新訳:ペルソナ4~迷いの先に光あれ~   作:四季の夢

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第十一話 : ゴールデンウィーク

 4月30日(日)晴

 

 現在:堂島宅

 

「4日と5日だな」

 

「「「?」」」

 

 家で菜々子と悠、そして仕事が早く終わり帰宅している堂島とテレビを見ていた洸夜だったが、突然の堂島の発言に洸夜達三人の視線がと集まる。

 

「4日と5日なら……まぁ、休みが取れそうだ」

 

「成る程……」

 

 最初は良く分からなかったが、堂島のその言葉を聞いた洸夜は理解した。もうすぐゴールデンウイークだから、その予定についての事なのだと。

 

「ほんと!?」

 

 堂島の言葉を聞いて飛び上がる菜々子。その満天の笑顔を見れば、どれだけ嬉しく思ったのかは想像出来る。

 そして、その光景を見て堂島も微笑んだ。

 

「何処か行きたい所はあるか?」

 

「う~んとね……それじゃあ菜々子ね、ジュネスがいい!」

 

(何故ジュネス?)

 

 洸夜と悠も、菜々子のジュネス好きは知っていたのだが、まさかゴールデンウイークにまで行きたがるのを見て流石に驚いた。

 そして菜々子のそんな様子を見た堂島も聞き返した。

 

「別に近所じゃなくてもいいんだぞ、何なら何処か旅行でも行くか?」

 

「……ほんとに?」

 

 堂島の言葉を聞き、菜々子は先程の笑顔から暗い表情になり、どこか心配そうな様子の菜々子。いつも、ゴールデンウイーク等の連休の時には堂島も休みが取れなくなってしまう事が多いからだ。

 その為、菜々子は不安なのだ。

 

「なんだ、疑っているのか?」

 

「……いつもダメだから」

 

 菜々子の言葉に一瞬、冷や汗をかいて視線を逸らす堂島。やはり心当たりがあるのだろう。

 洸夜と悠も余りに予想通りの答えにフォロー出来なかった。この微妙な空気で下手に口出しなんて出来る筈がない。

 

「ま、毎年じゃないだろう……お前等はどうだ? 予定空いてるか?」

 

「特には……」

 

「右に同じ」

 

 上から悠と洸夜。元々、ゴールデンウイークの日の時は基本的に暇な二人。……と言っても親が共働きだった為、ゴールデンウイーク等の連休の時は基本的に洸夜が悠を連れ出していた事が多かった。

 だからなのか、悠はゴールデンウイーク等のイベントの時の楽しい思い出は結構あったりする。

 

「じゃあ、コイツ等も一緒だな」

 

「うん 一緒! みんな、いっしょに行こう!」

 

 堂島の言葉を聞き、笑顔になる菜々子。皆で出掛ける事が余程嬉しかったのだろう。

 再び、菜々子は先程の様な満面な笑みを見せてくれた。

 

「菜々子おべんとう持って行きたい!」

 

「ん? ああ、そうだな。いつも惣菜メシばかりだからな。けど、俺は作れんし……」

 

そう言うと洸夜達に視線を送る堂島。

 

「……けど大丈夫か。今年はコイツ等がいたんだったな」

 

「了解。今までで最高の弁当を作るよ。……悠、お前も頼む」

 

「分かった」

 

「やったー! おべんとう!」

 

 そう言ってはしゃぐ菜々子を見て微笑む洸夜達。

 

「さてと、材料を下見しないとな……」

 

 そう思いながらゴールデンウイークに備えようと考え始める洸夜と悠。しかし数日後……。

 

▼▼▼

 

 5月2日(月)晴→雲

 

「もしもしお父さん? うん、大丈夫……うん……うん……分かった」

 

 そう言うと菜々子は電話を持って、洸夜の所に来て電話を渡す。

 その菜々子の表情は、何処か納得した様で、だけど悲しそうな表情をしていた。

 

「かわってって、お休み取れなくなったって」

 

「……そうか」

 

 悲しい顔をしながら菜々子は部屋に行く。その寂しそうな背中を見送るが洸夜は虚しく感じた。

 堂島も仕事なのだから仕方ない。警察ならば尚更なのだが、菜々子はまだ幼い。

 母親も他界しており、父親である堂島も仕事で遅く、寂しい思いをして来た筈だ。ハッキリ言って、まだ幼い菜々子に我慢ばかりして欲しく無いと思いながらも、洸夜は電話に出た。

 

「もしもし……?」

 

