……そんなに存在感が薄いのかな(;´・ω・)
同日
現在:熱気立つ大浴場
洸夜が大型シャドウと対峙していた頃、悠達は……。
『ウッホッホ、これはこれは、ご注目ありがとうございまぁす! ついに潜入しちゃった、ボク完二!』
「「「「……」」」」」
悠達は完二の影と対面し、そして絶句していた。余りの存在感に言葉が出ない。
当たり前だ、この状態で絶句しない男子はいないだろう。汗臭い大浴場、フンドシつけたヤバそうな男子、最早この場にいるだけでも相当な精神が鍛えられそうだった。
しかしそんな悠達の思いを知ってか知らずか、完二のシャドウは……。
『あ・や・し・い熱帯天国から、お送りしていまぁす!!』
更にテンションを上げ、声のボリュームを上げた。そして、完二の台詞と共に上から題名が降りてくる。
『女子禁制! 突☆入!?愛の汗だく熱帯天国!』
「「「「!!!」」」」
題名を見た瞬間、悠達は更に絶句する。先程まであと少しで出そうだった言葉すら引っ込んだ。
本当の意味で言葉が出ない。まさにこの事を指しての言葉とも思えてしまう。
そして、その様子にメンバーそれぞれが口を開いた。
「ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい……! いろんな意味で……! 俺らの貞操危ないじゃないのか!?」
身体を震わせながら悠の肩を揺らす陽介。そんな陽介に落ち着けと言う意味で肩に悠はポンと置いた。
「確か雪子んときもノリとしてはこんなだったよね……? いや……場合によってはもっと酷いかも……」
「えっ! う、うそ……! こんなじゃ……無いよね……?」
完二の姿と自分を交互に見ながらそう呟く雪子。まさかとは思いたくないが、フンドシで暴れている状況とどっこいどっこいとは思いたくはなかった。
まさか自分は一生、お嫁に行けない様な事をしているのではないかと雪子は不安を覚えていたが……。
ワー!ワー!ワー!
突然、何処からとも無く歓声が聞こえ始めた。その声はまるで、この世界の外から聞こえてくる感じがする。
そう思った悠達の頭にある考えが過る。
「この声、まさか……!」
「外の人達の声!?」
「“番組”が流れている反響って事?」
「これ放送されてんの!?……完二くん、新たな伝説が生まれそうだね」
その伝説は恐らく、嫌でも胸に刻まれるだろう。そんな事を苦笑いしながら悠達は思っていた。
「まぁ、シャドウなんだけど、外の連中には分かんないしな……」
ウオー!ウオー!ウオー!
「シャドウもめっちゃ騒いでるクマ!」
クマの言葉通り、周りからシャドウ達の咆哮が響き渡る。どんな影響を与えているんだと悠達は疑問と同時にシャドウを警戒していると、完二のシャドウは再びマイクを持ち直し、喋り始める。
『ボクが本当に求めるモノ……見付かるんでしょうか、んふっ』
「「ゾクっ!寒気が!?」」
ウインクしながら喋る完二のシャドウの言葉に、謎の寒気を感じる男二人。照準は確実に悠と陽介だったのだから当たり前の反応だ。
そして、そんな様子を見ながら完二のシャドウは……。
『それでは更なる愛の高みを目指して、もっと奥まで突☆入! 張り切って……行くぜ、コラアァァ!!』
そう叫びながら完二のシャドウは走り去ってしまう。あまりの勢いに負けて、悠達もすぐには追えなかった。
「完二くん!」
「待て!早まるな!」
「馬鹿言ってないで、追うぞ!」
完二のシャドウに調子を狂わされながらも、これ以上は完二自身の身も危ないと思いメンバーは奥へと進んだ。
▼▼▼
現在:大浴場最深部
「この先か?」
「そうクマ! この先にカンジクンがいるクマよ」
悠達はシャドウを退けながら先に進み、そして今、巨大な扉の前に立っていた。
その扉の向こうから、扉を越えて微かにだが完二のシャドウの声が聞こえ来ている。
「中に入りたくねぇ……」
「陽介、思っても口にはするな。俺だって入りたくは無い……」
扉を前にして、そう呟く陽介に注意する悠だが実際にこの部屋の奥に入るのに躊躇ってしまう。
流石に先程から、フンドシだけの完二の姿ばかり見て悠と陽介の精神は折れ掛かっている。
しかし、実際に入らない訳には行かず、悠達は扉を開けた。
『もうやめようよ、嘘をつくのはさ……』
「オ……オレァ……!」
