新訳:ペルソナ4~迷いの先に光あれ~   作:四季の夢

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今度ある会社の飲み会嫌だな……。皆、歳が違い過ぎて話が合わないんだよぉ……(´;ω;`)
前回も酒飲めないのに強制だし、泡盛呑むことになって一杯目で酔って大変だったうおぉ……!!


優しき暴君~巽 完二編~
第十二話:稲羽の暴君


 5月14日(土)雨

 

 現在:堂島宅

 

 直斗との会話からそれなりに月日が経つ。あれからの接触はなく、自分で答えを見付けたのか、それとも自分に頼るのが嫌なのか、理由はどうであれ直斗からの連絡は無い。

 そして現在、洸夜は居間で悠と菜々子、そして珍しく休みの堂島と一緒にテレビを見ていた。珍しく洸夜も真剣にテレビの画面に集中している。

 元々アイドルや芸能人に興味が無い洸夜。たまにニュースや映画で出演して周りから騒がれている俳優や女優やアイドル等にも誰……?なんて言う程の始末。

 久慈川りせの事を知っていたのは出演しているCMが多い為、嫌でも覚えてしまったからだ。

 そんな洸夜が見ている番組は、稲羽市の周辺での暴走行為をする少年達についてのニュース。

 ハッキリ言えば、ヤラセが多い様なバラエティ番組よりは真実性が多く、面白く感じるのが理由で洸夜はこう言った番組を好む。

 

『静かな町を脅かす暴走行為を誇らしげに見せ付ける少年たち……』

 

 自分達の前で、何か異様な雰囲気で会話をしている少年達。

 そんな少年達にレポーターは怯まずに実況を続ける。そして、そんな映像を見ながら洸夜は、菜々子に膝の上に座られながらお茶を口に運んでいた。

 

「ズズ……お茶を飲みながら、こう言った番組を見る……平和だ」

 

「少なくとも番組の内容に合う様な台詞を言えよ兄さん……」

 

「お兄ちゃん、お茶のおかわりいる?」

 

「頼む……」

 

 洸夜がテレビの番組を見て呟いた言葉に悠が苦笑いしながら呟く。そして、そんな様子に多少は苦笑いしながら洸夜にお茶を注ぐ菜々子。

 するとその時だった……。

 

『その時! そのリーダー格の一人が、突然カメラに襲い掛かった!』

 

 ガシャン!ガチャガシャ! と強烈な機材が揺れる音と共に一人の少年の怒号が響き渡る。

 

『見世モンじゃねーぞコラァッ!!!』

 

 騒がしい音を出した番組に驚きながらも、洸夜は番組に視線を戻す。

 そこには、目にモザイクを掛けられている周りの少年達より一回り大きい少年がレポーター達に掴み掛かり、レポーター達が逃げている光景だ。

 そして、先程まで新聞を読んでいた堂島がさっきの少年の怒鳴り声を聞き、テレビに視線を移すと口を開いた。

 

「あいつ……まだやってんのか」

 

 そう言ってため息を吐く堂島。その様子からして、堂島の顔見知りだと言う事が分かる。

 

「お父さんのしりあい?」

 

「ん? まあ……仕事の知り合いだな」

 

 菜々子の質問に堂島は少し言いづらそうに話し始めた

 

「“巽完二”。ケンカが得意で、たかだか中三でこの周辺の暴走族をシメた問題児だ」

 

「おいおい……中三か。凄いな……」

 

 堂島の言葉に多少は驚いた様に話す洸夜。

 しかし、洸夜の周りには美鶴や明彦等と言った連中が多く、感覚がマヒしている為に今一凄さが分からないでもいる。

 

「けどたしか……高校受かって、今はどっかに通ってんじゃなかったか?」

 

「ふーん」

 

 そう言って、またテレビに視線を戻すと顔にボカシ掛かっているが完二の映像が大きく映っていた。

 しかし、いくらボカシが掛かっているとは言え誰だか一目瞭然だった。レポーター達はここぞとばかしに映像を撮影し続けてもいる。

 

「テレビ的には、コレ以上に無い程の良い絵か」

 

 洸夜の言葉を聞き、堂島もその映像を見ると苦い顔をしていた。

 

