TS少女のラブライブ!   作:水羊羹

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第二十七話 盗賊にこにー

 矢澤先輩襲来から、少し経ち。

 現在、俺達は音ノ木坂の近くにあるファーストフード店で、矢澤先輩に言われた内容を議論していた。

 外は雨が降っており、今日は練習ができなかったからちょうどいい、という話になったのだ。

 

 ポテトを摘みながら、穂乃果は海未達を見回していく。

 

「どうして、にこ先輩はμ'sを解散しろって言ったのかな?」

「詳しくはわかりませんが、あの人からは並々ならない熱意を感じました」

「アイドルに拘りがあるって事なのかなぁ?」

 

 やはりことりが告げた内容に、全員が行き着いたらしい。

 あそこまでアイドルを特別な目で見ているのなら、矢澤先輩はそれほどアイドルが好きなのだろう、と。

 そんな結論に至った俺達は、自然と花陽に視線を集める。

 μ's全員から注目され、花陽はおっかなびっくりな様子で頷く。

 

「そ、その。にこ先輩は、凄くアイドルが好きなんだと思います。だから、私達の活動が気に食わなかったんじゃないかなって」

「別に、あの先輩の言葉に従う必要はないんだけど」

「そうだよ! あんな変な格好しているんだから、言っている事はデタラメに決まってるにゃ!」

 

 凛が頬を膨らませてそう告げた瞬間、俺の右側から物音が聴こえてきた。

 だが、どうやら今の音は俺にしか聴こえなかったようで、皆はこちらの方には注意を払っていない。

 

 にしても、右にいる人の帽子はどうなっているのだろうか。

 人数の関係上、俺だけμ'sとは仕切りを挟んだ反対側に座り、仕切りの上に顔を乗せる形で話し合いに参加しているのだが……

 

「な、なによ。言いたい事があるのなら聞くけど」

 

 それで、改めて俺の向かい側の席にいる人の格好が酷い。

 頭にはピンク色のソフトクリームのような帽子を被っていて、凄い奇抜な白服を身にまとい、おまけにサングラスもしている。

 ……いや、この人が誰かはわかっている。

 ただ、それを認めなくなかったと言うべきか、前の人の知り合いだと思われたくなかったと言うべきか。

 

「……いえ。奇遇ですね、矢澤先輩。こんな所で会うなんて」

「ほ、本当にね。まあ、あんたはにこの美貌に釣られてここまで追いかけてきた──」

「なにあの帽子、だっさーい!」

「──ぬぁんですって!」

「ひぃっ!」

 

 サングラスを外してあざとい笑みを浮かべた矢澤先輩だったが、見知らぬ少年に指を差され、口許をへの字に変えた。

 そして、矢澤先輩はギロリと言うほど鋭い眼光で少年を睨み、彼を追い払う。

 

「今の子供、泣きそうでしたよ?」

「その、この変装を馬鹿にされたからつい」

「……大人げない」

「なんか言った?」

「いえ、何も」

 

 ジト目で見つめてくる矢澤先輩から目を逸らし、穂乃果達の会話へと耳を傾けていく。

 

「それで、私達はあの先輩に対してどう対処するんですか?」

「適当にあしらっておけばいいんじゃない?」

「そ、それは駄目だよぉ」

「うーん、ことりはこれからもあの人に見てもらいたいかなぁ」

「凛は反対! きっと、また変な事を言って凛達に解散しろって言うに決まってる!」

「変な事ってなによ、変な事って」

 

 凛の言葉に、矢澤先輩は小声で不機嫌そうに呟いた。

 矢澤先輩の場合、その格好のせいで凛達に警戒されていると思うのだが。

 せめて、変装しないで普通に指摘してくれれば、もう少し真面目に矢澤先輩の言葉を凛達も捉えると思う。

 ……そもそも、わざわざ屋上で会うのに変装する必要はあったのか?

