TS少女のラブライブ!   作:水羊羹

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第十話 結成、音ノ木坂スクールアイドル!

 あれから、なんとなく憂鬱な気分のまま屋上を去り、教室に鞄を取りにいく途中の事。

 自然と俯き気味に歩いていると、前から声を掛けられた。

 その聞き覚えのある声に視線を上げれば、案の定そこにはことりがいたのだ。

 

「どうしたんだい?」

「朝陽ちゃん一緒に来て!」

「うん? まあ、いいけど」

 

 その有無を言わせない雰囲気を漂わせることりの様子に、疑問に思いつつ頷く。

 そして、海未も連れていくためか弓道場へ向かうことりに追随する。

 

「それで、何か事件でもあったのかな?」

「ううん、そうじゃなくて……とりあえず、海未ちゃんも見つけてからだね」

「わかった……で、その海未なんだけど」

 

 ことりと話しながら足を動かしている間に弓道場へとたどり着いたのだが、その肝心の海未の様子が変だ。

 いつもと違い矢を的から外しているし、何やら頬を赤く染めたり頭を振り回したり忙しそう。

 ……あっ。海未が何をしているか思い出した。

 って事は、これは上手くすれば面白い場面を見られるかも。

 

「朝陽ちゃん?」

「しーっ、黙って私に付いてきて」

「う、うん」

 

 弓道場にいる他の部員も私に気が付いたようだけど、俺が口許に指を当てるジェスチャーをすれば、察してくれたのか笑顔で親指を立てる。

 そのまま俺とことりが足音を殺しながら海未の方へと近づくと、彼女は何やらブツブツと独り言を漏らしていた。

 

「──何を考えているのですか私は。穂乃果にあれほどはっきりと否定してしまったのに、こんなは、破廉恥な事を考えて。うぅ……も、もう一度集中しなければ──」

「ラブアロー?」

「──シュート! はっ、誰ですか今のは!?」

 

 弓を構え直そうとした海未の耳元でそう呟いた瞬間、彼女はこちらに振り返って指を拳銃に見立ててバーンと撃った。

 そして、満面の笑みを浮かべた後にウィンクを一つ零す。

 突然の海未の奇行に弓道場になんとも言えない雰囲気が流れだし、暫くすると海未は我に返ったのか、周囲を睨みつけて誰かを探す様子を見せる。

 

「い、今のって……」

「園田さんって凛々しい雰囲気もあったけど、今のは可愛かったよね」

「園田先輩かっこいい……!」

「ま、まさか……!」

 

 周囲でヒソヒソと囁きあっている部員を見て、自分がやった事の理解が追いついたらしい。

 瞬く間に顔色を真っ赤に染めた海未は、半分涙目になりながら肩を震わせている。

 ちなみに、海未が振り返った瞬間にはその場から離れていたので、俺が呟いたとは思われていないだろう。

 

「海未ちゃん……」

「はっ! ち、違うんですことり! 私は穂乃果の事を考えていてただ──」

「うんうん。ことりはわかっているから、海未ちゃんは可愛いポーズが好きなんだよね!」

「──やっぱりわかっていないじゃないですかぁ!」

 

 頬に手を当ててにっこりと微笑むことりに対して、羞恥からか涙を滲ませている海未。

 そんな二人を暫し眺めて充分に堪能した後、本題に入るべく俺はことりに声を掛ける。

 

「それでことり、話はいいのかな?」

「あ、そうだった! 海未ちゃんもちょっとこっち来て!」

「わ、わかりました……朝陽、私は可愛い願望なんてありませんから!」

「はいはい、その話は後で聞くから行こう」

「レッツゴ〜!」

「だから私は変な妄想していませんからー!」

 

 さっさと弓道場を出てことりの案内に従い歩いていると、背後から慌てた足取りで海未が追いかけてきた。

 それはいいのだが、段々と海未の弁明が墓穴を掘っているような気がする。海未も偶にドジになる時があるんだな。

 

