スーパーナギトRPG ~狛枝が異世界に飛ばされて勇者になるだけの話~   作:朝霧 奏

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Prologue.「ハジメマシテ ノ ホープ」

…………。

……………………。

……ここは……どこだ…………?

 

……気がつくと、ボクは見覚えのない部屋の中にいた。

円筒状の空間に、薄い照明が青々とぼやけて点っている。

中央には一本の太い柱が立っており、その上からは無数のツタが垂れ下がっている。

それらは柱の下まで届いており、さらにそこから互いに絡まりながら放射状に地を這っているようだ。

この有様が視界に入ったボクは、すぐに意図せずして異質な場所に来てしまったことを悟った。

「……ハハ…………」

上体をゆっくりと起こすと、ボクは乾いた笑い声をあげていた。

なに、ボクの人生としては、こんなことは大したイレギュラーじゃない。

ボクは生まれつき、「こういうこと」に陥りやすい体質なんだ。だから、今更ショックを受けることもない。

慣れというものは、度が過ぎると人間を退屈させてしまう。つくづく、そう実感させられる。

 

とはいえ、緊張感がまったくないわけではない。

こんな得体の知れない空間に放り込まれて、何も感じないなんてことは、さすがのボクにだってありえない。

「……さて、どうしてこんなことになったのかな…………」

状況を把握すると、すぐに当然の疑問が脳に浮かんだ。

ここは一体どこなのか。

そしてボクは、誰のどういった目的で、ここに連れてこられたのか。

この薄暗い部屋ひとつだけでは、それらの疑問を解消するパーツのひとかけらにすらなりがたい。

「………………」

冷静に記憶を辿ってみるが、それらしい答えには行き着きそうになかった。

 

思い出す限りの最後の記憶は、例の一件による停学期間が終わりを迎え、ボクが希望ヶ峰学園に再び足を踏み入れた瞬間だった。それ以降の記憶はない。

……ない、というのはどうにも理屈に合わない気がするな。

あの門をくぐってから先の記憶が一切思い出せないとなると、そこに何らかの思惑が絡んでいるとみてもよさそうだ。

たとえば、背後から暴漢に襲われて意識を失った、とかーーーー。

「……いや、そんなバカなことはないか」

素晴らしい才能に恵まれた希望あふれるみんなならともかく、ボクみたいなクズを誘拐して何になるというんだ?

ポケットを探ってみると、財布はなくなっているみたいーーーーだけど、金目当て、というわけでもなさそうだ。

だって、あの時のボクは、通帳もカードも携帯してなかったんだ。財布に入っていたのは、多少の現金と、行きつけの店のクーポン券が数枚程度。

ついでに家の鍵もなくなっているけど、仮に犯人が僕の住所を知っていて、鍵を使って家から金目のものを盗んだとしても、ボクがこんなところにいる理由には繋がらない。

そうだとしたら、ボクなんかにもう用はないはず。あるいは、口止めにボクを脅迫したり、リンチしたり、いっそのこと殺した方がよっぽど都合がいいじゃないか。

でも、ボクの身体には傷ひとつなければ、手足の一本たりとも縛られていない。

誰かが助けてくれーーーーるわけないよね、こんなゴミ虫のようなボクごときを。

 

「参ったね…………手詰まりだよ」

ボクは自分の無力さに改めて呆れ果てながら、とりあえず身体を起こす。

「さて、この部屋になにか手がかりはないかな」

すぐ正面に扉が見えたが、すぐに開けるのも無謀な気がした。

まずは、この空間に自分がいる理由を知るのが先決だろう。

そんなわけで、ひとまずボクは、この謎に包まれた場所を一通り調べてみることにした。

 

「この意味ありげな柱……足元まで伸びている無数のツタ…………」

これらの正体も、一目見ただけではまったくもって不明だ。

そして、青くうすぼんやりと光る天井の照明。

「……夜光虫のよう、とでも言えば、幻想的な聞こえになるのかな」

まぁ、原理は大して問題じゃないか。

 

それにしても、なんだかさっきから妙な違和感を感じる。

いや、単にこの空間の異質性を言いたいわけじゃないんだ。

この一見して何かの遺跡のような場所…………。

当たり前だけど、ボクの記憶する限りでは一度たりとも訪れていないはずだ。

それなのに、不思議なことにボクは、この風景にわずかながら既視感を覚えていた。

ボクの意識が混濁しているだけなのかな?

