遊戯王THE・STORY 『メタモルとユベルと時々私』 作:半生緋色
ああ、DAUSに到着するのはいつの日になるか。
人混みをかき分け、二人はなんとか目標であるデュエルスペースに到着する。
一応建前上男性な私は、できるだけ前に行こうと彼女の壁になりつつ、グイグイ人混みの中を更に突き抜けていく。
……うん、こういうのは慣れないな~。なんて、心の中で愚痴りながらも、できるだけ前でと言ったのは私なわけで、ならこれぐらいは頑張らなければいけない。
なんとか発表前に到着できたのか、辺りはまだそれぞれ一緒に来たのだろう友人達と話す声で溢れかえっていた。
「どうやら、まだ始まってはいないみたいですね」
「…いや、ちょうどいいタイミングだったっぽい。ほら、あそこ」
私の後ろから前に出た彼女が言った言葉に、私はそっと指をさす。
デュエルスペースの中央では一人の試験官が書類を片手にマイクのテストをしている。
聞こえてくるよくある、マイクテスト…チェック、ワン、ツーという声に、少しずつではあるが、それに気づいたのだろう、自然と周りの声も小さくなっていった。
周りの喋り声が止まったのを見計らって、試験官が声を上げる。
「では、これより合格者を発表する!」
その言葉に静まった会場がまたざわめき出す…
周りを見れば、それぞれ表情は多種多様だ。
どこか諦めているもの、自分は合格していると信じて疑わないもの自信に溢れたもの。だが大多数を占めるのは不安だ。私はなんとなく隣の彼女をそっと見る。
「ん?…大丈夫です。私、これでも少しだけ自信がありますから。それに藍沢さんも大丈夫ですよ。あれだけ楽しそうなデュエルができてたんですから」
私の視線に気づき、困ったように首を傾げながらもそう言う彼女は、それでもやっぱりどこか不安なのだろう。口調とは裏腹に、きゅっと握り込んだ手に力が入っている。かと言う私だって不安だ。私は自分自身にそこまでの自信はない。たしかに人とは違うことをしている自覚はあるが、それは自信にはつながらない。
…だけど、私のパートナーは違うようだ。
『心配しなくても、君はここで落ちるような人間ではないよ。なにせ僕のパートナーだからね』
そう、心の中に声が聞こえる。
たったそれだけで自然と自信が湧いてくるのだから不思議だ。
私はその言葉にニッコリと微笑む。
「…そうだね、大丈夫」
「はい!」
嬉しそうに私に言葉を返す隣の彼女に、心の中小さくごめんねと呟く。
なんとなく罪悪感。それは彼女には言えないけど。
どうやら発表は番号順らしく、ナンバーが低い順に合格者が発表されていく。
私の番号は1192番。いい国と、とても覚えやすい。
徐々に読み上げられる数字が自分の番号に近づいていく。
それにしても、こういう読み上げって心臓に悪いと思う。
1191番の人が合格だと、119まで一緒だから変に緊張してしまう。自分よりも後の数値を呼ばれたらその段階で落ちていることになるし…
って試験官さんが119まで読み上げた!?
「受験番号1191番…」
「って、一つ前!」
ああ、心臓に悪い。
思わず上げた声に周りの視線が集まる。
あ、すみませんと頭を下げた瞬間
「…受験番号1192番、
『普通に読み上げられてるね、おめでとう』
「あ、はい」
頭を下げている途中に聞こえた自分の番号になんとも居たたまれない気持ちになる。
うん、確かに嬉しいよ。なんかタイミングを逃してしまったよね。
ゆっくりと視線を上げ隣を見れば、自分の番号で気づかなかったが彼女も合格しているようで、嬉しそうに少し燥いでいるその姿を見ているとなんだろう、こっちまで微笑ましい気分になる。
「えっと、合格おめでとう」
「藍沢さんも、おめでとうございます」
気がつけばお互いにお互いの合格を祝いあっていた。ただ、あまり騒ぎ過ぎるとまた周りの目が痛いので、抑え気味に抑え気味に。
そう思いつつも自然と頬が緩むのだから仕方がない。
アカデミアを辞めてから特に目標もなく生きてきた私が、誰かのためにと思い立って初めて立てた目標を達成したのだから。
『僕のためにご苦労様。まあ、大変なのはこれからだけどね』
『そうだね。でも、その『これから』があるって良いことだと思うんだ』
少なくとも、ユベルと出会う前は、アカデミアを一度辞めた後は、私は何もない毎日を只々過ごしていた気がする。だから、今目の前にあるとある目標がどんなに難しいものでも、進むべき道、目指すべきものが続くというのはやっぱり嬉しいものだから。
「受験番号2525、
そうこう二人で話している間に、最後の合格者が発表されたらしい。受験番号2525…あれ?確かDAUS発表の試験受験者は2500人だったはずだけど…特別枠かな?
