或いはこんなテンプレ   作:ひーまじん

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口は災いの元

 

 

「なあ、一夏。とりあえず関節技決めていいか?」

 

「なんでいきなり!?」

 

凰鈴音とかいう一夏のセカンド幼馴染み(一夏命名)が来てから数日のこと。

 

俺は一夏の鈍さに頭を抱えていた。

 

珍しく楯無が生徒会の仕事とかなんとか言ってたので、一夏を誘って食堂に行こうとしていた矢先の出来事だった。

 

ドアをノックされて出てみれば頬に大きな紅葉の後を作り、申し訳なさそうな一夏がいて『相談がある』と言ってきた。

 

これはただ事じゃないな。そう思って真剣に聞いていたんだが……。

 

「よりにもよって、プロポーズ(その約束)を間違えて覚えるかよ……」

 

事のあらましはこうだ。

 

一夏に惚れた凰は小学校の頃にプロポーズのような事をした。少しばかり遠回しだが、ぶっちゃけ意味は十分に通じる。

 

しかし、当の一夏がそれを勘違いして覚えていて、一世一代の大告白をただの味見役と思われた凰は激怒。

 

一夏にビンタをかまして部屋から去ったわけだ。

 

因みにビンタされたことで本人は自分に非がある事は理解しているが、何に対してなのかはわかっていないらしい。こんなストレートに伝えられて鈍感も何もあるかと思うんだが、世の中にはこんな人種もいるようだ。直前まで凰と一悶着あった箒にさえ『馬に蹴られて死ね』って言われてたらしいしな。

 

こいつ、いちいちネタがオヤジギャグ臭するし、要所要所で昭和リスペクトし過ぎな発言かます癖に日本伝統の『毎日味噌汁を〜』の派生に気づかないとかどうなってんだ?

 

「まぁ、お前だけに非があるわけじゃねえ。凰もお前が朴念仁(そういう人間)って知った上で念を押さなかったのは問題だし、いくらなんでもビンタしたのは悪い。でもな、お前も悪い。なにが、とは言えんが話す相手次第じゃ殺意を持ってぶん殴られる」

 

「……え?そんなレベル?」

 

「ああ。むしろ、それで済んだら僥倖だな」

 

しかし、残念な事に一夏はそれだけの事をやってのけた。やってしまったのだ。

 

幼馴染み(美少女)にプロポーズ(みたいなこと)をされるなんて絵空事だと思われてもおかしくないレベルにありえない。

 

いや、俺も昔の約束律儀に守って自分磨きしてたからあんまし人の事は言えないけど。

 

「まあ、冗談は置いておくとしてだ。一夏、はっきり言って俺が手伝えることはほぼねえ」

 

「手伝いたくない、じゃなくてか?」

 

それもある。というか、同じ男として極力助け合う感じでいきたいが、今回は内容が内容だけに俺が出る幕はないし、ややこしくなる。

 

「忠告するとすりゃ、あれだ。お前があり得ないと思ってることがあり得るんだよ」

 

一体どんな人生を送ってくればこんな感じになるのか、一夏は何故か自分がモテないと思っている。何故か知らないけども。

 

「どういう意味だ、それ?」

 

「自分で考えろ」

 

これを言うと答えになる上に公平性に欠ける。

何より、それを気付かせるのが俺じゃ意味ねえ。

 

「後は部屋で考えろ。俺のルームメイトが帰って来たら、それこそ面倒なことになんぞ」

 

流石に引っかき回しはしないだろうが、余計なこと言いそうな気がするし。

 

「おう。ありがとな、禊」

 

「俺のことは気にすんな。今は凰の事だけ考えてろ」

 

部屋を出て行く一夏にそう声をかけた後、一息ーー

 

「誰が帰って来たら面倒なことになるですって?」

 

「そりゃもちろん……うおっ!?」

 

自然に返事をしかけて俺は椅子から跳ねるように立ち上がった。

 

見ればそこには楯無の姿。

 

表情こそ笑顔だが……アカーンっ!と某お祭り男芸人が叫びそうなオーラを放っていた。

 

「弁明があるならどうぞ」

 

「……俺は何も間違ったことはーー」

 

「聞く耳もたないわ!」

 

じゃあ、何故弁明させた!?

 

俺がツッコミを入れるよりも早く、詰め寄ってきた楯無に関節技からのこちょこちょという地獄の責め苦を味わった。

 

……口は災いの元なのは一夏だけではなかったようだ。これからは気をつけよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから一週間。

 

「なんであんたまで俺のところに来る……」

 

「……うっさい」

 

終業のチャイムが鳴り、教室を出た直後、待ち伏せをしていた凰さんにネクタイを引っ掴まれて屋上に来ていた。十代女子の行動力ってすごい。何が何だかわからずにあっという間に連れてこられたのだから。

 

しかし、連れてこられはしたが、凰さんが何も言わない。察しろということなのだろうか。それとも単に連れて来てはみたものの、何を話すべきか悩んでいるということなのだろうか?

