走れ!ドーちゃん!   作:皿まんだ

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第二話

 綺麗に舗装された一番道路、通称アサメの小道にまたがる二つの町アサメタウンとメイスイタウンは隣町というにはいささか近すぎるようにも感じる。そんなカロスの田舎町で子供たちが遊ぶ場所といえばそう多くはない。大体が近所の公園だとか、小さな小川、それから学校のグラウンドくらいのものだ。

 遊ぶ場所が限られればそこに子供が集まる。そこで年の近い者同士が仲良くなるのは必然といえば必然だ。

 

「何してるの?」

 まだ純粋にポケモントレーナーに憧れていた頃、近所の公園の遊具にも飽きてしまい、庭の木にゴムボールをぶつけてポケモンをゲットするトレーナーの真似事をしていると、垣根の向こうから声をかけられた。

 一人ノリノリでトレーナーごっこをしている所を女の子に見られる。そんな恥ずかしい出会い方が、幼馴染サナとのファーストコンタクトだった。

 

 それからというもの、幼稚園が一緒でここに住んでいることを知ったサナに事あるごとに連れ出され、クタクタになるまで振り回された。

 友達ができることは嫌なことじゃない。サナのおかげで後の悪友、肥満児ティエルノとカメラ小僧トロバ、そしてロリバトルガールことセレナとも親交を深めた。

 みんな同じ小学校に入学し、それから毎日のようにみんなで遊んだ。外に出てポケモンを探したり、流行りのゲームでコントローラーを取り合ったり、もちろん喧嘩もしたがすぐに仲直りできた。

 仲良しグループの中でもハッキリ言ってサナは人気者だった。容姿も良く男女分け隔てなく接するまさに天真爛漫マイペース、気のあるようなセリフで、スケベな男子は簡単に落ちる。たまに見せるアンニュイな表情もギャップ萌えなる長所だと悪友男子たちに鼻息荒く説明された。

 男子がいくらデレデレしようがもちろんサナにその気はない。悪気がないからたちが悪い。自分だけが悪友たちと別のクラスになったときは、女の子一人のためにクラスで村八分を経験するとは思わなかった。

 もちろんそんなことを知らない彼女はお構いなしにこっちのクラスに突撃してくる。

 

「ハジメちゃん!昨日のテレビ見た?」

「見て見て!アチャモのまね~」

「今日は川に遊びに行こ!昨日コイキングいっぱい見たの!」

「ハジメちゃんのママ強いね!ポケモンみたい!」

「今日ハジメちゃんの家で遊ぼ!」

 クラスメイトから白い目で見られたりもしたが、自分を連れ出す女の子の手を振りほどくことはできなかった。

 なんだかんだと言いながら、結局自分も楽しんでいたんだと思う。

 

 そしてあの日

 

「あたしね、大きくなったらポケモントレーナーになって旅がしたいの!ハジメちゃんは?」

「…トレーナーにはなるけど、旅はしないよ」

「え~!何で何で!絶対楽しいよ!」

「旅に出て何するの?」

「それは…えっと、美味しいもの食べたり、いろんなポケモンと友達になったり、あ!ハジメちゃんジム戦したらいいよ!この前ポケモンバトルの体験授業でセレナちゃんに勝ったんでしょ?絶対才能あるよ!」

「…サナ、あの時はみんなレンタルしたポケモンだったでしょ?何がボールに入ってるか分からなかったし、あの時俺のポケモン何だったか覚えてる?」

「えっと…スカタンク!」

「じゃあセレナは?」

「…キャタピー」

「結果は?」

「えっと…スカタンクがキャタピーにお、お尻を向けたと思ったら……その後キャタピーが動かなくなって…それで」

「バトルにもならなかったよ!こんな恥ずかしい結果のどこら辺に才能を感じたんだ!教えてくれ!さあ!何処だ!ん?言ってみろ!!」

 

 お互い顔から火が出るほど恥ずかしかったが、あの時のセレナの悔しさは尋常ではなかっただろう。エリートトレーナー夫妻の一人娘、才能豊かな少女が一体どんなバトルをするのか、みんな興味津々だった。

