TS少女のラブライブ!   作:水羊羹

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第十一話 衣装デザイン

「──朝からこれはなんですか?」

「講堂の使用許可をいただきたいと思いまして」

「部活動に関係なく生徒は自由に講堂を使用できると生徒手帳に書いてありましたので」

 

 ため息を漏らしつつ告げた絵里の言葉に、真面目な顔で穂乃果が答え、海未がその内容を補足した。

 そんな二人の様子を尻目に、俺は昨日の事を思い出していた。

 

 

 

 あの後、穂乃果達が心配になり連絡すれば教室にいるとの事だったので、急いでその場所へと向かったのだ。

 そして、教室に入り穂乃果達を見つけたのはいいのだが、俺の予想に反して彼女達は特に堪えたような様子はなかった。

 

『えっと、大丈夫なのかな?』

 

 その事を不思議に思った俺は、自然と要領の得ない問いかけになってしまった。

 そんな風に戸惑っている俺を見て、穂乃果達はお互いの顔を見合わせて苦笑いする。

 

『確かにあの時は少し落ち込みましたが』

『穂乃果ちゃんがね』

『生徒会長が何を言っても、やると決めたからにはやりたい!』

 

 各々がそう言って決意の表情を浮かべていた。

 ああ、なんだ。俺が何をしなくても問題はなかったのか。

 

『なら良かったよ。それで、これからどうするんだい?』

『うん、これからね──』

 

 

 

「──新入生歓迎会の放課後やなあ」

「昨日の今日だからなんとなく予想はつくけれど……一体何をするつもり?」

 

 昨日の事を思い出している内に、どうやら話は進んでいたらしい。

 過去の話はとりあえず置いといて、目の前の事に集中しよう。

 

「それは──」

「ライブです。スクールアイドルを結成したので、その初ライブを講堂でやる事にしたのです」

「ほ、穂乃果!」

 

 絵里の問いに言葉が詰まっている海未に対して、穂乃果は背筋を伸ばして堂々とそう告げた。

 あまりにも穂乃果があっさりと言ってしまったからか、海未は慌てた様子で穂乃果を見ており、ことりは苦笑いを浮かべている。

 うん、まあここまで正直に言われると驚くよな。海未としてはこのまま黙って許可を貰いたかったのだろうが。

 

「あはは、まだライブをできるかどうかわからないよ」

「えぇ!? ライブはやるよ!」

「待ってください! まだステージに立つとは言って──」

「そんな状態でライブをできるの? 見た所、グループ内の意見も纏まっていないようだけど」

「だ、大丈夫です!」

 

 絵里の前でいつものようにじゃれ合いはじめてしまった穂乃果達。

 それを見た絵里が呆れたようにそう尋ねると、穂乃果達は背筋を伸ばし直して何度も頷いていた。

 まあ、絵里からしてみれば穂乃果達の行動は、行き当たりばったりに見えるだろうな。

 そんな事を考えつつ希先輩と手を振りあっていると、そこで何故か絵里は俺の方へと目を向ける。

 

「そちらの朝……雨宮さんはどう思っているのかしら?」

「私、ですか?」

「ええ。先ほどから殆ど意見を言っていないので、貴女の意見を聞かせてください」

 

 そう告げた絵里の口許は、若干笑みを形作っていた。

 長い付き合いだからこそわかるその微妙な変化に、俺はこれが絵里の仕返しだと理解する。

 試しにこちらを見つめる絵里の瞳を見返すと、その目が『希と遊んでいるんじゃない』と言っていたしな。

 はぁ。ちょっとふざけすぎたか。穂乃果達も俺の意見に興味があるのか、固唾を呑んで見守っているし。

 

「そうですね……確かに穂乃果はしっかり予定を建てていないので不安になります」

「うっ!」

「ならやっぱり──」

「でも、穂乃果達なら大丈夫ですよ。必ずライブを実現してくれるはずです」

「朝陽ちゃん……!」

 

 自然と前に出て俺がはっきりと言うと、絵里は不機嫌そうに口をへの字にした。

 そして、背後で嬉しそうな声を上げている穂乃果達をちらりと見た後、絵里は瞳を鋭くして口を開く。

 

