走れ!ドーちゃん!   作:皿まんだ

1 / 11
初めて書きます。
ただ、ポケモンが好きというだけで始めてみました。


プロローグ

 大きくなったら何になりたいか。小さな子供にアンケートを取ればこの世界の子供たちはこう答えるだろう。

 

『ポケモントレーナー』

 

 そして、小学校の卒業と共に期待に胸膨らませ旅立つ少年少女はその頂点を目指しく歩き出す。

 ポケモンマスターへの道を。

 

 しかし、彼は絶望していた。何がポケモンマスターだ、何がリーグチャンピオンだ、どうせ途中で諦めて故郷に帰って笑われるのがオチだと。

 大人ぶって背伸びをしているだけだ、そのうち周りの子供たちの様に憧れるようになると周囲の大人たちも気にも留めなかった。

 しかし、彼は断固として誰がポケモンマスターなんぞ目指すもんかと誰の意見にも耳を貸さなかった。

 

 

 

五年前

 

 

 彼はまだそこらの子供と変わらず、ポケモンマスターになることを夢見る純粋で素直な少年だった。

 しかし、彼が両親と足を運んだミアレシティで事件は起きた。

 ひょんなことから迷子になり途方に暮れる少年、しかし困ったときは大人に助けを求めろという親の言葉を思い出し、近くにあったビルに入ることにした。自動ドアが開くと受付のカウンターと沢山のパソコン、そして整理券らしきものを持った大人たちが長椅子に腰かけているのが見えた。

 もし、悪い人ばかりがいる入っちゃいけない場所だったらどうしよかと最初は心配したが、モンスターボールを腰につけている人が多くいたのできっとポケモンの施設かなにかだろうと少し安心する。

 不安が拭い去られると妙な期待が出てきた。ここにいる誰かに聞けば教えてもらえるだろう、もしかしたら有名なポケモントレーナーが集まるところかもしれない、もしそうだったらサインの一つでも貰おうと長椅子のほうに近づくと少年は言葉を失ってしまった。

 幼いゆえに何かに例えるような語彙力は持ち合わせていなかったが、この大人たちを見ていると一つのたとえ方しかできない。

 

 目が死んでいる

 

 一体どうしたらこんな顔ができるのだろう。自分の知っている大人たちと目の前の大人は何か違う。ココは自分が来ちゃいけない場所なのかもしれない。消えつつあった不安が再び蘇ってくる。誰かほかに頼れそうな人はいないかと目をやるとカウンターの向こうで働く人たちを見つけることができた。

 キーボードを叩いたり電話をかけたりと忙しそうだが、事情を話せばきっと親切にしてくれるだろうと思い、恐る恐る近づき声をかけようとする。

「…あの「次の方どうぞー!」

 しかし、目の前の女性は自分には気が付かず椅子に腰かけている大人たちに声をかけ、自分のブースに案内するとテーブルをはさんで何やら話し始めた。呼ばれた男性はボサボサ頭で清潔感のない男性だった。

「えーと、…さんですね?今までの職歴と最終学歴を教えてください。」

「…働いたことはあ、ありません。クノエの小学校を卒業しました。」

「小学校の後は?」

「…いいえ」

「小卒?」

 もしかして、アンタもなの?そういいたげな表情でボサボサの男に聞き返す女性職員。

「…ハイ」

 消え入りそうなか細い声で、小さく男は返事をする。

「じゃあ、今まで何か頑張ってきたことは?」

「ハ、ハイ!自分はプロのポケモントレーナーになるため、これまで各地のジムを巡りトレーナー修行を…」

 

 バン!