『お前か? 悪いが今日は遅くなるから戸締まりして先に寝てくれ。それと、4日と5日の休みの件なんだが……』

 

「中止になったんでしょ? 実は俺も、たった今予定入ってさ、丁度良かったよ」

 

『……そうか、すまんな。実は若いのが一人体を壊してな……抱えている事件の内容から行くと穴はあけられん。俺が出るしかなさそうなんだ』

 

 その言葉に何故か真っ先に足立が思い浮かんだが、流石にそこまではないだろうと洸夜は頭からその考えを削除し、電話越しで頷いた。

 

「……分かった。叔父さんも無理はしないでくれよ」

 

『ああ。……すまんな急な事で……菜々子の事、頼んで良いか?』

 

 洸夜の先程の言葉を聞いた堂島は、言葉の意味を察した様だ。そして、その堂島の言葉を聞いた洸夜は、問題無いと言わんばかりに口を開く。

 

「問題無い。こう言う展開には慣れてるから、菜々子は俺達に任せてくれ。それよりも、叔父さんも本当に無理だけはしないでくれ」

 

『……ああ、すまんな洸夜。悠にも言っといてくれ。……じゃあ、後は頼むな』

 

 そう言って堂島が電話を切ると丁度、菜々子が部屋の中からこちらを見ていた。

 

「平気だよ。いつもだから……お休みなさい」

 

 そう言って部屋に戻る菜々子。そんな菜々子の姿に昔の悠の姿と洸夜は重なって見てしまった。

 

「なんて顔してんだ。昔の悠と同じだ……」

 

「ただいま……? どうしたの?」

 

 丁度、洸夜がそんな事を呟くと同時に悠が帰宅し、洸夜は状況を手短に説明した。

 

「旅行は中止。……だが悠、悪いが明日は予定を開けとけ」

 

「え?」

 

 悠にそれだけ伝えると洸夜も部屋に戻って行った。

 

▼▼▼

 

 

 5月3日(月)晴

 

 現在:堂島宅

 

 折角のゴールデンウイーク。だが菜々子は部屋でテレビを見ていた。その後ろ姿は余りにも弱く見え、見ていられ無いほどだ。

 

「……さて行くか」

 

 そう言うと洸夜は菜々子に近付いて頭を撫でた。

 

「えッ!?」

 

 突然の事に驚く菜々子。それに対して洸夜は笑顔で返す。

 

「菜々子。今からお兄ちゃん達と遊びに行くか?」

 

 洸夜は後ろにいる悠を指刺しながら菜々子に聞く。すると、菜々子は少し驚いた表情で洸夜を見つめた。

 

「え……! でもお兄ちゃん予定が入ったって」

 

 昨日の話しを聞いていたんだろう。菜々子は少し戸惑っている様子だが、洸夜は菜々子の言葉を聞いて軽く微笑んだ。

 

「ああ、予定は入ってる。……今から菜々子と遊びに行くって予定だ」

 

「! ……お兄ちゃん、ありがとう!」

 

 そう言って涙目になる菜々子を見て頭を撫でる洸夜。弟と妹の面倒をみるのは兄の特権。ずっとそう思いながら生きていた洸夜にとって、誰かの面倒を見るのは慣れている。

 すると、そんな時……。

 

ピンポーン!

 

「鳴上君! どっかに遊びに行かない?」

 

 チャイムが鳴り、玄関の方から千枝の声が響き渡った。どうやら悠を誘いに来た様だ。

 

「千枝ちゃんか。……良いタイミングだ」

 

 頭の中で洸夜は予定を微調整し始めるのだった。

 

▼▼▼

 

 現在:ジュネス

 

 現在、洸夜達は奈々子を連れてジュネスの休憩所にいた。

 その場には私服を来た洸夜・悠・菜々子以外には千枝・雪子・陽介がテーブルにそれぞれの飲み物を置きながら座っていた。

 

「それにしても、ゴールデンウイークだってのにこんな店じゃ菜々子ちゃん可哀相だろ」

 

「……一応、お前の家見たいなモノだろ」

 

 自分の親が店長をやっている店を、こんな店扱いする陽介に苦笑いする悠の言葉に千枝達が、確かに……と言って相槌をうつが、菜々子は……。

 

「菜々子、ジュネス大好きだよ!」

 

「な、菜々子ちゃんッ……!」

 

 何の迷い無く、満面の笑顔で言い放つ菜々子の言葉に感動する陽介。ハッキリ言って、ジュネスは便利なのは違い無いのだが、そのせいで商店街の売れ行きが下がり、店を畳む所もある。

