走れ!ドーちゃん!   作:皿まんだ

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第四話(後編)

「ハジメちゃん!もうやめて!」

「黙ってろサナ!口出しするな!」

 

 サナが泣きながら止めようとする。優しい幼馴染のことだ、誰かが傷つくところをこれ以上見たくないのだろう。

 しかし、ドーちゃんへの命令を止めはしない。

 本当だったらこんな姿彼女にだけは見せたくなかったし、彼女も見たくはなかったと思う。

 それでも彼女は勇気を振り絞って自分を止めようとしてくれる。

 

「お願いだから!もう許してあげようよ!ドーちゃんも、もうそれ以上酷いことしないで!」

「耳を貸すなドーちゃん…もっと攻撃するんだ!」

 

 あんな屈辱を味わって、このジム中の笑いものにされてしまったんだ。

 この怒りが治まるまで攻撃の手を緩めるつもりはない。

 ごめんよサナ、でもどうしても許すことができなかったんだ。

 これ以上は君には残酷すぎる…出来れば耳をふさいで目を瞑っていてくれないか。

 

 

「だって…だってぇ……ビオラさんもうずっと泣いてるよぉ!」

「ハハハハハハハハハ!ざまあ見ろ!」

「フゴフゴ…フフォオォ…」

 

 

 

 

 『笑顔を見逃さないカメラガール』ビオラは

 

 

 

 

 

 

 自分が探し求めていたはずの男の子に両手足を縛られたうえに猿轡と目隠し、足蹴にまでされながら自慢のカメラで写真を撮られていた。

 

 

 

 

 彼のドードーが自分の体中を突きまくる。

 なぜ自分はこんな目にあっているのだろう、自分は決して変態じゃない。

 しかし、体の奥底から湧き上がってくるこの感覚は…視界を塞がれて身動きも取れない…そしてシャッターを切る音だけが妙にハッキリ頭と耳に刻み込まれる…恐怖でしかないはずなのに…何故かこう、ゾクゾクと…

 

 風前の灯同然の理性が獣のような本能に喰らいつくされる感覚を噛みしめながら彼女は、何故か自分に勝った挑戦者に渡す技マシンのことを思い出していた。

 

 

 

……

 

 

 この恥ずかしい題名の作者本人に写真の破壊を止められてしまった後、仕方ないから写真の展示を取りやめるようにお願いしたが中々聞き入れてもらえず、それどころかジムトレーナーにならないかと持ちかけられた。

 初めの内は丁寧に断りつつ自分の要望を伝えようとしたが、こっちの話を聞かず虫ポケモンやジムの魅力・待遇などをベラベラ喋り出す彼女にだんだん腹が立ってきたので、写真を展示する代わりにと後ろを向かせ、隙をついてふんじばって後は気の済むまで仕返しすることにした。

 それはそうだ。こんな写真を見る前ならいざ知らず、これをジムの入り口に展示するとほざく太眉ねーちゃんのジムなんてこっちから願い下げだ。

 

 

 

 

「どーだ!参ったか!」

「フモゥフ!フーッ…フーッ…」

「ん?何言ってるか全然わかんない!」パシャパシャ!

「フムゥ…ウゥ…」

「いいんじゃない、いいんじゃないの!」パシャパシャ!

「やめたげてよぉ!」

 

 仕返しも済んでスッキリしたし、そろそろ解放してあげなければ。

 

「ビオラさんやビオラさん。これに懲りたら盗撮なんて駄目ですよ?このパネルもさっさと撤去してくださいね?」

「…」

 

 猿轡の隙間から涎を垂らしながら息も絶え絶えといった感じで、こちらの声は聞こえていないようだ。

 だけど謝る気なんてサラサラない。話を聞かない奴が悪いんだ。

 

「さてサナ、ここに用はなくなったしカフェでも何でも付き合うよ」

「ほんと!あ…ビオラさん本当にごめんなさい。失礼します」

 頬を染めながらグッタリとするビオラさんに律儀に頭を下げるサナ。

 こっちは被害者、ほっとけばいいんだ。

 

 

 ああ愉快愉快、悪いことするから罰が当たるんだ。

 今はジムトレーナーに陰で笑われても気にならない。

 それにしても流石ビオラさん!

 やっぱり根っからの虫タイプ使いだね!

 本人だって飛行タイプのドーちゃんに手も足も出なかったじゃないかハッハッハ!

 

 さあ、勝利の美酒とはいかないが美味しいお茶でも飲もうじゃないか。

 

 カフェに向かって、走れ!ドーちゃん!

