走れ!ドーちゃん!   作:皿まんだ

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第四話(前編)

 朝、目が覚めるとサナが起きていて丁度髪をセットしている所だった。

 ティエルノたちよ、髪を下ろしているサナを見たことはあるまい。役得役得。

 そんなことを考えていたらサナがこっちに気づき、顔を赤くしてしどろもどろになりながら挨拶するので、何だかこっちも気まずくなってしまった。

 

 それから、ポケモンセンターの食堂でサナと朝食をとっていると、中央の大型テレビからニュースが流れる。

 カロスで人気の美人キャスターが読み上げるその内容は、聞いていて気持ちのいいものではなかった。

 

 『……次のニュースです。…ジョウト地方、エンジュシティ出身のアジツキ・ノリオさん31歳、無職がウバメの森付近で行方不明になったことが本日、警察の発表で明らかになりました。…同様にウバメの森で消息を絶つ事件が相次いでいることから警察は、トレーナーを挫折し就職できずに行き場をなくす成人した男女、通称「ビッグチャイルド」をターゲットにした最近ジョウトで流行している手口「時渡り詐欺」の被害にあったものとみて捜査を進めています。…また、この一連の事件の陰には大きな犯罪組織が絡んでいるものとみて、警察はポケモンセンターやworkingピジョンなど、ポケモンやトレーナーを扱う各所に警戒を呼び掛けています』

 

 ニュースを聞きながら自分の目の前にある食事を見て、思わずため息が出る。

 ポケモンセンターの食事は不味くない、寧ろ美味いから腹が立ってくる。

 10歳とともにポケモンを持つことが許される子供たちは、各地にある公共の施設で簡単な適性検査と原付免許より簡単といわれている試験に合格し、よく育てられたレンタルポケモンで実技を突破すれば簡単にトレーナー免許が発行される。そのおかげで「世界一簡単な国家試験」と揶揄されることもある。

 そんな自動ドア同然の登竜門を潜り抜けて各地のポケモンセンターが使い放題になるのだから馬鹿らしくなってくる。

 暖かい寝床に清潔感を保てるお風呂、そして目の前の美味しい食事が無料で提供されれば、自分が昔見ただらしない大人たちが世の中にポンポン生み出されるのは当たり前といえば当たり前だ。

 

「ハジメちゃん、怖いニュースだね」

「心配ないよ、俺たち子どもは狙われない」

「どうして?」

「それは………若くて夢があるから?」

「アハハハハ!何それ!」

 自分でもよく分からないが、この抽象的で曖昧な答えが一番しっくりくる。

 

「それよりハジメちゃん、今日の予定は?」

「仕事探す」

「また?何か他のことしようよ!それでね、ハクダンシティにあるお洒落なカフェで最近人気のメニューがあって…」

「食べに行けばいいじゃん」

「一人じゃつまんない!」

 

 しょうがない、もう一度この旅のルールを教えてやる必要があるな。

 

「サナ、夕べ決めたこの旅でのルールその一!」

「…ハジメちゃんは町に着いたらまず仕事を探します。これは第一優先事項です」

「ルールその二!」

「…そこで仕事が見つかればこの二人旅は終わりです。お互い自分の夢に向かって頑張りましょう」

「……そして不本意だが、その三」

「お仕事が見つかりそうにない時はさっさと諦めて、幼馴染のサナちゃんと気分転換したり、ポケモン探したり美味しいものを食べたり、楽しく素敵な二人旅を続行します!!」

 

 何でそこだけハキハキ言えるんだこの。

 

「ハヒヘヒャン、ニャンへ?」

「うるさい、人にとって都合の悪いことを喜ぶ奴にはお仕置きだ」

 

「でも、あの会社だけが仕事探しじゃないと思うよ?」

 いつもはのほほんとしているくせに、偶に鋭いことを言う。

「じゃあどうするんだ?」

「だから!workingピジョンでウンウン唸るよりも、このお店でディアボロと今人気の…」

「却下」

「もう、意地悪!」

「そこで食ったり飲んだりすると、仕事貰えるのか?」

「そうじゃないけど…もう少し一緒に旅らしいことしたりとか…あ、じゃあジム戦は?」

「別にバッジほしくないし」

「これじゃ旅って言えないよぉ…」

「だから、これはジム巡りじゃなくて仕事探しの………ん?」

 

 そうか!その手があったか!

