【完結】嵐を呼ぶうたわれるものとケツだけ星人(うたわれるもの 二人の白皇×クレヨンしんちゃん) 作:アニッキーブラッザー
現れたのは、車輪のついた騒々しい箱。
この世界の文明からすれば明らかに異質な車。
馬が引かなくても自動で動く車。それが自動車。
それは、遥か昔、星の環境を破壊する原因の一つとしても語られていた、排気ガスを撒き散らしながら人を運ぶ道具。
自分も、実物を見るのは初めてだ。
「緑のセダン……な、なぜ……」
ハクオロの呟き。セダン? 確か、自動車の形状の一つだ。
ということは、やはりアレは、自動車なのか?
「なんなのだ、貴様らは! ブルタンタ佐衛門、何をした!」
この状況に自分たち同様に頭がついていかない、クーヤ。
ぶりぶりざえもんは黙ったまま。
すると、自動車の扉が左右勢いよく開け放たれ、中から血相を変えた男と女、赤ん坊、そして一匹の白い小さな犬が飛び出してきた。
「しんのすけえええ!」
「しんちゃあああん!」
「にいいにいああああ!」
「キャンッ!」
やはりだ! さっき、聞こえたのは、気のせいなんかじゃない。
しんのすけの名前だ。
「ちょ、ハクの声! しかも……オンヴィタイカヤン……」
「は~、驚いたわ。顔は全然似とらんけど、おにーさんと声がそっくりや~」
しんのすけの名前を呼び、さらに自分と声が似ている男。
そして何よりも、あの表情。ずっと、命を懸けて必死に大切なものを探し、それをようやく見つけられたかのような表情。
ああ、そうか……この人たちは……
「おおおお! とーちゃーん! かーちゃん、ひまーっ! シローーーー!」
この人たちが……しんのすけの……『本当』の家族なんだ。
しんのすけが両手を広げて飛び跳ねた瞬間、現れたしんのすけの『本当』の家族は走り出し、力いっぱいしんのすけを抱きしめた。
「しんのすけええ! ば、かやろう、心配させやがって、このやろう! だ、大丈夫か! どこか怪我してないか? どこも悪くないか?」
「おおお、おげんきそーですな~、みなさん」
「うっうううう、もう離さない! とーちゃん、絶対にお前を離さないからなー! これで、野原一家復活だ!」
涙でクシャクシャになって、鼻水すらも流しながらしんのすけを抱きしめる男。
赤ん坊を抱えながら、涙を流しながらしんのすけの額と自分の額をつけて擦り合わせ、温もりを感じあっている母。
ニタ~っと笑いながら嬉しそうな赤ん坊。
涙を流しながらも笑顔で吠えて回りを駆け回る犬。
これが、しんのすけの家族か。
「あにさま………」
「ネコネ?」
「私はここにいるのです……」
その時、どこか訴えるような表情で、ネコネが自分の裾を引っ張ってきた。
その表情が語っている。今の自分の心中を察しているかのように、ネコネの瞳は、「自分が居る」と訴えていた。
「もはや、何が起こっているかがまるでわからぬ。モロロ頭……おぬしら一体、何者だ?」
その時、カンタムからクーヤが発した。
その声に、しんのすけの家族は顔を上げ、涙で晴らした顔から一瞬で両目を見開き、慌てて二度見。
「ひえええええ! ななな、なんでカンタムが! ここは一体、どこの世界なんだ? 異世界か? 未来か? 別の惑星か?」
「あ、あなたあ!」
「あういわああ!」
「クウ~ンン」
この人たち、しんのすけに気を取られて、カンタムにも気づいてなかったのか!
だが、そうやって情けない悲鳴を上げているものの、しんのすけの父は全身を震わせながら、両手を広げて前に立った。
「く、くるなあ! 家族には指1本触れさせねえ! やるなら、俺をやれ! だがな、覚悟しろ! 俺は高校時代……空手部の奴とクラスメートだったんだ!」
そう叫び、男は車から何かを取り出した。
それは刀? いや、鞭? 真ん中に持つための柄があり、左右の棒が鞭のようにしなる。
「ほわあああああ、ちょわああああ、どりゃああああ、でりゃああああ!」
「ぬ、なんだ、その武器は!」
「ほわちゃああああ、でりゃああああ、はいいいいいいっ!」
カンタムを威嚇するかのように棒をしならせる。
いや、待て……あれは武器じゃないぞ!
