のように去っていった。

 

「今の、ギン君よね。治ったって、完全に眼球が潰れてたはずよ……」

 

「アリアさん、次の患者さんを呼んでください」

 

「……は、はいにゃ……」

 

 

◇◇◇◇

 

 馬鹿の一つ覚えみたいにブルー・ポーションをコップに注ぎ、患者さんに飲ます。今の所、勝率は十割。ブルー・ポーション無双状態である。

 ……本物の医者が見たら発狂物の治療風景だな。

 

 そんなこんなで人が人を呼び、呼ばれた人がさらに人を呼び、終いには飲むだけで健康になれるとか、飲むと長生きできるとか、飲むと女にモテるようになるとかいう、実に訳の分からない噂まで流れ出ているらしく、深刻な怪我から肉球の表面をちょこっと切った人までが、この来客用かまくらハウスの前の長蛇の列に並んだ。

 どうやらこの世界には飲むだけで直ぐに傷を治す薬はないらしい…………いやいや、地球にだってないよ、そんな薬。つくづくブルー・ポーションの異常性が目に見えて分かる。

 

 四回目に再発動したブルー・ポーションが底をつき始めた頃、やっと患者はいなくなったようだ。しかし家の周囲は、まだ随分とざわついていた。

 アリアによると、治った人達がお互いの健闘を称え(?)、お喋りに興じているのだそうだ。さしずめ、田舎の病院ロビーといった感じだろうか。

 

「……その薬、すごいにゃ。まるで治癒のカイリにゃ」

 

「は、はい、本当にすごいですにゃ。私もびっくりしましたにゃ」

 

 今簡易診察室――と言ってもポーション飲ませるだけの場所だが――に俺、アリア、コロの三人が集まっている。やっと一息つけたので、皆で休憩していたのだ。

 

「それ、本当は治癒カイリじゃないにゃ?」

 

「その……二人共。よければ”にゃ”はもうつけなくていいですよ。

 何だか言いにくそうですし、私のいたところではその習慣はありませんでしたから」

 

「そう? じゃあお言葉に甘えて」

 

「ア、アリアちゃん……!」

 

「本人がいいって言ってるんだからいいじゃない」

 

「で、でも……」

 

「いえ、大丈夫ですよ。コロさんもこれからは普通に話してください」

 

「は、はい」

 

 もっと早く言っとけばよかったかな? 今度代表役かジオさんに会ったら、村の皆にもやめてもらうよう言ってもらおう。

 

「それで、あんた本当は治癒カイリが使えるんじゃない?

 治癒カイリ使いは狙われやすいから、薬で偽装してるんでしょ」

 

 また出たか、カイリ。

 ほんと、どういうものなんだろう? 聞く限りじゃ、魔力と同じ扱いだよな。

 

「いいえ。本当に薬の力ですよ」

 

 それでも何だか納得の行かない顔をするアリア。コロは黙ってあたふたしている。

 

「ただし、その薬を作るのに私のカイリを使っています」

 

 嘘ではない。もしカイリが魔力と同じものなら、この説明はこの上ない真実だったりする。

 

「カイリで作る薬? 聞いたことないわね」

 

「世の中、聞いた事のない事象の方がきっと多いでしょう」

 

「ふーん……。

 ま、そういうものかもしれないわね」

 

 アリアはそう頷きながらトレードマークである赤いバンダナのズレを直す。

 

「ア、アリアちゃん、そろそろ……」

 

「ん? そうね。

 私達は今日のことを代表役に報告してくるわ。ついでに外の暇人共も追っ払うから。

 そう言えばあんた、夕飯も要らないの?」

 

「ええ、大丈夫ですよ。自分で用意してあります」

 

「ふーん……そ。じゃ、また明日ね」

 

「あ、あの、賢者様。これで失礼します」

 

「はい。また明日」

 

 

 

◇◇◇◇

 

 そろそろ日が沈み始める頃。アリアとコロが追い払ったのか、家の周りは初日来た時のように、静寂に包まれていた。

 少し散歩に行こうかと思ったが、よくよく考えたら俺はまだ靴を持っていない。いくらブルー・ポーションで治るとはいえ、あまり足に怪我を負いたいとは思わない。

 なもので、俺は沈み行く太陽を眺めながらボーっとしていた。

 

『そこだぁぁぁぁ!!』

 

 突然骨格標本ケフン、ケフンッ。ワイトキングが奇声を上げて動き出し、扉の外に隠れている何者かの首を骨の右腕で掴み上げた。

 

『我輩の目をごまかせると思うたか?