 しかし、結果はぐーたらスカタンクの悪臭によるキャタピーの一発ノックダウン。

 お世辞にもポケモンバトルとはいえないお粗末な結果に、クラスメイトは大爆笑。初めてのバトルではよくあること、こんなこともあるという係のお兄さんのフォローがおいうちをかけた。

 セレナはその場で顔を真っ赤にしてプルプルと震えだし、焦点の合わない目から涙をこぼしながら笑っていた。何とも器用な奴だ。

 「こんな屈辱」とか「いつかトレーナーになったら」とかブツブツ呟いていたが、きっとこのことをバネに良いトレーナーになるだろう。

 

「自分のポケモン貰ったらあんなことにはならないよきっと!それに楽しいことがいっぱい待ってるよ!色んな町を旅して、見たこともないポケモンに出会えるの!」

「町には電車かバスで行けばいいし、ポケモンならテレビでもパソコンでも見れるでしょ?」

「うぅ~っ!ハジメちゃんの意地悪!そんなこと言うと一緒に旅してあげないよ!」

 一緒に旅させる気だったのかこの褐色娘は。なんと無防備な。

「じゃあ、あいつら誘えばいいじゃん」

「さっき断ってきた!」

 エヘヘーと笑いながら目の前の女の子はなんて残酷な仕打ちをするのだろうか。

「セレナは?」

「ハジメちゃんも一緒って言ったら断られちゃった!」

 

 まったく、あのバトルガールは肝心な時に役に立たない。

 

「とにかく、俺には夢がある。その夢のために旅なんかで時間を無駄にはできん」

「ハジメちゃんの夢って?」

「ホワイト企業に就職し、悠々自適な毎日を過ごすのだ」

「何かジジ臭いよハジメちゃん。何なのホワイト企業って?ペンキ屋さん?」

「違う違う、いいか?ホワイト企業っていうのは」

「ん~!もう!ダメダメ!駄目だよハジメちゃん!ペンキ屋さんなんかよりポケモンと旅するほうが絶対楽しいもん」

 …人の話を聞かぬ生意気娘め、いうに事欠いて人様の夢をペンキ屋呼ばわりとは…こうしてくれる

「い、イヒャイヨハヒヘヒャン」

「うるさい、ホワイト企業の素晴らしさがわからないお子様には丁度いいお仕置きだ」

「ほっぺた伸びたらどーすんの!」

「学会に新しいポケモンとして登録してやる。っ!…そうだ、そんなに一緒に旅したいか?」

「ふぇ!?そ、そりゃあ…一緒に旅したら楽しいだろうし、その、もっと仲良くなれたりなんかして…」

「ん?ゴニョニョの真似ならよそでしろよ?」

「何でもありません!」

「?」

「それで、一緒に旅してくれるの?」

「しない」

「嘘つき!」

 涙目になり始める幼馴染を見て慌てて説明する。

「何もただ断るわけじゃない。賭けをしないか?これから俺はミアレにある色んな学校、学園の中等部の編入試験を受ける。もし、全部不合格だったら俺も諦めがつく。旅でも何でもするよ」

「ん?ハジメちゃん今何でもするって」

「調子に乗るな」

「イヒャイ…」

「とにかく、どうだこの賭け乗るか?」

「約束してくれる?」

「する!」

「じゃあ、約束だよ!ゆーびきーりげーんまーん!」

 

 ………

 

 思い出した。

 あの日、確かに約束した、してしまった。何校も受験するんだから一校くらい引っかかると高をくくっていたあの日の自分を殴り飛ばしたい。

 そういえば、学校の通信簿にも『成績もよく友達も多くこれといって問題点はありませんが時々達観したような言葉を発する、機嫌がいいと調子に乗って誰もしないそうな失敗をすることがあるので心配です』と担任の先生が書いていた気がする。他人の評価なんて当てにならないと思っていたが、あの時もっと気を付けていればこんなことにはならなかったかもしれない。

