走れ!ドーちゃん!   作:皿まんだ

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第三話

「そうだな…男ってーのはいつか旅立つもの。お前がしっかりとサナちゃん守ってやるんだぞ!とーちゃんとかーちゃんのことは…ことは…ウゥ…し、心配するなコンチキショウ!」

 あの後家に帰って夕食を食べながらハクダンシティであったことを話すと、母はいきなり背骨が悲鳴を上げそうなハグをしてウオーー!と号泣しだした。

 母の胸の中でモガモガしていると、父から荷造りの済んだリュックを手渡された。

 サナがうちに来た時、もしかしたらと思い二人で準備していたらしい。

 正直、少しは引き留めてくれるもんだと思っていたが、こうまで後押しされると行きたくないとは言いづらい。

 斯くして次の日の朝には、父の二倍ほどもある横断幕を泣きながら振る母、太鼓を叩く父、そしてサナのご両親の万歳三唱に見送られ二人で顔を赤くしながら出発した。

 

「そういえばサナ、お前のご近所さんはどうしたんだ?」

「カルムのこと?一緒にポケモン貰って初めてバトルした後すぐにどっか行っちゃったよ?」

 

 プラターヌ博士というポケモンの研究をしている人に選ばれたアサメタウンのトレーナー、カルムは最近になってカロスに越してきた男の子。本来であれば図鑑とポケモンを貰うはずだった自分の代わりに選ばれたらしい。

 プラターヌ博士にお断りの返事を送った時はみんなに驚かれた。サナは何だか残念そうに俯き、いつもクールなセレナは握り拳を作って地団太を踏んでいた。誰が好き好んで廃人ロードを突き進んだりするもんか。

 まあ、精々図鑑完成でもポケモンマスターでも目指すといいだろう。あとで泣きついても金は貸さんぞ。

 

 ……

 

 サナと一緒に歩くからいつもの倍以上の時間をかけてやっとハクダンの森入口に着いた。

「さ!ここからハクダンの森だよハジメちゃん!」

「何度も通ってるよ。ドーちゃんに乗って行けばすぐ抜けられるのに何で歩くんだよ?」

「ダメダメ!旅は自分の足で歩かないと!それに可愛いポケモンにも出会えないよ!」

「トレーナーは?」

「頑張れハジメちゃん!あ、弱そうな人がいたら教えてね!」

「……生意気言うのはこの口か?ん?」

「ホヘンニャヒャイ」

 

 その後、野生のポケモンを倒したり、短パン小僧にミニスカート色んなトレーナーとバトルした。サナもバトルに慣れてきたようで、ケロマツとの息も合い始めたようだ。

 それからやっとの思いで森を抜けそうになったのに、幼馴染がぐずりだした。

 

「どうしたサナ?もう出口近いぞ?」

「…チュウ」

「は?」

「ピカチュウ!」

 いきなり大声出して、ピカチュウが何だというんだ。

「ピカチュウゲットしたいの…でも、全然いないし、あたしピカチュウに嫌われてるのかなぁ…」

 両の目に涙を溜めながら蹲るサナ。

「もし、ピカチュウが出てきたらどうするんだ?」

「バトルしてゲットする!」

「…ケロマツのタイプは?」

「え、水だけど…あっ…」

 やっぱり忘れてたか。

「さっきの連戦で疲れている上に相性の悪いピカチュウ相手にしたらケロマツかわいそうだろ?」

「…じ、じゃあハジメちゃんと二人で一緒に!」

「ドーちゃんも飛行タイプだ」

「あぅ…でも、ピカチュウ…」

「もう日も暮れてきたし、ハクダンシティに向かおう?」

 正直初日から野宿何てごめんだ。さっさと諦めてもらって

「やだ」

 …は?

「…ヤダ!ヤダヤダ!ピカチュウ見つけるまで動かない!」

 こうなってしまうとサナは梃でも動かない。昔っからそうだった。

 遠足でたまたまセレナとお互い嫌いなおかずを交換していた時も、何でも食べるサナが自分のおかずを差し出し、それを食べるまでフォークを下ろそうとしなかった。

 聞き分けのないわがまま娘め、もう知らん。

「じゃあ、そこでずっとそうしてろ!」

「うっ…は、ハジメちゃんの馬鹿ぁー!」

 

 わーん、と泣き声が聞こえるが知ったことか。そうだ、ここで振り払えば俺も晴れて自由の身。

 丁度ハクダンシティに向かってるんだしそこでもう一度これからのことを考えよう。

 サナには悪いがこれも輝かしい未来のためだ。

 人生山あり谷あり。

 サナ、今日のことを忘れるなよ?

