藤原肇がアイドルになったキッカケの話

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器の少女

確かろくろと言っただろうか、陶芸の道具が回る、回っている。

 

いや、独りでに回ってるわけではなく、回されているが正しいのだけれど。

 

そして俺はろくろを回す少女を見つめている。

 

少しタレ目で磁器のような白い肌をした可憐な女の子。

名前は、わからない。

 

1ヶ月ほど前に仕事で岡山に行った時に工房で見かけた女の子。

 

俺の仕事は泣かず飛ばずのしがないタレント。

 

その時はBSテレビの収録で工房の主人の爺さまにインタビューさせてもらった。

 

十分に予習をしていたおかげから、インタビューはそれなりに上手く行き、頑固そうな爺さまだったが結構優しく接してくれた。そして終わりに近づいた頃その女の子を見たんだ。

 

以来、俺はその子のことを考えることが多い。

 

あの、目。多分年は一回りいくかいかないかくらい違うだろうにあんなに真剣な目は俺には絶対に出来ない。

 

そして、張り詰めた表情と少しでも間違えば何かが切れてしまいそうな雰囲気。

 

一言でいえば、目を奪われた。

 

俺は、あの子にもう一度会いたい。

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在住の東京から岡山まで夜行バスが出ていた。ありがたい。

 

貯金はそんなに、というか殆ど無いからこの遠征も結構キツい。でも無駄だとは思えない。無性にもう一回彼女と逢いたかった。

 

一目惚れってやつなのかもしれない。

 

「すいません、誰かいますか?」

 

スマホを頼りに収録で行った工房に着いて挨拶をしてみる。

 

返事はない。

 

「すいませーん。」

 

誰もいないのか?しょうがない。あとでもう一度出直そう。

 

「さて、どうするかな。」

 

とりあえずこの辺の散策でもしてみるか。

 

「あの、家にご用ですか?」

 

後ろからの声、見なくてもわかる、感覚で伝わってくる。あの子だ。

振り向きたい、ただ金縛りにかけられたみたいに動けない。

 

「あの?」

 

気づいたら目の前にいた。ヤバい、思考も認識も追いついてこない。

 

「あ、スイマセン。」

 

なんとかそれだけ絞りだす。

 

「えっと…どちら様でしょうか。」

 

覚えてるわけ無い、当然だ。

 

やっと考えがまとまってきた。よし、

 

「スイマセン、俺、以前ここで取材させてもらったものなんですけど。」

「一月ほど前ですか?」

「ハイ。」

「ああ、わかりました。何か問題でもありましたか、祖父を呼んできたほうがいいですか?」

「いや!そんな用じゃないんだ!というか用事って訳じゃないんだけど…」

「んー…話しにくい、ですか?」

「いや、まあその…ゴメン。」

「そうですね、ちょっとついてきてください。」

「う、うん。」

 

俺(不審者)が言うのも何だが変な男と二人きりでどっか行くなんてありえるのか?そんなことするような子には見えないんだけど、もしかして警察とか…

いや、行くしかない。何しに来たか自分でもよくわからないけど、こんなちょっと話すために来たんじゃないことはわかる。

──────────────────────

「まだ行けますか?」

「ああ。」

「あと少しなんで頑張ってください。」

 

あと少し、か。既に一時間半くらい歩いてるんだが。

金がないから移動が徒歩ってのは結構慣れてるつもりだったし、運動してたから体力に自信もあったけど意外とキツい。衰えたもんだ。

 

「つきました。」

「綺麗な所だな…」

 

ついたのは渓流でいいのか、都会で育ち、帰る田舎も存在しなかった俺には縁がなかったところだ。ただ、そんな俺にもある原風景のようなものとなぜか似ている、別に滝があるとか珍しい魚が釣れるとか名所とかじゃないんだろうけど、それだけに落ち着く場所だった。

 

「ほっ。」

 