まあ、私が考えても仕方がないし、合格者ならいずれ話す機会もあるだろう…今はそれより移動しなければ。
号令とともに、発表現場に集まっていた人々は、それぞれ別々の場所に向かって歩きだし始める。
意気揚々と隣のデュエルフィールドに移動するもの、そして暗い表情で荷物をまとめ会場出口に向かうもの。…耳をすませば嗚咽も聞こえてくる。
当然ではあるが、試験である以上少なくないデュエリストが合格すること無く、この場を去っていく。
「…わかってたけど、全員は合格できないよね。きっと面白いデュエルした子もいたんだろうなー。その人の分も私頑張らないと。…ふ…はは、そんなこと、私が言う言葉じゃないか」
言葉にして、そしてその言葉が逃げた自分が言ってはいけない事に気づいて、なんとなくまた罪悪感に苛まれる。
どの顔下げて戻ってきたんだろうね、私は。
「どうしたのですか?藍沢さん」
「あ~…。少し昔のこと思い出しただけ。気にしないで。それよりもさ、行こう行こう。移動しながら、面白そうな人の顔覚えるぞー」
「覚えておいて、それで、挑むんですね」
「…当然。あ、レッドアイズ使ってた人も残ってる!」
「藍沢さん。あそこにいる人も、なかなか面白いデュエル展開をしていましたよ?」
「ほんと?よーし、顔覚えたぞ」
楽しげに笑みを作りながら、楽しそうに会話をしながらも、私は急ぎ足でその場を移動した。
なんとなく、落ちた人の表情、声をこれ以上聞いていたくなかったから。
――――――――――――――――
移動した私達を待っていたのは、ごく当たり前な入学資料の配布と、DAUSについての再度説明だった。
口頭説明の為に試験官がデュエルディスクに一枚のモンスターカードをセットする。
それに反応しデュエルフィールドには大きな島の地図が表示される。
さすがDAUSというべきか、これ用にそういったカードを作ったんだなと理解し、現れたヴィジョンに視線を向ける。
ソリッドヴィジョンを使った説明はとてもわかり易く、むしろ無駄に凝っているのか、モンスターカードとして効果を発動すると、自身をリリースして、次の説明用モンスターをデッキからでデュエルディスクがサーチして特殊召喚するという無駄っぷりで、思わず笑ってしまった。
『ねぇ、ユベル。あれも一応モンスターカードだし、カードの意思が…』
『いや、…流石にないんじゃないかな』
そんな他愛のない脳内会話をしながら、説明されたことを頭の中でまとめる。
DAUSはデュエルアカデミアと同じで全寮制、完全に孤立した島の中で卒業まで過ごすことになる。
今回の受験合格者は受験者2500人中の300人。それぞれ、上位からオベリスクブルーに15名、ラーイエロー50名、オシリスレッド230名、特別クラス5名に分けられる。
クラス分けについては、島への移動中に船内で行われる交流デュエル大会の結果を参考にしてクラス分けが行われるらしい。
ただ、これらの構成はあくまで入学初期の所属であり、学内の功績成績によってクラスは変動する。
最初はオシリスレッドの人数がかなり偏ってると思ったが、あくまでも階級が上がる前提の構成なのだろう。生徒のやる気を上げるためには仕方ないのかもしれない。
私がいた頃のオシリスレッドは、底から這い上がってブルーになったものは大成するなんてジンクスがあったし。
それにしても、デュエルアカデミアと違って、女子はオベリスクブルー固定というのもないみたいだ。
周りを見ても女性デュエリストが何人か見える。もちろん隣の彼女も含めて、15人以上は確実にいることになる。
あとは、デュエル学部から他の学部への編入も可能で、逆もまた然りらしい。
それにしても、やっぱりDAUSも島にあるんだ。島全体が施設としてのDAUS…
つまりDAUS島だね!
