或いはこんなテンプレ   作:ひーまじん

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慣れって怖い

「転校生?こんな時期に?」

 

漸くIS学園の生活や生徒会長こと楯無との共同生活に慣れ始めた頃。

 

まだ五月に入ったばかりだというのに、随分濃い日常を送っていたせいか、二倍ぐらいの時間を過ごしていたような気がする。

 

「また転校生ですか……特にニュースになっていないということは男ではないのでしょう」

 

「始まって一月しか経ってないのに、もう二人目か。流石エリート校」

 

「その一人はお前だろう、十和田」

 

「……ごもっともで」

 

しかも、始まって一週間。認識的には一足遅れの新入生といったところだが、一応その記念すべき一人目であることに変わりはない。おそらく、IS学園始まって以来だろう。一夏も俺も、男は記録塗り替えてばっかりだなぁ、本当。

 

「しかし、何故今なのだ?また男でISを使えるものが現れたのならともかく、普通に女なら入学式に間に合わなかったなどということはないだろう?」

 

「わたくしの存在を危ぶんでの転入かしら。今更ですが、妥当な判断ですね」

 

うーん、相変わらず自信家だな。ISの訓練に関しては楯無としかしてないし、一夏達の方は見る機会がなかったから、どれほどの技術かはわからないが、多分凄いんだろう。聞いたところによると、彼女の専用機はイギリスで彼女しか扱えないらしいし……それも本人談だから、なんとも言えないけども。

 

とはいえ……確かにこの時期に転校生というのは、俺みたいな人間を除くと何か特殊な理由でもない限り、普通に入学式に間に合わせるように来るはずだ。なんでも、ここの編入試験はやばいくらい難しいらしいし、わざわざ難しい試験を受けたいなんて、物好きもそういないだろう。

 

「なんでも~、中国の代表候補生らしいよー」

 

考え込んでいると、布仏が補足してくるようにそう言った。

 

代表候補生か……鼻持ちならない人間は勘弁だな。自信があるのは大いに結構だが、イコール他人を見下して良いという道理にはならない。

 

その点で言うのなら、楯無はなんだかんだ言っても、実力に裏打ちされた自信があって、それは行き過ぎていないから慢心でも、過信でもない。理想的といえば理想的だと言えた。IS操縦者としては。

 

「どんなやつなんだろうな?」

 

「む……気になるのか、一夏」

 

「ん?ああ、少しは。なぁ、禊」

 

「確かに。クラスが違うってことは来月のクラス対抗戦とかの一夏の対戦相手になるだろうしな」

 

「だよなぁ」

 

一夏が『気になる』と言った途端、僅かに不機嫌そうな素振りを見せた箒も、その意味を正しく理解したら、すぐに機嫌を直していた。……十代女子というか、恋する乙女というのは大変そうだな。特に相手がこんなイケメンかつ一週間でライバル生産するんだから。何気ない発言も気にはなるか。

 

「そこはご安心くださいまし。クラス対抗戦に向けて、より実戦的な訓練をわたくしがして差し上げますわ。何せ、専用機を持っているのはまだクラスでわたくしと一夏さんだけなのですから!」

 

「え?でも、禊も持つぞ?専用機」

 

「今の、話ですわ!」

 

一夏の発言にすぐさまセシリアはツッコミを入れた。地味なアピールは一夏が相手では何の効果もない。派手でも無理そうな気もするが。

 

「まぁ、やれるだけやってみるか」

 

「やれるだけ、では困りますわ!わたくしに勝ったのですから、他のクラス代表にも勝っていただかないと困りますわ!」

 

「そうだぞ、一夏。男たるもの、そのような弱気でどうする」

 

「おりむーが勝つと~、クラスのみんなが幸せなのだよー」

 

クラス対抗戦でクラス代表が優勝したクラスは学食デザートの半年フリーパスだったか。女子が燃えるわけだ。半年はデザートバイキングがいつでもできるわけだから。

 

話しているうちに一人二人と女子が集まってきて、気がつけばいつものごとく、周りがあっという間に女子で埋め尽くされた。最初は驚いたものだったが、数日もすると慣れていくもので、ここまで来ると全く動じなくなっていた。

 

「織斑くん、頑張ってねー」

 

「フリーパスのためにもね!」

 

「今のところ専用機を持ってるクラス代表って一組と四組だけだから、余裕だよ」

 

「ーーその情報、古いよ」

 