来る途中に気づいたけれど彼女は竿を持っていた。

しかも餌にミミズを使ってる。

結構釣れてるし慣れてる感じだ。

 

「どうです?」

「スゴいね、よくそんなに釣れるもんだ。」

「ありがとうございます、でも、そうじゃなくてこの場所ですよ。落ち着きません?」

「ああ、そっち。おかげ様でかなり落ち着いたよ。ありがとう。」

「いえいえ。そういえば、タレント方なのに体力ありましたね。」

「まあ一応男だからね、…あれ?なんで知ってるの?」

「家を出る前に思い出しました。オンエアも見みたのになんですぐ気づかなかったんでしょうね。」

「そっか、俺、菅原 開(かい)。よろしくね。」

「藤原 肇です。こちらこそ。」

「はじめ、か。どういう字書くの?」

「こうですね。」

「あー、わかった。」

 

地面に書いてくれた字は親戚のおっちゃんと同じ字だったから偶々知ってた。そうじゃなかったら多分読めなかったな。

肇か。

なんとなく目的を達成したような気もした。

 

「男っぽくて古臭い名前だけど、大切な名前です。」

「そっか。俺は開く、って書いて開。」

「イマドキって感じですね。」

「そう?まあ音読みなのは少し珍しいかも知れないけど。」

「そうですよ。…それで、なぜ岡山に?」

「気恥ずかしいな。君に逢いに来たって言ったらひく?」

「私にですか?」

「うん。取材の時に見かけてさ、なぜかわかんないけどもっかい逢いたくなったんだ。ストーカーって言われてもおかしくない行動だけど。」

「正直ですね。」

「ちょっと距離おいたね。」

「少し身の危険を感じました。」

 

そう言いつつ顔は苦笑いだから説得力はあんまりない。

 

「あーもう恥ずかしいなあ!年下の女の子に逢うためだけにわざわざ来るなんて、変態じゃねえか!」

 

なんとなく叫ぶ。

 

「ホントですよ、まあ、目的は達せれて良かったですね。」

「いやー、君がいてくれてよかったわ。出てきたのがおじいちゃんだったらなんて言えばよかったのかわかんないもん。」

「フフッ、そうですね。…菅原さんにだけ恥ずかしい話をさせるのもなんだし私も告白しますね。」

「どういう思考回路してんの…ま、悩みなら聞くけど。」

 

真っ直ぐな子だなあ。

 

「私、おじいちゃんに跡継ぎとして期待されてて、陶器を作るのは大好きですし、本当に嬉しいことなんですけど、最近どんな器を作ればいいかわからなくなって。」

「そっか。」

 

よくある話といえばよくある話かもしれない。一種のスランプとも捉えられるし、一個いいのが作れたら治るかもしれない。

まだ若いしそのうち治る、そんな時期もある。と思う。

でもそんな月並みなことは言われてきただろうし、そんなことを言うつもりもない。

この子は、今悩んでるんだから。

 

「そうだなあ…また俺の話していい?」

「?はい。」

「ハンドボールって知ってる?」

「体育でやったことなら。」

「ならよかった。俺、小学校から高校までハンドボールのキーパーやってて、高校もそれで入ったんだけどね。んで、めちゃくちゃ練習して2年の時に先輩さしおいてレギュラーで全国出たんだけど、準決勝で負けちゃってさ、なーんもなくなっちゃった。やる気も、目標も、それどころか技術まで。」

 

まあ今思い返すとそんなにすぐ下手になるわけないし俺もスランプだったんだろうな、優勝の夢や、レギュラーとるって目標も一回消えたから。

 

「そうだったんですか…」

 

悲しそうな顔をさせてしまった。そんなつもりじゃなかったんだがな。

 

「そんで部活辞めて、荒んで、でも昔から人笑わすのは得意だったから高校でて芸能養成所入ったんだ。そしたら昔の俺になったみたいに、いや…それ以上にやる気に満ち溢れた奴になってね。デビュー難しいって言われてたレベルから346って事務所に入れて、まあなんとか食っていけるくらいになって、今に至るんだわ。」