「それで、どこに向かっているんだい?」

「そうですよ……全く、穂乃果がスクールアイドルをやりたい等と言うから、練習に身が入りませんでしたよ」

「ふふふ、その割にはノリノリだったようだけど?」

「ち、違いますよ!」

 

 笑顔で俺がそう返せば、海未はワタワタと手を振り回して一生懸命弁明してきた。

 しかし、既に海未のラブアローシュートを見た俺からすれば、その否定に説得力を感じる事ができない。

 ことりも俺と同じ気持ちなのか、どこか微笑ましい表情で頷いている。

 

「海未ちゃんもスクールアイドルに興味があったんだよね〜?」

「そんな事ありません!」

「またまたー、ことりは海未ちゃんの事をよーく知っているから。ことりの部屋にあるぬいぐるみを羨ましそうに──」

「そそそそそんな事ないですことりの勘違いですよ」

「えー、じゃあそういう事にしといてあげるよ」

 

 そう告げると後ろで手を組み一歩踏みだすことり。

 そして、そのまま海未の顔を下からのぞき込んだことりは、穏やかな表情を浮かべる。

 

「ことり?」

「海未ちゃん覚えてる? 穂乃果ちゃんと一緒に木を登った時の事」

「……ああ、ありましたねそんな事も」

 

 記憶を掘り返すように暫し虚空を眺めた後、海未はことりの言葉に頷く。

 

「あの時も穂乃果ちゃんが言いだしたんだよね」

「そうですね、そのせいで何度私達が振り回された事か……」

「あはは……そうだね」

「ええ、全くです」

 

 呆れた表情で頷く海未を見て、ことりは苦笑いしながら顔を遠ざけた。

 それにしても、ことり達の話に入れなくて少し寂しい。木を登った時に俺は予定が合わなかった……というか、前世を思い出した日の話だろう。

 だから、物語としては知っているけど実際に体験した事はない。

 まあ、これが本来の正しい姿なのはわかっているが。

 俺がそんな事を考えている間に、ことり達の話は進んでいく。

 

「いつも尻込みしちゃう私達を、穂乃果ちゃんが引っ張ってくれた……そうでしょ海未ちゃん?」

「そう、ですね。ことりの言う通りです」

「それで今まで後悔した事ある?」

「……ありません」

 

 暫し沈黙した後で頷く海未を見て、ことりは頬を綻ばせてある方向を指さす。

 ことりが指し示す方へ目を向ければ、一心不乱にダンスの練習をしている穂乃果が目に入った。

 ダンスをするのが初めてだったのか、素人の俺が見てもわかるほどステップがバラバラだ。

 それに、何度もこけたのだろう。制服のあちこちが汚れている。

 

「私もスクールアイドルをやりたいと思っているんだ。海未ちゃんはどう?」

「私は……いえ、私もやりたいです」

「うわぁっ!」

 

 逡巡するように目を泳がせていた海未は、やがて瞳の輝きを強くするとそう告げた。

 それと同時に、足がもつれて穂乃果が転び、それを見て海未とことりは苦笑いを漏らす。

 

「全く……立てますか、穂乃果?」

「いてて……ありがとう海未ちゃん」

「一人で練習しても意味がありませんよ。やるなら皆でやりましょう」

「海未ちゃん……!」

 

 海未の言葉に向日葵のような笑顔を向ける穂乃果。

 そのまま穂乃果達で話し合いを始めたのを尻目に、さり気なく皆から離れた場所にいた俺は、無事にスクールアイドルが結成された事に胸を撫でおろす。

 一時はどうなる事かと思ったけど、海未もスクールアイドルをやると言ってくれたし、とりあえずは問題ないだろう。

 

「となると次の問題は、絵里か」

 

 この後の展開をどうするか内心で悩みつつ、俺は穂乃果達に見つからない内にこの場を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──あれ、なんで朝陽ちゃんがこんな所にいるの!?」

 