あるいは、「ボクが来たことのあるはずの場所」に何らかの手が加わり、「ボクが来たことがない場所のように見える空間」にすげ変わっていたりして。

これといって根拠なんてない。

でも、そんな突拍子もない理屈の方が正しい予感がするのはなぜだろうか。

「…………アハハハ!!! これは面白くなってきた……かもね!」

今まで覚えたことのない妙な感覚に取り憑かれ、ボクは推理も忘れんばかりに、やけに昂ぶり始めていた。

 

さて、部屋を半周ほど歩きながら、そんな愚かしい興奮を抑えつつ、浮かび上がった謎を探るべく辺りの様子を見渡していたボクは……

ちょうど目を覚ました場所の向こう側ーーーー部屋の一番奥の場所に、「それ」を見つけることができた。

「……ノートパソコン?」

 

前時代的なこの場所には明らかに似つかわしくない機械が、壁際の台座に意味ありげに置かれている。

あまりにもあからさまな手がかりでかえって怪しさすら覚えるが、他にめぼしいものも見当たらないので、ボクはやおら台座に向かい、そのノートパソコンを開いた。

「おや?」

すると、PCから起動音らしきものが鳴り、画面はひとりでに文字列で埋めつくされていった。どうやら、蝶つがいの部分を開くだけで、勝手に起動するシステムになっているようだ。

しばらくすると、画面からグリーンの光が映し出され、その中央にウインドウが映し出された。

『ーーーパスワードを入力してください。ーーー』

 

「……まぁ、そうなるよね」

あらかた予想はしていたけど、当然そんなものは知るわけがない。

さしあたり、画面をそのままにしておき、部屋中をくまなく調べてみるが、それらしい文字や数字などひとつたりとも見つからない。

「うーん……どうしようかな」

ヒントになりそうな情報は、パスワードを……のすぐ下に表示されている『□□□□』

という4つのマス目くらい。これでは文字数しか見当がつかない。

下手に当てずっぽうで入力しても、万が一に取り返しのつかないことになるかもしれない。ここは確実な手段をとるのが賢明だろう。

「ここにこれ以上のヒントがないなら、ボクがすべきことはひとつ……しか、ないよね」

 

ボクはPCの置かれた台座を離れ、その反対側ーーーー扉の方へ歩いていった。

もちろん、この扉がどこにつながっているかなんてわからない。

でも、ボクにはもう、他にこの空間について把握する手段がないんだ。立ち往生するわけにもいかないし……。

そういえば、今年入学してきた「超高校級のプログラマー」……不二咲千尋さん、だったかな。彼女みたいな才能があれば、ハッキングくらい造作もなさそうだけど……。

「……まさか、ボクみたいに無能で醜悪な害虫が真似できるような手段じゃないからね、アハハ!」

そんなことを考えながら、ボクはゆっくりとドアノブに手をかけた。

その瞬間ーーーー。

 

「ーーーーキミが、一番ーーーー求めて、いる、ものーーーーはーーーー?」

 

「っ……!?」

ボクは即座に背後を振り返る……が、当然そこには柱が一本あるだけで、誰もいやしなかった。

けど、確かに今……ボクの耳には、誰かの声が入ってきた。

誰の声かもわからない……エコーのようなものが混じっていて、判別はつかなかったけど……。

「女の子の声……? それに、ボクはどこかでこの声を…………」

記憶のどこかに確実にあるはずの、声の主。

落ち着いた口調で、柔らかめの声。ほぼ間違いなく女性のものだ。けど、思い出せない…………。

それに、声は確かに背後から聞こえたはずなんだけど、この部屋にボク以外の人間なんているはずがないーーーーそれも不可解だ。

「…………」

再び、ドアノブに手をかけてみる。しかし、もう何も聞こえてこない。

さらに扉を開けようとしてみたけど、どの方向に動かそうとしても、ノブはびくともしない。

 

「……やっぱり、密室か…………」

そう簡単に出られると思い込んでいたボクは、なんてバカなんだろう。本当にどうしようもないバカだ。自分のバカさ加減が嫌になってくる。

「…………絶望的だねぇ」

おかれた状況の深刻さがはじめて明らかになり、ボクはそうひとりごちた。

 

「…………」

とりあえず、深呼吸、深呼吸。

「空気は薄くない……どこかに換気口でもあるのかな?」

どうやら、しばらくは窒息死の心配もなさそうだ。

そんなわけだから、そろそろじっくりと脱出方法を考えるかな。ここまでの出来事を整理してみよう。

 

停学期間を終えたボクが希望ヶ峰学園に戻ってきて、門をくぐろうとした瞬間から、ボクの記憶は途切れている。気がついたら、この正体不明の空間にいたんだ。

そしてボクは、こんな場所に来たおぼえは一度もないはずなのに、なぜだか頭の中には既視感がぼんやりと浮遊しているーーーー。

とにかく、ここが密室であるということだけは、さっきハッキリした。

そして、おそらくこの場所を出るために解かなければならないであろう謎が、部屋の奥で発見したノートパソコン。

起動するとパスワードが表示された。4ケタの文字列らしいけど、この部屋に手がかりはなかった。

 