 何のつもりでこそこそしておった? さぁ、言うがいい』

 

 ワイトキングが掴み上げたのは当然の如く三毛猫だった。

 毛並みや表情、そして体格からして、まだ若いと幼いの中間あたりにある猫だろう。

 

「ご、ごめん! ……ゴホッ! オ、オレ、そんなつもりじゃ、なくて」

 

「ワイトキング、離してやれ」

 

『……フン』

 

「……ゴ……ゴホッ、ゴホッ」

 

 しばらく地面にうずくまる少年。ようやく息を整えると、彼は俺に顔を向ける。

 

「も、申し訳ございませんにゃ」

 

「ああ、敬語はいいですよ。普通に話してください。どうして隠れていたのですか?」

 

「すみません。オレ、もう一度ワイバーンの突然変異種が見たくて。それでコロ姉にお願いして、賢者様にオレのこと紹介して貰おうかなって。

 でもコロ姉いなくて……そ、それで、どこにいるのか見て回ってたら……」

 

「なるほど、コロさんを探していたのですか。彼女ならもう帰りましたよ。

 ――しかし、どうしてまたこそこそと」

 

「その……紹介もなしにいきなり賢者様に合うのも気まずくて……。

 オレ、潜伏するの得意だし。だからまず見つからないようにコロ姉探し出そうと思って……」

 

 そう言って頭の後をかく少年。

 彼はアリアやコロと同じ茶色の皮鎧を身につけ、頭には緑色の鉢巻(はちまき)をしていた。

 

「君のお名前は?」

 

「あ、はい。オレ、ダストって言います」

 

 ダスト君か。

 

「それではダスト君。少しお話をしませんか?

 私は今とても暇でして、少し付き合って頂けると嬉しいです」

 

「はい! オレでよければ!」

 

「あ、どうぞ。座ってください」

 

 ダストに椅子を勧める。

 丁度いい。ここでボロが出ない程度、この世界の情報を集めてみよう。

 

「私は色々な場所を旅していましてね。

 それぞれの地域の話を聞くのが楽しみなんです」

 

「話……ですか?」

 

「そうですね。例えば……神話とか」

 

 こういった未発達な地域は、歴史を神話とごちゃ混ぜにして後世に伝えるものだ。神話を聞くことで、その地域の歴史、ひいては住民の価値観やものの考え方まで分かるかもしれない。

 

「神話? 神様のお話ですか? そんなの、どこ行っても大して変わらないと思いますけど……」

 

 大して変わらない? 

 それは神話なんてどこの国も同じようなものだと言う達観した意味なのか、それとも――。

 

「いえいえ、それでも場所によってはそこ特有の色が出てくるものなのです。

 私はそれらを聞きたいのですよ」

 

 どうとでもとれるように誤魔化しておく。

 

「えっと……オレ、歴史は苦手なんだけどな……。

 その、オレ……ちゃんと勉強してなくて、結構抜けてる部分とかあるかもしれないけど、それでもよければ」

 

 歴史? 今明確に、神話のことを歴史と言ったのか?

 ふむ……。

 

「大丈夫ですよ。覚えているものだけ話してください」

 

「……は、はい」

 

 ダスト君は仕舞い込んだ記憶を思い出すように、視線を斜め上に彷徨わせる。

 

「まず、この世界を作ったのは女性の神様です――」

 

◇◇

 

 まず、この世界を作ったのは女性の神様です。その……作ったのはすごいすごい昔で、いつ作ったのかは誰も知りません。女性の神様は世界とそこに住む動物、植物を作ったところで飽きてしまって、世界をそのまま放置したそうです。

 

 そこで登場したのが男性の神様です。オレ達が一般的にいう神様は彼を指します。

 神様がオレ達知恵ある者、人間を作ったのが368年前です。

 ――え? ……は、はい。間違いないです。

 今年が神暦368年だから……。あ、はい、どこも一緒のはずです。

 それで、神様がオレ達人間を作った後、初代の人間達にたくさんの知識を与えました。

 

 えっと……確か今都会で問題になってるんですよね。神の与えた知識がどんどん失われていくって。まぁ、しようがないですよね。ご先祖様達も知識全部を次世帯に伝えられるわけじゃないですし。世帯を跨いでいけば、そりゃあ失われもしますよ。ニホン語も意味が分からなくなった単語がいくつも出てきて、学者さん達があーだこーだ言ってますよね。

 いや。実際にオレが見たんじゃなくて、全部ジオさんの受け売りなんですけど。

 いいですよね、都会。いつか住んでみたいです。

 

 あ、はい。続きですね。すみません、脱線しちゃって。

 ――えっと、後何があったかな……?

