いや、もしかしたら物欲センサーが悪いのかも…なんて現実逃避をしてみたり。
とにかく、イベントの礼装って全然落ちませんよね?なマスターのお話。
「頼む…少し、休ませてくれ…」
屈強な体を持つはずのサーヴァントたちがついに膝をつく。
彼らのうちにはすでに倒れた者も幾人かいる始末だ。
端から見れば化け物級の体躯を持つ彼らが、どうしてこうもへばっているのか。
答えは簡単だった。
「みんなもうちょっと頑張って~、おねがーい!」
後ろのほうで可愛くおねだりをして見せる橙髪の少女に、皆揃って恨めし顔をする。
こんなことになってしまったのは誰の責任か。
「マスター…。貴様、もう少し幸運を上げたらどうなんだ…!」
そう、我らがマスターは。
とてつもなく運が悪い。
「だーかーらー、ごめんって。そればっかりはどうにもならないんだよおぉ」
他の部分で補おうと努力を惜しまない姿は我らサーヴァントも見てきているため、責めることもできない。
皆そうだろう。だからこそぜいぜい言いながらここまでついてきたのだ。
だが、それにも限度というものがある。
「これで…何週目…?」
「さあ…二十超えたあたりからもう数えるのをやめたよ」
言うならば我らはハードワーカー。
練度も高いし幸い敵も強くない。
そんな我らがへばっているほど、と言えばもう他に言葉はいらないだろう。
「メンバー、変えませんか?せめて」
「見てよほら、フレンドさんが…」
「うーん。申し訳ないけれど、相性とかあるしー、うちもじり貧だしー…」
うちのマスターは無茶を言うような人間ではない。
小心者だし実力もないし、ちゃんと分をわきまえている。
でもたまに欲に目が眩んでしまうことがある。
今回がそのパターンだ。
「もう無理だー、無理ですー帰りたいー!」
「こら、今回のはいつものただのわがままじゃないんだから、少し我慢しよ」
そう、今回は。
今回はあった方がいいどころか、今の我らにはなくては困るほどの礼装を探しに来ているのだった。
「全く…それでなかったら付き合いきれんぞ」
「マスターは大丈夫か?前線でないとはいえ消耗するだろう」
「ありがとうエミヤ。でも大丈夫、みんな頑張って!」
マスターの立場ではほとんど何もできないことを彼女は心得ている。
だから無茶は言っても横暴は絶対にしない。
…まあ、これが横暴と言わないのかどうかには触れないでほしいのだが。
「それにしても…落ちない」
「覚悟はしてたけど…さすがにつらくなってきたぞ」
「聞いてない。聞いてないぞマスター。帰ったら…覚えておけよ」
恨むなら気軽にサポートを引き受けてしまった自身を恨んでおけ。
という顔をしていたのでマスターの頭をはたく。
「痛いんだけどアンデルセン…あ。これでいい小説でも書けそうじゃない!?」
いい加減にしろ。小説舐めんな。
そう表情で訴えてやれば空気を読んだのかどうなのか意味ありげに笑った。
…本当に伝わったのだろうか。
「あきらめる?そんな選択肢、はじめからないよ」
「それどや顔でいうことですか…」
「まだまだ元気なバーサーカーを見習って!暴れたりないって顔してる」
「我々と彼らを一緒にしないで頂きたい…」
全くだ。
理性のタカが外れた怪物と、我らは文化人。
そもそもの作りが違う。
「まあでも、前線が彼らだから…まだ助かってます」
「ていうか、この特異点、いつまで開いてるんだっけ…?」
「うん?あと一時間」
皆が戦慄した。
それはつまり、あと一時間は約束されたようなもの。
そして。
それで狩り尽くせなかった時のことを考えるとぞっとした。
「これだけ狩っても礼装の恩恵を受けられないとなると…非生産的だねぇ」
「おいふざけるなよマスター」
「ノーノーふざけてるのは私じゃなくてこのシステムでしょう」
確かにマスターにあたるのは間違っているが、そうしたくなる気持ちもとても分かる。
むしろ我慢してるサーヴァントが偉い。偉すぎる。
「そりゃ悪いとは思ってるさ。幸運Fなんだもん」
あまりにも不遇すぎる境遇から付けられたランクは幸運Fという不名誉な物。
本人は「不幸のF!」なんて叫びまわってあまり気にしていないよう(に見える)だ。
少しは気にしてくれ。
本人曰く、気持ちでどうにかなるものじゃないらしい。
それについては心当たりがあるのであまり突っ込まないが。
「僕たちみたいな比較的幸運高いのがいてもこれですから…」
このパーティーには騎士王アルトリアや英雄王の子ども時代など幸運値の高い奴らも交じってはいる。
だがあまり効果を発揮しない。
それは今までのクエストでも実証済みである。
「なあマスター…こういうのもなんだが…、あきらめも肝心だぞ」
「そうだな。引き際というのもある」
どうにもならない理不尽は何度も経験してきたマスターだ。
運がないせいであらゆるところで被虐体質を発揮してくる。
このマスターに限って、何も起こらない平穏は存在しない。
それを打開する力も持っていない。
「…私があきらめ悪いって知ってるくせに」
それは知っている。
往生際が悪い、と言った方が正しいかもしれん。
そして、頭も弱い。割と本気で。
「完璧なマスターじゃなくて悪かったわね」
おまけに少し、いやかなりひねくれものだ。
可愛くおねだりすればある程度大丈夫だと思っているあたりが特に。
「たとえ何も得なくても、あきらめるのは嫌なのー!負けた気がするのー!」
「…誰と戦っているかは知らんが、お前が勝てる相手などそうそういないだろ…」
「ひどい!!」
彼女の場合二通りだ。
本当に中途半端が嫌できっちりやり切りたいと思っているか。
あるいは、”ほとんど見えてこない希望にまだ期待している”かだ。
「物欲だけは一人前だな」
「だって…!この前だって拾えたんだもん!」
前回はまた同じような目にあって、終了三時間前で何とか拾うことが出来たのだ。
そうして甘い蜜をすった彼女は性懲りもなく二度目三度目を夢見る。
「悪いとは言ってない。こればかりは確立の問題だからな」
それについていく我らもどうかしているのだ。
最初から諦めているくせに、惰性でマスターについて行くことはしない。
皆希望を持っているからついていくのだ。
「金色の箱あるよ!」
「!?」
その声に一斉に振り返る。
ようやくここで終われるかもしれない。
誰もがそう安堵した直後だった。
「これは…」
「……」
「ああ。うん…知ってた」
「マスター…!」
もう怒ってもいいだろうか。
中から出てきたのは金色のモニュメントだった。
「みんなぁぁぁぁもう一回おねがぁぁぁい!」
怒鳴ろうとした声をかき消すように、彼女の悲痛な叫びが響き渡った
あまりにも理不尽なイベント期間を過ごしたので突発的に。
なんで最近のイベント礼装はドロップありきなんですか…。
幸運低い組からすれば拷問同様、林檎?三桁近く食べましたよ。
そんな報われなかったマスターの皆様へ。