「ぼ……ボディブレードだ!」
「な、なにい? ボディブレード? ……思い出した! あれは、運動不足解消用のエクササイズ用品だ! 自分もブルブル体操をする前は愛用していた!」
ハクオロと自分は、もはや驚いてばかりだった。
何でボディブレード?
「父様、ハク、ぼ、ぼでぃぶれいどってなに? 何だか凄く強そうかな!」
「うむ、あのような武器は小生も見たことがない」
「あれは、大いなる父の武器なのでしょうか?」
しかし、この世界の者から見れば、どこか怪しく只ならぬ武器にしか見えないのだろう。
そりゃ、あんなの見たことないだろうから、ハッタリにはなるだろう。
でも、あんなのじゃカンタムを倒せるはずないし、そもそもあれでハッタリかますなんて無茶苦茶すぎだぞ。
「えええい、何かは分からぬが、余の邪魔をするのならば、容赦はせん!」
ほらな! カンタムが拳を振り下ろした。
「ぎょわあああああ」
「ひいい、あなたああっ!」
まずい! 気づけば、トゥスクルもヤマトも、一時は争いかけた者たちも、自然と体が動いていた。
「あら、少し性急過ぎですわ、クーヤ」
「ったく、本当に何が何だか分かんねーぜ!」
「ちょっ、まってーな」
「しかし、分からぬが体が自然と動いてしまうのじゃ」
「分からぬが、ここは退かぬ!」
カルラさん、クロウ、アトゥイ、帝さん、ムネチカ、怪力集が力を合わせてカンタムの拳を受けとめた。
いかにカンタムが強力とはいえ、あの五人が力を合わせれば!
「ウルト、カミュ、ベナウィ、アルルゥ、彼らを!」
「キウルも頼む!」
「「「「「承知!」」」」」
自分とハクオロの指示を放たれるまでもなく、他のものたちも動く。
「もう、安心ですよ」
「は、へっ? ………おや、これは美しいお嬢さん。あなたのような美しい方は初めて見ました。どこのお方ですか?」
「はい? えっと、私はこの、オンカミヤムカイの者ですが……」
「おんかみやむかい? 奇遇ですね。自分は秋田出身です」
……ウルトリィさんが羽ばたいて、しんのすけの父を……いや、どこら辺が奇遇なんだ?
怯えた表情が一変して、ウルトリィさんを見た瞬間、キリっとした顔に……
「とーちゃん、ダメだぞ。ウルトおば……おねーさんは、あそこに居るおじさんの奥さんで人妻だぞ? ちなみに、ここに居るカミュちゃんも奥さんだぞ?」
「んも~、しんちゃんってば、嬉しいことを言ってくれるね♪」
「ん~……そういえば、今気づいたけど、カミュちゃんの声ってタミさんに……」
「タミサン?」
ナンパする父を嗜める、カミュに助けられたしんのすけ。
「ご無事ですか? ご安心を、我等がお守りします」
「あらやだ! 超イケメンッ!」
ベナウィに目を輝かせるしんのすけの御母さん。
「あの、えっと、僕がどうかしましたか?」
「えへ~~~~、きゃおおお!」
「おっ? 何だお前、キウルにちょっかい出すのか? シノノンの好敵手ってやつだな?」
「おおお、シノノンにもついに宿敵と書いて友が出来たじゃない! くう~~!」
メチャクチャしまりのない、しんのすけと似た笑顔を見せる赤ん坊はキウルに……
何なんだ、この一家は! 状況分かっているのか?
「来る。シロ」
「くきゅうん」
一番まともなのは犬だけか? っていうか、アルルゥ、あの犬の名前を……
っていうか、結局、この人たちは何のために登場したんだ? 状況がまるで変わっていないぞ?