ふと、周囲からではなく、教室の入り口から声が聞こえてきた。そちらに向くと、そこなは片膝を立て、腕組みをしてドアにもたれかかっている女子の姿があった。

 

「二組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう簡単には優勝できないから」

 

「鈴……?お前、鈴か?」

 

「ん?一夏、知り合いか?」

 

いかにも久しぶりに再会した人間を見た時のリアクションを取っていた一夏に聞くと、一夏は「おう」と答えた。

 

「中国代表候補生、凰鈴音。今日は宣戦布告に来たってわけ」

 

ふっと小さく笑みを漏らす。トレードマークに見えるツインテールが軽く左右に揺れた。

 

その知り合いらしい彼女の様子を見た一夏の感想はーー。

 

「何格好つけてるんだ?すげえ似合わないぞ」

 

「んなっ……!?なんてこと言うのよ、アンタは!」

 

一夏のツッコミに、凰さんの口調が多分素に戻った。可哀想に。折角クラス代表として宣戦布告を格好よく決めてたところだったのだろうに。

 

しかし、それはそれとしてーー。

 

「えーと、凰さん。そこーー」

 

「おい」

 

避けた方がいい、と言う頃には時すでに遅し。

 

凰さんは背後からかけられた声に噛み付くように聞き返した結果、『バシンッ!』という大変良い音を教室に響かせた。

 

「SHRの時間だ。戻れ」

 

「ち、千冬さん……」

 

「織斑先生だ。さっさと帰れ」

 

「は、はいっ!」

 

有無を言わせぬ物言いに凰さんは帰って行った。この人が相手だと、まあ当然の反応というか、様子を見るに知り合いのようだが、見た瞬間に顔が引き攣っていた辺り、織斑先生が苦手のようだ。

 

因みに、SHRが始まると言っていたので席に着いた俺と数人の女子を除けば、凰さんと一夏の関係性が気になって、詰め寄ったクラスメイト達は軒並み出席簿の餌食となっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼休みになると、いつも通りのメンバー(俺、一夏、箒、セシリアにクラスメイト達数人)で食堂に向かうのだが、こと今日は違った。

 

「禊くん。ささっ、ここに座って」

 

教室を出て早々に、楯無に捕まり、そのまま学園の屋上に連行された。

 

この暖かい季節。雲一つない青空の下で飯を食べるのも良いものだと思うが、日々関係性を疑われていく身としては、如何ともしがたい。

 

当然のように隣に座ることを要求された事は何も言うまい。会った時から、何かと人との距離の保ち方が特殊な人間だ。相手が異性だろうと同性だろうと関係ないのだろう。

 

幸いなのは、今日は他に女子がいないことだろうか。二人きりというのも、些か問題があるかもしれないが、変にからかわれても周囲の視線を気にする必要はない。

 

「やけに起きるのが早いと思ったら、それ作ってたわけか」

 

「起きるのが早いのは常よ?偶々、気が向いたから作っただけ」

 

「……いや、それにしては、いつもより三十分ぐらい早かったような気が……」

 

俺は寝ている時、結構気配に敏感なタイプで、よほど睡眠不足でない限り、ルームメイトが起きたら気づく。まぁ、二度寝するのもかなり早いけども。

 

「あ、あら、そう?私はいつも通りに起きたつもりだったんだけど」

 

「そうか?じゃあ、俺の勘違いか」

 

寝ぼけて時間を見間違えたのかもしれない。本人がいつも通りって言ってるんだから、俺の勘違いだろう。

 

「まぁ、一先ずそれは置いておくとして。はい、更識楯無with手作りお弁当をどうぞ」

 

お弁当の蓋をあけると、中には『和』が広がっていた。

 

もちろん、全てがというわけではないのだが、それでも空腹感がより一層強くなり、思わず感嘆の息を漏らしてしまうほどの光景だった。したり顔の楯無を見ても、残念ながら流石の言葉しか出てくる気がしない。

 

「驚くのはまだ早いわよ?はい、あーん」

 

取り出したお箸で、唐揚げを一つ取り、食べるように促してくる。

 

早く食べたいのは確かだ。だが、しかし。

 

「……いや、自分で食べられるんですが?」

 

「恥ずかしがらなくてもいいじゃない。ここには、ほら。私と禊くんしかいないわよ?」

 

「そういう問題じゃ……」

 

「それとも、私の料理は食べたくないの……?」

 