 うん、その辺は矢澤先輩だから気にしないでおこう。

 

「穂乃果はどう思いますか?」

「そうだなぁ……よし! にこ先輩にはμ'sに入ってもらおう!」

『えぇっ!?』

「は、はぁっ? なんでそうな──むぐっ!」

「はいはーい、抑えてくださいね矢澤先輩。叫ぶと穂乃果達に気づかれますけど、それでもいいんですか?」

 

 身を乗り出して矢澤先輩の口許を抑え、そう囁いた。

 すると、矢澤先輩は目で俺に礼を告げた後、ゆっくりと頷く。

 もう大丈夫だと思って俺が手を離すと、矢澤先輩は疲れた様子でため息を漏らす。

 

「助かったわ」

「まあ、こうなる事は予想していたんで」

「……あんたの入れ知恵?」

「違いますよ。穂乃果が自分で出した結論です」

 

 俺が矢澤先輩と話している間に、向こうも一頻り騒ぎおえたらしい。

 代表して、怪訝そうな顔つきの海未が穂乃果に声を掛ける。

 

「その、穂乃果。正気ですか?」

「あの先輩がまともだとは思えないんだけど」

「私は賛成です!」

「私は保留かな〜」

「うーんうーん、かよちんがいい人って言うなら、実は本当にいい人なのかも」

 

 比較的常識的な思考を持つ海未達が難色を示し、花陽は笑顔で肯定の意を示す。

 対して、ことりは困惑気味に眉を寄せて中立的な意見を述べ、凛は花陽の見る目を信じているのか悩んでいる様子だ。

 そんなμ'sの意見を一通り聞いた矢澤先輩は、なんとも形容しがたい表情を浮かべていた。

 

「にこって、そんなに変な先輩なのかしら」

「恐らく、その格好が問題なのかと」

「アイドルとして当然の身だしなみなんだけど」

 

 それは、矢澤先輩の心の中だけだと思う。

 ツッコミたい衝動を抑えつつ、俺はひっそりと穂乃果達の様子を窺う。

 

「朝陽ちゃんはどう思う?」

「ん? 私はあの人にはμ'sに加入してほしいね」

「だよねー! やっぱり朝陽ちゃんはわかってるー!」

「朝陽も穂乃果の意見に賛成なのですか?」

「うん。μ'sにあの人は絶対に必要だと思うから」

 

 俺がそう告げると、矢澤先輩が机に額を押しつけた。

 その際、辺りに小さな音が響いたのだが、どうやら穂乃果達は気にしていないらしい。

 再び矢澤先輩の加入の可否について議論しだした穂乃果達を尻目に、俺はポテトを摘みながら口を開く。

 

「矢澤先輩?」

「……あによ」

「矢澤先輩は、皆に必要とされているんですよ?」

「反対してる人がいるじゃない」

「あれは、矢澤先輩の人となりを知らないからですよ。しっかり矢澤先輩と会話をすれば、海未達もμ'sに貴女が加入してほしいと考えるはずです」

 

 机に寝そべったまま、顔だけを上げてジト目を向けてくる矢澤先輩。

 暫く矢澤先輩と目を合わせていると、やがて彼女は不機嫌そうな様子で姿勢を正す。

 そして、一転して表情にニヤリとした笑みを張りつけた矢澤先輩は、素早い動作で右腕を伸ばし、仕切り越しに穂乃果のポテトを掠めとっていく。

 

「スーパーアイドルのにこを勧誘するなんて、生意気なのよ」

「その割には嬉しそうでしたけど」

「むぐっ!」

 

 俺の言葉を聞いて、どうやら矢澤先輩は喉にポテトを詰まらせたようだ。

 慌てて矢澤先輩はジュースを手に取り、それを勢いよく口に含んでいく。

 

「って事で、μ'sににこ先輩を勧誘する事を決定しまーす!」

「新しいメンバーですね!」

「さっきから、かよちんのテンションが高いにゃ」

「まあ、お試し期間として考えればいいのかしらね」

「いやー、安心したらお腹が減ってきちゃったよ」

「安心するのはまだ早いですよ、穂乃果。にこ先輩の勧誘だけではなく、雨天時に練習する場所など、決めなければいけない事が多いんですよ?」

「わ、わかってるよぉ。その前に塩分を補給しようとしただけ……ああっ!」

 

 ニコニコしていた穂乃果は、自分のポテトがなくなっている事に気が付き、愕然とした声を上げた。

 そんな穂乃果の声を聞いて、海未は呆れたようにため息をつく。

 

「頭の働きに良いのは、塩分ではなく糖分ですよ。それで、今度は何をやらかしたのですか?」

「やらかしたって、海未ちゃんが穂乃果のポテトを食べたんでしょ! 食べたいなら一言ぐらい言えばいいのに、海未ちゃんの食いしん坊!」

「ちょ、ちょっと待ってください! 私は穂乃果のポテトを食べていませんよ! 自分で食べたのを忘れていたんじゃないですか?」

「いくら穂乃果でも、どれぐらいポテトが残ってたか覚えてるよ!」

 

