TS少女のラブライブ!   作:水羊羹

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第二十四話 μ'sの親睦会

「──じゃあ、改めて。真姫ちゃん、凛ちゃん、花陽ちゃん。μ'sへようこそ!」

 

 笑顔で穂乃果が告げると、真姫達は各々が嬉しそうな表情を浮かべた。

 そんな様子を見た穂乃果が一度頷き、手に持つコップを掲げる。

 

「堅苦しい事はなしにして、今日は皆で楽しもう! かんぱーい!」

『かんぱーい!』

 

 穂乃果の号令に併せて、俺達も手に持つコップを掲げた。

 ガラスが当たる音が室内に響き、その音を皮切りに場は騒然としていく。

 穂乃果達二年生組は笑顔で談笑を始め、真姫達一年生組は興味深げに室内を見回す。

 新たに六人となったμ'sの様子を尻目に、俺は今日の記憶を掘り返していくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真姫達がμ'sに加入してから、数日後の事。

 放課後の練習を終えた時、おもむろに穂乃果が真姫達に声を掛けた。

 

「今日、うちに来ない?」

「えっ? 穂乃果さんの家にですか?」

 

 代表して不思議そうな面立ちで尋ねた花陽に、穂乃果は笑顔で頷いて俺達に顔を向ける。

 

「そうそう。花陽ちゃん達がμ'sに加入したから、その歓迎会をやりたいなぁって」

「あ〜、それはいいかも!」

「だよね、ことりちゃん! やっぱり、こういう新規メンバーの歓迎会をするのは当然だよね」

「……穂乃果、本当にそれが本音ですか?」

「や、やだなぁ海未ちゃん。せっかくの後輩に良い所を見せたいなんて、穂乃果はこれっぽっちも思ってないよ?」

 

 視線を泳がせ、海未からの追求を逃れようとする穂乃果。

 対して、海未は呆れたような表情を浮かべてため息をつく。

 まあ、穂乃果の様子からして大まかな事情は察したのだろう。

 もちろん、穂乃果が真姫達と親睦を深めたいと思った事も本当だろうが。

 

「まぁ、いいです。穂乃果にしては珍しく良い提案でしたので、私もそれには賛成です」

「ちょっと、海未ちゃん。珍しくとはどういう意味かな?」

「どうでしょうか? 皆さんの時間が空いているなら、これから歓迎会兼親睦会をするというのは?」

「無視しないでよ海未ちゃーん!」

 

 海未の言葉を聞いて、真姫達はお互いの顔を見合わせた。

 

「朝陽ちゃーん! 海未ちゃんが虐めるー!」

「よしよし、穂乃果は可哀想に」

 

 俺に泣きついてきた穂乃果をあやしながら傍観していると、やがて真姫達は恐る恐るといった様子で口を開く。

 

「私は別に構わないけど」

「その、迷惑じゃないですか?」

「そこは穂乃果の返答次第になるかと……穂乃果、今から貴女の家に上がらせてもらってもいいんですか?」

「えっ? うん、大丈夫だよ! お母さんならきっとわかってくれるって」

「えっと、連絡とかしなくていいのかなぁ?」

「あ、そうだね。一応、お母さんに電話しておこっと」

 

 不安げに尋ねたことりに頷いて俺から離れた穂乃果は、懐から携帯を取り出して耳に当てる。

 そのまま電話でやり取りを始めた穂乃果を尻目に、俺は真姫達の元へ近づいていく。

 

「これは、穂乃果なりに真姫達と仲良くなりたいって考えたんだと思うよ」

「それはなんとなくわかってるわよ」

「うん、私達に気を使ってくれたんですよね? うぅ、ちょっと緊張しちゃうなぁ」

「大丈夫だよ、かよちん! 先輩達は皆いい人だから、きっと凄く楽しいと思うよ!」

「まあ、今回は時間も時間だから軽い親睦会という感じだろうね。その内、休日を使ってちゃんとした歓迎会をやるんじゃないかな?」

 

 真姫達と話していると、どうやら穂乃果は親から無事に許可を貰えたらしい。

 嬉しそうな笑みを浮かべた穂乃果は、俺達を順番に見回して腕を振り上げる。

 

「よーし、じゃあ穂乃果の家でパーティーだ!」

「パーティー楽しみだにゃー!」

「白いご飯があったら嬉しいんだけどなぁ……」

 

 穂乃果に釣られて跳び上がる凛に、期待に満ちた面立ちになる花陽。

 なんていうか、本当に花陽はお米が好きなのだろう。

 現在も、キラキラとした眼差しで空にある茶碗に似た雲を眺めているし。

 まあ、唐突な穂乃果の提案からお米はないと思うが。

 

「とりあえず、私は一度家に戻って準備をしたいのですが」

「ことりも、一回お家に帰りたいなぁって」

「駄目だよ二人共! こう言う時は直ぐに行動するんだよ。ほら、前に海未ちゃんも善は急げとか言ってたじゃん」

「あ、あれは穂乃果が勉強をサボってたからです!」

「いいからいいから! よーし、穂乃果の家にレッツゴー!」

「だ、だから話を──」

「ほ、穂乃果ちゃ──」

 