 一足先に生徒会室に向かい、絵里に体調の様子を尋ねていると、扉が開き穂乃果達が入ってきた。

 穂乃果に続いて入ってきた海未とことりも、俺の姿を見つけて驚愕した表情を浮かべている。

 そんな驚き固まっている穂乃果達を尻目に、こんな所と言われたからか頬を痙攣させていた絵里は、どこか険が篭った声色で告げる。

 

「こんな所で悪かったわね。……それで、私達に用があったのではないですか?」

「あ、そうだった!」

 

 その言葉に穂乃果達は緊張した面立ちで絵里の方へと向かっていく。

 そんな幼馴染み達の様子を尻目に、俺は近くにいた希先輩を手招きして呼ぶ。

 興味津々な様子で絵里達を眺めていた希先輩は、俺の合図を見てニヤニヤしながら歩み寄ってくる。

 

「朝陽ちゃんもいけない子やなあ」

「何がですか?」

「絵里ちがいるのに更に三人も手篭めにしているなんて」

「手篭めって……そんなんじゃありませんよ」

「またまたー、絵里ちが嫉妬してたんやで。穂乃果って誰よ! ってウチによく愚痴ってくるんや」

「へー、絵里が嫉妬ですか……」

 

 そう言って肘でつついてくる希先輩をあしらいつつ、穂乃果達と対面している絵里に目を向ける。

 確かに、言われてみれば穂乃果を見る時だけ、微妙に視線が鋭い気がするな。

 うーん、それにしてもなんで穂乃果に嫉妬しているんだろう。穂乃果が何かやらかしたのかな?

 そんな事を考えてながら俺が希先輩とじゃれ合っている間に、向こうの話も佳境に入ったらしい。

 

「何故ですか!? この学校には部員が五人以下の部活があるじゃないですか。なら、私達がアイドル部を設立しても──」

「残念だけど部の設立には最低五人が必要なの。今ある五人以下の部室はその後に部員が辞めたからね」

「そ、そんな……」

「あと二人やね」

 

 希先輩が告げた内容に、穂乃果はキョトンとしてこちらを向く。

 

「え? 後一人だよね?」

「んん? だって君達三人しかいないやん。もしかして、幽霊でもいるん?」

 

 希先輩がそう尋ねれば、穂乃果は益々不思議そうな顔になっていた。

 そして、穂乃果はことり、海未、俺、穂乃果自身を順番に指差していく。

 

「海未ちゃんにことりちゃん、朝陽ちゃんに穂乃果。ほらやっぱり四人だよ!」

「うん? 私はアイドル部なんて初耳だけど」

「……あれ?」

 

 首を傾げた俺に対して、穂乃果は冷や汗をかき始めた。

 穂乃果の背後では海未が厳しい目で彼女を見つめており、その威圧感を感じとっているのだろう。

 まあ、アイドル部を設立するのは知っていたけど、こういうのは建前が大事だからな。

 

「入るのはやぶさかでもないが、せめて一言教えてほしかったよ」

「あはは……ごめん」

「穂乃果、行きましょう。ついでに穂乃果のおっちょこちょいを訂正しましょう」

 

 海未さんや、さっきと目的が変わっていないかい?

 この後の展開を予想したからか、顔色を若干悪くした穂乃果を筆頭に部屋を出ようとする。

 しかし、先ほどから黙ったままだった絵里が穂乃果達を呼びとめたのだ。

 

「どうしてこの時期にアイドル部を設立しようと思ったの? 貴女達は二年生よね」

「私達は廃校をなんとかしたいと思っていたんですけど、その時に今人気のあるスクールアイドルをすればって──」

「今、スクールアイドルって言ったかしら?」

「──は、はい。そうですけど」

 

 穂乃果の口からスクールアイドルという単語が出た瞬間、絵里の眼差しが鋭く変貌した。

 そのまま有無を言わせない雰囲気で尋ねてくる絵里に、穂乃果が戸惑い気味に頷く。

 すると、数瞬何かを堪えるように目を伏せた後、顔を上げた絵里は穂乃果達を厳しい表情で見回していく。

 