 頬を膨らませている穂乃果に、彼女に胡乱気な眼差しを送っている海未。

 そんな穂乃果達のいがみ合いなど気にする様子を全く見せず、ことりは凛へと声を掛ける。

 

「ねぇ、凛ちゃん。次の衣装の時、モデルをして欲しいんだけど、いいかな?」

「えぇっ!? 無理です、凛にモデルはできませんよ! 凛より真姫ちゃんやかよちんの方がモデルに相応しいと思います」

「ゔぇぇっ!? ど、どうしてそこで私の名前が出てくるのよ」

 

 突然凛に水を向けられた真姫は、いつもの声を上げて頬を赤らめた。

 そんな真姫の様子に、凛は指をモジモジさせながら口を開く。

 

「だって、真姫ちゃんってスタイルいいし」

「うーん、じゃあ凛ちゃん達三人に頼もうかな。それなら、凛ちゃんもモデルをしやすいでしょ?」

「で、でもやっぱり……」

「はむっ。ハンバーガーも美味しいけど、白いご飯が食べたいなぁ」

 

 モデルの提案は、ことりなりの交流の仕方なのだろう。

 自分が好きな衣装を通して、後輩と仲良くなりたい。

 そんな気遣いを、ことりから感じた。

 ……にしても、ことり達のやり取りを気にしないで、ハンバーガーを食べる事に集中している花陽はなんというか、大物だな。

 

「ふーん、いいもーんだ。このハンバーガーを食べた後に、またポテトを買うんだもん」

「穂乃果、食べすぎると太りますよ」

「大丈夫だもん! よし、そうと決まれば早速ハンバーガーを──」

 

 一通り海未に話して満足したのか、穂乃果は再びニコニコしながらハンバーガーへと手を伸ばす。

 しかし、目の前でハンバーガーを奪われる場面を見てしまい、笑顔のまま穂乃果の表情が凍りついた。

 当然、海未もその現場を目にしており、目を丸くしてこちらの方を凝視している。

 

「やっぱり、手軽なハンバーガーはいいわね」

「それ、犯罪ですよ」

「うぐっ……」

 

 穂乃果のハンバーガーを食べている矢澤先輩にそう告げれば、彼女は気まずげに俺から逸らし、穂乃果へと視線を転じた。

 すると、涙目で自分を見つめている穂乃果と目が合い、矢澤先輩はバツが悪そうに財布から五百円玉を取り出し、穂乃果のトレイの上に置く。

 

「穂乃果のハンバーガーを返してぇ!」

「そ、そのお金で弁償するわ。じゃ、そういう事で」

「あ、待ってよ!」

「にこはあんた達を認めないから!」

 

 呼び止める穂乃果の声を無視して、矢澤先輩は華麗な動きでこの場を去っていった。

 矢澤先輩がいなくなった事で辺りに微妙な空気が漂いはじめ、穂乃果は五百円玉を手に取って俺達に顔を向ける。

 

「今のって、にこ先輩だよね?」

「だと思いますよ……ところで、朝陽。にこ先輩の前にいたという事は、当然貴女は知っていましたよね?」

「まあ、そうだね。彼女は私達が来る前からここにいたよ」

「じゃ、じゃあ穂乃果のハンバーガーが盗られる所も見てたの!?」

「いや、ハンバーガーの時は目を離していたから、穂乃果のが盗まれていた事は知らなかった」

 

 ポテトの方は黙認していたが。

 穂乃果はその言葉を素直に信じたようだが、海未は俺に疑わしげな眼差しを送っている。

 対して、俺は海未の視線に笑みを返し、彼女と無言の応酬を交わしていく。

 

「あれ? どうして穂乃果ちゃんは立ってるの?」

「凛達との話はついたのかな?」

「うん、凛ちゃん達と一緒に衣装を作る事にしたんだ〜」

「ことり先輩に押し切られちゃったにゃ……」

「私も巻き添いを食らったわ」

 

 ことり達の方も話が一段落して良かった。

 不思議そうな面立ちでこちらを見ていたことり達に、穂乃果は先ほどまで矢澤先輩がここにいた事を話していく。

 すると、ことり達は各々が大層驚いた様子を見せる。

 