「あーあー……せっかくボカシ掛かってんのに。……こいつ、実家が老舗の染物屋でな。母親が夜、寝られないから毎晩走ってた族を一人で潰しちまったんだ」

 

「母親の為だからって族を……」

 

「根は綺麗な奴なのかもな……少し極端過ぎるが」

 

 堂島の言葉にそれぞれの思った事を口にする悠と洸夜。

 そして、堂島はテレビに映る完二の姿を見て再びため息を吐いた。

 

「ハァ……これじゃあ、その母親が頭下げることんなっちまうな……」

 

 堂島がそう言い終わると番組も天気予報へと変わる。

 

「あ! 明日、雨だって洗濯物は中だね」

 

「雨……か」

 

 菜々子の言葉に思わず呟く洸夜。

 今までの被害者は皆、メディアに取り上げられてる。その為、明日映るマヨナカテレビに映るのは恐らくは……。

 

 

 5月15日(日)雨→曇り

 

 そして、夜。

 

 ザーッザーッ!

 

「……」

 

 いつも通り、マヨナカテレビに映ったのは霧や砂嵐が邪魔でよく見えないが、特徴的な髪型に型のいい体を見て洸夜は核心を得た。

 

「巽完二か……」

 

 こうして洸夜は自分の推理に核心を得たが、表情はやはりどこか優れない。

 

「……一向に犯行が収まる気配はない中で彼か。今度はどうなるか……」

 

 既に二人を亡き者にし、次に雪子。勢いの様なものが止まっていない事に薄々、洸夜は気付いていた。

 だが、次の標的となる人物は中三で族を潰した少年。余程の事がない限り、完二が簡単に誘拐されるとは思えなかった。

 

(……場合によれば本当にペルソナの様な力を持っているのかも知れない)

 

 洸夜は未だ見ぬ犯人の事を考えながら布団の中に入り、明日は完二の家に行くことを予定に入れながら眠りについた。

 

▼▼▼

 

 5月16日(月)雨→曇り

 

 現在:ジュネス

 

 悠達はマヨナカテレビの一件が合り、その事について話し合う為に今この場に集まっていた。この場には悠・陽介・千枝と、その隣にはペルソナ能力に覚醒した雪子の姿も合った。

 

「オイ! マヨナカテレビみたか?」

 

「見たから! つーか花村あんた少しうるさい!」

 

「……で見たんだよな?」

 

 早速、陽介がマヨナカテレビについて喋りだし、その言葉を聞いた千枝が耳を塞ぎながら陽介を睨む。

 元々この場所には人が多い為、ハッキリ言って静かに話し合うのが理想なのだ。そして、何だかんだで陽介の言葉に頷く千枝。

 

「見た見た! いまいちぼけててわかりずらかったけど彼だよね……巽完二」

 

 千枝の言葉に皆が頷く。マヨナカテレビの映像を見て、全員があの人物が巽完二だと思い浮かんでいた様だ。

 

「私もあんな風に映ったんだ……あれ? でも被害者の共通点って“一件目の事件に関係する女性“……じゃなかったっけ?」

 

 確かに、最初に殺害された山野アナその死体の発見者の小西先輩、そして誘拐された山野アナが泊まっていた旅館の娘の雪子。

 この全ての被害者の共通点から、狙われているのは最初の事件に関係する女性だと悠達は推理していた。

 

「確か、私のときは事件に遭った夜からマヨナカテレビの内容が変わったんだよね?」

 

「ああ、急にハッキリ映って内容もバラエティみたいなものになった。……今思えばクマの言った通り、中の天城が見えちまってたのかもな」

 

 確かに、雪子が中にいた事によってシャドウが出現した。

そして結果的にあの様な世界が生まれ、マヨナカテレビに動きが見られた……つまり。

 

「まだはっきり映らなかったって言う事は……」

 

「まだ、さらわれてない! つまり、今はまだ“あっち”に入ってない!」

 

「ああ、可能性は高い……」

 

 悠の考えに反応して千枝が答えたが、陽介は少し考え込むそぶりをする。

 

「でもよ……見るからに……なあ?」

 

「「……確かに」」

 