「……これだけじゃ、脱出の糸口は見つからない……ということは、やっぱり『アレ』がカギになるのかな…………?」

ボクがドアノブに手をかけた瞬間に、背後から聞こえたあの声。

どこかで聞き覚えのある、女性の声。

ボクがラリったわけじゃないなら、確かに背後から聞こえたはずだ。ボク以外には誰もいないというのにーーーー

「…………背後から?」

ボクは改めて、ドアの後方を見渡してみる。

相変わらず、中央に太い円柱が一本。その他には何もーーーー

「…………あるじゃないか」

 

ボクはゆっくりと、その柱の横を通り過ぎた。

そして、部屋の奥にある「それ」に近づき、注視する。

「……うん、まぁ、これしかないだろうね」

他に誰も「人」がいないなら、声の主は人ならざる者、とみるのが妥当だ。

とはいっても、それは心霊現象でもなんでもない。ボクはあいにく、オカルトの類は信用しないタチだからね。

だとしたら、この部屋で声ーーーーもとい、「音」を出せるものは、ひとつしかない。このノートパソコンだ。

それに、PCからの電子音声だとしたら、あの声にエコーがかかっていたのも納得がいく。音の主は、これで間違いないだろう。

「……こんな簡単な答えにすぐ辿り着けないなんて、やっぱりボクはどうしようもないクズだよ」

 

ともあれ、謎のひとつが解決した。

さっき聞こえた謎の声は、実は肉声じゃなくて、ノートパソコンから発せられた電子音声だったんだ。

誰かの声を録音したのか、それともPC内で加工して生み出された人工音声なのかーーーーどういう原理で音声を発するタイミングを図ったのかーーーー謎はまだまだ多いけれど……。

「それよりも……もっと、重要な謎があるよね」

 

そう、あの音声の内容だ。

このPCから流されたもの、ということは…………。

「パスワードのヒント、とみるのが自然だよね」

どうせ扉も開かないことはわかったんだし、今のボクにできることといったら、どのみちパスワードの入力くらいしかない。

それに、他に手がかりもないのに、リスクに恐々として何もせずにいたら、それこそ野垂れ死にしてしまう。

さすがのボクも、こんなところで惨めに孤独死なんてのは避けたいところだし……。

そんなわけだから、「アレ」をパスワードのヒントと解釈して、その解除を試してみるのが、きっと最善の手段なんだろう、とも考えられる。

「それに、ボクは運だけはいいしね…………最悪、適当に入力して通るかもしれないよね」

まぁ、さすがにそれは最後の手段にしておくけどね。

 

さて、肝心のヒントになりそうなその内容だけど……。

さっきボクが聞いたのは、たしかこんな感じだった。

「『キミが、一番求めているものは?』……だったね」

 

ボクが、一番求めているものーーーー。

 

ボクが、一番求めているーーーー。

 

噛みしめるように、その言葉を何度も反芻する。

「『EXIT』…………」

いや、きっとそんな即時的なモノじゃない。

「…………」

 

ボクが、一番求めてーーーー。

 

ボクが、一番求ーーーー。

 

「……………………」

何度も、何度も反芻を続ける。

 

ボクがーーーー。

 

ボーーーー。

 

「…………アハハ…………そんなの、愚問だよ」

反芻しながら、両手を構えた。

 

bーーーー。

 

ーーーー。

 

 

 

「アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

『H・O・P・E』

 

 

 

『ーーーパスワードが入力されました。自動変換型ナビゲーター・クリエーション・システム ver.2.0 を起動します。ーーー』

 

 

 

「…………っ!?」

メッセージが表示された直後、薄暗かった部屋が突如として真っ白に光り始め、さらにはその輝きを擬音にしたかのような、まるで得体の知れない音まで鳴り始めた。

「……………………アハハハハ!!!」

今度は何やら、宇宙人の言語のような、聞いたことのない音声らしきものが、そこらじゅうから聞こえ始めてきた。

「アハハハハ!!! どうやらボクは、とんでもない不幸に遭ってしまったようだねぇ!!!!」

まばゆい光は、みるみるうちに部屋いっぱいに広がっていく。

「アッハハハハハハハ!!! この先、ボクにはどんな幸運が待っているのかなぁ!?!? 楽しみだねぇ!!!!!」

一面、光に覆われてしまった。もはや、何も見えない。

眼球に鈍痛が走っている。脳みそが気だるい。なのに、脳漿が止まらない。

こんな感覚ははじめてだ。頭がおかしくなりそうだ。いや、もうすでにおかしくなっているのかもしれない。

未知の光に包まれながら、ボクはたとえようのない興奮に支配されていったーーーー。

 

 

 

「……ねぇ」

…………。

……………………。

 

「……ねぇってば」

………………………………。

 

…………ん?

 

ボクが再び目を覚ますと、かたわらで見知った顔ーーーー会うのは久しぶりだけどーーーーがちょこんと座って、ボクを覗き込んでいた。

 

「……あっ。気がついた? ……はじめまして」

「…………七海、さん?」

 

 

 

To Be Continued.

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