 あ、そうだ。人間を作った後、神様は人の安全を守る為に壁を作りました。って、これは当たり前すぎましたね。どこの町や村にもあるんですから。

 え? うちの村の壁もそうかって、当たり前じゃないですか。いやだな~。

 

 壁まで話しましたよね。後はそれと同時期に、神様は様々な建築物や道具を作って、人間に与えました。神築物と神造具って言うんですよね、正式には。

 で、神築物の特徴はどんなことをしても絶対に壊れないこと。神造具は壊れるけど、多種多様な効能を持ってて、しかも精巧なものが多いって聞いたけど…………オレ、実は一度も本物を見たことがなくて……その……詳しくは知らないです。

 

 後はすったもんだあって……いや、ごめんなさい。よく覚えてないです。代表役の話つまんないから、眠くて……。

 で、最終的に神様がオレら人間に与えた目標が、壁を出て世界を広げろ……です。実際にやってる人は少ないですけどね。

 あ、そっか。賢者様はこの教えを実践してるんだ。すごいなぁ……。

 

 うんっと、オレが覚えてるのってこれくらいです。

 全部皆が知ってるようなことばかりでごめんなさい。賢者様がもっと詳しくミオ族の歴史を知りたいって言うなら、代表役かジオさんに聞いてみるといいよ。

 

◇◇

 

 一息つき、俺が入れたブルー・ポーションを飲み干すダスト君。

 

「うわぁー、おいしいなぁ。これは賢者様が持ってきたの?」

 

「はい、まだありますから、好きなだけ飲んでいいですよ」

 

 そう言って、壺から彼のコップへブルー・ポーションを注いであげる。

 今日使い残った分だ。どうせ時間になれば消えるので、余ったら勿体無い。

 

「賢者様、ありがとう!」

 

 満タンになったコップからブルー・ポーションをさらに一口。どうやら彼はこの味が気に入ったようだ。

 それにしても、色々と衝撃的な話だった。

 

 まず、この世界と言うか、社会は成立して368年しか経ってないらしい。そして知的生物は神とやらに、ある程度の知識を与えられた状態で作られたのだそうだ。いや、作ってから与えたのかな? 結局は一緒だから、そこら辺の前後関係はどうでもいいだろう。

 話を聞いていると、この世界で言う人間とは、神が創った知恵ある者全てのことを指すと推測できる。つまり、巨大三毛猫であるミオ族も立派な人間なのだ。

 

 神なる人物はその後、壁を含む様々な建築物と道具を作り、人間に与えた。

 そして、神が最後に人間に与えた目標が、”壁を出て世界を広げろ”だ。

 

 まぁ、ダスト君の知識がどこまで正しいのかと言う問題点はあるが、おおむねこんな感じでいいだろう。

 

「えっと、ダスト君は何か宗教を信じていますか? 教会などに行ったりしますか?」

 

 もしダスト君の言うこれらが本当なら、この世界の住人は全て同じ宗教だということになる。

 ならきっと宗教関連の争いは起きにくいだろうな。

 

「宗……教? 教会? ……って何?」

 

 ふむ……呼称が違うのかな?

 

「……宗教とは、神様の存在や言ったことを信じることですね。

 教会は、昔あった神様の行いや言葉を教えてくれる人がいる家、建築物のことです」

 

「?」

 

 首を傾げるダスト君。

 

「いいえ、知らないのでしたらいいんです。

 私が前に訪れたことのある町には、そういったものがありましたから」

 

「へへ、何それ? 変なの。

 神様の存在を信じるって、わざわざその為に家を作るなんてばっかじゃねーの?」

 

「そう思いますか?」

 

「うん、思うよ。

 今度オレも雲とか川の存在を信じる為の建築物を作ってみよっかな? きっといい笑い話になるって。そうだ、羽跳び魚を信じる為の建て物なんかいいかもしんない。あれうまいからオレ好きなんだ」

 

 そう言ってダスト君は愉快そうに笑った。

 

「……ダスト君は、神様はどこにいると思いますか?」

 

「どっかでオレ達のこと見てるよ。当たり前じゃん」

 

 賢者様も変なこと聞くなー。と続けて笑うダスト君。

 