 

まあやる気はまた消えかかってたりするんだけど。

 

「はい。」

「まあ何が言いたいかって、1回でっかい変化を経験してみると良いってこと。いやー、芸能界って全く常識通じないし俺が変わるキッカケになったと思ってる。」

「変化、ですか。」

「うん。」

「私、窯元を継ぐ以外に夢をがあるんです。」

「何?」

 

そこで、彼女は一度深呼吸をした。まるで、覚悟を決めるように。

 

 

「アイドルに、成りたいって。」

 

 

最高の夢じゃないか。

──────────────────────

「こんにちは!」

「ん?アンタは確か…」

「先日はお世話になりました。菅原です。」

「ああそうだ、で、なんか用かい?」

「はい。肇さんの話を聞いてください。」

「肇?なんでアンタが知ってるんだい?」

「色々ありまして。さ、肇さん。」

「はい。─おじいちゃん、私に時間をください。」

「どういうことだ?」

「私、やりたいことがあります。」

「何だ?大学に行きたいのか?」

「ううん、違う。」

「なら、なんだ?」

 

爺さま俺をめっちゃ見てる。怖えええええ。

でも、これで少しでも肇が楽になるなら。

 

負けるな、自分の夢を語れ。そんなことが言いたくて肩を叩いた。

 

「私、アイドルに成りたい。」

「アイドル?」

「うん。華やかなテレビの中の存在。私には縁がないって思ってた。でも、挑戦したい。挑戦して、変わりたい。」

「アイドル、か。」

「俺が…!俺が、きっと、いや、絶対に肇さんをアイドルにします!肇さんなら成れます!芸能界にいる俺が保証します!」

「アンタが?アンタだって厳しいんだろう。そんなことを言える立場かい?」

「ぐっ…いや、俺も大きな存在になります!肇さんのおかげでまたやる気を思い出しました!守れるような、男になります!」

「…ハハハッ、言ったな、坊主。プロポーズのようなセリフだな。」

「…ハッ!?つい勢いで…いや、勢いでも嘘じゃないです!」

「フン、いい面してるじゃないか。前来た時は小賢い面だったがな、まああれはあれで付き合いやすいいい青年だがな。」

「まあ、どっちも俺ってことで…」

「肇、ということだ。彼の伝手を辿りなさい、そして、必ず一番になりなさい。」

「はい!」

「まあ、今のお前じゃ良いモンは作れんしな。時間は元々やるつもりだった。お前の人生、やりたいようにやれい。」

「うん!ありがとう!」

「坊主、任したぞ。あと、いい啖呵だ。俺も婆さんの家で担架きったことを思い出したわ。」

 

この爺さんの啖呵とかクソ怖そうだな…

──────────────────────

「肇、気持ちは大丈夫か?」

「うん。」

「悪かったな、押しも押されもしないデビューさせるだけの権力を得るために2年もかかっちまった。」

「十分早いよ。それに、それだけあったから私いい素材になれたしね。先ず、素材が良くないと良い器にはならないから。」

「そうか。なら、これからは形を整えていこうか。アイドル、藤原 肇のな。」

「任せといて。」

 

『藤原さん、スタンバイお願いします!』

 

「はい!あ、ねえ。開。」

「ん?」

「ありがとう。あと、これからも守ってね。」

「ああ。一生、守ってやるよ。なんせ、遺伝子レベルの一目惚れの相手だからな。」

「ふえっ!?」

 

『藤原さん?』

 

「あ、はい!…もう!これからもよろしくお願いします!」

「ハハッ、任せろ。」

 

今日は、肇のデビューの日。

これから彼女は彼女自身を形作っていく。

そして、自分自身が最高傑作になるだろう。




読んでもらってありがとうございます!
書けば出るって聞いた…

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