きっと、島を開拓しているアイドルデュエリストがいるに違いない、なんて頭のなかで勝手な想像をしていると。
「みなさーん、注目!!注目ですよ~!」
中央で号令を上げていた先程の試験官ではなく、多分職員さんだろう女性が説明を受け終わった合格者たちにマイクで声をかける。
多分なのは、なんというかその女性の服装が職員というよりも研究者のような白衣を着ていて、特徴的な黒縁の度の強い瓶底眼鏡をしていたこと。
これはもしかしたら、ほんとうに研究職の人で、今日はたまたま駆り出されただけ出る程度説明できるのだが。
ただ、私が彼女を見て最初に思ったことは
『「…小学生?」』
彼女を見て思わず口に出た私の言葉とユベルの言葉がハモった。
その女性はどう見ても小学生にしか見えない幼い外見をしていたからだ。狙ったかのような黒髪の少し長めのおかっぱ頭に、サイズが中々無かったのだろう少し大きめでブカブカな白衣が余計に幼さを際立たせている。
「…可愛い方ですね」
「あー…うん、見た目通りなら」
「見た目通りなら…ですか?」
私の呟きに、隣の彼女が不思議そうに呟く。
でもわかる、わかるぞ。私にはわかる。あの幼そうな表情で浮かべる笑みは作り笑いだ。言うなれば、こうすれば可愛いんだぞ!ていうのをわかった上でやっている確信犯か。ただ、どことなく無邪気さが足りない。…ん?というよりも、何か怒ってるのを隠そうとしているのが正解かもしれない。
私がそんなふうに思いながら、その小学生、もとい職員さんの言葉の続きを待つ。
「合格者は一週間後身の回りの準備をし、港に現地集合となりま~す。そこからDAUS所有の船で島に向かいます。詳細については手続書類の中に別紙資料、私が夜なべして作ったのが入っていますので、それぞれ確認してくださいね!見てくれないと私怒りますよ!荷物が多い場合は、予め資料に書かれた業者に連絡を入れておいてください。後、これは入学事項、DAUSの説明とは関係ないのですが…私の事小学生とか言ったやつ、今この場の音声残ってるから入学してから覚えとけよ!」
明らかに可愛らしい声から一転、凄まじいドスの効いた声色で最後の言葉を言い終われば、ニコリと笑みを浮かべ直し、可愛らしく一礼してその女性は去っていく。心なしかその去り際、人垣が彼女を恐れて割れた気がしたが、多分気のせいじゃないだろう。
「ゴホン…ええ、説明は以上で終了だ。入学金の振込先、奨学金についても資料が入っているので確認をするように。と言っても、ここにいるのは子供ではないから、そのあたりは大丈夫だろう。以上で、話は終わりだ。解散!」
――――――――――――――――
記憶に残る最後の一幕から一転、周りに残っていた合格者たちもそれぞれ、思い思いに抑えていた合格の喜びを噛み締めていた。私たちはというと…
「…それじゃあ、これからは同級生ってことかな?私の名前は…まあ、知っているだろうけど藍沢。藍沢陽彩。君は?」
そういえば自己紹介をしていなかったことを思い出し、私は今まで一緒にいた女性に向き直る。
正直、もっと早くに自己紹介をしても良かったかもしれないけど、どちらかが落ちていた場合、なんと話しかけていいのかわからなくなる。…これは私が人付き合いが苦手とかじゃないから!受験あるあるだから。
そんな私の言葉に、彼女は少し、いやかなり深刻に考えるような素振りを見せた後、ゆっくりと口を開いた。
「えっと…私は
…うん、なんだろう。
さっきまでの普通に受験やデュエルの話をしていたときと違って、なんだかとっても雰囲気が重い。何か、聞いてはいけないことでも聞いてしまったかな?私は名前を聞いただけなのだけど
「あはは、なんだかすごい自己紹介だね。うん、でも私は忘れないよ」
今は深く踏み込んではいけない気がしたので、私は軽く流し笑顔で言葉を続けた。
少なくとも、こんな自己紹介をした時点で私は相手のことを忘れるようなことはないだろう。
その言葉に安心したのかは分からないが、表情が少しだけ明るくなった相手が眼鏡越しにじっとこちらの瞳を覗き込んでくる。
「それで…一つ気になったことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「ん?何かな~?今の私は御園さんの質問なら、なんでも答えちゃうぞ!」
相変わらず、見つめられたままでは少し照れるな…なんて思いながらも、まっすぐに彼女の方に私も視線を合わせる。
でも改めて聞くということは、何か彼女にとってどうしても気になることなのだろう。でも
「…藍沢さんって、男の人ですよね?」
これは不意打ちだった。え?私どこからどう見ても今の姿は男の人でしょ?そういうふうに変わったし、自分でもバッチリだと判断している。…なんでユベルこっち見て笑ってるの!?
