走れ!ドーちゃん!   作:皿まんだ

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第七話

「ハジメちゃーん!野菜出しといてー!」

「はーい」

「終わったら皿洗いよろしくねー!」

「はーい」

「それ終わったらジャガイモの皮むきお願いねー!」

「は、はーい…」

 

 忙しい。

 普段何気なく利用するレストランの裏で日夜こんな苦労をしている人たちがいたとは。

 

 -大衆食堂・ヒンバス屋-

 『年齢制限なし!小卒歓迎!未経験可!週3日からOK!希望すれば住み込みも可!優しい先輩たちが丁寧に仕事を教えます。』

 

 ポケモンセンターにあった求人ジャーナルをパラパラ捲っていて目に留まったのがこの店の記事だ。

 ホワイト企業には程遠い胡散臭い募集内容だったが、今の自分の経歴を考えれば贅沢は言ってられない。

 早速先方に電話して履歴書を書き、簡単な面接をすませてすんなりと採用された。

 ここのオーナーはいい人らしく、いつもニコニコしていて決して厳しい顔を見せないので、働いている人たちも怠けたりせず良く働いていたし、約束通り以前住み込みで働いていた人が使っていた屋根裏部屋を提供してくれた。

 

 採用された次の日から雑用兼ホールスタッフとして配属されたが、初日から目が回りそうになった。 

 店自体はなかなか繁盛しており、朝から晩まで引っ切り無しにお客は来るし、あれを取ってこいこれを片付けろ、開店前と閉店後の掃除にレジ打ち、皿洗い、ゴミ出し、覚えることは山のようにあった。

 肝心の料理は、学校の調理実習と母直伝のおにぎり以外教えてもらったことがない自分には包丁など握らせてもらえるはずもなく、一番下っ端なので賄いでそのおにぎりを拵える程度のものだ。

 

 サナと別れてから一週間、こうして雑用見習いとしてホールと厨房を行ったり来たりする毎日を送っていた。

 

 結局自分の理想を妥協することにはなったが、就職という当面の目標だけは達成できたのだ。

 

 のんびりきままな旅と違い、汗水たらしての労働はきついものがあったが同時に充実感を覚えていた。

 最近では、仕事が終わってからドーちゃんと新しい仲間ドラちゃんと一緒にラジオを聴くのが楽しみになっている。

 

 ……

 

 『さあ、今夜も始まりました!夜のP‐SONGヒット!まず最初にご紹介する一曲はこちら!(デデン♪)ボビィ・ブビィで「FIRE」!』

 

 ボビィ・ブビィ

 イッシュやアローラを中心に活動するバンド『ボブ&ルンパーズ』のギターボーカルで、相棒のブビィとともにレゲエ・ファンクを歌うドレッドヘアーにサングラスのにくい奴。

 彼の音楽は炎タイプのように情熱的で、水タイプのようにCOOL。

 そしてルンパッパのようにやかましいと評判の人気アーティスト。

 

 最近のお気に入りだ。

 テンポの良いノリノリの曲が始まると、ドーちゃんもドラちゃんも歌に合わせて首を振る。

 

 才能のある人間は羨ましい。 

 彼もまた、音楽という才能に愛された一人なのだろう。

 好きなことを続け、好きなことを仕事にし、好きなことでお金を稼ぐ。

 

 彼のような人生を歩めたら、自分にも学業やポケモンの才能があったら。

 いけない、こういうことを考え出すとキリがない。

 自分とは違う世界に生きる人間と比べても仕方ないと考えるのをやめ、ドーちゃんに体を預けて曲を楽しむことにする。

 

 明日も早いのだ、この曲を聞いたらもう寝よう。

 

 ……

 

 明くる朝

 

『ZZZ…zzz…ンゴッ!zzz…ZZZ…』

「ダァ!」

 ドーちゃんが目覚ましを止めてくれる。

 今朝は『ケッキングのいびき』、その前は『飛び回るテッカニン』、そのまた前は『怪談話を話すペラップ』、アラームの製作者は何を考えているんだ。

 サナと別れてからというもの、何故かアラームの引きが悪い。

 

 重い頭で身支度を済ませ、さて今日も一日頑張ろうと階段を下り、これから掃除をしようと箒と塵取りを持って外に出ようとするとオーナーに呼び止められる。

 

「ハジメちゃん、今日は君お休みだよ?」

「……あっ」

 

 曜日感覚も麻痺するほど毎日忙しくて、すっかり忘れていた。

 

