それではよろしくお願いします。
「偶然でも運命でも宿命でも…………現実にこうしていれるから、私は幸せです」
「…………ああ」
月がぼんやりと浮かんでいた。
星が穏やかに輝いていた。
「お兄ちゃん、こっちこっち!」
「へいへい」
我が最愛の妹、小町に手を引かれ、よたよたと歩く。「東京わんにゃんショー」が開催されている幕張メッセは、今年も大盛況である。動物大好きなので、テンションはあがるが、人ごみが辛くて疲れてしまう。
ふれあいコーナーで、子猫を抱きあげた小町は、幸せそうな声をあげ、優しく戯れ始めた。
「わぁ~、可愛い~♪」
「…………」
俺も軽く子猫を撫でる。猫の扱いは割と心得ているつもりだ。人との接し方は落第点だが。どうやら神様は能力値をそれなりに振り分けてはくれるらしい。ただ少しイタズラ好きなだけで。
先日の由比ヶ浜の件もあり、浮かない気分もあるが、やはり動物と触れ合うのは心が和む。将来はアニマルセラピーの被験体になる所存であります。
「ニャー」
足元に別の猫がきた。
「…………」
右前方から視線を感じ、目を向けると、女の子がこちらを、というか猫を切なそうに見ている。何やら奪ってしまったみたいで申し訳ない。ステルスヒッキーも動物には効果が薄い。
ひとまず気にせずに、少し離れた所にいる小町を見ながら、猫を撫でていると、また猫がやってきた。
「あっ…………」
さっきと同じ方角から声がして、まさかと思い、目を向けると、女の子がさっきと同じ状態になっていた。
「…………」
「…………」
今度は一瞬だけ目が合う。
…………なんか気まずい。
とりあえず出ようと思い、女の子の近くに猫をさり気なく、そっと、意識する事なく置いて、コーナーを出た。
「可愛い♪」
見ず知らずの女の子の甘い歓喜の声を聞きながら、別のコーナーへと足を運ぶ。べ、別に意識なんかしてないんだからね!
「かーくんも可愛いけど、やっぱり子猫も可愛い~♪」
フードコートで小町と食事しながら、だらだらと可愛いを連呼するだけの、他愛ない会話をしていると、さっき見た女の子が斜向かいの席に座った。
再び目が合う。
「…………」
「…………」
さっきより長い分、気まずい思いをさせてしまったかもしれない。もう二度と見ない。
あれこれしている内に、あっという間に時間は過ぎ、夕暮れに染まる道を小町と並んで歩く。
「あ~、楽しかった♪」
「そだな」
「そういや、お兄ちゃん!」
小町がからかうような視線を向けてきた。
「どした?」
「フードコートで可愛い女の子に見とれてたでしょ?」
「…………ちげーよ」
もう顔なんてほとんど忘れたし。
「やっぱりお隣さんの犬触ってるから、匂いついてるのかな~」
きっとそうだ。
あんなに目が怖い人にも懐いてたし。
いや、でも優しいのかな。猫、こっちに置いていったし…………。
読んでくれた方々、ありがとうございます!