「そうだったんだ。全然気づかなかったよ」

「話に集中していたし、無理はないと思うよ。それより、話を再開しようか?」

「話って?」

「うん? 雨の時でも練習できる場所を考えるんじゃなかった?」

「……あっ!」

 

 首を傾げていた穂乃果にそう尋ねてから数瞬後、彼女ははっとしたような表情を浮かべ、ポンと掌を叩いた。

 明らかに忘れていたと言外に示すその様子を見て、真姫は呆れた様子でため息を漏らす。

 

「大丈夫なのかしら、このグループ」

「えへへ、ごめんごめん。それで、練習場所はどこがいいかな?」

「普通に考えれば、体育館がベストなんですが」

「他の部活が使ってるからね〜」

「うーん、校庭?」

「それだと雨の時は使えないよ、凛ちゃん」

 

 各々が自分の意見を述べていき、議論は白熱していく。

 しかし、様々な意見が出されたが、全員が納得できるような意見はなかった。

 深刻そうな素振りで穂乃果達が考え込んでいると、やがて真姫がポツリと言葉を落とす。

 

「そもそも、雨天時の練習場所って応急処置のようなものでしょ? だったら、先生に教室を借りれば問題ないんじゃないかしら?」

「それなんだけど、前に穂乃果達も先生に頼んでみたんだ」

「でも、ちゃんとした部活じゃないと教室を貸せないって言われちゃって」

「残念ですが、部員が五人以下の私達はいまだに正式な部と認めて……もらって……いない……」

 

 言葉の途中で、海未は弾けるように顔を上げた。

 海未の言葉で真姫も思い至ったのか、素早い仕草でμ'sの面々に目を走らせる。

 

「ねぇ凛、花陽」

「ど、どうしたの真姫ちゃん?」

「私達って、今何人いるかわかる?」

「えっ?」

「真姫ちゃんは数も数えられないの? しょうがないから、凛が真姫ちゃんの代わりに数えてあげるね!」

 

 真姫に朗らかな笑顔を向けた凛は、順番に俺達を指し示していく。

 

「かよちんに真姫ちゃん、ことり先輩に穂乃果先輩に海未先輩、それに朝陽先輩に凛の七人だよ!」

「やっぱりそうよね……ことり先輩。部が認められるのは、何人からですか?」

「五人からだよ、真姫ちゃん」

「海未先輩。私達は何人いますか?」

「七人、ですね」

 

 海未の言葉に重々しく頷き、ゆっくりと穂乃果の方に顔を向ける真姫。

 対して、冷や汗を流して俺達から目を逸らしている穂乃果。

 そんな穂乃果の様子を見て、真姫は呆れと諦観が篭った表情を浮かべる。

 

「穂乃果先輩。部活申請の紙を提出しましたか?」

「ご、ごめーん! すっかり忘れてた……本当にごめんなさい!」

「あ、部活申請書なら私が作っておいたよ」

『えっ?』

 

 手を合わせて謝罪する穂乃果を遮り、手を上げて俺がそう告げると、この場にいる全員の視線がこちらに集まる。

 複数の視線に晒されて思わずたじろぎそうになるが、なんとか態勢を直してから口を開く。

 

「いや、穂乃果の事だから提出していないかなって思ってね。今日ここへと来る前に、先生に確認をしてきたんだ。すると案の定、まだ提出されていなかったから、とりあえず提出用の紙だけは作っておいたのさ」

「どうしてその時に提出しなかったんですか?」

「いや、こういうのはリーダーの穂乃果が提出するものだと思って」

 

 まあ、本当は矢澤先輩のアイドル研究部と被ってしまうから、部活申請が受理されないのを知っていたからだが。

 しかし、穂乃果達はその事をまだ知らないので、それらしい言い訳を告げたという理由だ。

 

「とりあえず、これで練習場所は解決したって事でいいのよね?」

「そうだね! 明日、皆で提出しに行こう!」

 

 そう締めくくった穂乃果の言葉で、俺達の練習場所問題の議論は幕を閉じるのだった。

 

 

 

 

 

「はぁー、安心したらお腹空いちゃったよ」

「駄目です。これ以上の飲食は私が許しません!」

「う、海未ちゃん酷いよぉ。どうしても、駄目?」

「駄目です!」

「うぅ……」

 

 ……そろそろ、穂乃果にダイエットするように仕向けた方が良いのかもしれない。

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