 

 

 

「ま、待ちなしゃい!」

 

 せっかく勝利の余韻に浸っていたのに、もう回復したのかこの人は。

 

「よくも…よくもあんな新しい世界に…いえ!もう一人の自分に出会わせ…違くて!」

 

 さっきから何を言ってるんだこの人は。

 

「とにかく、今からあなたにポケモンバトルを申し込みます!」

「別にバッジなんて要りません。それじゃさようなら」

「ならこれはどう?」

 彼女はポケットからフィルムを取り出す。

「昨日撮った写真のネガよ。私に勝てば全部消すし、あのパネルも撤去する!どうかしら?」

「…約束してくれますか?」

「ただし!あなたが負けたら写真は一般公開、そしてこのハクダンジムトレーナーとしてあなたに働いてもらいます!」

「え!?…は、ハジメちゃん!こんなバトル止めよう?写真のことももう忘れようよ!それに、負けたらビオラさんさっきの仕返しするよきっと!旅だって…」

「心配するなサナ、絶対に負けないから」

「うん…」

 

 そう、負けられない。何としてもあの写真をビオラさんから取り上げなければ。

 すまないドーちゃん、今日は綺麗なお姉さん突いて終わりかと思ったけど、今度は正式なポケモンバトルだ。

 初めての公式試合が恥ずかしい写真の争奪戦とは何とも情けない。

 

 

 ……

 

「ただいまより、ジムリーダービオラとチャレンジャーハジメの公式試合を行います!使用ポケモンは二体、尚ポケモンの交代はチャレンジャーのみ可能とします」

 正直、ポケモンの交代をするつもりはない。

 何が何でもドーちゃんだけで勝って見せる。

 サナはこの試合のためだけに、せっかく登録変更したばかりのピカチュウをまた登録を上書きして貸してくれた。

 行ったり来たりですまんなピカチュウ。ボールの中でゴロゴロしててくれ。

 

「時間無制限一本勝負、それでは…試合開始!」

 

「行くのよ!アメタマ!」

「頼んだぞドーちゃん!あの変態お姉さんから写真を取り返すんだ!」

「やめて!」

 

 ……

 

 おいおい、ドーちゃん。

 君ってそんなに強かったの?

 

 試合開始早々、ツイーッツイーッとまるでスケートするかのような動きでかく乱するアメタマ。

 何でもないかのようにその背後に回り続けるドーちゃん。

 あのねドーちゃん、鬼ごっこじゃないんだよ?

 

 ドーちゃんのつつく!

 効果は抜群だ!

 アメタマのあわこうげき!

 ドーちゃんは目をキラキラさせている!

 ドーちゃんは楽しそうにくちばしで割ってしまった!

 アメタマは驚いて動きが止まった!

 ドーちゃんのつつく!

 アメタマは倒れた!

 

 え?

 

「なかなかやるわね!」

「いや、俺は特に何も…」

「でも、そのドードーでこの子に勝てるかしら?」

 

 ビオラはビビヨンを繰り出した!

「ドーちゃん気をつけろ!まずは攻撃力を下げるぞ。鳴き声だ!」

 

 ドーちゃんはポカンとしている!

 

 ドーちゃん…

 

 ビビヨンの体当たり!

 ドーちゃんはよろけた!

 ドーちゃんは物凄く怒り出した!

 ドーちゃんのブレイブバード!

 急所に当たった!効果は抜群だ!

 ビビヨンは倒れた!

 

 ドーちゃん、そんな物騒な技どこで覚えたの?

 俺知らなかったよ?

 君のパパとママが覚えてたの?

 ビビヨン吹っ飛んで壁にめり込んでるよ?

 なんかピクピクしてるよ?

 

 

 試合終了

 

「…はっ!び、ビビヨン戦闘不能!よって勝者、チャレンジャーハジメ!」

 

 慌てて審判をしていたジムトレーナーが宣言する。

 

「…私の完敗ね。約束通り写真は諦めるわ」

 

 そうですかそうですか、ではさっそく…

 どうしたのドーちゃん?

 

 怒りの治まったドーちゃんは、観客席にいたサナを連れてきたと思ったらビオラさんのカメラを突いてはこちらを振り返る。

「もしかして一緒に写真撮りたいんじゃない?」

 余計なことを言うなサナ。

「そうなのかドーちゃん?でもこの人、あんな写真撮ってそのうえドーちゃんのくちばしで…」

「やめて!」

 

 すると、ドーちゃんは不機嫌そうにピカチュウの入ったモンスターボールをつつく。

 ああそうか、あの時一緒にパネルを壊そうとしたのは、自分を差し置いて新参者が俺たちと写っていたのが面白くなかったんだな。

 

