遊戯王THE・STORY 『メタモルとユベルと時々私』 作:半生緋色
本編と関わっているような関わっていない話なので飛ばして読んでも可です。
ああ、お気付きの通り前後編だよ。
デュエルアカデミアへと行き交う船が寄港する少し寂れた港町。
その片隅にある一見のボロアパートの一室。
そこが私、藍沢陽彩の城であり、自分の領域である下宿先である。
「……ふぁぁ………んっ……ねむ…」
何か物音がした気がした。
眠い眼を擦りながら私の意識はゆっくりと覚醒する。
…体がすごく怠い。それになんだかとても寝苦しい。何でだろう?
これでも私は、睡眠だけは優先してお金は使っていると自負している。
私の高級マットレス&羽毛布団という組み合わせは、辛い仕事の後だって必ず私の疲れを癒やしてくれた。
それなのに、今日はどうしたというのだ?
枕の位置が悪いのかなと、ポジションを変えようとそっと目を閉じたまま手を動かすも、いつものベットの感触とは違うことに気づく。ペタペタと自分が寝転がっている場所に手をはわせるとザラザラした感触…ああ、これソファーだ。寝苦しいよねソファーって。
「……あれ?」
思わず声を出してしまったけど、これはどういうことなのだろう。
私はほぼ癖のレベルで、どんなに疲れていてもベットで眠るようにしている。
むしろ体が柔らかい寝床を求めているのだが…なら、何故自分は今ソファーで眠っているのか?
思い出そうとするも、昨日は試験に合格したことに浮かれ、燥ぎすぎて終盤の記憶は少し曖昧だ。
そっとゆっくり眠い瞳を開いて周りを見れば、最初はぼやけた視界ながらも、そこが間違いなく自分の部屋なのだとは理解できる。
視線を動かせば見慣れた風景。いつも通りのカードだらけのテーブル、いつも通りの無駄に調味料だけ揃ったキッチン。そして、女の子が寝ている自分のベット。
「……ん~?」
今、見えてはいけないものが見えた気がする。
『陽彩、あなたきっと疲れてるのよ。あなたの部屋に女の子なんていないわ』
そう心の中で、ユベルではない誰かが囁いた気がするが、私はもう一度視線を外して再度あたりを見渡す。
うん、間違いなく此処は私の部屋だ。そして、昨日知り合ったばかりの女の子が私のベットで寝ている…。
そうだ、これは夢だ。そうに違いない。よし寝直そう。
まったく、誰だよ!私の部屋に等身大抱き枕なんて置いたの!
私にはユベルがいれば良いんだから。
そんなふうに思い、もぞもぞと毛布を頭までかぶり、ソファーで眠ろうとする私にユベルは少し呆れたように呟く
『ねえ、陽彩…。夢じゃないから、いい加減起きないと後が大変だよ?』
『ユベル、大丈夫………これは夢、夢だから』
『そう思うならそれでも良いけど…このまま寝るならアルバイト休まないといけないよ?』
その言葉に無理やり眠りに落ちようとしていた私の意識がはっきりと覚醒する。
あ、やばい、アルバイト先に行かなきゃ。と言うより今何時?勢い良く状態を起こして時計を見つめる。
良かった、遅刻はしてない…ギリギリだけど。
アルバイトは大丈夫として、この部屋を引き払う手続きは後回しにするしかないか。大家さんは夕方ならいるだろうし…。これは後回しで大丈夫。
ああ、でもこういった場合って何か菓子折りをもっていったほうが良いのかな?
様々なことが頭の中によぎる。
うん、一つ一つ潰していかないと、私の許容範囲を軽くオーバーしている。
私は小さくため息をつくと、そっと先ほどまで見ないようにしていた自分のベットで寝ている彼女を見る。
うん、いるよね。やっぱり…どうしようか?