 

……どちらにせよ、何か行動を起こさないと話が進みそうもない。

 

と思って口を開いたのだが、一蹴され、今に至る。

 

くっ……やっぱり十代女子の思考なんぞわかるか。あっちがこっちを理解できないのと同じでこっちだってあっちの考えてることなんて理解できないんだよ!

 

……などと口にしようものなら確実に一夏と同じ末路だ。

 

「あー、凰さん。あんたが俺を連れて来たのは一夏のことで相談がある……って事でいいのか?」

 

そっぽを向いたまま、こくりと頷く。

 

「事情は大体わかってる。確かに今回の件は一夏の朴念仁が意味を曲解させた予想外の問題だ。凰さんが頭を抱えるのを通り越してキレるのもわかる」

 

またも頷くだけ。何か言って欲しいが、まぁ地雷は踏んでないみたいなのでよしとしよう。

 

「それでもって……だ。俺に相談しに来たのは一夏に謝らせたいか……それとも一夏が今どう思ってるのかが知りたい……っていうどっちかと思うんだが」

 

「……そうよ。何か文句ある?」

 

わかりきってることを聞くなと言わんばかりに睨まれた。

 

うぅむ……女子は察して欲しいが口には出さないで欲しいということらしい。なるほど、難しい。

 

しかし、これが凰さんの話すきっかけとなったのか、堰を切ったように話し始めた。

 

「あの唐変木。昔から肝心な時に聞き間違えるし、遠回しに言っても意味間違えるし、気を利かせたら変だとか言ってくるし……ああ、もうっ!腹立つ!」

 

「お、おう。確かにそうだな」

 

うーん。これは思ったよりずっと酷い具合になってるみたいだ。というか、怒りに同調するわりも一夏の被害者の方々に哀悼の意を示したい。

 

「今回だって約束の意味が全然違ったし……なんなのよもう!一夏のバカ!なんで普通の約束は覚えられるのに恋愛系の(こういう)約束はちゃんと覚えられないのよ!」

 

なんだその世界に妨害されてるみたいなピンポイントさは。そこまで行くと一夏も被害者になるぞ。

 

言いたいことを言ったのか、凰さんはふぅと深く息を吐く。

 

多少の冷静さを取り戻したようだ。まだ目に怒りの色が見えるが。

 

「まぁ今は置いておくとして。あたしの目的がわかってるなら話が早いわ。一夏はどうだった?反省してる?」

 

「……反省、ねぇ」

 

一応考えろ、とは言ったが一週間考えても一夏は自分がなぜ悪いのかわからなかったらしい。

 

まぁ、本人は約束を間違えて覚えているなんざ微塵も思っていないんだからわかるわけもないか。

 

体良く誤魔化すこともできるがーー。

 

「……なによ、その反応」

 

「凰さんもわかんだろ?あいつの性格考えりゃ、理由がわかって反省してんならとっくに謝りに来てるってな。俺はあいつと会ってそんなに経っちゃいないが、それぐらいはわかる。なら、セカンド幼馴染?のあんたがわからねえはずがねえ」

 

「……」

 

苛立ちを隠そうとせず、俺を睨みつけてくる凰さんだが、手を出してくることはない。まぁ、これでビンタかましてくるようなやつなら俺も一夏に同情してるところだ。

 

「だから今のままじゃ期待するだけ無駄だ。一年かかっても『なんで怒ってたんだ?』から一歩も先に進みゃしねえよ」

 

大袈裟かもしれないが、そう的外れでもないはずだ。でなきゃ、あれだけモテ要素兼ね備えてかつ出会いが最悪だった相手にさえ好かれるようなやつが彼女いない歴=年齢にはならない。

 

「その上で聞く。あんたはどうしたい?」

 

「……どういう意味よ」

 

「言葉の通りだよ。約束を間違えたあいつをぼこぼこのぎったんぎったんにした上で学校の屋上から吊るすのか……」

 

「……いくらなんでもやりすぎでしょ。そんなことしたら本気で嫌われるわよ」

 

「例えばの話だ。で、もう一つは遠回しじゃなくストレートに告るっつーやつだが……まぁ、それができてりゃこうはなってねえか」

 

「悪かったわね。根性なしで」

 

「別に責めねえよ。そんな権利俺にはねえからな」

 

そもそも未だ誰とも付き合ったことのない俺が非難できる立場じゃない。寧ろ遠回しにだが告白してる分、十分根性はある。

 

「後はあれだな。落とし所をつくる、とか」

 

「落とし所?」

 

「このままじゃあんたも引っ込みがつかねえだろうが、かといってこのままずっと一夏と仲違いしたままじゃ、他の恋敵に先越されちまう。それは嫌だろ?」

 

「……うん」

 

「ならお互いが納得する形で解決するしかねえよ。話し合いが無理なら……そう、ISで戦って決めるとか」

 

クラス対抗戦が近かったことを思い出す。アレなんかはちょうどいいんじゃないだろうか、もしかしたらどっちかが途中で負ける可能性もなくはないだろうが、そこで白黒つけるのがちょうどいいのも事実だ。