 きっとこの世界の人々にとって、神はいて当たり前の存在なのだろう。それこそ太陽のように、風のように、すぐ身近で実感できている。

 だから、わざわざ神を信じる為の宗教という概念はない。

 だから、わざわざ神の教えを広める為に教会を作ることもない。

 

 宗教とは、言わばいるかどうかもよく分からない神を信じさせる為のものだ。

 わざわざ”太陽は存在しますよ~、風は吹きますよ~”と有り難がって声高に叫ぶ者はいない。

 そんなの、()()()()だからだ。

 

 窓から外を見ると、夕日は地平線の向うへ沈もうとしていた。

 もう間もなく、月のない夜が始まる。

 

「もうすぐ日は沈みますが、ダスト君は帰らなくて大丈夫ですか? お母さんが心配しますよ」

 

「あー賢者様、馬鹿にしてるな。

 言っとくけど、オレ、もう成人してるからな。今年からだけど、発情期だってきたし……」

 

 なぜか発情期という単語を言ってから、落ち込んだ顔をするダスト君。

 ひょっとしたら、ダスト君は発情期なる期間に何か嫌なことでもあったのかもしれない。

 って言うか、発情期ってあの発情期だよね。

 

「うぅ……リアちゃん……。

 ………………賢者様、オレ、松明(たいまつ)点けてくるよ……」

 

 ダスト君はそう言って微妙に沈みながら松明の用意を始める。

 よかった。今気づいたけど、俺、松明の点け方とか分かんないじゃん。

 

「そうでしたか、ダスト君は成人してたんですね」

 

「だから馬鹿にすんなって。こう見えてもオレ、この村で三番目に強いかんな。

 天才児とか、麒麟児とか、小っちゃい頃から呼ばれてたし」

 

「そうだったんですか」

 

 今日一日この村の患者を診察したから分かるが、彼の背丈は小さい部類に入るはずだ。

 まったく、人は見かけによらない。

 

「ダスト君は三番目に強いと言うことは、一番と二番は誰なのですか?」

 

 ぼっと燃え上がる炎の光。

 ダスト君は二つ目の松明に火をつけ、壁に設置しながら答えを返す。

 

「二番目はアリア姉ちゃんだな。

 何しろ弓の腕は村じゃぴかいちで誰も敵わないし、それに毒を調合する知識もあるんだ」

 

「……驚きました。アリアさんはそんなに強かったんですか」

 

「そりゃあ強いって。

 それに、すっげぇもてんだぜ。あんな性格で」

 

 最後の松明を設置したダスト君はこちらに振り向き、”うげぇ”という風な顔を作る。

 

「ケーネ村一番の謎だよな」

 

「ははははは、アリアさんの前では言わない方がいいですね」

 

「お、恐ろしいこと言うなよ。殺されちまうって」

 

 夕日はすっかり森の向こうへと沈んでいた。外を見ると、少数ではあるが、村のあちこちにも篝火(かがりび)が灯されている。

 

「でも、アリア姉ちゃんでもケーネ村一番の強者には全然敵わないんだぜ!

 何しろケーネ村始まって以来、最強って言われてるからな。アリア姉ちゃんが勝ってるの、弓の腕くらいだし。

 ありゃあ間違いなく英雄とかだよ。時代が時代なら、三勇士に仲間入りすんじゃないかな?」

 

 へー、それはすごいな。

 三勇士というのは知らないけど、なんとなく勇者的な響きがあるのは分かる。

 それに仲間入りするくらいの剛の者がこの村にいるのか。やっぱり狩猟隊の隊長とか?

 確か代表役の家で一緒に食事した、あのカラフルな民族衣装を着た狩猟頭の名前が――

 

「ひょっとして、その村一番の強者というのはルラータさんだったりしますか?」

 

 だったら人は見た目によらないを地でいってるよな。

 

「ありえねぇって。あんな威張り散らしてるだけの糞じじいが強いわけないじゃん。

 実際、狩りにも出てないんだぜ、あいつ。まだオレの方が全然強ぇよ」

 

「そうなのですか」

 

「そうだよ。すっげぇ嫌われてんだぜ、狩猟頭。

 ああいうのを……。

 前にジオさんに教えてもらったんだけど、何だっけ? え~と――

 あ、そうだ。老害だ、老害。ああいうのを老害って言うんだよ」

 

「はははは。老害ですか」

 

 そう言えば、いつの間にかダスト君の口調がかなり砕けたものになっていた。

 うん。これも仲良くなれた証拠。いいことだ。

 そうだ、ついでにダスト君を鑑定してみよう。魔力も余ってるし。

 

 それ、鑑定。

 

 

▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲

ミオ族の戦士 ダスト    -地ー

               ☆

【戦士族】

まだまだ駆け出しの戦士。体の奥底

に強力な魔力を秘めている。

       ATK/250 DEF/100

▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲

 

 

 ステータスだけを見ると、ヤクト・ウルフより少し低いくらいかな。

 でも、ステータスだけで全てを判断しちゃいけない。彼は知恵ある人間なんだ。単純な攻撃力、守備力では推し量れないものがある。

 説明文を見ると魔力を秘めてるって……やっぱり魔力とカイリは同じものなのだろうか?