「起こすのは可哀想だけど…、いや、寝かしておいたほうが良いかな?…多分私がここまで案内したんだよね?」
私の問いにユベルが察したのか、クスクスと微笑を漏らしながら私に語りかける。
『ああ、やっぱり覚えてないのか。とりあえず、今は仕事に行ったら?詳しくは移動しながら話してあげるから』
規則正しく立てている寝息から、まだ眠りが深いと思って、私はそっと書き置きだけ机の上において、急ぎ着替えを済ませると部屋を後にする。
貴重品?デッキと財布と通帳は常日頃から鞄の中だよ。
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騒々しい物音から数分、バタンという何かが閉まる音ともに、私はゆっくりと目を覚ます。
もぞもぞと温かい羽毛布団の中から手を伸ばし、近くにおいてあるだろう自分のメガネを探す。
コツンという指先に当たる眼鏡を間隔を頼りに、慣れた手つきでそれを掛ければ、ぼやけた視界が徐々に鮮明になっていく。
DAUSに入学する為にこちらに来て、久しぶりにゆっくり眠った気がする。
このまま惰眠を貪りたい衝動に駆られるが、今の私が何で布団の中にいるのか思い出さなければいけない。
確か、寝る寸前まで誰かと…そうだ
「私は…ああ、確かあの後、合格祝いのブランデー使ったお菓子に酔った陽彩さんが…」
上体を起こし、観察するように辺りを見て、現状を確認するように言葉にする。
私以外人気のないその部屋、どうやら家主は既に出ているらしい。
不用心だなとは思いつつも、きっと私のことを少し案じてくれたのだろう。
そっと机を見れば小さなメモ帳に
『鍵は外の再生野菜ネギ3号の植木鉢の下に。後、朝食食べるかわからないけど、近くのパン屋さんのドローパンがおいてます。よかったら食べてね!』
可愛らしい字で書かれたそのメモを見て、私はくすりと思わず笑ってしまった。
不思議な人だ。
そう、不思議な人。
私はベットの縁までもぞもぞと移動しながら、ゆっくり足をおろしそのまま縁に座る。
せっかくだからと、行儀が悪いとは思いつつテーブルの上に乗った不透明な袋に入ったパン、多分これがドローパンだろう、手を伸ばせば、袋を破ってそっと小さく一口。
「……美味しい」
パンの中身はタマゴで、かなり手が込んでいるのかパンの中に入っているのに、焼きたてのようなふわふわ感と深い旨味が口の中いっぱいに広がる。
私はゆっくりと味わいながら昨日の出来事を思い返した。
――――――――――――――――――――――――――――
古い歯車が軋む音を辺りに響かせ、その時轟音が会場内に響いた。
音の発生源、巨大な機械の右ストレートによって、私のモンスターは粉微塵に消し飛ばされる。
実際には感じないはずの激しいその余波に自然と体がのけぞる。モンスターの攻撃力を大きく超えたその攻撃によって私のライフは削りきられ、同時に辺りに展開していた歯車だらけの街と相手フィールドのモンスターは細かな粒子となって消えていく。
「…ありがとう、ございました」
試験は私の敗北でデュエルが終わる。
湧き上がる悔しい気持ちをなんとか抑え、私は対戦相手だった試験官に小さく一礼をする。
これも試験である以上、デュエルの後の態度も採点の対象になるだろう。
それでも、私は顔を上げ、対戦相手の試験官の顔を見ることができなかった。
一礼の後俯いたままの私は、その場を離れようと歩きだす。
そのままデュエルフィールドを離れようとしたそんな私に、試験官は声をかけてきた。
「君は何を遠慮している?」
俯きながら聞こえた声に、ビクリと一瞬体が震える。
最初は私のおどおどした態度に対して言っているのだろうか?そんな風に思ったが、すぐに先程のデュエル内容を思い出す。
「…そんなこと無いです」
じっとこちらを見る試験官の視線を感じ、少しだけ怖気づきながらも、私はそう答えた。
正直男性は苦手だった。DAUSの受験のために故郷を離れ此方に来てから、私は色々なことを経験して、なお一層そういった苦手意識がついた気がする。
だからこそ、話を切り上げようと口にしたその言葉も嘘だった。
あの場で更に展開することはできた。そうすれば今の結果が変わっていたかもしれない。
それでも、それを負けた後に考えても意味がないし、試験である以上この結果が全てだ。
俯いたまま言葉を返し、その場を離れようとした私になおも続けてその試験官は私に問いかける。
「…まあ、何か理由があるのか知らないが、君がそう言うならそういうことにしておこう。ただ、これだけは言わせてもらう。試験官としてではなく、一人のデュエリストとして」
離れようとする私に構わず試験官は言葉を続ける。
私はなんとなく早足にその場を去ろうとするも、周りの喧騒の中、試験官の言葉だけは何故だかはっきりと聞こえた。
「デュエルは楽しむものだ。今は負けて悔しいからかもしれないが、君はデュエル中、楽しんでいたか?」
デュエルは楽しむものだ。
私だって知っている。
楽しむため、強くなるために、その為にここに来たのだから。
でも、今の私はそれができない。
自分の全力を出すことが許されない。『自分のエースを出してはいけない。』
それは此処に来るために交わした約束で、それがあるから私は今この場に立っていることができるのだから。
それがモヤモヤとした何とも言えない感情になって、それでも感情を表に出さないように精一杯抵抗した後、ふぅっと深い溜め息を一つ。
落ち着いたわけではないけど、少し周りを見る余裕だけはできた。
周りの観客は既に先程までデュエルをしていた私には興味が無いのか、私を見ている視線は皆無だった。…皆が期待しているのは次の対戦相手だろう。