 海未の言葉にも耳を貸さず、穂乃果は海未とことりの手を取って駆けだす。

 そして、穂乃果は叫び声を上げる海未達を連れ、あっという間にここから去っていった。

 結果、この場に残された形となった俺達は、自然と互いの顔を見合わす。

 

「私達も行こっか」

「……穂乃果さんって、いつもあんな感じなんですか?」

「まあ、思い立ったら吉日を地で行くのが穂乃果だと思うよ」

「苦労しているのね」

 

 同情したような眼差しを送ってくる真姫に対して、俺は苦笑いを返す事しかできなかった。

 苦労していないと言えば嘘になるが、それ以上に穂乃果と過ごすのは楽しい。

 これも、一種のカリスマと言ってもいいだろう。

 まあ、時折行きすぎて海未に叱られるという場面もあるが。

 そんな事を真姫達に話しながら、俺達も穂乃果達の後を追うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──朝陽ちゃーん!」

「ん? どうしたんだい、穂乃果?」

 

 記憶を掘り返していた俺は、穂乃果の掛け声で現在に意識を戻した。

 声の方へと視線を転じていけば、穂乃果が笑顔で割り箸を俺に向けている。

 反射的に受け取った割り箸には『王』という文字が書いており……

 

「はい、じゃあ王様だーれだ?」

「えっと、私みたいだね」

「おおっ、一番目は朝陽ちゃんが王様かー」

 

 どうやら、俺が意識を離している間に王様ゲームをする事になったらしい。

 俺以外は全員割り箸を手に持っており、固唾を呑んだ様子でこちらを見つめている。

 いや、いきなり王様ゲームと言われても状況に付いていけないのだが。

 

「王様ゲームをやる事になった経緯は?」

「あれ、朝陽ちゃん聞いてなかったの? 駄目だよ、人の話はちゃんと聞かないと」

「面目ない。ちょっとボーッとしていたよ」

「今回、私達はお互いの事をよく知るために、何かゲームをしようという話になったんです」

「それで、凛ちゃんが王様ゲームをしようって提案して」

「穂乃果が賛成したって事!」

 

 海未達の説明を聞いて、俺は凛達へと視線を移した。

 凛は笑顔でこちらに手を振っており、花陽は緊張したように俺を凝視している。

 また、真姫は早く命令をしろと視線で圧力を掛けてきてもいる。

 ……とりあえず、理由はわかったからさっさと命令を済ませよう。

 

「では、改めて王様からの命令を告げます。まずは初めだから簡単な命令にするよ」

「ドキドキ……」

「は、早く言いなさいよ!」

「溜めても仕方ないね。では、三番は自己紹介をしてください」

 

 俺の言葉に、皆は手元の割り箸に視線を落として番号を確認していく。

 すると、おずおずといった様子で花陽が手を上げる。

 

「わ、私です」

「おー、花陽ちゃんか。じゃあ、自己紹介お願い!」

「かよちん、頑張って!」

「う、うん。えっと……名前は小泉 花陽と言います。歳は十五で、誕生日は一月十七日、血液型はB型です。好きな食べ物は白いご飯で、好きなものはアイドルですっ! これからよろしくお願いします!」

 

 最後に頭を下げ、花陽は自己紹介を締めくくった。

 対して、笑顔で俺達が拍手をすると、花陽は恥ずかしそうに頬を赤らめていく。

 特に凛は頬を綻ばせ、優しい瞳で花陽を見つめていた。

 

「うんうん、花陽ちゃんらしい良い挨拶だったよ」

「あ、ありがとうございます穂乃果さん」

「よし、では皆から割り箸を回収して……はい、割り箸を取って」

 

 皆が割り箸を取ったのを確認した後、穂乃果はにやけた笑みを浮かべる。

 

「穂乃果、顔に出ていますよ」

「あ、わかっちゃった? じゃあ行くよ、王様だーれだ?」

『王様だーれだ?』

「はいはい! 王様は穂乃果でーす!」

「そりゃあ、あんなにニヤニヤしてたら誰でもわかるわよ」

「あはは……」

 

 呆れたように呟く真姫に、ことりは苦笑いを零した。

 対して、そんな真姫達の様子を全く気にしていないのか、穂乃果はにやけた笑みのまま俺達をゆっくりと見回していく。

 

「さてさて、何を命令しちゃおっかなぁ?」

「穂乃果、あまり過激なのは駄目ですよ。これは、あくまでも親睦会なんですから」

「わかってるよ、海未ちゃん。……あ、そうだ」

 

 海未に(たしな)められた穂乃果は、不意に何かを思いついたのか。

 おもむろに、海未へとジーッとした視線を送りはじめる。

 唐突なその行動に警戒心を滲ませる海未を尻目に、穂乃果は何かを確かめるように呟きを落としていく。

 

「一」

「な、なんですか?」

「二」

「穂乃果?」

「三」

「ですから、先ほどから穂乃果は何を──」

「四」

「──言っているんでしゅか?」

 

 この瞬間、俺達は誰に言われずとも心を一つにしていた。

 