 どうしよう、今から親に頭を下げてジョウト地方に連れてってもらい、噂に聞く伝説のポケモンを探して時渡りをしてもらおうかな…。

 

「さあハジメちゃん!約束だよ!」

 せっかく現実逃避していたのに幼馴染の声で引き戻される。

「まず教えてくれ。不合格をどこで知った?」

「今日ハジメちゃんの家に行ったらハジメちゃんのママがニコニコしながら話してくれたよ!受験は駄目だったけどあいつは将来立派な男になるって!試験全部駄目だったんでしょ!」

 あの母は、本当に引きこもってやろうかコンチクショウ。それに目の前の幼馴染は純粋に人の不幸を喜んでやがる。一緒に旅ができると思ってるな小娘め。

「それからどこに行ったか聞いて急いで追いかけてきたんだよ!」

「そっか、それはごくろうさん。俺はちょっと忙しいから旅はまた今度な?」

「うん!またね………ってそうはいくかぁー!!やっちゃえケロちゃん!」

 お、サナはケロマツ貰ったのか。中々かっこいいな、こう忍者っぽくて。

 

 ん?何だ?足が思うように動かない。

 

「…サナ、何だこれは」

「ケロちゃん特製ケロムースだよ!約束守ってくれるまで逃がさないんだから!」

 なるほど、中々頭を使うようになったじゃないか。

 だがサナよ、悪いが今日は店仕舞いだ。ドーちゃんも今日は疲れてるし、こんなことをしているとドーちゃんがまた…

 

 

 

 ドーちゃん?

 どうしたの?

 何でさっきから片足で地面を蹴ってるの?

 それじゃまるで臨戦態勢だよ?

 ポケモンバトルになっちゃうよ?

 ん?ああ、俺が攻撃されたと思ってるんだね?

 主人思いのポケモンを持ってなんて幸せなんだろう。

 でも、大丈夫だよ?気にしてないからボールに戻ろう?ね?いい子だから。

 

 

 こりゃ駄目だ。いつもは可愛いつぶらな瞳が、今は射殺さんばかりに鋭くなり、ケロマツを捉えてる。

 こうなったらバトルして相手を倒すまでいうこと聞かないな多分。

 小さい時、野生のデルビルに追っかけられた時もそうだった。ドーちゃんは自分とデルビルの前に割って入り、今みたい地面を蹴って砂埃を巻き上げながら相手をにらみつけていた。

 

「ハジメちゃん?ど、ドーちゃんはどうしちゃったの?」

「お前のケロマツがケロムース投げたから、ドーちゃん俺が攻撃されたって勘違いしてるんだよ」

「え、あ…あたしそんなつもりじゃ…」

 サナは焦っているがもう遅い。それが攻撃にしろ威嚇にしろ、先に仕掛けてきたのはそっちだ。

 もうバトルは始まってしまっている。

「こ、こうなったらバトルに勝って、それからハジメちゃんに約束守ってもらうんだから!行くよ、ケロちゃん!」

「ドーちゃん油断するなよ!…ってあまり聞こえてないね。ほどほどに頑張ってね。ドーちゃん…」

 デルビルの時みたいにボロ雑巾は駄目だよ?

 

 

 ……

 

 結果から言ってバトルには勝った。

 何も命令しなくても。

 サナは考えなしに攻撃を指示し、がむしゃらに突っ込んできたケロマツをドーちゃんがかわす。

 着地したケロマツをドーちゃんが地面に抑え込み、一対の自慢のくちばしでいたぶり始めた。

 抵抗が弱まったところで足をよけ、ケロマツの両前足をくちばしではさみ、ドーちゃんの二つの首が反対方向に引っ張り始めたところでサナがモンスターボールに戻した。

 

 バトルが終わったときサナは泣いていた。

 