「おい、ぶりぶりざえもん。これは一体どういうことだ? お前が何かをやったのか?」
「…………」
これに何の意味があったのか。自分は我慢できずに、ぶりぶりざえもんに問いかけた。
だが、ぶりぶりざえもんは、剣に模した飴を舐めているだけで、質問に答える様子がない。
「にしても、どういうことだ、しんのすけ! カンタムが暴れるし、この世界も良く分からないし! 俺たちはお前が公園で消えたっていう話を聞いて、きっと公園に何かあると思って車で公園に侵入して待機してたらこの状況だ!」
ウルトリィさんに助けられて、改めて状況を聞くしんのすけの父親。
その問いに対してしんのすけは……
「ん~……あのカンタムに乗ってる人に、そこに居るハクとーちゃんが大人のぞうさんを見せたら怒っちゃったんだぞ?」
「「なにいいいいいいいっ! しかも、とーちゃん~?」」
「待て、しんのすけ! いや、色々と途中を省きすぎだ! お前も、ぞうさんを見せたろうが!」
「ほうほう。ん~、それに、このおじさんがたくさんの奥さんとイチャイチャしていたら、ずっとほったらかしにされていた奥さんの一人が怒ってこんなことになったんだぞ」
「ま、待ちなさい、しんのすけくん! それも色々と省き……省き……いや、まあ、そうなのかもしれぬが……」
「「たくさんの奥さん~ッ?」」
「んで、そこのハクとーちゃんはクオンちゃんとお似合いで、でも、あのカンタムに乗ってるクオンちゃんのお母さんは二人を認めないから、おじさんとハクとーちゃんの二人を倒そうとしているんだぞ?」
「しんのすけ! ……お似合いは、事実だから……別にいいかな」
しんのすけの説明は、色々と省略しすぎて、両親には何が何だか分かっていない様子だ。
だが、正直なところ、彼らにとっては、しんのすけの説明等、あってもなくても同じ様子だ。
「とにかくだ、あのデカイのを倒さないといけないわけだな、しんのすけ!」
「だったら、倒してやろーじゃないのよ! そうしなきゃ、あたしたちも帰れないんでしょ?」
「おう! ブッラジャーだぞ、とーちゃん、かーちゃん!」
「あういうやあ!」
「キャン」
大した説明なんていらない。それでもこの人たちは、それでいいんだ。
そこに見える確かな絆。
強く。そして逞しい。
自分がこの数日間、繋いだと思えるしんのすけとの絆なんて、これに比べたら……
「よーっし! じゃあ、久々、野原一家、ファイ――――」
「待つんだぞ、とうちゃん!」
拳を突き上げて叫ぼうとした父親をしんのすけが制する。
「ここは、うたわれ一家だぞ、とーちゃん」
「なにい? うたわれ? なんだそれは?」
「なんだもなにも、そーなんだぞ。な? ハクとーちゃん」
「ったく、わけがわかんねーが、まあいいか! それじゃあ、あんたらもいくぞ!」
そう言って、しんのすけは自分を見た。
そうだろ? と言われた瞬間、自分はガツンと頭を殴られたような気がした。
「しんのすけ……」
そうだ……そうだ。何故、自分はさっきからこんなに情けないことばかりを考えている?
しんのすけの両親に、嫉妬するようなことを。
しんのすけが両親と親子としての絆があるからって、それがどうした。
自分にだってある。
その絆を、比べるな! 誇れ!
「ああ、そのとおりだ、しんのすけ」
「「あっ、声が似てる……」」
夫婦のツッコミは無視して、今は自分もしんのすけに応える。
「ハクオロ、クオン、皆もだ。分かっているな?」
自分が皆に尋ねると、全員が同じ笑顔で頷いていた。
さっきまで、クーヤに加勢していたヤマトの女たちも同じだ。
だからこそ、自分たちは叫ぶ。
「うたわれ一家、ファイヤー!」
「「「「「「「「「「ファイヤアアアアア!!!!」」」」」」」」」」
しんのすけの掛け声を合図に、皆が拳を突き上げ、国も種族も世界も時代も越えて、今、自分たちは一つとなった。