 

「サナ!」

「なあに?」

「良くやった!これからジムに行くぞ!」

 

 素晴らしいアイディアのヒントをくれた幼馴染の頭をナデリコナデリコしてやる。

 いいことをしたらちゃんと褒めてやらないとな。

 

「ふぁ…は、ハジメちゃん?」

「よーしよし!よくやったぞサナ!」

「エへへ、よく分かんないけどくすぐったいよぉ」

 

「ママーあれってイチャイチャっていうんじゃないのー?」

 

「マー君…あなたはお外に行ってなさい。…出ておいでメタグロス!我が想いに応えよ!メガ進化!」

 

 ん?何だか向こうが騒がしいな。

 まあ、気にするほどでもないだろう。サナも嬉しそうだし、もう少しご褒美上げても罰は当たらないだろう。 

 

「いいかい?あの二人のところへ行って『だいばくはつ』よ?だ・い・ば・く・は・つ!分かった?…嫌がるんじゃないの!またお仕置きされたいのかい!さあ、とっと爆ぜてきな…え?何ですかジョーイさん?気持ちは分かるけど、ポケモンセンターの外にしてくれ?……仕方ないわね。戻りなさいメタグロス、あんたはお家に帰ったらガブリアスのじしん10回耐えるまでご飯抜きよ」

 

 

 

 しばらく幼馴染の頭を堪能していると、自分の母親と歳が近くてお淑やかそうなお姉さんが近づいてくる。

 

 

「…命拾いしたわね少年少女よ。運命が再び私たちを引き寄せたその時は、また会いましょう…」

 

 この声は聴いたことがあるようないような、それもこのポケモンセンターでごく最近…。

 

「ハジメちゃん、今の誰?知ってる人?」

「さあ?」

 

 とにかく今はハクダンジムだ。

 サナには申し訳ないが、やはりここで旅は終了だ。

 

 俺はジムトレーナーになる!

 さあ、ハクダンジムへ向かって走れ!ドーちゃん!

 

 

 

 

 

 

 ……

 

 

 

 

 

 なんだこれは、何で昨日の自分と幼馴染が写った写真がデカデカと飾られているんだ。

 

 『タイトル:ポケモンセンターの中心で愛を叫ぶ』

 

 サナは真っ赤になって俯いてる。俺もどう声をかけていいか分からない。

 

 

 あれからハクダンジムへ赴き、ジムトレーナー志望だと言ったら何故かクスクス笑われながら、書類を貰った。周囲の視線もなんだか少しおかしい。

 気にせず書類を書いて手渡すと、あっさりと突き返されてしまった。

 

 ハクダンジムは虫ポケモンを専門に扱うジム、ドーちゃんではその資格がないことくらいわかってる。

 だから特記事項にこれから虫捕まえますって書いたんじゃないか。

 

 何とか試験だけでもとごねていると、何人かのトレーナーが近づいてきた。どうやらジムトレーナーらしい。

 彼らに「あまりジムトレーナーを見くびるな、捕まえたばかりのポケモンで試験が突破できるほどジムはあまくない」と説教され、最後に「モデルなら募集してるかも」と言われ、ジムに併設してあるこの写真展へ通された。

 サナはそれなりに楽しんでるようだったが、ある写真の前で動かなくなってしまった。

 そして例の写真である。

 

 そこで、馬鹿にされたと気が付いた。

 

 ただのトレーナー認定試験と違って、厳しい試験を勝ち抜いてジムに席を置くことを許された彼らのプライドを傷つけるようなことを言ったのなら謝ろう。

 自分たちのリーダーまで軽んじられたと感じたのならその非礼も詫びよう。

 

 だが、この仕打ちはあんまりじゃないか。

 何も知らない無知で失礼なトレーナーを追い返すだけでよかったじゃないか!

 知らなきゃよかった、こんな写真。

 どおりで皆ニヤニヤするわけだ。

 

 かわいそうに。

 サナもあんなにショックを受けて…

 

 

 

 サナ?

 どうしたの?

 どうして両手を顔に当てて、だらしない顔でニヤニヤしてるの?

 こんな写真が嬉しいの?

 俺、すっごく恥ずかしいよ?

 いろんな人に見られちゃうよ?

 サナのお父さんとお母さんも見るかもしれないんだよ?

 

 …そうか、分かった。

 こんな写真があるからいけないんだ。

 こんな屈辱を味わって黙って帰るほど俺はお人好しじゃない。

 

 ドーちゃん!こんな肖像権を侵害する駄作を貫いてしまえ!

 

 おもむろにドーちゃんをボールから出して写真を台無しにしようとしたその時

 

「ちょっと待ったぁーーー!!!」

 

 この駄作を撮った諸悪の根源が現れた。

 

 

 ………

 

 

 ハクダンジムのジムリーダー、ビオラは悩んでいた。

 自分たちジムリーダーの中に明確なランク付けは存在しない。

 ジム戦での使用ポケモンは、チャレンジャーの所有するバッジの数で調整されている。

 初心者トレーナーが旅立つ町が近くにあるため、彼女は本来の実力の半分も出さずに相手をすることが多い。

 それはたいして問題ではない。

 

