走れ!ドーちゃん!   作:皿まんだ

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第九話

 枯れた味わいの町、コボクタウン。ミアレシティ5番ゲートからベルサン通りを抜けた先にあるこの町は古い建築物や古城が今なお残っており、ミアレから来たものは皆タイムスリップしたような錯覚を覚える。

 近代的なミアレシティとは意図的に差別化を図っており、田舎とはいえ静かなところが好きな旅行者や古城巡りの観光客などが落とす金でこの町は潤っていた。

 

 ハジメと別れて一週間、サナはこのコボクタウンのポケモンセンターで寝泊まりをしながらリビエールラインにある木の実畑で土いじりに精を出していた。

 彼と別れてからというもの何をしてもつまらなく、何を食べても味気ない、たまに挑まれるポケモンバトルも上手くいかず、勝ったり負けたりを繰り返すうちにやらなくなってしまった。

 バトルでレベルの上がったケロマツがゲコガシラに進化した時は流石に喜んだが、同時にこの感動を幼馴染と分かち合えなかったことに落ち込んだ。

 途中で合流し事情を知ったセレナたちに、一緒に来ないかと誘われたがどうしても行く気にはなれなかった。

 今の彼女には何か夢中になれるものが必要だった。

 セレナたちは、パルファム宮殿の城主から借りたポケモンの笛でカビゴンを起こしてさっさと先へ行ってしまい、さてこれから自分はどうしようかと行きついたのが木の実畑。

 体を悪くしてしまったという畑の持ち主に世話を頼まれてしまい、最初は断ろうかと思ったが他にすることもなく、家に帰るにはあのミアレを通らなければならないことを思い出し、旅をする目的を見失ってしまったのならと引き受けた。

 初心者のサナには一から木の実を育てることは難しかったが、その大変さと自分の手で成長していく木を見る楽しみが彼女の心を慰めた。

 思い出を作るために旅だった自分が思い出を捨て去るために躍起になっているのは何とも皮肉な話だ。そう考えることもあったが、当てのない旅を続けるよりも有意義だと決めつけ我武者羅に土と格闘した。

 

 そして今日は8日目の朝、一生懸命世話を続けた彼女の可愛い木の実第一号達の収穫が終わり、畑を貸してくれた礼に木の実を分け、次の栽培に必要な分と肥料用最後にあまった分を自分が貰い、今まで手伝ってくれたポケモンたちへのご褒美としてプレゼントした。 

 

「おじさん!今日は初めての収穫です。見てください!こんなに沢山採れました!」

「そうかいそうかい。それはサナちゃんが自分で育てたんだ。大事に使いなさい」

「ありがとうございます!でも、これはおじさんたちにプレゼントしちゃいます!畑を使わせてくれたお礼です!あたしの分はもう採ったので気にしないでください!」

「そうか、ありがとうねぇ」

「また採れたら持ってきますねー!」

 

 達成感とともに少し元気を取り戻した彼女は、新くなった土壌での仕事は明日に回し、今日は久しぶりに古城の散策でもしようかとコボクタウンをブラブラしていた。

 

「ゲコさん、今日はお散歩だよ!もしポケモンバトル挑まれたら久しぶりにやってみようか?今ならきっと勝てる気がするの!」

「ガラ!」

 

 新しい名前とともに生まれ変わった相棒が頼もしく返事をしてくれる。

 彼女は自分がトレーナーであるという自覚はある。自分の土いじりを嫌な顔ひとつせず付き合ってくれた彼らに、今度はトレーナーとして応えてあげなければと顔を張って気合を入れる。

 そして相棒たちのストレス発散の相手を探すため、サナはパルファム宮殿へと歩き出した。

 

 

 ……

 

 

 昼下がりのベルサン通り、一体のドードーがトレーナーを背に乗せ全力で走っている。

 朝早くミアレシティを旅立ったハジメとドードーは、ハクダンジムで撮った写真を道行く人々に見せながらサナを探し回った。知っているから教える代わりにと勝負を挑まれれば全力で挑み、経験値とわずかな手掛かりをもとにそれらしい人物がコボクタウンにいるという情報を掴むことができた。

 韋駄天のごとく大地をかける相棒の背中で彼は昨晩の出来事を思い出していた。

 

 母は男らしくなったと喜び、ジーナは少しむくれながらも旅の無事を祈ってくれた。

 出発の前に二人が用意したという業者の仕入れのように山積みされた傷薬とミアレ中の売店で買い占めてきたお守りを見たときは流石に驚いたが、自分の旅を応援してくれていることに嬉しくなった。

 この思いを無駄にしないためにも、何としてでも幼馴染と仲直りをしなければ。

 