「ここ一週間頑張っていたし、しっかり休んでまた明日から頑張ってね!この調子ならすぐに時給もアップするし、ハジメちゃんがその気なら、大きくなって調理師免許欲しくなった時も協力するよ?」

「おお、本当ですか!ありがとうございます!」

 

 なるほどコックか、今まで考えもしなかったが悪くないかもしれない。

 自分が生まれるよりずっと昔、ある農家で奇跡のような木の実が取れたらしい。

 それから科学者たちが長い時をかけ、大豆とその木の実をブレンドし品種改良を重ね、遂に野菜がもつ本来の栄養素よりも動物性たんぱく質に近い成分バランスを兼ね備えたスーパー大豆の完成に成功した。疑似的にではあるが肉料理が食卓に並ぶようになった。

 

 そういえばお店のコックさんたちが話していたことを思い出す。

 

 大昔のポケモン食肉文化がどーたらこーたら、ある農家に伝説のポケモンがどーたらこーたら、イッシュのボルトロスが…シンオウではシェイミが…とかよく分からないことを言っていた気がするが、確かに最近ではどの地方でも新しい料理や特産品の生産に力を入れているようで、グルメスポットを紹介した雑誌やテレビ番組も少なくない。

 この魔法のような食材を使った加工食品もバリエーションが増え、ギュウ・トリ・ブタなどの他に様々種類があり、世界各地でこれらを使った独自の料理が発展していった。

 

 将来は自分の店を持って行列ができるほどのレストランを目指すというのも悪くない。

 今日は丁度休みなんだし、家に近況を報告するついでに料理の本でも買うとしよう。

 

 

 ……

 

 

「もしもし、お母さん?」

『ハジメ!ハジメか!?どーして連絡くれなかったんだ!こっちは心配で心配で、夜も寝られない日が続いてる………って、かっかーちゃんじゃなくてとーちゃんが言ってるんだ!』

『ハジメくん!元気?リサちゃん本当はね、ハジメくんが旅立ってからずっと「あんたは黙ってな!」アヒンッ!』

 

 懐かしい声に何だかこちらまで少しウルッときてしまう。

 

「お父さんもお母さんも元気そうだね…」

『ゴホン…ところでサナちゃんどうした?一緒じゃないのか?』

「それなんだけどね、お母さん喜んで!ミアレの食堂にめでたく就職できました!」

 

 自分の成長を喜んでもらおうと元気よく伝えるが、何故か画面の向こうから物凄い怒気を感じる。

 

『……それはサナちゃんと一緒に働いてるってことなのか?』

「え?サナとはここで別れたよ?元からこっちはそういう約束で『ハジメ』…お母さん?」

『……今からそっちに向かう』

「お、お母様?」

『今からそっちに行ってその腐りきった根性叩き直してやるから、首洗って待ってろバカ息子!!!』

 

 それから一方的にテレビ電話を切られ、後ろを振り返るとセンター中の人がこっちを見ていた。

 

 さて、どうしよう。

 吉報を伝えたはずなのに母は何故か怒り心頭、あの怒り方はケチャップアートの答えを外した時の比じゃない。

 やはり『にぎりつぶす』か『とどめばり』…いや、あの様子だとノーガード一撃必殺も覚悟しなければなるまい。

 

 こうなればほとぼりが冷めるまで身を隠すほかない。

 時間が経てば父が迎えにきて連れて帰るだろう。

 

 そうと決まればこんなところに長居は無用だ。

 急いでポケモンセンターを出ると、ドーちゃんをボールから出して跨る。

 

 「走れ!ドーちゃん!」

 

 …ドーちゃん?

 どうしたの?

 早く逃げないとこの街はこれから戦場(バトルフィールド)になるんだよ?

 

 しかしドーちゃんは何故か動こうとしない。

 まるで何かに怯えるようにビクビクしながら二つの首をしきりに動かして辺りを見回している。

 

「ドーちゃん!お願いだから!早く!早くしないと「早くしないと…どーなるんだ?」…だから言ったのに。」

 

 空の上から声がしたと思ったら、自分の周りの日差しだけを遮るように何かが近づいてくる。

 

 恐る恐る見上げると、バッサバッサと羽ばたきながらゆっくりと降りてくるボーマンダ。

 進化したら可愛くなくなったって言われて番犬代わりに外に繋がれてたあいつがどうしてここにいるのだ。

 凶暴な面しているくせに、母のポフレが大好きなドラゴンポケモン。

 