「ビオラさん、ジム戦に勝った記念に一枚お願いできますか?」

「え?でも、いいの?あんなに嫌がってたのに…」

「ドーちゃんのお願いですから」

「うんうん!こうやって沢山思いで作ろうね!ハジメちゃん!」

 まあ当初の目的は果たせたんだし、頑張ってくれたドーちゃんへのご褒美だと思えばいいか。

 

 

「それじゃあいくわよ!はい…チーズ!」

 

 中々綺麗に撮れてる。さすがはプロのカメラマン。

 バトルに参加していないピカチュウやサナとケロマツまで写ってるからジム戦の記念写真じゃなくてただの集合写真のような気もするが、まあ良しとしよう。

 

「ビオラさん、ジム戦ありがとうございました。それからこの写真、すごく綺麗です。大事にしますね?どうせ飾るならこんな写真にしてください」

「そ、それって!」

 

 冷静なって考えてみれば年上の女性にあんなことしたのだ。

 後でトレーナーカードから住所割り出されて、あることないこと被害者面して話されてしまうと何処とは言わないが、母に『とどめばり』を喰らうことになるかもしれない。

 少しは恩を売っとこう。

 

「帰って飯にするぞサナ」

「うん!」

 

 就職には失敗したが中々良いものを手に入れた。

 ジム戦もこれっきりだろうがいい経験になったし、面接のときの話のタネくらいにはなるだろう。

 

「待って!」

 

 どうしたのだろう、写真の一件は片が付いたしもうここには用はない。

 

「これ、受け取ってくれない?バグバッジよ」

「でも、俺バッジは…」

「いいの、私からの感謝の気持ち」

「それじゃ遠慮なく」

「それからね…えい!」

 

 いきなり腕を手繰り寄せられ、ビオラさんに抱きとめられたと思ったらパシャっとシャッターを切る音がした。

 

「これは記念に貰っておくわね?」

「…勝手にしてください」

 

 柔らかい感触を思い出しながら「また写真撮らせてねー!」という言葉を背に、急いでサナのもとに向かう。

「さてサナ、お前の言う人気のスイーツとやらを…」

 

 しかし、サナは頬に空気をパンパンに詰めて、いかにも怒ってますという目で睨みつけてくる。

 

「行かない!」

 

 …またか。

 

「でもお前朝から…」

「行かないったら行かない!それよりピカチュウ返して!ハジメちゃん一人で行ってくれば!」

「…お前はどうすんだ?」

「ジム戦してくる!あたしもハジメちゃんとおそろいのバッジでおそろいの写真撮ってもらう!」

 

 どうやらピカチュウの時のように、またサナの負けず嫌いに火が付いたらしい。

 バッジは別に欲しかったわけではないのに。

 ポケモンセンターでドーちゃんの回復とピカチュウの手続きを再度済ませると、「負けないんだからー!」と叫んでサナは走って行ってしまった。

 

「しかたない。ドーちゃん、祝賀会はサナたちが帰ってくるまでお預けだ」

「ダァ!」

 

 その後サナはしっかりと勝利をおさめ、隙を見てくすねてきたカメラで写真を撮り、ビオラさんに拳骨を喰らいながら現像してもらった写真を寝る直前までニヤニヤしながら眺めていた。

 そういえばケロマツもピカチュウもジム戦前より随分とたくましくなっていたような気がした。

 サナもしっかりトレーナーやってるんだな。

 

 

 ……

 

 

 ハジメちゃんの馬鹿!

 あんなにデレデレしちゃって!

 あたしとの写真はあんなに嫌がってたのに!

 

 …やっぱり胸が大きいほうがいいのかな?

 き、きっとこれから成長するはずだよ!うん!

 育ち盛りだし!

 ハジメちゃんとの旅は楽しいけど、ハクダンシティにはもうあまり来たくないかも…。

 

 ビオラさんに勝ってさっさと出発しなくちゃ!

 

「たのもー!」

「やっぱり来たわね。あなたのさっきの表情、必ず来ると思ってた。手加減しないわよ?」

「そんなのいりません!これは…トレーナーじゃなくて、女としての真剣勝負なんだから!」

「っ!…そう、じゃあ私も負けるわけにはいかないわね。あなたに勝てば、自信がついて姉さんよりも一歩リードできそうだもの!」

「私だって負けません!」

「シャッターチャンスを狙うように、あの子(ご主人様)との未来(プレイの続き)も狙っていくんだから!」

「含みのある言い方止めてください!行くよ!ケロちゃん!ピカくん!」

「ケロ!」

「ピカァ!」

「ビオラさんに勝てるまで回復もご飯もなしだよ!」

『!?』

 

 絶対に負けないんだから!

 

 




こんなビオラさんがいたっていいじゃない!
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