 陽介の言葉に頷く悠と千枝。場合によっては逆に、自分達がカメラマンみたいになるかもしれない。

 と言うよりも、逆に犯人を捕まえそうな感じがするとここにいるメンバー全員がそう考えていた時、雪子が口を開いた。

 

「あの子、昔はあんな風じゃなかったんだけどな……」

 

「えっ! 雪子、彼と知り合いなのッ!?」

 

 雪子の言葉に驚いた様子の千枝。

 だが、老舗の旅館の娘の雪子に老舗の染物屋の完二。良く考えてみれば何だかんだで接点があるのかも知れない。

 

「今は全然話さなくなっちゃったけど、完二君の家って染物屋さんだから、ウチも昔からお土産品を仕入れてるの。だから今も完二君のお母さんとはたまに話すよ。……染物屋さんこれから行ってみる? 話くらい聞けるかもしれないし」

 

「それしか無いか……」

 

 他に手掛かりはないし、雪子の提案を受ける事にした悠達も何もしないよりはいくらかマシな筈であり、雪子の案に頷いた。

 

▼▼▼

 

 同日

 

 現在:染物屋【完二の家】

 

 ジュネスで話終えた悠達は雪子の案をで巽完二の家である染物屋に来ていた。既に雨もあがり、ここまで問題なく来れた。

 そして中に入ると、青い帽子を被った少年が完二の母親らしき人と会話をしていた。

 すると悠達が入って来たのに気付き、完二の母親に頭を下げて少年は店から出て行ってしまった。

 

「なんなんだ今の? 変な奴だな……」

 

「見かけない顔だったよね?」

 

 さっきの少年について陽介と千枝が会話する中、雪子が完二の母親と話しをしていたので悠達も後に続いたが、悠だけは先程の少年の事が気掛かりだった。

 

(さっきの少年は一体? 不思議な雰囲気だった……)

 

 悠は少年から感じた謎の雰囲気が気になり、少年が出ていった入り口を陽介達に呼ばれるまで見ていた。

 

▼▼▼

 

 

 現在:完二の家の前

 

「此処か……」

 

 入口の前にバイクを止めた洸夜は、染物屋を見上げていた。老舗と言われるだけあり、中々の雰囲気を店から感じられる。

 

(見た所、巽 完二は見当たらないか)

 

 店と周りの雰囲気から察して、辺りに完二がいる様子は無い。

 ある意味それはそれで都合が良いのだが、逆に目の届く範囲にいないといつ頃のタイミングで犯人が完二に接触してくるのか分からない。

 

「ふう……。表情にでやすい人達ですね」

 

 誰かが店の中から何かを呟きながら誰かが出て来る。そして、その人物と洸夜は互いにその姿を見ると同時に口を開く。

 

「ッ! 洸夜さん……!」

 

「よお、暫くぶりだな直斗……」

 

 店から出て来たのは白鐘 直斗だった。自分の姿を確認した直斗は最初は驚いた表情だったが、今度は自分を睨む。

 

「……洸夜さん。どうして貴方が此処に居るんですか?」

 

「なに、それ程深い理由は無い。ただ染物屋に興味が合ったんでな」

 

 そう言って軽く笑う洸夜だが、直斗はその理由では納得していない様子。

 前回の会話で直斗は洸夜に対する見方が少し変わっているのが理由なのだが、洸夜はそんな事に気付いてはいない。

 

「普通の一般人ならば、その理由で通ったと思いますが洸夜さん。貴方ならば話は別です」

 

「……俺も十分一般人だと思うんだが?」

 

 直斗の言葉に少しショックな感じで話す洸夜。周りの人と自分を区別されたのが、どうやら地味に傷付いた様だ。

 そして、そんな様子の洸夜に直斗は帽子を被り直して話を続ける。

 

「普通の一般人は被害者達の共通点に気付きません。……メディアに映ると言う共通点にね」

 

「……俺は疑問を言ったに過ぎない。誰も事件の共通点を話した訳じゃないぞ?」

 

 今になって自分が直斗に此処まで警戒される理由を洸夜は思い出すが、核心的な事を言っていないのも事実。どの道、だからと言って本当の事を言う訳には行かないのが現状だ。

 なにより普通に現実を生きている直斗。彼女をペルソナやシャドウと言った非現実的な世界に巻き込みたくはないのが一番の本音だった。

 