「そ、そんなの当たり前じゃないかーやだなー」
「でも、口調は完全に女性みたいで…」
うん、バッチリ疑われています。本当にありがとうございました。
追求するような相手の視線は変わらず私を見つめている。
「僕が女性のワケナイジャナイカー」
そんな目に私は耐えられなくなって、無理に一人称を変えてみるも、あまりにもテンパってしまい、呟く言葉は少しだけ片言になる。そんな私を見かねてか
『動揺しすぎだ。少し無理があるよ。だからアレほど口調も直さなきゃと』
『でも、こういう男子は地味に人気があるんだ!…漫画の世界ではだけど』
『…それって全然駄目じゃないかな?』
呆れるユベルの声が頭に響く。そんな空白の間に彼女もどうして良いのかわからず不安そうな顔をしている。まあ、それ以上に私が動揺しているのだが。
「えっと…聞いちゃいけなかったでしょうか?」
「あ、うん。じゃなかった、そんなことないよ。あ、そうだ!名字で呼ぶのはなんか堅苦しいから、僕…、もういいや、私のことは陽彩でいいよ」
とりあえず、話題を変えて誤魔化そう。
「えっと、そうですか?では陽彩さんで。…なら、私のことも司と呼んでください」
おお、乗ってくれた!これはうまく誤魔化されてくれるかな?
自分の名前を素直に読んでくれる彼女に何処か安心して私は小さくほっと一息。
「了解。それじゃあ司さん、これからもよろしく」
「…それで、実際のところはどうなのですか?」
まあ、そうだよね~。私をすごく興味津々で見てくる視線は変わらないもん。
私はどこか諦めたように、それでも最後の抵抗と言葉を紡いだ。
「ほら、どこからどう見ても男だよ。なんなら喉仏触ってもいいし。生物的分類は男!以上!それでも気になるなら、付け回してでも調べて良いから」
私は今までかぶったままだったフードを取り、そっと彼女に喉元を見せる。
あくまで喉仏だけ。他を見せたり、触られたりは、ただの変質者だし。
まあ、これだけ言っておけば少しは引き下がってくれるだろう…と、思ったのだけど。
「…良いんですか?じゃあ、付け回しますね」
待って、そっち!?喉仏じゃないの?
でも、よく考えたら彼女は最初あったときもそんな感じだった。
『よかったね陽彩。友だちが増えたよ?』
私の様子に心底楽しそうなユベルが恨めしい。
だけど、まあ、別に良いかと思えている自分がいる。
アカデミアを辞めてから、いやアカデミアの途中からずっと一人だったから。
だから、話し相手がいるのは悪い気はしなかった。
「あ…はい。なんだかすごいね司さん。…諦めます。好きにしてください!もう、私帰る!帰って一人祝勝会あげる」
「あ、私も参加していいですか?」
「…もう好きにして。…と言うか、流石にこの後家までついてこないよね?DAUS入学してからだよね?一応私男だからね?」
そう声をかけて彼女の声が帰ってこないのがなんとなく怖かった。…なんで笑ってるの?
けど、まあ今は深く考えない。とりあえず、今は合格した喜びを祝勝会と言う名の外食で発散しよう。
『ねえ、ユベル?何が食べたい?食べるの私だけど』
『あ、うん。現実逃避するのは良いけど、彼女バッチリついてきてるよ?』
『言わないで…。まあ、でも彼女は悪人じゃないよ。…デュエル好きに悪い人がいないから』
『自分のプレイングを褒められたからでしょ?陽彩は単純だから』
図星だ。だけど仕方がないじゃないか。本当に久しぶりに嬉しかった。
自分はこのデッキで戦っていてもいいって言われた気がしたから。
…よーし、もう開き直るぞ!