 

買った方が負けた方に命令できるとか、ありきたりだが落とし所としてはいい。俺の所感では二人とも話し合いには向いてないだろうし、一戦交えた方が手っ取り早く解決できるかもしれない。

 

「助言はしたぜ。後はあんたが決めろ」

 

俺はそれだけ言い残して屋上から去った。これは二人の問題だ。

 

必要以上に首を突っ込んでも、誰も得しない……なんなら俺にも得はない。つーか、仮に俺が決めるところまで行くと後で俺のせいにされかねない。

 

困ってれば助言はするが、かといって巻き込まれたいわけじゃない。ただでさえ、楯無のせいで精神的ストレスがすごいことになってるってのに。

 

……大丈夫だよな?本当に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫なんじゃない?禊くんはいいアイデアを出したと思うわよ?……はい、王手」

 

「え゛っ。いや、ちょい待った」

 

「待ったなしの約束でしょ。で、負けたらお願いを一つ聞いてもらう約束よね」

 

「ぐっ……」

 

凰と別れた後、先に部屋に帰ってきていた楯無に将棋を指しながら事の顛末を話した。

 

ちなみに将棋は賭け将棋。例によって『勝った方が〜』だ。そして今負けた。

 

「それで?私に相談してきたって事は禊くん的にはなにか問題があるのかしら?」

 

「凰さんは代表候補生だろ?戦うってなるとやっぱ一夏が不利なんじゃねえかと思ってな」

 

よく考えてみれば提案はしたものの、正直一夏が不利な条件だ。セシリアが相手の時はあと一歩のところまで持っていったらしいが、それもかなり運が絡んでのもの。おまけにセシリアが慢心してた可能性が高いから凰さん相手にも上手く立ち回れるかは怪しい。

 

「そうね。織斑くんの試合はこっそり見てたけど、実質初めてのIS戦闘にしてはかなり良かったといったところかしらね。流石は織斑先生ーーブリュンヒルデの弟。才能の塊」

 

「なら案外なんとかなるか」

 

「ところがそうもいかないわ。ISは操縦時間がモノを言うでしょう?確かに才能があればその時間は凡人より少なくてもいいかもしれないけど、だからといって才能があればどうとでもなるわけじゃないのよ。あくまで私見だけど、今の禊くんと一夏くんにそこまでの差はないと思うわよ?」

 

「流石にそれは言い過ぎじゃねえか?確かにIS操縦訓練始めてそろそろ二週間経つけどよ。それは一夏も同じだろうし、戦闘経験があるだろ?」

 

俺がやってるのは大体基礎ばっかだしなぁ。五日前からようやく武器を使うようになったが、これがなかなか難しい。近接ブレードこそ武道を嗜んでいる身としてはそこそこ扱えるんだが、射撃の方は全然ダメだ。あれじゃ威嚇射撃もできない。

 

「確かに戦闘経験の有無が勝敗を分けることはあるかもしれないわ。でも、それは戦っている者同士の実力が同じの場合よ」

 

「?だったら余計に一夏の方が……」

 

「私はね。戦闘経験の有無も含めて、二人の実力にほとんど差はないって言ったのよ。というか、織斑くんと禊くんの環境が二ヶ月……いえ、一ヶ月このままなら、禊くんの方が絶対に強くなる」

 

自信に満ちた表情で楯無はそう言い切った。

 

そもそも楯無が自信なさげなところを今の時点では見たことがないのだが、ともかく楯無にはそう言い切れる根拠があるんだろう。

 

「話は逸れたけど、今の織斑くんじゃ一発逆転の博打を打たない限り、凰さんには勝てないわね」

 

「あー……じゃあ、俺マズいこと言っちまったのか……」

 

話し合いよりずっと手っ取り早いだろうし、二人とも話し合いには向いてなさそうだからなかなか名案だと思ったんだけどなぁ。

 

「そうかしら?私は名案だと思うわよ?」

 

「なんでだよ?全然条件が対等じゃねえぞ?」

 

「条件が対等である必要はないのよ。私が聞く限り、今回の件は勝敗に関して言えば些細な問題だもの」

 

「……そういうもんか」

 

まぁ、本気でぶつかり合えば勝敗関係なく凰さんの気も晴れるか。お互い冷静になれば事態も次第に収束していくだろうし。

 

……一夏が余計なこと言わなければ。

 

「さて。相談が終わったところで禊くんには何をしてもらおうかしら」

 

「……ちっ」

 

さりげなく有耶無耶にできるかと思ったが、ちゃんと覚えてやがったか。

 

「あ、今舌打ちしたの聞こえたわよ。そんなことする子にはお姉さん式マッサージをプレゼントね♪」

 

「おい、……いや、待て。待ってください。それはマッサージとは言わないよな!?」

 

逃げようとする暇もなく、楯無に取り押さえられて、全身マッサージ(リラックス効果ゼロ)を受けた。

 

余談だが、翌日の朝、声が枯れていた。

 


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