「まあ百歩譲って俺も気付いてたとしても、メディアに関しては俺以外にも気付いている人間がいると思うが? 元々、同じ事が三度も続けば誰でも疑問に思うだろ」

 

「……確かに、そう言う事もあり得ますね」

 

 案外、物分かりの良い返答に少し呆気ない感じに思う洸夜だったが、直斗の話はまだ終わっていなかった。

 

「……それならば、もう一つだけ聞きたい事があるのですが」

 

「別に良いが、こちらも予定があるから手短に頼む。 と言うよりもそんなに聞く事があるなら電話で良かったな。――ほら、俺の連絡先だ」

 

「……えっ!? そ、それは……どうも……」

 

 まさか連絡先をこのタイミングで貰うとは思っていなかったのだろう。どこか恥ずかしそうな直斗を軽く笑いながら洸夜は見つめていた。

 

「ゴホンッ……単刀直入に聞きます。洸夜さん、貴方は何で天城雪子さんの事件を知っているんですか?」

 

「……何の事を言っているのか分からないな?」

 

 口では冷静を保っているのだが、内心では極限まで平常心を保とうと洸夜は必死だった。

 元々、洸夜は嘘をバラさない様にするのは余裕なのだが、相手は年下とは言え探偵の直斗。人の嘘を暴くのが仕事と言っても過言ではない。

 その為、どの様な所から自分が隠している事が見破られるか分からないのだ。

 

「隠しても無駄ですよ。この間、貴方は確かに言いました……“三人”ってね」

 

 直斗の言葉に洸夜は、自分が無意識に言ってしまった無意識の失言に気付き、つい口元に笑みが零れてしまうが、同時にある人物も思い浮かんだ。

 

「……ああ、それに関しては足立刑事に聞いた事だ。弟達がちょっとした不注意で補導されてな……その時、足立刑事に会って愚痴の様に聞かされたんだ」

 

「足立刑事ですか?……まあ、あの人ならば考えられますね」

 

 直斗が稲羽に来てから時間はそんなに経っていないだろうが、既に足立の評価は低いものになっている様であり、直斗はどこか納得した表情だった。

 だが、笑みを浮かべながら喋っていたのが気に入らなかったのか、直斗の表情が少し厳しいものとなる。

 

「笑いながら言っても説得力はありませんよ。ですが、まあ良いでしょ。あなたにはには被害者達の共通点と言うヒントを教えて貰いましたし、今日の所はこの辺で退きます」

 

 そう言って、不本意だが今回は仕方ないと言った感じに洸夜に背を向ける直斗。しかし洸夜は、直斗の余りの呆気ない行動に驚いてしまい、つい呼び止めてしまう。

 

「待て直斗」

 

「……何ですか?」

 

「……何故、こうもあっさりと退く? お前は、俺の行動は怪しい判断したんだろ? それに、天城雪子の一件もその気になれば俺から聞き出せる筈だ」

 

「さっき言いましたよ。今回、貴方の事を見逃すのは貴方から情報を貰ったからです。つまり、コレで貸しはチャラにしてもらいたいだけですよ」

 

 洸夜にそう告げる直斗の姿は、一人の少女ではなく、正真正銘の探偵としての姿だった。その姿に洸夜は、心の何処かで直斗の事を過小評価していた事は大きな間違いだと理解した。

 最初は感情的に行動するかと思いきや、攻める時は攻め、退く時は退く。その年齢的にも合わない思考・行動力に洸夜は驚かされてばかりだ。

 

「お前、もし俺が犯人だったらどうする気だ?」

 

 直斗からしたら自分が犯人だと言う可能性は決してゼロではない。そう思い洸夜は直斗にそう聞いて見ると直斗は……。

 

「何と無くですが、それはあり得ません。貴方からは覚悟が感じますので……」

 

「覚悟……」

 

「はい。何があろうと、この事件を解決すると言う覚悟が貴方から感じます。そんな人が犯人である可能性はありませんよ。……何より、もし犯人だったらワザワザ探偵である僕にヒント何て渡さないですからね。……と言う訳で、僕はコレで失礼させていただきます。それでは、また今度会いましょう」