「なら、悪いけど五人揃っても部の設立を認めるわけにはいかないわ」

「え……?」

「な、何故ですか!?」

「貴女達がこの学校をなんとかしたいと思ってくれたのは、正直凄く嬉しいわ。私以外にも音ノ木坂が好きなんだって知る事ができたから」

「な、ならどうして……!」

 

 愕然とした様子で声を荒らげる海未に対して、絵里は柔らかい表情で優しく応えた。

 

 

 

「──でもね」

「っ!」

 

 しかし、次の瞬間には絵里の表情は真剣な顔つきに変わる。

 そんな絵里の雰囲気に呑まれている海未達へと、彼女は瞳に強い決意の色を宿して口を開く。

 

「部活は生徒を集めるためにやるものではないの。残念だけど、思いつきで行動しても何も変わらないわ。だから、貴女達は残りの二年を楽しんでちょうだい。廃校の件は私が必ずなんとかするから」

「絵里ち……」

 

 心配そうな表情で絵里を見つめている希先輩に対して、俺は内心で酷く驚いていた。

 てっきり、穂乃果達をもっときつい言い方で否定するかと思っていたのだが、予想に反して絵里は理性的な対応だった。

 しかも、内容は割と的確で客観的に物事を言っている。実際に穂乃果達も言い返せなくて、悔しそうに俯いていたりしていたし。

 だが、絵里は一つ勘違いをしている。

 

 確かに、絵里が言った通り廃校問題は凄くデリケートだ。絵里が慎重になるのも理解できる。

 でも、今の音ノ木坂に必要なのは保守的な姿勢ではない。穂乃果達のような思いつき……変革なのだ。

 言い方は悪いが、今の音ノ木坂にメリットデメリットを計算するほどの余裕はない。一発逆転に賭けてハイリスクハイリターンにするしかない、と俺は思う。

 

「厳しい事を言ってごめんなさい。貴女達の気持ちはよく伝わったわ。……この学校を好きになってくれてありがとう」

「……失礼しました」

 

 最後にそう締めくくると、ふわりと柔らかく微笑む絵里。

 その花が咲いたような笑みを見て我に返ったのか、穂乃果達はどこか気落ちした様子で部屋を出ていった。

 穂乃果達のフォローは後でするとして、まずは絵里からだな。

 

「お疲れ様」

「ふぅ……ありがとう、朝陽」

「絵里ちどうしたん? なんかいつもよりかっこよかったで」

「もうっ、からかわないでよ」

 

 いつものようにじゃれ合いを始めた絵里達を尻目に、俺は立ち上がって扉の方へと向かっていく。

 その途中で振り返って、頬を薄らと赤く染めている絵里に声を掛ける。

 

「絵里ってスクールアイドルをよく思っていなかったよね? よく我慢できたね」

「そう、ね。正直、最初に言われた時は頭に血が上ったわ。……でも、私の個人的な感情で否定しちゃあの子達に失礼だから」

「なるほど、絵里も成長したって事かな」

「ちょっとそれどういう意味よ!」

 

 不貞腐れたような声を上げる絵里だが、顔が笑っている事から本気にしていないのだろう。

 そんな絵里を希先輩は優しい表情で見つめており、この部屋にどことなくのんびりとした雰囲気が漂いはじめる。

 うん、これなら絵里は大丈夫そうだな。俺が何かをするまでもなかったか。

 

「では私はもう行くよ。仕事の邪魔をしちゃ悪いからね」

「そうね、そろそろ私も仕事の再開をしたいし」

「またいつでも遊びに来てなー」

 

 笑顔で手を振ってくる絵里達に手を振り返しつつ、俺は扉を開けて部屋を出た。

 暫く廊下を歩いていると、思ったより気落ちしていた穂乃果達の姿を思い出して、本当に彼女達の心が折れていないか不安になってしまう。

 

「穂乃果達は大丈夫かな……?」

 

 穂乃果達が落ち込んでいないか心配になりながら、俺は彼女達に連絡するべく携帯を取り出すのだった。

 

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