 故に、商店街の人達や一部の人達に嫌われている為に菜々子の様に堂々とジュネスが好きと言ってくれる人は少ない。

 だが、先程まで笑顔だった菜々子の表情が突然に曇った。

 

「でも、ほんとはどこか……旅行に行くはずだったんだ。……おべんとう作って……」

 

(無理も無いな、あれだけ楽しみにしていたのだから。……まだ機嫌が治るにはもう少し掛かるか)

 

 菜々子の表情を見て、洸夜と悠は少し心配するが、雪子が菜々子に話しかけて話題を変えてくれた。

 

「……お弁当? 菜々子ちゃん作れるの?」

 

 雪子の質問に反応して表情が柔らかくなる菜々子。どうやら、意識を会話の方に持って行く事に成功した様だ。

 

「ううん……」

 

雪子の質問に首を振りながら、洸夜と悠の方を向く菜々子。その反応を見て千枝が顔をニヤニヤしながら笑い出す。

 

「へぇー、家族のお弁当係なんだ”お兄さんズ”は」

 

「……売れない芸人みたいな呼ばれ方をされたのは始めてだ」

 

「グオッ! こ、洸夜さん……意外に直球」

 

「アハハハハハッ! だって千枝! 流石にお兄さんズは無いよ! 何処の芸人? アハハハハハッ!」

 

「雪子!? ちょっと笑いすぎ!」

 

 千枝のネーミングセンスがツボに入ったのか、雪子が日頃は見せない様な大爆笑をかました。

 

(最初の頃に比べて明るくなったな)

 

 その雪子の様子を見た洸夜は、最初に出会った時に比べて良い方向に彼女が向かっていると判断し内心で微笑む。

 そんな時、今度は陽介が会話に入った。

 

「へぇーお前も料理とかできんだな……そういや何か器用そうだもんな」

 

 陽介の言葉に悠は首を横に降る。

 

「いや、俺よりも兄さんの方が上手い。……俺の料理は兄さんから教わった物だからな」

 

 その言葉に陽介と千枝が洸夜の方を向いた。 二人のその表情は、意外なモノを見た様な表情だった。

 

「なんだ? 突然、二人共、俺の方を向いて……」

 

 洸夜の言葉に陽介と千枝は、少し気まずそうに顔を逸らす。

 

「えっと……その少し、意外かなって……」

 

 千枝が答え。

 

「顔もいいのに料理も出来るとか、反則だろ……」

 

(共働きだったから自然と身についただけなんだが……)

 

 千枝と陽介の言葉に微妙な気分になる洸夜。あまりに微妙な答えのせいで釈然としないのだ。だが、陽介と千枝が騒いでいる中、雪子はどこか思い悩んだ表情で洸夜を見ていた。

 

「……」

 

 雪子は洸夜に何か言いたそうだったが、その一歩を踏み出せず言い出せない様子だ。

 そんな彼女の様子に洸夜も気付いているが、自然を装って気付かないふりを装って雪子の方を向くことはなかった。

 すると、そんな間にも陽介が千枝の方を、まるで何か納得した表情で笑っていた。

 

「まぁ、少なく共俺は何か里中だけには勝てそうな気がするな」

 

「あぁ、何となく分かる気がする」

 

「何よそれ! 雪子まで!だったら勝負しようじゃん!」

 

 今までの流れで、何故そうなったのかは分からないが洸夜は少し面倒な臭いがしたので、菜々子と遊ぼうと思った時だった。

 陽介が禁句を口にしてしまう。

 

「じゃあ菜々子ちゃんが審査員か。この人達菜々子ちゃんのお母さんよりも――」

 

「菜々子! 何か食べに行くか? 今日はなんでも好きな物を買ってやるぞ」

 

 陽介の言葉を察した瞬間、洸夜はマズイと判断して咄嗟に横槍を入れる形で菜々子に話し掛けた。

 

「え! いいの!? だったら菜々子ね……タコ焼きが食べたい!」

 

 タイミングが良かったらしく、菜々子は陽介の言葉を聞かなくて済んだ。その証拠に、洸夜の言葉を聞いた菜々子の顔は笑顔だった。

 

「そうか、じゃあ行くか」

 

 そう言うと洸夜は菜々子を肩車して売店へ向かった。

 

「わぁー高い高い!」

 

 嬉しそうにはしゃぐ菜々子に、洸夜が笑みを浮かべながら向かった姿を悠達は見送る形でその場に残ったが話に横槍を入れられた陽介はぶつくさと文句を言っていた。

 