目立ちたくない私としてはありがたいことなのだけど、少しだけ心の中で思ってしまう。
『もっとすごいデュエルだったなら、みんなの知らないカードを出せば、見てくれる人がいたのかな?』
それはきっとデュエリスト冥利に尽きるのだろう。目立つことで恥ずかしいとは別の誇らしさがあるのだろう。
「次の対戦相手は受験番号1129、藍沢陽彩。呼び出しをお願いします」
先程、自分を倒した試験官が次の対戦相手の名前を読み上げ、インカムを使い呼び出しを行う。
次いで会場内に流れる放送音声に、このフィールドの周りにいた数人が少しざわめいた。
「藍沢?…何処かで聞いたことあるな」
「お、有名なやつ?」
「いや…どうだったか」
何やら囁かれる周りの声に、自然とこの場を離れようとした私は足を止めた。
ちょっとした好奇心…といえば良いのだろうか、何となく自分を負かした相手の次のデュエルが見て見たくなったから。
ゆっくりと視線を先程まで自分がいたデュエルフィールドに戻すと、ちょうど一人の人物が人混みを抜けて手を挙げて前に出てきた。、
「あ、はい!受験番号1192。藍沢です!」
現れたブカブカの黒いパーカーを着たその受験者は、背格好や体格から最初は女の人だと思った。
番号に次いで呼ばれた名前からも、男女区別しづらい名前だったから。
私の第一印象はただの変わった人。それ以上でも以外でもなかった。
先程の雑談が聞こえなければ、この会場にいる、大勢多数のただの一人だっただろう。
少し有名な人なら強いだろうけど、私だって全力を出せないまでもかなり頑張って戦った上で完敗したのだ。
きっとあの強い試験官にやられてしまうだろう哀れな受験生の一人になるんだろうな。
出来れば、すんなり負けてほしい…。
私がここに合格するためには、やっぱりライバルは減ってもらいたい。
…駄目ですね。そんな考えになってる段階でデュエルを楽しむことなんて。
だけど、そんな自分でも良くないと思う感情でデュエルを眺めていた私の期待を、彼はすんなりと裏切ってくれた。
「…デッキ破壊です?いや、でも…あの伏せモンスターは…」
最初は単なるデッキ破壊特化だと思った。いや、単なると言うよりは、かなり強力なデッキ破壊戦術だったが。
だけど、そう思った私の期待は見事に裏切られ、それをブラフに相手に展開を急がせ、反射ダメージでとどめを刺そうとした。
多分彼だけでは、そのデュエルは一方的なものになっただろう展開だった。
ただ、相手は私を封殺した試験官で、彼も只者ではない。
すかさずその思惑をすべて読みきった上での試験官の反撃が決まる。
私なら、多分諦めていただろう。
少なくとも私のデッキではあの場をひっくり返すことはできない。たとえ切り札を使ったとしてもだ。
それでも、彼は楽しそうに続けた。
決まらなかったときの彼の悔しそうな表情は忘れない。
圧倒的なライフ差それでも彼は諦めなかった。とんでもないデッキを回してみせた。
短いターンの中に色々な攻防が繰り広げられ、お互いの攻防に私はいつしか目が離せなくなっていた。
何よりも、最後の最後まで粘って、それでも負けたのに自分の全力を出し切ったそんな顔で笑う彼に、デュエルを終える頃にはどこか憧れてしまっていた。
彼と一緒にいたら、あんなデュエル私にもできるだろうか?
デュエルが終わり、試験官と何やら話した後、そっとひと目を避けるように歩きだす彼から私は視線を外すことができなかった。
このまま、見ているだけでいいのだろうか?
傍観者でいて良いのだろうか?
そう思った時、私は行動せずにはいられなかった。
「あの、試験でのあのデッキ…」
我ながら、第一声としてはひどいと思う。けど、何かキッカケがないと話は続かない。
だから私は、精一杯勇気を出して声を上げた。
「私、日本語分からないノーネ」
体は強張った。根本的に私は怖がりで人見知りだ。
遠回しに私に話しかけないでと言っているのはわかる。
それでも、私は彼と少しでも話したいと思った。
「え?あ、あの!…あ、ちょっと、待ってください!」
「待たないのでアール」
「…待たなくてもいいので、これだけは言わせてください」
歩き去ろうとする彼の前に私はいつの間にか立っていた。
無意識だったけど、もうこれで逃げ道はなくなったな…なんてどこか他人事の様に思っている自分がいる。
じっと、フードの中覗き込むように彼の目を見た。…その時の彼の冷たい視線は忘れられない。
きっと嫌われたな、なんて思いつつも印象に残ったのなら、覚えてもらえるのなら0ではないと、折れそうになる心をなんとか奮い立たせる。
…これだけは絶対に伝えたかったから。
「…すごかったです!あんな風にメタモルポッドでデッキを回し切るの」
冷たい表情も忘れないけど、それ以上にこの言葉を言った後の彼がその日一番印象に残った。
最初は、そのまま無視されるのかと考えていたけど、見ていると押し黙ったまま彼の表情はコロコロ変わる。泣きそうだったり、嬉しそうだったり、色んな感情が溢れ出そうなのは伝わった。
ただ、何故そうなったのか、その時の私はすぐに気付けなくて、少し困惑気味に彼を見ていたが、ふいに自分の手に暖かな感触を感じ視線を下げる。
気がつけば取られていた手に『え?』驚き彼をもう一度見れば、
そこには先程のデュエル中と同じような楽しげな笑みを浮かべた彼の姿があった。
「わかる?これも愛のなせる技だよ!」
これが、昨日の出会い。忘れられない出来事の始まり
というわけで、次はコレの後の話かデュエル大会か…
どっちが先に上がるだろうか