捻くれた少年としっかり者の少女   作:ローリング・ビートル

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旅人

 

「お兄ちゃん。そういうのは、家で二人っきりのときにしてよね」

「二人っきりの時はいいんだ」

 小町の言葉に高坂が苦笑いをする。そんなに変な事なのだろうか。

「むぅ、小町ちゃんがタイプか」

「…………」

 絢瀬と高坂は何やら思案顔でこちらを見ている。

「どした?」

「比企谷さん!」

 一転して、無邪気な笑顔を見せた絢瀬がテーブルに両手をつき、顔を近づけてくる。思わず後退ろうとするが、生憎そんなスペースはない。幼さを残しながらも整った顔立ちが目の前にある。それと、甘い香りが漂ってくる。落ち着けハチマン。相手は小町と同い年だ。

「亜里沙、お行儀悪いよ」

 それを高坂が嗜める。そうだお行儀悪いぞ。あと俺の心臓に悪い。

 だが絢瀬は聞いておらず、話を続ける。

「連絡先交換しましょう!」

「えっ」

「あ、ああ…………」

 隣の高坂の驚いたような声の後に頷きを返す。小町も高坂姉も意外そうな顔をしている。

「じゃあ、ほら」

 携帯を絢瀬に差し出す。

 それを受け取った絢瀬は、あまり慣れていない手つきで、電話番号やら何やらを登録していく。

「思わぬ伏兵が…………これはもしかして…………」

 小町が顎に手を当て、ぽそぽそと何かを呟いているのを見ながら、俺は頭の中で非モテ三原則を何度も復唱した。

 

 亜里沙…………。

 親友の意外すぎる行動のはやさに、私はただただ呆気にとられていた。

 お兄さんの事…………好きになっちゃったのかな?

 不意に夢で見た景色を思い出す。

 何か釈然としない。

 

「お兄さん」

 隣の高坂が肩をポンポン叩いてくる。

「あの…………私もいいですか?」

「お、ああ…………」

「雪穂、交換してなかったの?」

「…………うん」

「あ、比企谷さん。終わりました!」

「おう」

 そして、絢瀬から戻ってきた携帯を高坂に渡す。

「さっきから思ってたんですけど、よく携帯渡せますね…………」

「まあ、見られて困るもんはないからな」

 高坂は慣れた手つきで、手早く登録を済ませる。

「お、お、お兄ちゃんの携帯の電話帳に女の子が二人分増えた…………」

 いや、もう既に由比ヶ浜と平塚先生の番号が登録されているからね。…………いかんいかん平塚先生をうっかり女の子に分類しちゃったぜ。これは由々しき事態。ついつい俺がもらってしまいそうだ。

「はい、お返しします」

 ずいっと携帯を返される。…………どこか不機嫌な気がするのは気のせいでしょうか。

 

「ねえねえ、これってどういう雰囲気なの?」

「穂乃果ちゃん。これは女の戦いが始まる瞬間だよ」

 端っこで小町と高坂姉がヒソヒソ話をしている。はっきり言って、まともな内容じゃないだろう。

 






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