「な、何だよ……まだ話しの途中だったのに……」

 

 横やりを入れられたのが嫌なのか、ぶつくさと文句ばかり言う陽介に悠は説明する事にした。

 流石に兄の行動は正しいモノの筈なのは悠も分かっており、文句を言われるのは良い気分はしなかった。

 

「陽介、兄さんに助けられたな……」

 

「はっ? どう意味だよ」

 

 意味が解らないらしく聞き返す陽介。知らないのは当然なのだが、逆に知っていたら怖い。

 

「……菜々子のお母さんは昔、事故で亡くなったんだ」

 

「「「ッ!?」」」

 

 悠の言葉に三人は驚き、気まずそうな表情になる。

 

「えっ!? その……マジ?」

 

 少し、遠慮がちに聞いてくる陽介に悠は頷いた。こんな事を冗談で言える訳が無い。

 そして先程の洸夜の行動に気付いた千枝は陽介を睨み、呆れた様に言い放つ。

 

「ちょっと! 花村! あんたって奴はろくな事を言わないんだから!」

 

「だ、だってよ。知らなかったし……」

 

 陽介と千枝が言い争って時に雪子が口を開く。

 

「洸夜さんはその事を知ってたから菜々子ちゃんを連れてったのね……」

 

「「……」」

 

 雪子の言葉に黙る二人。

 すると、千枝が売店にいる笑顔の菜々子と、菜々子を笑わしながら買い物をしている洸夜を見ながら呟く。

 

「私さ洸夜さんと初めて会った時、本音を言うと……なんか雰囲気が尖っていて、怖い人だと思ったんだよね。でも……さっきの菜々子ちゃんの事を思うと本当は優しい人だって気付いたんだ」

 

「まあ、確かに優しいっつうか……警察署で下手に聞かないで見送ってくれたしな」

 

 そう言って陽介達は警察署での事を思い出す。補導直後だったが最終的には弟達を信じる形で見送ってくれた。

 実際、雪子を救出する為、時間は少しでも惜しかった。その為、洸夜が下手に追及しなかった事はありがたかった。

 そんな会話が続き、やがて洸夜と菜々子の方を見ながら千枝が話しを続ける。

 

「実際に優しいでしょ? 今だって見てみてよ……菜々子ちゃんさ、私達といた時よりも凄く笑ってる」

 

 千枝に言われ、悠も洸夜と菜々子の方を向いた。そこには、洸夜に肩車されながらも洸夜の頭に捕まり満面の笑顔でいる菜々子。

 そして、その洸夜も優しい表情で菜々子が落ちない様に気を配りながら、楽しそうにタコ焼きを受けとってる光景だった。

 

「……兄さんはいつもそうだった」

 

「いつも?」

 

 その言葉に千枝が聞き返し、悠は頷いた。

 

「あぁ……家の両親は共働きで転校も多かったから、ゴールデンウィークやクリスマスも兄さんと二人だけで過ごす事が多かった。だけど、不思議と寂しくは無かった」

 

「寂しくない? でも両親は仕事だったんだろ?」

 

 陽介の言葉に悠は再び頷き、話しを続けた。

 

「何かある度に、兄さんが何かと何処かへ連れてったりしてくれて、俺に構ってくれてたから寂しさを感じ無かった」

 

『悠! 一緒に外で遊ぶか?』

 

『そうだ! 悠! 一緒にケーキでも作ろう!』

 

『どうした悠? 兄ちゃんがついてるから大丈夫だぞ』

 

 

 悠は昔、洸夜が自分にかけてくれた言葉を思い出した。

 ハッキリ言って悠から見た洸夜は、恐らくは自分よりも両親と過ごした時間が少ないだろうと分かる。事実、前に何となく聞いた事があった。

 洸夜に“両親との思い出”について聞いた時だ……。

 

『……思い出? そんな物は無いさ。運動会、授業参観、休みの日。全部、親は仕事で一緒には過ごせ無かったからな。……だが、恨んではいない。そのお陰で俺達は、此処まで育ったんだからな』

 

 と言っていた。その後、洸夜が高校入学の為に家を出た後に両親から聞いた事がある。

 実は洸夜が、裏で両親に出来るだけ悠との時間を作って上げてくれと、両親に頼んでいた事をだ。その事を聞いて、悠は嬉しいと言う感情と、申し訳ないと言った感情が生まれた。

 そして、その日から悠にとって兄である洸夜が人生の目標と憧れに変わったのだ。

 

「ほんとに優しいお兄さんなんだね……」

 