 彼女を悩ませているのは所属しているトレーナー達だった。

 ジムリーダーとしての人気や扱うポケモンのタイプでどうしても偏りが出てしまう。

 特に最近入った子たちは、ジムトレーナーになったというだけで挑戦者を見下すような姿勢が見られるようになった。

 彼女は虫タイプのジムリーダーになると決まったとき、真っ先にジムトレーナーの獲得に力を注いだ。

 優秀なトレーナーであると同時にプロカメラマンだった彼女はジムの施設を一般向けに改造し写真展を開き、地域に密着することで話題性を高めた。

 それから、ポケモンリーグが設定する審査基準をクリアし、自分が妥協できるギリギリまで合格ラインを低くして何とかジムの土台を固めることはできた。

 正直虫ポケモンを好きで好きでたまらないという人は珍しい。

 ならば、まずはジムトレーナーとして入門してもらい、自分がその魅力を教えながら質の高いトレーナーに育てていこうという目論見があった。

 しかし、現実は上手くいかない。

 入門者が少ないうちはトレーナーの質の向上もできたが、最近では噂が噂を呼んでしまい、どこで嗅ぎつけたのか審査基準が甘いという理由だけで、またジムリーダーとしてではなくカメラマンとしての自分を慕って、おまけ程度に虫ポケモンを捕まえて門を叩く輩が増えた。

 ジムの発展のためと割り切り一時は採用してみたが、どうしても古参とルーキーの間には大きな差ができてしまう。

 やんちゃ盛りのルーキーたちを束ねることは難しく、かといって古参メンバーに丸投げもできない。

 このままではジムの風紀が乱れてしまう。

 ジムの存続が危うい。

 こんなことでジムを取り潰されてしまっては、せっかく虫ポケモンの魅力を伝えるためにやっとの思いで開設したのに自分のせいで虫ポケモンたちまで馬鹿にされてしまう。

 

 こんなことなら、マーシュのところのように厳しい審査基準を設ければよかったと後悔したこともあった。

 クノエジムのマーシュ。

 彼女はフェアリータイプを専門としており、自分のところとは比べ物にならないほど人気があった。

 華やかで愛くるしい外見を持つポケモンが多いフェアリータイプはそれだけで注目される。

 タイプとしては発見が新しくまだまだ謎の多いポケモンでも、子供のおもちゃから日用品に至るまで様々なグッズが展開されるほどには浸透していた。

 

 そんな人気のポケモンを専門にするのだ。

 目新しさもあり、最初の募集のとんでもない倍率はニュースにもなった。

 それから連日連夜、彼女のジムの門を叩く者は後を絶たなかったが、彼女のジムには運営基準を満たす必要最低限の人員しか配置されなかった。

 

 マーシュは黙っていても集まる門下生を篩にかけるため、筆記、実技ともに審査基準を最大に設定したうえで、一般常識から礼儀作法までありとあらゆる難題を受験者に課し、そこで生き残った選りすぐりの精鋭たちだけを自分の傍に置いた。

 噂では国立大学や国の研究機関よりも合格が難しいとされる試験内容も、ポケモントレーナーの質の向上に繋がるとわかればリーグ本部はこれを快く承認。

 

 今や『クノエの一枚岩』と称されるほど彼女のジムの突破は難しく、明日を夢見るポケモントレーナーの登竜門として、どのポケモン雑誌でも称賛されていた。

 

 羨ましい限りだ。

 同じジムを預かるものとはいえ、実力以上に彼女と自分にこんなにも差があるなんて。

 ハアとため息をつきながら、愛用のカメラのメモリを何となく確認する。

 昨日たまたまポケモンセンターで撮った写真。

 自分が最近撮った写真の中でも一番の出来だ。

 どんな経緯があったかは知らないが、新米トレーナーの男女が仲直りをする瞬間。

 普段はポケモンをメインに撮っているが、気が付くとメモリが一杯になるまでシャッターを切っていたらしい。

 ぶっきらぼうにポケモンをプレゼントしながらポリポリと頭を掻く少年とニコニコ笑う少女が微笑ましかった。

 

 ふと、こんな子たちが虫ポケモンに興味を持ってくれたら、ジムトレーナーになってくれたらと考えてしまう。

 もしもまだこの町にいたら声をかけてみようかな?

 それがいい。

 確か、トレーナーのスカウトは許されているはずだ。

 あの写真を飾って皆に見せたのだって、純粋にポケモンや旅を楽しむ彼らを見て、今一度ジムトレーナーとしてポケモントレーナーとしての在り方を自分自身に問いただして欲しいという願いがあったからだ。

 

 そうと決まれば彼らに会えるように、昨日引き伸ばして一番目立つところに飾った自分の力作に願掛けでもしよう!

 

 心機一転、意気揚々と展示ブースに向かった彼女がまず目にしたのは、これから探そうとしていた少年少女と、自分の力作を力の限りぶち抜こうとする一体のドードーであった。

 

 それを見た彼女も力の限り叫ぶ。

 

「ちょっと待ったぁーーー!!!」

 

 

 

 




くだらないやり取りを入れたがるので、話が中々前に進みません。
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