「新入生歓迎会は遊びではないのよ。そんな根拠のない事を言われても」

「四人は講堂の使用許可を取りにきたんやろ?」

「希?」

 

 自分の言葉を遮って不思議そうにしている絵里を尻目に、希先輩は席から立ち上がって窓の方へと向かっていく。

 そして、窓の外を見ながら手を後ろで組んだ希先輩は、楽しげに続きの言葉を話す。

 

「部活でもないのに生徒会が内容にとやかく言う権利はないはずや」

「それは……」

 

 希先輩が言った内容に思い当たるふしがあるのか、言葉を濁す絵里。

 そんなどこか煮えきらない絵里の様子を俺が見つめていると、希先輩がこちらを見ている事に気が付く。

 それに俺が反応したのを確認した希先輩は、こちらへとウィンクして小さく手を振る。

 ああ、これは希先輩なりの手助けって事か。昨日は一応感情を抑えていた絵里だけど、やっぱりまだ割り切れていないようだ。

 

「それで、どうするん?」

「……希の言う事は正しいわ。講堂の使用を許可します」

「あ、ありがとうございます! 失礼しました!」

 

 暫く希先輩を睨みつけていた絵里は、ため息を一つ零して頷いた。

 無事に許可を取れた事で穂乃果達は笑顔になっていき、やがて嬉しそうな声を上げて退室していった。

 それに続いて俺も退室するのだが、その前に希先輩に絵里のフォローを頼むとアイコンタクトを送る。

 その目配せに真剣な表情で頷いた希先輩を尻目に、俺は穂乃果達の後を追うべく生徒会室を出るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──ふんふふ〜ん」

 

 楽しげに瞳を細めて、ノートに絵を描いていくことり。

 鼻歌を歌いながら瞬く間にできあがっていく衣装の絵を、机に頬杖をついて俺は見ていた。

 現在、穂乃果と海未はここにはおらず、俺とことりの二人で衣装の相談をしている所だ。

 

「あ、この部分にヒラヒラいれると可愛いと思うよ」

「わっ、本当だ。ありがとう、朝陽ちゃん」

「気づいた事を言っただけさ」

 

 素人ながらに衣装の意見を述べると、ことりは俺の方へと笑顔を向ける。

 それに笑みを返しつつ、いよいよ初ライブが一ヶ月になったという事に、俺はどこか感慨深い気持ちを感じていた。

 物語の記憶は年齢を重ねる事に薄れていっているが、大まかな流れは覚えている……はず。

 俺の記憶が正しければ、穂乃果達の初ライブに観客は殆どいなかったと思う。

 そして、この知識を活かしてできる事は二つある。

 

 一つ目は、物事通りの展開に添う事。

 これのメリットはイレギュラーな事態が起きにくい事と、穂乃果達に挫折を経験させられるという事だ。

 俺の見解では、あのファーストライブがあったからこそ、μ'sはあそこまで成長できたと思う。

 もしあの経験がなかったら、どこかで穂乃果達は折れたのではないか。そう思っているのだ。

 反対にデメリットは、このファーストライブで穂乃果達の心が折れてしまう可能性があるという事だ。

 まあ、正直これはあまり心配していない。穂乃果達がそれぐらいでへこたれるような人じゃないと、長い付き合いがある俺が知っているし。

 

 二つ目は、この知識を活かしてファーストライブを成功させるという事だ。

 これのメリットは、何より穂乃果達を悲しませないという事だろう。

 初ライブで大成功。そしてそのまま廃校阻止のモチベーションに繋がる、という展開にもできる。

 でも、その場合穂乃果達は挫折を知らないという事になってしまう。

 まあ、俺がそんな上から目線で考える事そのものが間違いなのかも知れないけど。

 デメリットは、単純にこの後の展開が変わってしまう事だ。

 ファーストライブ成功したせいで、もしかしたら最悪新たなメンバーが増えないかもしれない。

 そうなると恐らく廃校阻止は望めない……μ'sは九人が揃わなきゃ駄目なのだ。九人いたからこそ、ラブライブで輝けたと俺は思っている。

 

「……ちゃん」

「はぁ……ままならないものだな」

「朝陽ちゃん!」

「わっ!」

 