 

 と男が言い終わらぬうちに女性が机を叩き、先ほどまでとは打って変わって早口で怒鳴り始めた。

「あなたが頑張ってきたそのトレーナー修行とやらが今現在、何か一つでもあなたの役に立っていますか?立っていませんよね?だからここに来ているんでしょ?悪いけどね、あなたみたいな人が毎日毎日ここに来るけど今まで何人就職できたと思う?ほとんどゼロ!ゼロなの!小さい時からポケモンポケモンって、ポケモン好きなのはわかるけどね、どうしたらプロになれるかも分かってないのにポケモン育ててバッチ集めれば何とかなるだろって甘い考えの人間がプロになれると思う?」

「で、でも」

 男はもう半泣きである。

「大体、あなたの夢なのに一生懸命なのはあなたのポケモンばかりで、あなたは何にも努力してないじゃない!」

「ぼ、僕だって」

「おだまり!」

「ヒッ」

「草むらとポケモンセンター行ったり来たりするのは努力って言わないの!今のあなたに紹介できそうな企業はハッキリ言って一つもありません!大体何ですかこの希望職種、小卒の29歳がシルフカンパニーやデボンコーポレーションに受かるわけないでしょう!」

 少年は雷に打たれたような衝撃を受けた。そして理解した。色々難しい言葉を使ってはいたがひげ面の男はかつてポケモンマスターを目指し、それが叶わなかったからこうして目の前の女性に叱られているのだと。

 

 

 それからどれくらい時間が経っただろう。しばらくその場で放心していると、

「ボク、どうしたの?」

 と後ろから声をかけられた。驚いて振り返ると先ほどまで男性を叱り飛ばしていた女性が中腰で見下ろしていた。

「ここはね、ボクみたいな子が来るところじゃないのよ?もしかして迷子かな?どこから来たの?」

 先ほどまでの罵声が嘘のように優しい口調で諭されるが、かえってそれが少年の恐怖心を駆り立てた。

「だ、大丈夫です!ありががとゴザました!」

 おかしなお礼を口走りながらに出口へ走り、自動ドアが開くとわき目も降らず一目散へと駆け出した。自分でも何を言っていたか分からないし、いきなり逃げ出す態度は褒められたものではないが、とにかくあの場所にいてはいけない、そんな気がした。

 走り去るその背に

「あなたはここに来ちゃだめよ」

 悲しそうな女性の声が聞こえた気がした。

 

 その後、走った方向がよかったのか両親とはすぐに再会できた。へとへとになって近くの噴水で座っていた自分を父が抱き上げ、母に泣きながらに叱られた気がするが彼の耳にはあまり入ってこなかった。

 それよりも、あそこで見た地獄は何だったのだろう。本当は夢なのではないか。いや、夢なんかじゃない。帰るときに乗ったバスが偶然あのビルの前を横切って行った。そして、あのボサボサ頭の男の人が死んだ目をしながらビルから出てくるのを見てしまった。

 そして同時にある疑問にぶつかった。ポケモンマスターになれなかった人はどうなるんだ?もしかしてあの男の人のようになるのではないだろうか?

 出来れば外れていてほしいその予想は、夕食後に父が見ていたワイドショーで確信へと変わってしまうのだった。

 

現在

 

朝、

カチッというスイッチとともに目覚ましの音が鳴る

「コィッ!コイッ!ココココッ!コィッ!ココッ!コッ!ココwwコィッwwwコココww」

 バシン!

 と目覚まし時計を壊す勢いで止めると、半分覚醒しかけている頭をどうにか起こしリビングへと向かう。

「オウ!起きたなハジメ!おはようだ!」

「オハヨウお母さん…」

「今日はなんだった?」

「コイキング…」

 両親から誕生日プレゼントに貰ったスーパーボールは、百種類以上のポケモンの鳴き声がインプットされており毎朝セットした時間にランダムに再生される無駄に優れた目覚まし時計だ。快適な朝をポケモンとともに!が売り文句だった気がする。嘘をつけ。コイキングのじたばたが爽やかなわけあるか。

『僕には夢がある!私には未来がある!世界へ羽ばたけ!そう、鳥ポケモンのように!workingピジョン(ワーキングピジョン)

 詳しくは今日の朝刊の折り込みチラシで!などと付け加えるお馴染みのコマーシャル。両親は、あの日自分が見た光景はこの会社のそれだと教えてくれた。みんながみんなああなるわけじゃない。そうフォローしてくれたが、それでも現実に変わりなかった。

 このCMを見る度にあの日のことを思い出す。しかし、いつでもどこでも流れるこのCMのおかげで決心が揺らがなかったのは幸いである。

 

「いつまでボーっとしてるんだ?それより、ほら!今日の朝飯だ!」

 そう言って母がテーブルに並べる皿には美味しそうなオムレツが乗っており、その上にマンキーのケチャップアートが施されていた。

「…」

「どうだ!?今日のは何だか分かるか!?」

 キラキラと期待した目で自分を見つめるこの人は、本当に父の言う通りホウエンでその名を轟かせた怖いお姉さんなのだろうか。俄かには信じがたい。

 しかし、この朝のポケモンクイズを乗り越えなければおかずが減らされてしまうのは火を見るより明らか。

「マンk「…あ?」

 やっぱり元怖いお姉さんは本当かもしれない。

「…エネコかな?」

 どうだ?