「頑張れドーちゃん!コボクは近いぞ!」

「ダァー!!」

 

 相棒は勇ましく鳴くとさらにスピードを上げ、ポケポカ陽気の田舎道を爆走し続ける。

 

 ……

 

 それから間もなく、無事にコボクタウンに辿り着きポケモンセンターで休憩を取った後サナ探しを開始した。どうやら彼女がここにいるのは間違いないようで、何人もの人がこの町とその先のリビエールラインを行き来する彼女を目撃している。

 なんでも畑で木の実を栽培しているらしく、畑の持ち主と顔見知りだという親切な人が畑まで案内してくれた。

 

「本当にサナはここにいるんですか!?」

「ええ、一週間ほど前からここで木の実のお世話をしてくれていますよ」

「今はどこに?」

「さあ…でも散歩に行くようなことを言っていたので、ここら辺だとパルファム宮殿あたりかと」

「ありがとうございます。いくぞ、ドーちゃん!」

「ダァ!」

 

 確かにサナはここにいた。そして彼女にもうすぐ会える。

 木の実畑の男性に道を教えてもらい辿り着いた場所は、本当に豪華な宮殿だった。

 一般公開されている雄大な敷地は探すのに苦労しそうだが、またどこかに行かれるよりもずっとましだ。

 草の根一本掻き分けてでも探し出してやる。

 

「サナー!サーナー!」

「ダァー!ダァー!」

 

 ドーちゃんと二人で名前を呼びながら探し回るが、一向に見つかる気配はない。

 大きな声を出して疲れたため、噴水の傍で休んでいると茂みがいきなりガサガサと揺れた。

 もしかして、と思ったが出てきたのはトリミアン。そういえば入場料を払ったとき、執事らしき人に「城主のトリミアンが逃げ出したから見つけたら教えてほしい」と頼まれていたことを思い出す。

 このまま捕まえて引き渡してやってもいいが、絶対にそんなことはしたくない。

 自分だってこうして苦労して人を探しているというのに、何の義理があって人のポケモンを探してやらにゃならんのだ。

 それに、こんな立派なところで贅沢な暮らしているのに逃げ出そうとするポケモンだ。飼い主はきっと成金で業突く張りのろくでなしに違いない。本当に大切なら自分の足で探しに来いと心の中で悪態をつき無視を決め込む。

 すると、トリミアンの後ろでさらに茂みが揺れる。

 

「トリミア~ン?トリミア~ン?どこぉ?あっ!見つけたー!!」

「キャンキャン!」

「もう、あんまり変なところ行かないでよ!探すのすっごくたい…へん…で…」

 

『あ』

 

 間抜けな声がハモる。

 

 そして這い出してきた人物を見て固まってしまう。

 相手も同じように固まっている。

 そのまま時間が静止したようにお互い動こうとしない。

 

 目の前にいるのは間違いなく、自分が探し続けた人物だった。

 彼女は彼女で信じられないものを見るような目でこちらを見上げている。

 

「ダァ♪」

 

 ドーちゃんの鳴き声でふと我に返る。 

 そうだ、彼女に言わなくてはならないことがある。頭を下げて謝らないと。

 

「サナ!」

 

 名前を呼ぶと、彼女はビクッと体を震わせ一目散に何処かへと走り去ってしまった。

 

 ……

 

 まだ心臓がバクバクしている。どうして彼がここにいるのだろう。

 まさか自分を追ってきたのか?

 いや、そんなはずはない。彼は言ったではないか「ここでサヨナラだ」って。

 でも、自分を見て嬉しそうにしていた気もする。相棒のドードーもそうだ。

 

 だけど頭の中がグルグルして、気が付いたら逃げてしまった。

 だって彼と何を話せばいいのだ。自分も旅をやめてしまったこと、木の実を育てていること、パートナーが進化したこと。沢山あったはずなのに今は何も考えられない。

 とりあえず気持ちを落ち着かせるために垣根の陰にしゃがみ込み、息を整えていると後ろから声をかけられた。

 

「見つけたぞ、サナ」

「!?は、ハジメちゃん?」

 

 そうだ、彼のパートナーはドードー。一度あの子に捕捉されればいかに広い庭園といえど逃げ切ることなんてできない。どうして彼はこう私の心をかき乱すことが得意なんだ。

 せっかく見つけたトリミアンもほったらかしてしまったではないか。

 

 そうだ、今はトリミアンだ。あの子が逃げたことを理由にこの場を立ち去ろう。

 