 

「で、話の続きだけどさ。ケーネ村一番の強者の話。

 色々な逸話があるんだぜ。腕を軽く振るだけで太い木をなぎ倒したとか、睨んだだけで銀熊の群が尻尾巻いて逃げ出したとか」

 

「本当でしたらそれはすごいですね。少し言い過ぎな気がしないでもありませんが」

 

「へへ、オレもその現場を見たわけじゃないからそう思うよ。

 でも、そういう話が出るほど強いってことだよ」

 

「……なるほど、そういう考え方もありますか。

 それにしても、詳しいですね、ダスト君」

 

「小っちゃい村だしね。それにオレ、家が隣なんだ」

 

 ダスト君は誇らしげに胸を張る。

 きっと本当に誇らしいのだろう。

 

「それじゃあ、発表しよう。

 ケーネ村最強の人物、その名前を!」

 

「おお」

 

 パチパチと拍手して場を盛り上げる。

 言われても俺が知ってるわけないので、そんなに興味なかったりするのは内緒である。

 

「その名は――」

 

 トントントン。

 丁度いい所を邪魔するように、ドアを叩く音が室内に響いた。

 今この家の戸を叩く者は限られている。アリアかコロ。もしくは代表役かジオさんだろう。

 

「どうぞ」

 

「ちぇ、誰だよ。いいとこなのに」

 

「……や、夜分遅くすみません」

 

 入ってきたのはコロだった。彼女は腰を九十度曲げ、羽飾りのついた頭を下げる。

 

「こ、こんばんは、賢者様。

 あの、もしかしたら、ダスト君、いますか?」

 

 コロはちゃんと”にゃ”をつけないで喋っている。昼間に言ったことを聞いてくれたみたいだ。

 

「はい、ここにいますよ。ダスト君に用事ですか?」

 

「これ……ダスト君のお父さんから。

 もし賢者様のところにいたら、賢者様と一緒に食べるようにって……」

 

 コロはそう言いながらバスケットを差し出す。中には何らかの木の実がたっぷり入っている。

 

「ちぇ、おやじかよ」

 

「あ、ダスト君」

 

 ダスト君は本日二度目の舌打ちと共にバスケットを受け取り、石のテーブルに置く。

 

「お父さんがあまり賢者様に迷惑をかけないように――」

 

「そんなことよりさ、今丁度コロ姉の話してたんだ。

 ほら、色々あっただろ、逸話が」

 

「や、やめて、賢者様の前で。恥ずかしい……」

 

 ――え?

 

「改めて紹介するよ、賢者様」

 

 ――へ?

 

「彼女こそがケーネ村一番の戦士! コロ姉だ!」

 

 ええーーっ!

 

「強くて器量よし。

 村のお嫁さんにしたい子、ナンバーワンなんだぜ!」

 

「もう……。やめてって言ったのに……。

 け、賢者様、あ、あたしはこれで失礼します。

 ダスト君の話は、できれば話半分くらいに聞いてください」

 

「ええー、もう帰んのかよ、コロ姉ぇ」

 

「し、しし失礼します」

 

 踵を返し、コロは走り去っていく。

 ――か、鑑定!

 

 

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ミオ族の勇士 コロ     -地-

             ☆☆☆☆

【戦士族】

英雄の力を持つ優しきミオ族の少女。

全ての能力が最高レベルにあるが、

未だに一度も全力を出し切ったこと

はない。

      ATK/1700 DEF/1200

▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲

 

 

 

 

 ――開いた口が、しばらく塞がらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

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未熟なカード使い      -闇-

               ☆

 

【上位世界人族】

異世界に迷い込んだカード使い。魔力を

消費してカードに秘められた力を解放す

ることが出来る。しかし、その力はまだ

未熟だ。

 

ランクアップ条件

信奉者を獲得せよ 0/10

 

魔力 1/9    ATK/80 DEF/130 

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