「ねえ、とりあえず何食べたい?今なら、もれなく私の奢りでいいよ。こう言うのは男子が奢るものだろうし」
一度言ってみたかったセリフをここぞとばかりに言ってみる。
最初は私のいきなりの変化に戸惑っていた彼女も、徐々に表情が柔らかくなり…
「あ…私ですか?私は…」
そうして、二人のデュエリストは試験会場を後にする。
最初はお互いどこか遠慮していた会話も、食事が終わる頃にはうちとけていた。
ただ、私はその時気づくことができなかった。そんな私を見つめるユベルのどこか寂しそうな視線に
――――――――――――――――
試験中の賑やかさとは違って受験生が帰った後の静まり返った受験会場。
その会議室の一室、部屋に設置されたモニターには今日受験に参加した受験者の情報が表示されている。
その部屋の中ではDAUSの関係者が円卓の机を囲み、会議をしていた。
「それで、今回の受験生についてだが…、それぞれ何か気になる人物はいたかな?」
最初に口を開いたのは、この会議の議長だろう年配の男。
昔は真っ黒だった髪も今では真っ白に染まり、だが、その肉体は衰えを知らないのか回りにいる数人の試験官よりもむしろ体つきはかなり筋肉質で、威厳のこもった視線声で円卓を囲む参加者に視線と声を送る。
その言葉に答えるように、何人かの受験試験官を担当した人物が声を上げた。
「いやいや、今年は豊作ですね。ヒヤヒヤした相手が何人かいましたが…」
「伝説の彼を思い出させるHERO使い、そしてサイバー流の使い手なんかもいましたねぇ」
「私の担当では…、ええ可愛い男の子が何人か。あれはまた磨けばまた違う方に輝くと。あ、女の子は知らないです」
「…それ、デュエルのことだよな?君の言い方だと別の意味に聞こえるのだが」
「まあまあ、彼のあれはツッコミを入れるだけ野暮だよ」
それぞれ受け持った受験生の話題で盛り上がる。優秀な生徒が入ってくるのは講師として楽しみなのだろう。名前が上がった生徒はそれぞれ自身で話をしながらも、それぞれの資料にチェックを入れていく。
そんな和やかに過ぎていく場に、今まで黙っていた白衣を着た初老の男が場を制するように、咳払いをしたあと声を上げる。
「一つ、気になるデータが有る」
その男はこのDAUSでも、特殊な位置にいる人間。デュエル科学技術担当の男だった。
普段はただ退屈そうにこの場にいるだけの男。その男が声を上げたことで和やかに話しているだけの場だった会議室の空気が変わる。
「…と、いいますと」
議長が話を促すように声をかける。
「研究も兼ねて、デュエルディスクにデュエルエナジーを測定する機器をセットしていたのだが…」
「ああ、技術部が言っていた、現在も研究中のデュエルモンスターズで発生するエネルギー関連のですか」
「正確に言うと、強いデュエリストほど発生するエナジーが多いので、合否の指標になるかな~と思ってセットして見たんですけど。で、私はまだ全部チェックしていなかったのですが、何かあったんですか博士?」
同じ技術部の白衣を着た女子小学生、もとい技術部副主任が興味ありげに視線を向ける。
彼女も、数値についてはある程度チェックはしていたのだろう。ある程度なのはこの会議が始まる前まで音声解析をしていたからなのだが。
「…二人、おかしな数値を叩き出したデュエリストがいる」
「ほう、他と比べ、それほどまでに高い数値を?」
議長の紡いだ言葉、それはこの場に参加した全員が思った当然の質問だった。デュエルをすれば必ず溢れるエネルギーであるデュエルエナジー。それが際立った数値が出るとすれば、その量が多いと思うのが自然だ。
だが、続く言葉がそれを否定した。
「いや、逆だ。ほとんど感知できなかった」
一瞬辺りは静寂に包まれる…。少しして一人の男が沈黙に耐えかね声を上げた。
「…は?」
それに答えるように、先程の科学技術担当の男、通称博士が話を続ける。
「まるでデュエルをしていないように感知できなかった。いや、デュエルをしているのだから発生はしているのだろうが、感知する前にそのエネルギーが何処かに消えていた」
デュエルエナジーは未だに研究中のエネルギーだ。過去の記憶では時空に穴を開けたという記録もある未知のエネルギー。
その研究は人類の発展に大きく貢献するだろうことは明白で、各研究機関で現在進行系で研究が重ねられてはいるものの、全容については未だ謎。