そう言って、少しばかり落ち込む楯無。

 

ああ、もう。そういうのは卑怯だ。特にこういう場面でやられると、罪悪感が半端ないんだよ。ちくしょう。

 

「わかった。食べるから、そんな顔すんな」

 

「うんっ。わかればよろしい♪」

 

何故上から目線……と思いつつ、出された唐揚げを頬張る。

 

「……美味い」

 

お弁当というものは作った時間と食べる時間を考えて、冷めるのが当然の代物だ。

 

これも御多分にもれず、冷めてはいるのだが美味い。そして、思わず出来たてでも食べてみたいと考えてしまう。

 

まさか料理の腕も高いとは……この完璧超人め。弱点なんてあるのか?

 

「さあ、どんどん食べて。まだまだたくさんあるから」

 

と言いつつも、箸を渡す気はないらしい。一つ取っては、さっきのように「はい、あーん」と食べさせてくる。

 

ここまでくると、カップルなどがやるアレよりも、寧ろお母さんが幼児に食べさせてあげてる方が正しいんではないだろうか。そしてそれはそれでとても恥ずかしい……!

 

しかし、俺の心とは裏腹に、食が進んでいく。空腹には逆らえず、食欲にも逆らえない。

 

半分を食べたあたりで、一度手で制する。そろそろ自制が効くところまでは来た。

 

「あら、もうお腹いっぱい?意外に少食ね」

 

「いや、楯無は食べないのか。俺ばっかり食べてるけど」

 

「食べるわよ?禊くんてば、口に持っていくと食べるから、つい可愛くって」

 

「俺はハムスターじゃないんだぞ……」

 

ていうか、運ばれてくる度に必死に噛んで飲み込んでいたのはなんだったんだ。無理に早く食う必要なかったじゃねえか。

 

「じゃあ、私もいただきます」

 

そう言って、楯無は卵焼きを一つ口に運ぶ。

 

「うんうん、我ながらよく出来てると思うわ」

 

当然ながら、昼飯を食べていないであろう楯無は、ひょいひょいとお弁当の中身を平らげていく。なるほど、女子は食が細いと聞くが、楯無のように一部に栄養がよく回っている人間は、結構食べーー。

 

パチン。

 

「いてっ」

 

「こーらっ。視線がいやらしいわよ、禊くん。思春期の男子だから、性欲を持て余すのはわかるけど、そういうのは相手に悟らせちゃダメよ?」

 

「誰が性欲を持て余してるだ。後、別に変な目で見てない。気のせいだ」

 

やはりなかなかの察しの良さ。

 

別に下心というより、感心していただけなのだが、楯無は俺が一瞬視線を胸に向けた事に気づいたらしい。

 

「……まぁ、私として嬉しくはあるんだけど……」

 

「何が嬉しいって?」

 

「へ?え、えーと、あんなに美味しそうに食べてもらえて、とか?」

 

「なんで疑問系なんだ?」

 

自分が作った物を美味しいと言ってもらえる事って、割と嬉しいと思うんだが……やっぱりアレなのか?自分では納得できてない部分があるから?

 

「と、ところで禊くん。女だらけの生活にはもう慣れた?男の子には結構刺激が強い日々と思うけど」

 

早々慣れるか!……と言いたいが、人間怖いもので、一夏並みに順応性が高いわけでなくとも、四六時中一緒だと違和感が徐々に薄れてくるんだよな。

 

「慣れたと言えば慣れたような……でも、やっぱり違和感があるな」

 

「違和感……?ああ、禊くん。元々、男子校に通う予定だったものね」

 

「一応何日かは通ってたけどな……って、何で知ってるんだ?」

 

教えた覚えがないんだが。

 

「ふふふっ、ナ・イ・ショ♪」

 

開かれた扇子に『企業秘密』の文字。まあ、いいけど。多分生徒会長やってるから、どこかで先生の話でも聞いたんだろう。

 

楯無の言った通り、まだ違和感はある。男だらけの環境が逆転して珍獣扱いだし。世間じゃ有名人扱い。特に何かをしたというわけではないから、一般人だった俺からしてみれば、違和感があって然るべき状況かもしれない。

 

とはいえ……。

 

「?どうしたの?私の顔をそんなにまじまじと見て」

 

一番の違和感は普通に異性と同棲してる事に慣れつつあり、こうして平然と二人きりで飯を食べている事にあるのかもしれない。

 

割と本気でそう思った。

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