 さあ、出口に向かって走れ!ドーちゃん!

 

 ……

 

 なんだこいつは、何で道を通せんぼしているんだこの電気ネズミは。

 右へ避けようとすると回り込まれ、左にかわすと付いてくる。おまけに可愛い電気袋をバチバチいわせて、まるで自分に勝たなきゃこの先へは行かせないといわんばかりじゃないか。

 そうだ!

 こいつを捕まえてサナへの手切れ金代わりにしよう。

 バトルにも慣れてきたんだし、ポケモン二体もいればあいつも一人旅になっても大丈夫だろう。喜んで受け取るに違いない。

 両親にはお互い進むべき道が違ったとでも言って納得してもらい、俺は今まで通り就職活動。

 四方八方丸く収まり万々歳だな。

 

 「そうと分かればドーちゃん、相性悪いが行ってくれるか?」

 「ドー!!」

 

 おお、ドーちゃんやる気満々!

 これはすんなりゲットして、後は俺の筋書き通りだな。

 さあ、いけ!ドーちゃん!

 

 

 

 

 

 

 …ポケモンゲットにも才能がいるんだな。

 切り株に腰かけてドーちゃんに傷薬を吹きかけながら、12個目にしてやっと大人しくなったピカチュウ入りモンスターボールを眺める。おかげでメイスイタウンでの買い置きがパーになってしまった。

 傷が癒えたドーちゃんを連れ、そこらに散らばった11個の空のモンスターボールを拾い集めながらサナを探すことにする。

 空のモンスターボールはショップに持っていけば回収してくれる。回収されたモンスターボールはボール工場でまた使えるようになるらしい。前々からモンスターボールの構造は気になっていたが、ボール工場勤務もいいかもしれないな。

 

 そんなことを考えていると目の前を全速力で横切るサナに出くわした。

 声をかけようとするが、後からブーンという羽音が聞こえてくる。慌てて隠れると数匹のスピアーがサナを追いかけているようだ。あいつ、コクーンの巣かなんかにちょっかい出したな。

 

 冗談じゃない、ここで怪我でもさせて見ろ。サナの親のことだ、ピカチュウ一匹で許したと思ったら云々かんぬんと難癖漬けてサナが満足するまで意地でも彼女の旅に同行させるに違いない。それに家のお母様にも折檻される。

 そうなれば何処とは言わないが「にぎりつぶす」の一つも覚悟しなければならない。

 ぶるっと身震いして、内股になりかけながら急いでドーちゃんに跨る。

 スピアーに見つからないように全速力で回り込み、サナの前に出た。

「…は、ハジメちゃん?」

「乗れ!」

「で、でも…」

「いいから早く!握りつぶされないように!」

「う、うん…」

「走れ!ドーちゃん!」

「ダァ!」

 

 一声鳴いて駆け出すと、あっという間に森を抜けた。

 ポケモンセンターに着いて回復を待っていると、サナが近づいてきた。

 

「ハジメちゃん…。その、ありがとう」

「気にするな、握りつぶされないためだ」

「え?でも、スピアーって」

「気にするな!…こっちの話だ」

「う、うん………あっ!そういえば、ハジメちゃんポケモン捕まえたんだね!さっきボール2つ預けたでしょ?…すごいなぁ…あたしなんて、やっと見つけたピカチュウにボール投げたら…コクーンの木に当っちゃって…それから、それから」

 ふえぇ…とサナが泣き始めた時、回復終了のチャイムが鳴る。

 

「サナ、図鑑貸せ」

「ふえ?」

「ちょっと待ってろ」

「グスン…なにするの?」

 