「…そうかぁ!エネコか!惜しい、惜しいぞハジメ!今日はな、チョロネコだったんだ!」

 母の料理に問題はない。それどころか美味しいと学校の友達にだって自慢できる。…ディティール以外は。

 本当はマンキーじゃないことも分かっている。かわいいポケモンが好きな母のことだ。誰が好き好んでブタザルなんぞ描くだろう。

「おはよう!リサちゃん、ハジメくん!いい朝だね!」

 そんなやり取りをしていると父が起きてきた。

「オウ!朝飯で来てるぞ!今日はな、今日はな!チョロ」

「お、今朝のオムレツはオコリザルだね!ファイト一発、元気が出るねリサちゃん!」

「…」

「リ、リサちゃん?どうしたの?お顔が怖いよ?」

 顔が怖いなんて父にだけは言われたくないだろう。父は、この町で幼稚園の先生をする至ってまじめな人間だ。

 しかし、典型的な外見で損をするタイプの人間だった。大きな体にどう見てもその筋の人のようなこわもての顔、そのくせ趣味は編み物、性格は臆病で捨てられたポケモンを拾ってきては涙目で母に家で世話をさせてくれと泣きつく女子力高めの中年オヤジだ。

 そんな父だから母には頭が上がらない。

 母は無言のまま父の首根っこを掴み、その巨体を片手で引きずり寝室に放り投げた後ゆっくりと自分もその中に入っていった。母は決して大きくない。しかし、筋骨隆々の父の体を容易く放り投げる今年で30歳の母の背中にはハッキリと鬼が見えた。

 さて、今回はどれだけ持つだろう。

 

「申し開きはあるか?パパ?」

「ごめんなさい!あっもしかしてオニゴーリだったかな?」

 

 グロウパンチ! アァッー!

 

「許してリサちゃん!」

 

 クロスチョップ! ホゲエッ!

 

「え、えっと…」

 

 母は集中力を高めている!

 

「分かった!イッシュ地方の人気者!あのポケモンでしょ!?」

 

「!」

 母は集中力が途切れて技が出せなかった!

 

「…言ってみろ」

 

「マッギョ!」

 

「…」

 

「リサちゃん?」

 

 ビルドアップ!

 ビルドアップ!!

 ビルドアップ!!!

 ビルドアップ!!!!

 ビルドアップ!!!!!

 

 父は逃げ出した!

 母のとおせんぼ!

 父は逃られない!

 

 父のなきごえ!

 「許してリサちゃん!」

 母はかちきで攻撃がぐーんと上がった!

 

 メガトンキック! アヒィッ!

 じごくぐるま!  らめぇっ!

 ばくれつパンチ! ギャア!

 

 しばらくするとドスン!バタン!という派手な音が収まる。

 さて、そろそろ着替えないと

 

「ハジメぇ!ちょっとこっち来い!」

 

 母のほえる!ハジメは寝室(戦闘)に引きずり出された!

 

「今朝のオムレツが何か、そこでビチビチ跳ねているコイキングに教えてやれ」

「あれはとっても可愛いチョロネコちゃんです!」

「オコリザルじゃ?」

「ありません!」

「オニゴーリでも?」

「ありません!」

「当然?」

「マッギョなんかじゃ?」

「ありません!」

「でも本当は?」

「正直最初はマンキーかなって…ハッ!?」

ギアソーサー(げんこつグリグリ)!」

「痛ダダダダダ!」

 

 メイスイタウン、我が家の朝は騒がしい。特に母がオムレツを作った朝は宛らポケモンバトルのようである。

 




感想、誤字などありましたら書き込んでいただけると幸いです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。