或いはこんなテンプレ   作:ひーまじん

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小さな一歩

「っつー……ん?ここは……」

 

目が醒めると知らない天井を見ていた。

 

天井を見ているって事は、自分は横になっているんだろうという事に気づき、それを更に考えた時に気付いた。

 

ああ……そういえば、俺生徒会長に負けたんだな。

 

あれは見事な裏投げだった。こっちは完璧に勝ったと思ったものだから、受け身をとろうとも思わなかったし、そもそもあれだけ完璧に決められていたらどうしようも無い。それだけあの生徒会長は強かったって事だ。油断している初手で決められなかった時点で、敗北は決定事項だったわけだ。

 

はぁ……これでお願いは無しか。元々一縷の望みに等しかったが、やっぱり駄目だと凹むなぁ。

 

「はぁい。お目覚めかなー?()くん」

 

そして、ちょうど俺がベッドから体を起こした時、扉を開けて、生徒会長が入ってきた。うわっ、タイミング良すぎだ。

 

っていうかーー。

 

「生徒会長。今名前で呼びませんでした?」

 

「ええ。何か問題でも?」

 

「問題は……別にありませんけど」

 

「ならいいじゃない」

 

いいことにはいいんだが……何故だろう。この人に名前で呼ばれると何か引っかかりを覚える。違和感、というほどでもない。ただ、妙な感覚がする。

 

「正直思ったよりも強くてびっくりしたわ。体も頑丈みたいだし、ISはともかく、生身の方は織斑くんと違って問題はなさそうね」

 

その妙な感覚を確かめる間も無く、生徒会長がかけてきた言葉を俺は肯定する。

 

「まぁ、鍛えてますんで」

 

しかし、負けた手前、あまり威張れた話ではない。

 

ついでに言うと、この人はこの人で鍛えすぎだと思う。俺が素人ならまだしも多少なり武道の心得がある人間をあれだけホイホイと投げ飛ばせるなんて、余程の実力の持ち主に違いない。

 

「私も君が無事で安心したわ。これで大怪我させたら、退学どころか刑務所送りだもの」

 

「そこまではいかない……とも言い切れませんよね」

 

「ええ。特に私は家業の事もあるし」

 

「家業……ひょっとして極道か何かですか?」

 

だとしたら、割とぴったりな気がする。人を手玉にとって遊ぶ感じとか特に。

 

「やんっ。そんな怖い職業じゃないわよ。ちょーっと、秘密のお仕事してるだけ♪」

 

パチン、とウインクをしてくる生徒会長。いや、その秘密のお仕事っていう響きも相当怖いものがあるんですけど。

 

まぁ、その秘密のお仕事をする家業のお蔭で生徒会長は強いのか。成る程、やっぱり怖いじゃないか。強くないと出来ないって事になるわけだし。

 

「こほん。ところで禊くん」

 

「はい?」

 

「その……君がしてるネックレスの事なんだけど……」

 

生徒会長にしては妙に端切れが悪そうだが……ネックレスがどうかしたのだろうか。

 

「これがどうかしたんですか?」

 

「うぇっ!?え、えーと、どうもしなくはないというか、ほんの少しだけ気になる事があるというか……」

 

「?」

 

なんでこの人はここまで焦ってるんだ?それに最後の方はぽしょぽしょ言って何を言ってるのかさっぱり聞こえなかったし。

 

「それって誰から貰ったの?」

 

「道場で言った約束をした子からですね」

 

意を決したようにいう生徒会長に俺はそう答えた。

 

「まぁ、顔も名前も覚えちゃいないし、あっちも忘れてるんでしょうけど」

 

「っ……そうかもしれないわね。けどね、女の子って思い出は大切にするものなのよ?」

 

「はぁ。そういうもんなんですかね」

 

「そういうものよ」

 

俺は女じゃないからよくわからないけど。それなら、案外あっちも俺の事を覚えてくれているのかもしれないな。

 

「それで……ね。その約束のーー」

 

「ーーおーい、大丈夫かー。禊」

 

「馬鹿者……!保健室で大声を出す奴があるか……!」

 

「いや、箒の方が十分声大きいから……ん?」

 

「?どうした、一夏……む?」

 

生徒会長が何かを言いかけた時に、運悪くというか、タイミング悪く一夏と箒が入ってきた。一夏はともかく、箒は生徒会長と俺を見て、何やら察したらしい。それは盛大に間違いであるのだが、とても気まずそうな表情だった。

 

「し、失礼しました。わ、私達はただ生徒会長に十和田が担がれていたというのを聞いて、大事はないかと見に来ただけなので。では、これで」

 

「?どうしたんだ、箒?」

 

「どうしたもこうしたもないっ!帰るぞ、一夏!」

 