 

 まるで、洸夜が言いたかった事が分かっていた様な感じで話すだけ話し、その場を後にする直斗。

 そして洸夜は、まるで嵐が過ぎ去った様な感じでどっと体から疲れを感じ、精神的に疲れてしまった。

 だが疲れてはいるが、その顔には笑みが見て取れる。

 

「白鐘直斗……既に俺が、何だかんだで事件に介入している事に感づいたか。……最近の少年少女は末恐ろしい」

 

 まるで、弟か妹を見る様な目で洸夜は直斗が去って行った方向を暫く眺め、そして洸夜はようやく完二の家にへと足を進めるのだった。

 

▼▼▼

 

 同日

 

 現在:完二の家(染物屋)

 

 直斗との疲れる会話の後、洸夜は完二の家である染物屋の扉を開け、中へと入って行く。主な目的は、事件に関係する物の探索と完二の姿の確認なのが目的だ。

 しかし、染物屋に入った洸夜の目に飛び込んで来たのは、弟とその友人達の相変わらずの姿だった。

 

「……何しているんだ悠?」

 

 洸夜の台詞に四人が入口へと向く。

 そして、洸夜を見た四人はいかにもマズイ所を見られたと言った様な顔だ。

 

「兄さん、どうしてここに……!」

 

「叔父さんが言っていた染物屋に興味がわいてな、来てしまったんだ」

 

 口調から察するに、洸夜が此処に来るとは全く予想していなかったのであろう。悠の言葉に、洸夜は違和感が無い様に返答する。

 悠達は恐らく、直斗程の推理力・鋭さが無いとは思われるが、下手な事を言えばバレる可能性もある。

 その為、出来るだけ違和感が無い様に会話する必要があった。

 

「こ、こんにちは、お兄さん」

 

「こんにちは洸夜さん……」

 

 悠が口を開いた為に少し緊張が解れたのか、自分に挨拶する千枝と雪子。

 

「やぁ、千枝ちゃんに雪子ちゃんもこんにちは。……ところで、お前等こそ何でここに……?」

 

 内心では、悠達が此処に来た理由を察する洸夜。だが、洸夜の言葉に花村と千枝が冷や汗をかく中、悠と雪子は冷静を保っている。

 その様子に洸夜は少し安心する。どの様な場面でも、必ず冷静を保てるメンバーが最低でも一人は必要になる。

 その為、陽介と千枝はともかく悠と雪子に冷静さがある事がわかり、安心したのだ。

 

「それはかくかく然々で……」

 

「なるほど、雪子ちゃん繋がりか……」

 

「え? それでわかるのッ!?」

 

 洸夜と悠の会話に呆気に取られる千枝。

 第三者からは分からないかも知れないが、家族等と言った長い付き合いの者との会話は、これで意外に分かる。

 そして、悠との会話を終えた洸夜は今度は自分が此処に来た理由を付け足す事にした。

 

「あと言い忘れていたが今日は簡単に下見して、そして良いのがあったら買うつもりで来たんだ」

 

 そう言って悠達に背を向けながら店内の商品を見る洸夜の様子に悠達はソッと外に出ていくが、洸夜はまだ気付いてない。

 

(中々、良い品が揃っている。流石は老舗の染物屋、凄いな……ん?)

 

 洸夜が店内の品を見ていると、何故か店内に似つかわしくないウサギのぬいぐるみを見つける。洸夜は何気なくそれを手に持った。

 

(糸の縫い目も繊細で丁寧。布や綿の量も適切だ……)

 

 洸夜は、そのぬいぐるみの技術と完成度が素人目でも分かる高さに驚きを隠せないでいた。

 

「……それ、よく出来てるでしょ?」

 

 洸夜が真剣にぬいぐるみを見ていると、お店の女性が嬉しそうな表情をしていた。

 

「これは貴方が……?」

 

 洸夜の質問にお店の女性は静かに首を横に振る。しかし、その嬉しそうな表情から女性の身内の人物が作った事が分かる。

 

「いいえ、それは――」

 

「何ぃ見てんだぁ!ゴラァ!!!」

 