 千枝の言葉に悠は少し焦る。もしかして、無意識に言葉が出ていたのか?と思ってしまった。

 

「……声に出てた?」

 

「いやいや、声よりも表情に出てたな」

 

「うん。鳴上君の顔が凄く優しい感じだったし」

 

 そう言って微笑んでいる陽介達を見て、悠は凄く恥ずかしい感じになっていると雪子が俯いている事に気付いた。

 

「どうした天城?」

 

「……えっ? あっ……ごめん。ちょっと考え事してたんだ。私がペルソナに覚醒した時の事で……」

 

 その言葉に悠達全員の表情が真剣なものへと変わった。あの時の事は悠達にとっても考える事であるからだ。

 

「私達が雪子のシャドウにやられた後の事だよね?……知らない誰かに助けられたって……」

 

「クマも覚えてないって言うしよ……実際、どうなんだ? 本当はいないんじゃないのか?」

 

 千枝の言葉を聞きながら陽介が皆に問い掛ける様に聞き返した。

 実際にそんな人物がいたのか? 記憶が混乱しただけなのではないのか? 陽介はどうも他の皆よりも信じてはない様子だ。

 ペルソナ能力と言う特別な力。本音を言えば、それを持っている人間がこの町に自分達以外にいるとは思いたくなかった。そう思うと何故か胸に不快感を覚えるからだ。

 しかし、雪子と悠はそれを否定した。

 

「ううん! そんな事ない! 私はちゃんと聞いたもの……」

 

 全員が倒れた後、自分を助けてくれて更に後押しもしてくれた。その事実を雪子は記憶の混乱で片付ける事は出来なかった。

 

「俺もそうは思えない。……忘れられる筈ない……!」

 

 あの虚ろな記憶の中、確かに覚えている言葉。

 弱い、強くなれ。悠の中に刻まれている記憶が確かに存在する。忘れる筈がない、忘れはならない、そう思う程に悠の中に深く刻まれている。

 

「……け、けどよ……」

 

 陽介はどこか納得してない表情だったが、そんな中で雪子が決意した表情で悠を見詰めた。

 

「鳴上君……あのもしかしてなんだけど……」

 

「どうした?」

 

 悠が雪子を見つめ返すと、雪子は頷きながらも緊張した様子で続けた。

 

「うん……あくまで私の想像なんだけど、もしかしたら……その人って洸――」

 

「ん?どうしたんだ?」

 

「どうしたの?」

 

「「「「うわっ!」」」」

 

 雪子の話は中断された。気が付くと、そこには菜々子を肩車しながら肘まで袋を下げている洸夜と菜々子が突然出てきたからだ。

 

「何だ? なにかあったのか……?」

 

 そう言いながらテーブルに買ってきた物を並べ始める洸夜。

 

「お前等も腹減っただろ。俺の奢りだから食え」

 

「え!マジ!」

 

「ありがとうございます!」

 

「……ご馳走になります」

 

 そう言って菜々子と陽介達は食べ始めるが、雪子はどこか気まずそうな表情でチラチラと洸夜を見詰めていた。

 それは悠も同じであり、洸夜を見ていた。

 

「ん? どうした悠?」

 

 視線に気付き、食べない悠の方に洸夜は聞いた。

 

「……いや、ただ兄さんは何で俺や菜々子にそんなに構ってくれるのかと思ってさ」

 

 悠が誤魔化すようにそう聞くと、洸夜は小さく笑いながら答えた。

 

「俺がお前等の兄だからだ」

 

「……」

 

 洸夜の言葉に、悠は自分がこの人の弟で生まれた事に再度感謝した。そして、洸夜の言葉を聞き終わり、食べ初めて様とした時だ。

 

「お兄ちゃん」

 

 菜々子がそう言って悠と洸夜の顔を見て笑顔で……

 

「ありがとう! 菜々子とっても、楽しいよ!」

 

 と満面の笑顔で言い、それを聞いた悠と洸夜は互いに顔を見合わせる。そして……。

 

「「どういたしまして」」

 

 そう答えたのだった。

 

 

 ちなみにその夜、旅行に行けなかった詫びとして、堂島がジュネスで菜々子には服を、悠には微妙な柄の水着を、そして洸夜には背中に唯我独尊と書かれたコートを渡した。

 そのお土産に菜々子は……。

 

「変な柄~」

 

 と言いながら喜び洸夜は……。

 

「……悪くない」

 

 そう言っていた兄の姿を見て、悠は洸夜のファッションセンスを疑うのだった。

 

END

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