 二者択一な状況に頭を悩ませていると、ことりが大声を上げている事に気が付いた。

 それに慌てて自然と俯いていた視線を上げれば、どこか不機嫌そうに頬を膨らませていることりの顔が目に入ったのだ。

 

「も〜! さっきから呼んでいるのに朝陽ちゃんが全然反応してくない!」

「す、すまないことり。少し考え事をしていてね」

「……それって、最近朝陽ちゃんが感じている困り事?」

「えっ?」

 

 不意に真面目な顔つきに変わったかと思えば、ノートを閉じたことりがそう尋ねてきた。

 その問いかけに思わず目を見開いている俺を尻目に、ことりは俺の心を見透かすようにのぞき込んでくる。

 

「朝陽ちゃんって昔から偶に遠い目をする時があるよね」

「そんな事ない、と思うよ」

「ううん、してるよ。進級してから遠い目する事も増えたし、何より」

「何より?」

 

 オウム返しで尋ねた俺の言葉に、寂しげに眉尻を下げることり。

 そして、そのままことりは俯き気味に目を伏せながら口を開く。

 

「朝陽ちゃんって、スクールアイドルやるつもりないんでしょ?」

「……え?」

 

 どういう事だ? 俺は穂乃果達と一緒に廃校を阻止するためにスクールアイドルをやりたいと──

 

「私達と一緒に踊る気がないんだよね?」

 

 ──っ!

 

「……どうしてそう思うんだい?」

「最初は気のせいだと思ったの。でも、穂乃果ちゃん達と一緒にスクールアイドルの事を話している内に、段々と確信に変わったんだ」

「確信に?」

「うん。朝陽ちゃん、気づいてる? 私達を羨ましそうに見ている時があるの」

「それ、は……」

 

 ことりに告げられた内容に、俺は頭を殴られたような気持ちになった。

 確かに、俺はことり達と同じ舞台に立てない。μ'sというグループに俺は本来いてはいけない異物だ。少なくとも、俺はそう思っている。

 その事については納得していたつもりだったが、どうやら心のどこかでは納得しきれていなかったらしい。

 だから、無意識にことり達を羨望の目で見ていたのだろう。

 

「私は朝陽ちゃんとも一緒に踊りたいよ」

「……私もことり達と同じ景色を見たいさ」

「でも、それができない理由があるんだよね」

「そう、だね。うん、それだけはどうしてもできない」

 

 そう。それだけはしてはいけない。

 スクールアイドルをしたいとか、ステージで目立ちたいとかそういうのではなく、俺はことり達と……μ'sと同じ景色を見てみたかった。

 ファーストライブでの悲しみ。新たなメンバーと踊れる喜び。自分達の踊りで廃校を阻止できた達成感。そして、ラブライブを優勝した瞬間の気持ち。

 ある程度は一緒の気持ちを味わえるだろう。皆と喜びを分かちあえる事もできるだろう。

 でも、同じ気持ちにだけはなれない。皆と完全に気持ちを一つにする事だけはできない。

 μ'sはあの九人でμ'sなのだ。俺の入る隙間はない。

 

 そんな事を俺が考えていると、ことりは泣きだしそうな表情を浮かべていた。

 

「正直、朝陽ちゃんが何を考えてそういう結論になったのかわからない」

「そうだね。これはきっと誰も共感できないかな」

「……やっぱり折れる気はないんだね」

「うん。すまない、ことり。私は舞台で輝くことり達を影で支える役目に徹しようと思っているよ」

「…………そっか」

 

 そう呟きを漏らした後、ことりはポケットから取り出したハンカチで涙を拭っていく。

 そして、気持ちを切り替えるように一度瞳を閉じたことりは、瞳を開いた次の瞬間にはいつも通りの優しい笑顔に戻っていた。

 ことりに気を遣わせた事に内心で申し訳なく思いつつ、俺は衣装の話をするべくことりのノートを開く。

 

「さあ、早く衣装のデザインを完成させようか」

「……そうだね〜! 海未ちゃんは嫌がりそうだけどね」

「スカートが短いって言ってね」

「あはは、海未ちゃんなら言いそう──」

 

 そうしてことりと雑談をしながらデザインを作っていき、穂乃果達が来るまでには衣装が完成するのだった。

 

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