 ポケモン図鑑はこの地方の研究機関のお墨付きトレーナーの証。

 旅をする図鑑所持者がポケモン調査の一環とかそれらしい理由を言えば、関係者しか入れないような危険な場所へ立ち入り、ポケモンの捕獲やバトルが許可される簡易パスポートにもなる。

 ポケモン図鑑にはそれだけの影響力がある。

 図鑑所持者は、それだけで信頼に足る人物になるということだ。

 だから、トレーナーカードだけを所持する者同士の手持ちポケモンの変更手続きよりは申請が楽なはずだ。

 例のモンスターボールと自分のトレーナーカード、それからサナの図鑑をジョーイさんに渡して手続きを済ませてからサナの元に戻る。

 

「今ジョーイさんに頼んでモンスターボールのトレーナー登録を変更してもらった。今日からお前のポケモンだ」

「え?」

 サナにモンスターボールを手渡すと、中から散々俺を苦しめた子憎たらしいあの電気ネズミが出てくる。

「こ、これって!」

「そいつが道塞いで森を出られなかった。いいか?そいつやるから旅は」

「ハジメちゃん!」

 まだ言い終わってないのに抱き着いてくる薄着で無防備な幼馴染。

 嗚呼、こいつも中々成長したんだなと鼻の下が伸びそうになるのをグッと堪え引きはがす。

 …もうちょっと堪能すればよかった。

 

「ママー!あのお兄ちゃんデレデレしてるー!」

「マー君!あれがプレゼントで女の子を誑し込む男の手口なの!真似しちゃだめよ!」

 

 失礼なことを言うな。これはただの手切れ金だ。

 

「この子すっごくすっごく大事にするね!」

「そうかそうか、それは良かった。じゃあこれからの旅は」

「うん!あたしももっと頑張る!」

 いや、そうじゃなくてね?

「ハジメちゃん!」

 本当に話を聞かない奴だなこいつは。

「…何?」

 サナはピカチュウを抱きしめながら少し距離を取り、胸いっぱいに息を吸い込んだ。

 なにを始める気だこいつは。

「…いっぱい迷惑かけるかもしれないけど、これからもあたしと一緒に旅してください!」

 

 声がでかいんだ声が、またセンター中に響き渡ったじゃないか。

 みんな何注目してるんだ、見世物じゃないぞ。さっさとポケモン預けろよ。

 ジョーイさんも仕事しろよ仕事。

「…駄目?」

 赤の他人のはずなのに、周囲のプレッシャーがすごい。

 こんなに人がいちゃ断れない、確信犯じゃないかこいつは?

「…コチラコソヨロシク、サナ」

 

 その瞬間、ワアっと歓声が上がり周囲の人たちから拍手される。

 

「イイゾー」

「オメデトー」

「爆発しろー」

「男死ねー」

「女の子カワイイー」

「いいんじゃない、いいんじゃないの!バトルで勝利を狙うように、シャッターチャンスを狙っていくんだから!」

 

 いろんなことを言われて、誰かに写真もいっぱい撮られて、ジョーイさんにもニヤニヤされながら宿泊の手続きを済ませた。

 

 

 

 ……

 

 いつからだろう、他の友達とは違う目線で見るようになったのは。

 いつからだろう、女の子と仲良くしているのを見るとイライラするようになったのは。

 いつからだろう、旅をするなら一緒じゃなきゃ嫌になったのは。

 

 小さい時から体を動かすことが好きだった。たまたまボールを投げて遊んでいた子を見つけて、気が付いたら仲良くなっていた。色々なところに二人で行って、ポケモン見つけたり、泥だらけになって二人して叱られたり。

 本当に楽しかった。

 ある日、その子の雰囲気が少し変わった。いつものように遊んでいてもボーっとして何かを考え込むようになった。

 その子が何だか遠くに行ってしまう様な気がして、私は余計に連れまわした。

 うんざりしていたかもしれない、それでもいつも嫌って言わずに付いてきてくれた。

 

 小学校に上がった。お母さんはもう少しお淑やかにしなさいって言ってたけど、スカートはいて読書したりアイドルの話をするより、男の子に交じってボールを追いかけて、一番強いジムリーダーは誰か競い合う方が楽しかった。