「ハ、ハジメちゃん!あのね、今あたしトリミアンを捕まえるのにすっごく忙しくて、それで…」

「…さっきの犬ッころ捕まえればいいんだな?乗れ」

「ふぇ?」

 

 間抜けな声を出してしまうと、屈んだドードーの背に無理やり乗せられてしまった。そしてトリミアン目がけて走り出すドードー。

 彼にしがみ付いていると、何だか懐かしい気持ちになってくる。たった一週間顔を合わせなかっただけなのに、とても長い時間をかけて再会を果たしたような気がした。

 

 それから簡単にトリミアンは捕まり、あのお金持ちの飼い主に連行されていった。少しかわいそうだった。

 

「サナ」

 

 うやむやのまま帰ろうとするとまた後ろから声をかけられる。

 

「な、何の用かなハジメちゃん!あたしはすごく忙しいの!ハジメちゃんとお話しする暇なんてないんだよ!」

 

 違う。

 

「大体、ハジメちゃんもう旅しないんでしょ?こんなところにいてお仕事はいいの?」

 

 こんなこと言いたいんじゃない。

 

「仕事は止めた…というかなくなった。今はただのポケモントレーナーかな?」

「…え?」

 

 耳を疑った。あれだけ働くことを夢見ていた彼が仕事をやめたことが信じられない。

 

「サナ…ごめん。あの時は俺が悪かった」

「な、なに言ってるの?あたしなんのことだかさっぱり…そっか、コボクタウンで新しいお仕事探してるの?でも、ここはミアレみたいにおっきくないから他で探したら?木の実畑はあたし一人で十分だし!」

 

 違う、そうじゃない。何故彼を避けようとしているんだ。なぜ意地を張る。

 

「それなら独り言だと思って聞いてくれ」

「かっ勝手にすれば!」

 

 それから彼は語り始めた。

 仕事が見つかり一生懸命働いたこと、お母さんと喧嘩したこと、新しい仲間が増えたこと、大人のお姉さんにお説教されたこと、自分を騙していた経営者が正義の味方により成敗されたこと。

 そして最後に何度も何度も謝っていた。

 自分が悪かった。あんな酷いことをして許されるとは思っていないが、できることなら今度は自分からお願いしたい。と言いながら頭を下げ、手を差し出し

 

「俺と一緒に旅をしてほしい」

 

 涙が止まらなかった。でも、あの時とは違う。

 冷え切っていた心に温かみが戻る。

 本当は分かっていた。一生懸命木の実を育てても気休めにしかならないこと。自分とすれ違う旅のトレーナー達を自分と彼に重ね合わせていたこと。彼と一緒じゃなきゃ旅をしたくなかったから友人たちの誘いも断ったこと。

 彼のこの言葉をどれだけ待っていただろう。勿論良いに決まっている。

 嬉しくて嬉しくて、ホッと胸をなでおろしている彼の胸に思いっきり飛び込んでしまった。

 いつもはぶっきらぼうな言葉を吐きながらめんどくさそうにするだけなのに、今日はしっかりと抱きとめてくれた。

 やっと帰ってきた温もり。

 もう絶対に放すもんか。

 それから、悲しませた罰としてこれから我儘いっぱい言って彼を困らせてやるんだ。

 …嫌われない程度に。

 

 ……

 

 正直ビンタの一発も覚悟していたが、サナは自分の誘いに大きく頷いてくれた。

 全力でダイブしてきた幼馴染を引きはがそうとしたが、いつの間にかボールから出てきたカエル忍者がその手に渦巻く流水の球体を作っていることに気づき、慌ててしっかりと抱きとめる。

 こういう時のドーちゃんは非協力的だ。

 

 しょうがないから胸の中でスンスンと鼻を鳴らす彼女の頭を撫でて、改めてお礼を言う。

 

「ありがとうサナ。これからまたよろしくな?」

「…うん」

「これからどうしようか?」

「お腹すいた…」

「じゃあ飯食って、夜にトリミアン捕まえたお礼の花火見るか」

「…うん!」

 

 ……

 

 

 あのね……あたしね……男の子と二人っきりで花火なんてはじめてなんだよ。

 これから見る花火…ハジメちゃんと一緒だから一生の思い出にする!

 

 

 そういえばハジメちゃん、そのバッグ沢山お守りついてるね!何だかかわいい!

 え?ジーナさん?

 ……貸して!これも花火と一緒に打ち上げてもらうから!

 こんなにジャラジャラしてたら旅の邪魔だよ!

 

 

 

 




やっぱりサナちゃんといえばパルファム宮殿ですよね。
何も考えずにお昼にトリミアンを拘束してしまい、真昼間からムードもへったくれもない花火を見たのはいい思い出。
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