 女性の声を遮る様な怒号が店の外から放たれ、同時に誰かが逃げるように走り去って行く音も聞こえた。

 

「……あらあら」

 

「……?」

 

 店の外から怒鳴り声。その余りの事に状況がついていけない洸夜だが、店の女性は慣れた感じの様子だ。

 すると、そんな時に扉が開く。

 

「……」

 

 中に入ってきたのは、デカイ体格に特徴的な髪型の男子学生。そう『巽 完二』が店に入って来た。

 その体格や纏っている雰囲気から、族を中三で潰したのが真実だと分かる。

 

「ただいま……」

 

「こら完二! 中まで聞こえてたわよ!お客様もいるのに……」

 

「えっ!? あ、その、すんません……」

 

 自分の母親に怒られ、店にいた洸夜に気付き素直に謝罪する完二。その態度から察するに、根は良い奴なのが分かる。

 

(だが、そんな格好や雰囲気では周りから誤解されてしまう。だが、彼がこうなったのには何か理由がある筈だと思うが……)

 

 完二の性格と、態度や雰囲気が合わないと思った洸夜は何故、完二がこうなってしまったのか理由について考えていた。

 するとそんな事を思っていると、完二が洸夜の手に持っているぬいぐるみに気付く。

 

「あッ! それは……」

 

「これが何か?」

 

 洸夜が聞き返すが完二は顔を下に向け、黙り込んでしまった。その姿は先程とは違い、まるでとても小さく、そして弱く見えてしまう。

 そして、一体何故完二が黙ってしまったのか分からず、その場で佇んでしまう洸夜。すると……。

 

「うふふ、お兄さん。実はそのぬいぐるみはね、この子が作ったのよ」

 

「なっ!テメェババァ!」

 

 余程知られたくなかったのか、顔を真っ赤にしてキレる完二。どうやら黙った理由は、ぬいぐるみを作ったのが自分だと知られたくなかったからの様だ。

 

「これを君が……」

 

 洸夜は完二にぬいぐるみを見せながら聞く。こんな高度なぬいぐるみを作れるなんて、もはや才能のレベル。それなのに隠す理由が分からなかった。

 

「うっ……そ、そうだよ! 悪りぃかよ!」

 

 そして洸夜の問いに何故かキレる完二。別に悪いとは一言も言ってはいない。そう思った洸夜は首を横に振り、完二に語り掛ける。

 

「悪い所か、凄いじゃないか。 俺は都会から越し来たんだが、こんな繊細で完成度の高いぬいぐるみはあっちじゃ売ってないぞ?」

 

 洸夜の嘘偽りの無い気持ちの台詞に、完二は目を丸くしと驚いた顔をしていた。

 

「な、気持ち悪いとか思わないのかよ……」

 

 完二の、気持ち悪いと言う発言の意味が分からない洸夜。これ程の裁縫技術なのだから、褒められたりするのはあると思うが、気持ち悪い等とは考えもしない筈。

 洸夜はそう思い、完二に聞き返す。

 

「何故だ?」

 

「何でって! 俺は男なんだぞ!なのにこんな女みてぇな事して……!」

 

 そう言って悔しそうに拳を握り締める完二。そして洸夜は、完二の言葉を聞いて言葉の意味を理解する。

 元々、裁縫には女性がするモノだと言うイメージが少なからず、皆が思っている事であろう。その為、恐らく完二はその事で嫌な事があったのだと分かる。

 しかし、此処まで高度に人形を作る完二は、本当に裁縫が好きだと言う事が分かり、そう思うと洸夜は完二の前に来てこう言い放つ。

 

「そんなのは関係ない。 これは君の才能であり大事な個性だ。少なくとも他の人が否定しても俺は君を応援してやれる」

 

「……」

 

 洸夜の言葉を聞いて完二は驚きの余り絶句している。そんな完二を余所に、洸夜は先程から持っていたぬいぐるみを見て、無性にこのぬいぐるみが欲しくなり、完二に聞いて見る事にした。

 

「なあ、このぬいぐるみを俺に売ってくれないか?」

 

「な! 本気かよ……」

 

「あらあら」

 

 洸夜の言葉に完二は更に驚き、完二の母親は嬉しそうに笑う。

 