 その背に跨る我が家のヒエラルキーの頂点。

 

「ハジメ」

 

 もう逃げることはできない。

 

「正座」

「…はい」

 

 母の有無を言わさぬ一言で、綺麗に舗装された石畳へ膝をついた。

 

 ……

 

 それから昼過ぎまで母に今まで一度も連絡しなかったことへの説教を喰らい、指をポキポキ鳴らし始めたところでこのミアレシティであったことを事細やかに説明し、自分の将来と夢への理解をしてもらおうと必死になって説得した。

 

「…話はよく分かった。お前がしっかりとした将来設計をしていることもな」

「じゃあ!」

「だが!一つ分からないことがある。お前と別れた時、サナちゃんどうしてた?」

「…だ、だからサナには事情をよく話して…それからお互い清く分かれて…」

「かーちゃんが言ってるのはそういうことじゃない。サナちゃんは喜んで去って行ったのか…本当は、最後まで泣きながら食い下がってきたんじゃないのかって聞いてるんだ」

 

 そこで嫌な考えが頭をよぎる。

 

「っ!?…あいつ」

「馬鹿野郎!サナちゃんとは会ってねえし何も聞いてねえよ。だからこうしてミアレ下りまで会いに来たんじゃねえか。これは女の勘ってやつだ…親を甘く見るなよ?」

「…」

「その様子だと随分泣きつかれたんじゃないのか?…どうなんだ?」

「…そのとおりです」

「まったく…てめえの夢とやらは女の子泣かせてまで叶えるほど立派なのか!?そんなに大事なことなのか!?」

「だから、それはあの時この街の職安で見た光景が「からてチョップ!」アヒン!」

「たかだか10年ぽっちしか生きてねぇガキが、老後を心配するようなジジ臭ぇこと言ってんじゃねえ!」

 

 そこでカチンと来てしまう。

 どんなにジジ臭くても夢は夢だ。

 母とはいえこんなに頭ごなしにガミガミ言うことないじゃないか。

 

「……俺の人生だ」

「何だと?」

「俺の人生だからお母さんにはもう関係n」

 

 バチィン!

 という乾いた音とともに体が宙を舞っていた。

 ゴロゴロと転がり母の方を振り返ると、母が肩で息をしていた。

 ボーマンダもドーちゃんも横でオロオロとしている。

 

「そうか……それならもう好きにしろ…」

「…」

「ただし!……もう二度と…二度と家には帰ってくるな!!!」

「…分かったよ。……さよなら、お母さん」

「…っ!馬鹿野郎!………帰るぞ、チャッピー…」

 

 それから母は一度も振り返らなかった。

 そんな母の言うことをボーマンダは聞こうとしなかったが、それでも最後は渋々空へ舞い上がっていった。

 

 ボーマンダの姿が見えなくなって、初めて自分が泣いてることに気が付いた。

 寄り添ってきたドーちゃんを撫でて、それからあてもなく歩き始めた。

 

 




(音楽番組とミュージシャン)

本編とは全く関係ありません。
主人公とも絡みません。
ゲームにもトレーナーとしてミュージシャンがいるんだし、ジムリーダーや四天王以外の有名トレーナーがいてもいいかなというただの思い付きです。
ラジオがなければ、今後出てくることはないでしょう。多分。

(食べ物に関するあれこれ)

ぶっちゃけただの肉もどきです。
肉食いたくてもポケモンしかいない。
ケンタロスかわいそうだし、ポケモンの世界観を壊さずに自分が納得する形でハンバーグを!
そして美味しそうに食べ物を頬張るサナちゃんが書きたい!
大豆も畑の肉っていうくらいだし、いいんじゃね?
でも、豆ばっかりじゃハンバーグとは言えない!
そうだ、イッシュには豊穣の神様っぽいのもいるからなんやかんや関係してることにしよう、そうしよう(適当
あいつら体変形させるくらいだし、奇跡の力で動物性たんぱく質くらい何とかしてくれるだろ(適当

大豆と木の実のハイブリット、スーパー大豆誕生!

そういえば、もどき料理ってモ〇〇ター・〇ァームみたい。
実際にもあるんですけどね。

まあこんな設定できてもこれ以降そんなに使わないと思うし、そのうち主人公たちがいきなり肉とか食べだしても、豆腐ハンバーグか炒めたオカラ程度に考えてください(笑)
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