しばらくすると、花火は定刻通りに上がり始め、皆一様に夜空を見上げていた。
ぱあっと夜空を照らす花火は、儚げに消えていき、誰もがそこに一瞬と永遠を見た。
「わあ……綺麗……」
雪穂はそのぱっちりした目をうっとり細め、花火の輝きをその瞳に移していた。
「ふふっ、どうしたんですか?」
いつの間にか凝視してしまっていたのか、雪穂がこちらに気づき、困ったような笑みを向けてきた。
「いや、何でもない……」
「何でもないなんて言う奴が、何でもなかったことがないとか、八幡さんなら言いそうですけど」
「ぐっ……」
「もしかして、私に見とれてました?」
悪戯っぽい笑みを向けられる。しかし、花火に照らされ、その頬がほんのり赤いことに気づく。
自分で言っといて照れるなら、言わなきゃいいのに。
とはいえ、至近距離でそんなことを言われてしまっては、こちらも落ち着いてはいられない。
「い、いや、別に……」
「じゃあ、私には興味ないですか?」
再び手首をぎゅっと掴まれ、鼓動が高鳴り、彼女から目が逸らせなくなる。
中学時代なら間違いなくこのタイミングで告白してしまっていただろう。今、場の空気に流されまいと、全力で心を押さえつけている自分に敬意を表したい。
そんな俺の様子を見た雪穂は、クスッと顔を綻ばせた。
「わかってますよ。八幡さんがお祭りの空気に当てられて、そういう事する人じゃないって」
「……そっか」
「いきなり私にキスしてくるような人なら、亜理沙も二人きりにしないでしょうし」
「ああ。俺が並の思春期男子なら、今頃……って何言わそうとしてんだよ」
「ふふっ、自分から言ったんじゃないですか。ほら、花火観ないともったいないですよ」
「そうだな」
それから、俺達は無言のまま花火を見つめた。
手首はしっかり掴まれたままだった。
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「雪穂~!八幡さ~ん!どこ行ってたの~?」
「「白々しい……」」
「そ、そんなことないよ!ね、小町ちゃん!」
「うんうん!そうだよ、亜理沙ちゃん!」
「μ'sの皆さんは?」
「途中で別れたよ。……お姉ちゃんもいるし」
「?」
「あ、こっちの話だよ!それより、どうだった?」
「え?花火は綺麗だったよ」
「お兄ちゃん、どうだった!?」
「まあ、雨が降らなくてよかったな」
「「…………」」
二人からジト目を向けられるが、花火が綺麗だった以外の感想などない。いや、この二人の言わんとすることはわかるのだが……現状、特に何かあったわけでもない。
ふと雪穂と視線がぶつかる。
すると、どちらからともなく苦笑いしてしまう。
「……そろそろ帰るか」
「ええ、そうですね」