「妹にプレゼントしたいんだが、駄目か?」

 

「え? つーか、金はいらねぇよ」

 

 そう言って恥ずかしそうに目を背ける完二だが、これ程の作品をタダで貰う訳にはいかない。

 

「そう言う訳にもいかないだろ。すいませんが、これは幾らで?」

 

「だから、別に金はいらねぇって!」

 

 洸夜が完二の母親に値段を聞くが、完二はそれを必死で阻止する。そんな息子の様子が嬉しいのか完二の母親は笑いながら答えてくれた。

 

「なら、こちらのお兄さんに値段を決めて貰えばいいんじゃないの」

 

 その案に洸夜は頷いた。確かにそれならば、少なくとも洸夜は納得出来る。

 それに、自分が決めた値段を知れば完二も少しは自信が持てるかも知れない。

 

「ハァ……勝手にしろよ………」

 

 そして、完二も根負けしたらしく少し疲れ気味だ。そんな様子を洸夜は、軽く微笑みながら、財布から万札を取り出して完二に渡すのだが……。

 

「こんなに受け取れるかよッ!!」

 

 案の定、完二は手を振り回しお金を受け取ろうとしない。その様子を見て、洸夜はため息を吐きながら無理矢理完二にお金を持たせる。

 

「これはぬいぐるみ代と君への期待だと思え。それでも納得できないなら、君への小さな投資だとでも思ってくれ」

 

 お金を完二に無理矢理渡すと洸夜は、とっとと店から出てバイクを走らせて家に帰った。

 このまま居ても、完二が何か言って来るのが目に見えていたからだ。

 

「な、何だったんだ今の客は……? 金を無理矢理渡して、とっとと帰りやがった……」

 

 完二は先程の客である洸夜の事が気になっていた。最初は、店の前で自分の方を見ていた連中のせいでイライラしていた。

 そんな時に家に帰ってみれば、一人のお客が店で自分の作ったぬいぐるみを持ちながら佇んでいた。そのお客は、髪は灰色の長髪で目も鋭い。しかも、雰囲気にも刺がある様に感じ戦えばとても強いと思う程。

 それが完二が洸夜を見た時に感じた印象であり、その印象のせいで完二は洸夜を警戒していた。

 しかし、実際に話して見れば印象とは違い、自分の趣味をあんなに褒め、そして認めてくれた人物は初めてだった。

 昔から、他の奴は男のくせに女みたいで気持ち悪いとか言ってたが、さっきのお客に関しては違った。

 完二が洸夜に無理矢理手渡されたお金を握り締めたまま、そんな事を思ってると自分の母親が隣で笑いだす。

 

「な、なんだよ……」

 

「うふふ、いやお前がそんなに嬉しそうな顔をするのは久しぶりだったから。さっきのお客様に感謝しないとね」

 

「なッ! う、うるせぇな! ほっとけよ!」

 

 母親に対して完二は、それだけ言ってお金を母親に投げ付けて部屋へと帰って行った。

 だが、後ろから母親の笑い声が聞こえている為、自分の行動が照れ隠しである事はバレている様で更に完二は面白くない。

 それから扉を少し乱暴に空け、部屋に戻った完二は机に置いている作りかけのぬいぐるみを手に取って、ぶつくさ言いながら作り始めた。

 

「……ったく! 何で今日に限って色んな事が起こんだよ……! 白鐘って奴と良い、さっきの四人と客と良い、意味が分かんねえぜ……!」

 

 ハッキリ言って自分の姿を見た奴は十中八九逃げるか、喧嘩を売って来るかのどちらかだ。きっと先程の四人も同じ様な連中だろと完二は思っている。

 だが、白鐘とか言う帽子を被った少年は自分の話しが聞きたいと行って来た。そして、昔から親や親しい友人以外では認めてはくれなかったこの趣味。

 だが、先程の客は初めて会ったのにも関わらず、年上と言う理由もあるだろうが自分の姿にも恐れず、趣味も褒めてくれた。

 

「……才能か。オレにしたら、そんな大層なもんじゃねえんだがな……」

 

 そう呟いた完二の表情は、自分でも滅多に見れない程の笑顔だった。

 

 

 

END

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