「何か、ごめん」

「うえぇーん!…ハジメちゃんの嘘つきィ…」

「悪かったよ」

「鬼ぃ…鬼畜ぅ…」

「ドーちゃんもほら誤ってるからさ、泣き止んで?」

「変態ぃ…すけこまし…ごうかんまぁ…」

「しまいにゃ怒るぞサナ。とにかくポケモンセンター行くぞ」

「うん…」

 

 ほどなくしてケロマツは元気になった。

 ドーちゃんもサナとケロマツにペコペコ頭を下げ、何とか仲直りすることができた。

 今日のバトルは明日の糧に、きっとこの苦い経験が彼女をより大きく成長させることだろう。再び会い見えるその時までに我々も強くならなくては。

 

 別れは惜しいが行くぞ。

 走れ!ドーちゃん!

 

「待って!」

 

 …今いい感じだったじゃん。

 

「ハジメちゃんは約束を守ってくれないような…えっと、そう!情けない男になるつもりなの!?責任とってよ!責任!」

 声がでかい声が。第一さっきといい、そんな言葉どこで覚えてくるんだこの子は!

 センター中に響いてしまったじゃないか。

「約束…責任…グス…ふえぇ」

「泣くな泣くな泣くな!分かった、分かったから!」

 

「ママー、あのお兄ちゃん女の子泣かせてるー」

「しっマー君見ちゃいけません!」

 

 事情を知らない人間は好き勝手なことを言うから困る。

 

「とにかくちょっとこっち来い」

「ふぇ?」

 

 サナの手を取り外のベンチに腰掛ける。

 しょうがない、いつまでもグスグス泣かれたら困るし、このことがどこかでうちの両親の耳に入ってみろ。

 あの母親にどんな折檻を受けるか分からない。

 

「約束は守る」

「…っ!ハジメちゃん!」

「ただし!俺はホワイト企業に就職するために職探しをするんだ。一緒に旅をするのは仕事が見つかるまでだからな!」

「うん!うん!分かった!これから一緒に頑張ろうね!」

 

 本当に分かっているのかこいつは。

 

「見ての通り俺は何の準備もできていない。今日帰って親に事情を話して、許しが出て旅はそれからだぞ?」

「うん!じゃあ、一緒に帰ろ!」

 

 ポケモンセンターに泊まればいいのに、お前も帰るのか。そうツッコミたくなった。

 ポケモントレーナーになって旅だったのに、家にとんぼがえりする娘を見てこいつの親は何と言うだろう。

 きっと、ニコニコしながら今日のことを話すのだろう。そして両親は改めて快く送り出すのだろう。

 

 結局旅に出てしまう、これから先どうなるのだろう。

 でも、職安だけが就活じゃない、旅先でもきっとチャンスがあるはずだ。

 そうだ、それにこれからは二人旅なんだ。

 きっと思い出をたくさん作るいい機会だ。

 今までだって楽しいこと、辛いこと、悲しいこと、くだらないこと、色々あったがどれもいい思い出ばかりじゃないか。 

 

 ほら、目を閉じれば素敵な…

 

 サナに脅かされつりざおごと川に落ちた俺

 お泊り保育で夜中、サナのトイレに起こされた俺

 二人でテレビを見ていて、たまたま出ていたジョウトのジムリーダーイブキさんの真似をするといってスク水にバスタオル姿で駆け回るサナ

 それを止めさせようとバスタオルを掴む俺

 タイミングよく帰ってくるサナの母

 その日何故かお赤飯をごちそうになった俺

 帰ったらサナの母親から電話をもらった我が母にからてチョップと説教を食らう俺

 

 あまりいい思い出がないな、うん。

 やっぱり、断ればよかったかもしれない。

 

「ハジメちゃん!置いてくよ!」

 

 頭を使っていたら足が止まっていたらしい。

 ぼんやりとしているうちに、いつの間にかサナは自分の遥か前方を歩いている。

 

 振り返りながら叫ぶ幼馴染を見ていると、職安であれだけ悩んでいた自分が馬鹿らしくなり、近くのごみ箱に就活ガイドブックを捨ててドーちゃんに跨った。

 




ポケモンバトルの描写は苦手です
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