「痛たたたっ!引っ張るなよ、箒!」

 

逃げさるかのように一夏の腕を引っ張って帰る箒。結局、箒は俺達を見て何を察したのだろう。多分、とてつもなく盛大な誤解な気がする。

 

「で、なんですか。生徒会長」

 

「へ?あ、あー……そ、そうだ!私との賭け覚えてるよね?」

 

「勝った方が負けた方に何でも命令できるってやつ……まさか」

 

「そう。私が勝ったから、禊くんには何でも命令出来るの」

 

そ、そうだった……別にこの人は勝ったらこっちのお願いを聞くだなんて言ってない。勝った方が命令できるとしか言わなかった。

 

賭けに乗らざるを得なかったとはいえ、浅はかだったか。

 

「それで命令というのは……」

 

「色々あるんだけど……一先ず」

 

生徒会に入れ。

 

そう言われるのだと覚悟していた。

 

「ーー私の事、名前で呼んでくれる?」

 

「……はい?」

 

「もちろん、さん付けなし。敬語も必要ないし、フレンドリーに行きましょう」

 

「え……と、そんな事でいいんですか?」

 

「そんな事、っていうけど、君。命令でもしない限り名前で呼ぶ気なさそうだし。私の事、ずっと『生徒会長』で通すつもりだったでしょ?」

 

うっ……ま、まあ確かに。この人が最初に自己紹介して以降、俺はずっと生徒会長としか呼ばなかった。多分、これが命令とかではない限り、名前で呼べなんて言われても呼ぶつもりがなかった。

 

「だから、これが私の命令。では、どうぞ」

 

「ど、どうぞって……」

 

そんないきなり言われても。

 

「えー。男に二言はないでしょ?私の命令が聞けないっていうの?」

 

「そんな上司の絡み酒みたいに言われても……あー!もう!わかりました。呼びます。呼ばせていただきます!」

 

「うん。素直でよろしい♪」

 

いや、素直でって……目で超威嚇されたんですが。はぐらかそうとしたら、何するかわからないって目で見てきましたよね。

 

一つ咳払いをして、軽く深呼吸をする。

 

なんで人の名前を呼ぶのに、ここまで気を張らないといけないのかと聞かれたら、この人が何故か期待の籠った眼差しで俺を見てきているから、としか言いようがない。

 

「……楯無」

 

「なぁに?禊くん」

 

「これでいいですか?」

 

「敬語も無しって言ったのに……お姉さん、悲しい」

 

よよよっ、とわざとらしく泣く素振りを見せる生徒会長もとい楯無。

 

ていうか、泣き真似するならチラチラこっち見ないでほしい。『女の子が泣いてるのに、放っておくの?』みたいな意思表示だと思うが、そんな露骨な嘘泣きで何をどう思えというのか。ちょっと面倒くさいなぐらいにしか思わないんだけど。

 

「はぁ……わかった。敬語も使わない。これでいいだろ」

 

「宜しい♪以後、気をつけてね。他の人がいるからって敬語使ったり、名前で呼ばなかったら……」

 

「……わ、わかってる。そんな事しないから」

 

嘘です。他の人がいたら普通に敬語使って、生徒会長って呼ぶつもりでした。

 

だって、他の人がいる時に名前で呼んで、タメ口で話してたら、確実に関係性とか疑われるじゃん。そもそも、俺に会いに来た時点で疑われてるっていうのに、その疑念を強くしてどうするんだって話。

 

「あ、一つ質問」

 

「何かしら?」

 

「さっき名前で呼ばせる理由は聞いた。でも、それよりも優先度が高い命令はなかったのか?」

 

「例えば?」

 

「生徒会に入れ……とか?そっちの方が会長権限で色々命令できると思うんだが」

 

割と素朴な疑問だった。

 

わざわざ俺との勝負で命令しなくても、生徒会に入れば会長権限の濫用が出来たはずだ。なのに、何故それをしなかったのだろうかと。

 

「んー、確かにそれはそれで美味しいことかもしれないけど……正直な話、今の禊くんを生徒会に入れても、あんまり意味ないのよね。ほら、入学したてだし。本音ちゃんはともかく、禊くんは無理があるんじゃないかなって」

 

「ぐっ……まさかことここに至ってあんたに正論をぶつけられるとは思わなかったぜ……」

 

しかも、何気に布仏以下だと言われてしまった。あのほわほわ系癒し係よりも下だと。否定したかったが、布仏の仕事ぶりを見ていない以上、そんな地雷を踏むわけにはいかない。

 

「それに……このお願いだけは、会長権限使いたくなかったし……」

 

「へ?なんか言った?」

 

「な、なんでも!」

 

いや、とてもなんでもないように見えないんですが。

 