そのエネルギーが消えるとなれば…
「…危険ですよね。博士、私思うのです。この際その受験者消しちゃうというのはどうでしょう?ほら、科学の発展には犠牲はつきものデースって、どこかの博士も言っていますし」
副主任の言葉に、会議参加者全員の厳しい視線が集まる。その視線に気づき、あははと作り笑いを浮かべながら。
「…冗談ですよ、冗談。逆ですよ。そんな人がいたなら、確実に技術解明の鍵になりますから。それに、かわいい入学生にそんなことしませんよ。疑いの視線を向けるなんて心外です!ぷんぷん」
「いや、みんな君のことは知っているから。正直その歳でぷんぷんはキツイものがあると…」
「…あ?」
円卓の片隅で不毛な戦いが起きているが、それを無視して議長の男が話しを促す。
「その受験者は?」
「受験番号1192番、藍沢陽彩。それともうひとり…」
発言とともに、博士は手元の端末を操作する。
同時にモニターには件の人物のプロフィール、デッキ内容が表示される。
その映像を見て一人の男と副主任が声を上げる。
「ほう…。」「あ!?」
「知っているのか?」
「私の事を小学生と言った一人!」
「…それは今はどうでもいい。君はどうなんだ?」
「…片方は私が受け持った受験者でしたから」
「何か変わったことはあったか?」
その男、藍沢を担当した試験官は、デュエルの様子を思い出し、少し考えるような仕草をした後に口を開く。
「…かなり特殊なデッキでしたが、本人はデュエルを楽しんでいました。あの状態でエナジーが出ないのは考えられません」
「ならば、機器の故障か?」
「だが、その同じディスクを使ったあとの受験者のエナジーについては感知できている」
「なら、何故?」
「それがわからんから、この場で議題に上げた」
博士の発言でまた場が静寂に包まれる。だが、それについて専門家の二人が何も言わないのだから、他のものに原因がわかるものがいる筈もなく。
「現状では原因不明ということか…。不正の線は?」
「それはないでしょうな。デュエルディスクを装着するまで時間もありませんし、そんなことをすればディスクの不正防止プログラムが起動する。一応は試験である以上、かなり強固なプロテクトを掛けてあった」
答える博士は淡々としたものだ。
議題を持ち込む前に博士自身がすでに調べていたのだろう、有無を言わさずそう結論付ける。
「…いくら議論しても、結論は出んか。ならばその生徒は要監視対象だな」
「監視…と言うのはいささか言いすぎな気が」
「だが、必要なことだ」
最初の和気藹々とした会議はまるでなかったかのように、その場は緊張感に包まれる。
少なくともここに参加した物皆がその必要性については理解しているのだろう。
有無を言わさぬその議長の発言に、異を唱えるものはいなかった。ただ
そんな中、
「それならば、彼は私が担当しましょう。それで何か分かり次第、報告を随時上げていきます。もう一人は…」
「なら、私が受け持っておくわ。彼もなかなかかわいい男子だし…。磨き甲斐もありそうだわ」
二人の試験官が名乗りを上げる。一人は藍沢の受験を担当した試験官。名前は古田という。
彼ならば問題ないと皆が判断したのか特に反論はなかった。だが、もう一人の試験官が声を上げたことに数人が難色を示す。
だが、他に立候補者がいない以上は仕方がないと、どこか諦めたように議長が承認するように口を開く。
「……途中退学させるような自体だけは避けてくれ」
そこには色々な感情が含まれていた。
もう一人の「彼」に目をつけられた生徒は少なくとも何かしらの実績を残していた。
実際指導者としては優秀である。…問題は、その性格と性癖。それを知っているからこそ周りの目は複雑だった。
ただ、これで終わりかと思ったこの話に、藍沢を担当した試験官から新たな燃料が投下される
「それと、藍沢について一つ気にになったことが…」
「なんだね?」
「昔、噂を聞いた生徒の名前なのですが、彼と同じ藍沢を名乗る。その子は確か女子生徒だったのですが、もしかして彼は…」
会議は続く…当事者たちの知らぬ間に、様々な事態が思惑が動き出す。
会話に上がった生徒達も、この会議に参加したDAUS関係者も知らぬところで、
円卓に仕込まれた小さな盗聴器、その受信先にいた人物が怪しく笑う。
というわけで、次はクラス分けです!デュエルが書けるよやったね緋色!
まあ、間に色々挟むかもですが