 クラスが別々になったときは本当に寂しかった。

 だから休み時間になると真っ先に彼のクラスに行った。

 クラスの女の子に冷やかされたときは恥ずかしかったけど、ちょっと嬉しかった。

 彼は色々なことを教えてくれた。

 ポケモンのこと、勉強のこと、テレビ番組のクイズの答えまで言い始めたときはさすがに怒った。

 彼がポケモンバトル体験授業でセレナちゃんとバトルするって決まったとき。胸のあたりがもやもやした。

 自分のポケモンじゃないけど、初めての体験を彼と分かち合う女の子に嫉妬した。

 バトルの結果には何だかホッとした。あれならお互い初バトルなんて認めないだろう。

 卒業が近づいたとき、彼の口から信じられない言葉が飛び出した。

 

 

 旅には出ない

 

 

 自分と同じようにポケモンを貰って旅に出るものだとばかり思っていた。

 だから決めていた。卒業したら彼を旅に誘おうと。

 卒業したらもう会えなくなると思ったら涙が止まらなかった。

 すると彼は慌てて話し始めた。

 

 もしも進学できなかったら、その時は旅をする。

 

 彼は約束してくれた。

 私は嫌な子だ。彼の夢を応援しなければならないはずなのに、そんな試験落ちてしまえばいいと心のどこかでずっと思っていた。

 彼には悪いが、受験に失敗したと聞いたとき正直嬉しかった。一緒に旅ができる!

 急いで彼を追いかけて、それでも逃げようとする彼を足止めし、貰ったばかりのパートナーと何とかバトルにこぎつけた。

 

 結果は散々。

 彼のドードーに手も足も出なかった。しかも彼は何の命令も下さず、ただこちらをじっと見つめるだけだった。

 それはそうだ、受験に失敗したとはいえ彼は人知れずずっと努力してきた。もちろんポケモンに関する知識も自分より豊富だろう。自分なんかが勝てるわけがない。

 これで本当にもう駄目だ、もう自分と彼を繋ぎ止められるものが他にないと考えると涙が止まらなかった。

 泣き出した私を見て、きっと彼は渋々だったのだろう。条件付きだが一緒に旅をしてくれることになった。

 それだけで本当に嬉しかった。

 いつかは別れなければいけない。でも、少なくともそれは今じゃない。

 これからは、二人で喜びや悲しみを分かち合えるのだ。

 旅だったのに家に帰ってきた私を見て母は驚いていたが、訳を話すと私の両肩を掴んで、絶対に放すな!この旅で必ずものにしろ!とよくわからないことを言っていた。

 母の言っている意味が分からず父に尋ね、聞かなきゃよかったと後悔した。

 

 彼は何を考えているか分からないこともあるが、ポケモンが好きで本当はとても優しいことを私は知っている。

 そんな人じゃなければ、こんな感情は生まれたりしないはずだ。

 最近では、お仕置きで頬っぺたを引っ張られても彼の優しさだとわかると、嫌じゃなくなりムズムズとしたよく分からない気持ちになる。正直ちょっと癖になっている。

 

 ドジをしても、わがままを言っても必ず私を助けてくれる。

 今日だってそうだ。

 喧嘩別れしたはずなのに、スピアーに追われていた私の前に颯爽と現れ、相棒に乗せてピンチから救い出してくれた。

 そしてポケモンセンターでぶっきらぼうに渡されたモンスターボール、そこから出てきたピカチュウを見て、天邪鬼な彼の優しさに胸が熱くなり抱き着いてしまった。

 はしたない子だと思われてないかな?

 

 そのあと勢い余って告白まがいの仲直りをしてしまい、散々周りから冷やかされてしまった。

 そういえば学校の通信簿に『元気なのは良いことですが興奮すると周りが見えなくなることがあります。男の子にいらぬ勘違いをさせてしまいそうで先生心配です』って書かれたっけ。これから気を付けないと。

 でも、勘違いって何だろう?

 

 今日は二人で旅して初めての夜。考えてみると彼と部屋に二人っきり。

 意識すると顔が熱くなってくる。

 駄目だ駄目だ。

 明日も早いんだから早く寝ないと。

 

 

 

 

 …小さい頃は当たり前だったし、一緒に寝ようって言ったら怒られるかな?

 

 

 




女の子視点って難しいですね
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