しかし、なんでもないと言われている以上、つっこむのは野暮というものだろう。というか、つっこんだらマズイような気がする。

 

それにしても……はぁ。布仏以下か。

 

馬鹿にするわけじゃないが、本当に凹むなぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

賭け試合をした翌日の放課後から、楯無監督の下、ISの特訓が始まった。

 

あの飄々とした態度は何処へやら、特訓は厳しいなんてものじゃなかった。

 

あれは鬼だ。最初の起動時以降一度も動かしていなかったやつにする指導じゃない。最初からかっ飛ばしすぎだ、マジで……。

 

「はーい、休憩終わり。次は急上昇と下降それからの完全停止ね。目標は地表三十センチ以内。三回連続で成功するか、アリーナ使用時間が来るかで今日の特訓は終わり。OK?」

 

「OK、じゃない。やるしかないんだろ」

 

そう言って昨日も基礎的な動きは全部覚えさせられた。覚える気があれば出来るだと。

 

「まあね。私が教えるんだから」

 

どんな理屈だ。

 

まぁ、自称才能のないこのお方は、『やれば誰でも出来るようになる』という、どう考えても天才理論を携えているから、本当に才能のない人間は戸惑うだけだ。一夏辺りは多分余裕なんだろうなぁ……一週間で代表候補生に紙一重で負けるぐらいだし。俺なら遊ばれてズタボロにされる。

 

まぁ、指導を買って出てくれたことには大いに感謝しよう。学園最強からの直々の指導なんてそう受けられるものでもないし。専用機が届いた頃には一夏との差が歴然なんていうのも、なんだか悲しい話だし。

 

取り敢えず、言われた通りに急上昇。

 

動かし方は昨日徹底的に叩き込まれたおかげで、空に飛ぶくらいなら造作もない。

 

「んー、ちょっと遅いけど、良しとしましょうか。じゃあ次は急下降からの完全停止ね」

 

あれでも駄目らしい。結構上手くできたと思ったんだけどな。

 

息を整えて、急下降。からのーー。

 

ドオオオオォォォォンッ!

 

「あちゃー……禊くん。思い切り良すぎ」

 

下降というか、見事に墜落してみせた俺の耳に、楯無の苦笑交じりの声が聞こえてきた。

 

ISのお蔭で全くダメージはないものの、これを衆人環視の中でやってのけた一夏の心のダメージがよくわかる。確かにこのクレーターをさらに掘り進めて穴に入りたくもなる。

 

「大丈夫ー?」

 

「大丈夫だよ。IS展開してるんだし」

 

「そうじゃなくて。ISしてても、時速百キロ以上で地面に突撃したんだから」

 

「別に大丈夫だって。ISのエネルギーが減ったぐらいだ」

 

まぁ、ISしてないとミンチだもんな、そんな速度で突っ込んだら。

 

そう考えると、ISのこの露出度にしてこの耐久性は凄まじいものだ。既存の兵器で太刀打ちできないというのも十分に頷ける。核兵器はともかくとして、有人兵器じゃ自爆特攻しても壊せないだろう。

 

こんな兵器として突出したものを、よくもまあ、製作者は別用途で使用する事を考えたものだ。こんなに隙がなくては、兵器になってしまうのも仕方ないだろうに。

 

「禊くん?本当に大丈夫?」

 

「っ……だ、大丈夫だって」

 

いつの間にか、楯無がすぐ近くで、俺の顔を覗き込んでいた。

 

顔近いし、ISスーツってぴっちりしてるから体の線が露骨に出るんだよな。お蔭で正面から見れたものじゃない。この人、スタイル良いから。

 

「そう。それならいいけど。早くしないと時間内に終わらせられないわよ?クレーターもちゃんと埋めておかないと後で怒られるし」

 

「げっ……そうだった」

 

スケジュールが遅れたら早朝から特訓するって約束だった。早く終わらせないと、俺の疲労は増えるのに、睡眠時間だけは減っていくという不公平な方程式が成り立ってしまう。それだけはマズい。何がマズいって授業中に居眠りなんてした日には、頭蓋骨が陥没しかねないことだ。

 

「頑張れ青少年。達成した暁には、美味しいご飯が待ってるわよ」

 

「そりゃ楽しみだ」

 

別に達成出来ないとマズイ飯が待っているわけではないんだが、まあ、物は言いようだ。達成してから食った方が美味いというはわからんでもない。

 

まぁ、どちらにせよ、これが出来ないとスタートから遅れている俺は差を広げられていく一方だ。一般生徒はともかく、サンプリング目的でも専用機持ちになる人間としては、同じ土俵には立っておきたいところだしな。

 

まだどんな専用機が来るかはわからないが、やれるだけのことはやっておかないと。

 

 

 

 

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