 ──ああ、海未の番号は四番に違いない、と。

 

 時が凍り、辺りになんとも言えない微妙な空気が漂いだす。

 俺達が揃って生暖かい瞳で海未を見つめていると、海未はその視線を敏感に感じ取ったのだろうか。

 顔色を真っ赤に染め上げた海未は、穂乃果からついっと目を逸らす。

 

「じゃあ、命令をしようかな」

「ま、待ってください! 不正です、今のは不正です!」

「えー、穂乃果はただ順番に数字を言っただけだよ?」

「それが不正なんです!」

 

 穂乃果に指を突きつけ、いきり立つ海未。

 ともすれば、海未の姿は犯人を追いつめた探偵役に見えるだろう。

 しかし、探偵(海未)に弾劾された本人である犯人(穂乃果)は、表情に不敵な笑みを張りつける。

 

「ふっふっふー。穂乃果は一言も海未ちゃんに番号を尋ねていないんだよ? 穂乃果が思っている番号は、実は海未ちゃんのとは違うかもしれないじゃん」

「で、ですが」

「あれれー? もしかして、海未ちゃんは自信がないのかなー? 穂乃果に当てられるのが、怖いのかなー?」

「くっ……」

 

 腹立たしい笑顔をしている穂乃果に、海未は肩を震わせて拳を掲げる。

 だが、暫くして海未は落ち着いてきたのか、ため息を一つ漏らして頷く。

 

「いいでしょう。そこまで言うのなら、穂乃果の挑戦を受けて立ちます!」

 

 キリリと瞳の力が増し、威厳に満ちた表情を浮かべた海未。

 その様子は、まるで戦場に赴く戦士のような面立ちであった。

 

「じゃあ、行くよ?」

「いつでも構いません」

「──四番、今までで一番恥ずかしいエピソードを暴露する」

「……今、なんと?」

 

 穂乃果に告げられた意味を、脳が処理してくれなかったのだろう。

 呆然とした声を上げた海未に、穂乃果は悪役が如く微笑み、

 

「四番さんに、覚えている中で一番恥ずかしいエピソードを話してほしいなって」

「だ、誰ですか四番は!? ……私でした」

「王様の命令は?」

「絶対、です」

「ふっふっふー。日頃から穂乃果に勉強を強要する仕返しだよ! これに懲りたら、もう少し穂乃果の勉強時間を減らすんだね! ……本当に、もう二十四時間監視で勉強するのは嫌だよ」

 

 瞳に絶望の色を宿し、崩れ落ちる海未。

 対して、海未へと高笑いを響かせていた穂乃果だったが、不意に瞳を空虚にして涙を一粒落とした。

 そんな二人の様子を静観していた俺達は、揃って呆れた表情を浮かべてしまう。

 

「なに、この茶番?」

「しっ! そういう事を言ったら駄目だよ、真姫」

「海未先輩があそこまでなるエピソードってなんだろう。ちょっと、気になるかも」

「でも、嫌な思い出を聞くのはいけない事だよ?」

「海未ちゃんの場合は、なんとなく予想がつくけどね〜」

 

 俺達が身を寄せあって囁いている間にも、穂乃果達の状況は変化していったらしい。

 いつの間にか立ち直ったようで、海未は決然した表情を浮かべ、俺達を見回す。

 

「無念ですが、王様の命令は絶対です」

「む、無理して言わなくてもいいんですよ?」

「いいんです、花陽。これも、勝負に負けた私の責任です。……私が、生涯で最も恥ずかしいと考えているエピソードは」

 

 何故かそこで言葉を区切り、海未は口篭った。

 俺達は自然と海未の様子を注意深く見守り、辺りには重苦しい沈黙が漂いだす。

 

「エピソードは?」

「エ、エピソードは……うぅ、やはり恥ずかしすぎて言えません!」

 

 そう叫ぶと、海未は部屋の隅に走っていき、そのまま座り込んでしまった。

 こちらに背を向けているので、海未の表情はここからだと窺えない。

 しかし、海未から醸しだされる雰囲気から、凄い羞恥心を覚えている事がわかる。

 そんな海未の様子を見たからだろうか。

 穂乃果は仕方ないなぁ、というようなため息を漏らして口を開く。

 

「流石にやり過ぎたよ。だから、命令を変えるよ」

「……本当ですか?」

「うん。皆で仲良くやるのが王様ゲームだからね!」

「穂乃果っ!」

 

 ぱあっと子供のような笑顔になった海未を見て、穂乃果も笑みを落として頷いた。

 そんな二人の様子を眺めて、真姫が呟きを一つ。

 

「……今のって、落としてから上げる人の心理に漬け込む手法よね」

『……』

 

 戦慄した様子で告げた真姫の言葉に、俺達は返す言葉を見つけられなかった。

 幸いなのは、穂乃果がこれを天然でやっている事だろうか。

 いや、どちらにしても穂乃果が恐るべきなのは変わらないが。

 

 ともかく、それからは終始和やかに王様ゲームは進んでいき、互いに俺達は仲を深める事に成功するのだった。

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