そこには完二と完二?が対峙していた。
「完二くん!」
「間違いない。本物の奴だ」
『ボクはキミの“やりたいこと”さ……』
「違う!」
完二は否定するがシャドウは話を続ける。
『女は嫌いだ……偉そうでわがままで、怒れば泣く、陰口は言う、チクる、試す、化ける。何でも有りだ』
「あ~何かよく分かる気がする……」
陽介はそう言って千枝を見る。何故、千枝を見たのかは分からないが、陽介の視線に気付いた千枝は顔を赤くして抗議する。
「わ、私はそんな事しないよ!? そんなぐちぐち陰口見たいな事を言わないしさ!」
(逆に蹴り倒しそうだ……)
「でも、男の子とかって、女子が何を言っても手とか出せないから辛そうなイメージがあるよね……」
「確かに」
「たまに思うね」
雪子の言葉に頷く陽介達だが、悠は雪子の話を聞いてある事を思い出す。
「いや、兄さんは普通に手を出すよ」
「「「「えっ!」」」」
悠のまさかのカミングアウトにクマまでもが声を上げる。
「センセイ!お兄さんがいたクマ!?」
「そっちか……」
「お前は黙ってろって! でも、手とか出すと女子って最低!最低!とか言わないか?」
陽介の言葉に納得したのか、女子である千枝達も頷いている。
「兄さんの話では確かに言われたらしいけど当時、苛めをしていた人達だったらしい。その人達に兄さんが”だったら手ぇ出される事してんじゃねぇ!”って言ったら皆黙ったらしいよ」
「洸夜さん……意外と熱血系?」
「分かる様な……分からない様な……」
何と無くだが、洸夜の性格が少しは分かってきたらしく雪子は想像し、陽介達は苦笑いしながら頷き、洸夜と接触した事の無いクマは意味が分からずに首を傾げている。
すると、そんな会話をしている間にも完二とシャドウは話をしており、ついに状況に動きが見られた。
『皆、ボクを見て変人変人ってさ……。笑いながらこう言うんだ。裁縫好きなんて気持ち悪い、絵を描くなんて似合わない。男の癖に男の癖に……! 男って何だ? 男らしいって何なんだ? 女は怖い……よね!』
「こ、怖く何かねぇ!」
完二?に食ってかかるが完二?が話をやめる気配はない。
『男がいい……男の癖にって言わないし…! この間のお客さんみたいに受け入れてくれる男がいい……』
シャドウの言葉が癇に触ったのか、完二はシャドウの方を睨み、声を上げた。
「さっきから、何なんだてめぇ! 俺と同じ顔しやがって!」
完二の言葉にシャドウは待ってました言わんばかりに歪んだ笑みでニヤリと笑った。
『君はボク……ボクは君だよ。分かってるだろう?』
「ふざけるな! お前なんか……お前なんかが……!」
シャドウの言葉を聞いて、否定しそうな完二の言葉に雪子と悠が止めに入る。
「ダメ!完二くん!」
「言うな!」
しかし、皆の言葉は完二に届かず、完二はあの言葉をシャドウに放つ。
「俺の訳ねぇだろう!」
その否定の言葉が引き金になり、シャドウから闇が溢れ出した。
『ふふふ、あはははははははは! 僕は君!僕は君さ!!!』
完二の影は闇を纏うと、巨大な体に男と女のマークを持ち薔薇に包まれているシャドウ『完二の影』と筋肉質なシャドウ『タフガイ』と『ナイスガイ』が現れた。
タフガイとナイスガイは現れると同時に完二の影の後ろの左右に下がり、マッスルボーズを披露して完二の影の存在感をアピールし始める。
『我は影、真なる我! ボクは自分に正直なんだよ。だから、邪魔物は消えろ!』
「ば、化け物……!」
余りの出来事に、身体が動かなくなってしまった完二。そんな完二を見て、悠達は行動を開始すると庇う様に完二の前へと出た。
「皆! 行くぞ!」
「「「「ペルソナ!」」」」
完二のシャドウとの戦いが幕を開けた。
▼▼▼
現在:熱気立つ大浴場【フロア途中】
傷を癒しながら洸夜は、再び襲ってきたシャドウを返り討ちにし、消滅したシャドウ達がいた場所を見ていた。
(やはり、何かが違うな。この世界のシャドウ達と、タルタロスのシャドウ達は根本的に何かが違う……)
洸夜がそう思ったのには、訳がある。最初の疑問は単純に美鶴、つまりは桐条から聞いた情報に無い事があった事や二年前まで戦っていたシャドウは元々、人間が絶望等と言った感情に支配された時に、その人間の無意識と一体化したニュクスの一部が意識の表面に顔を出し、宿主から分離しようとするニュクスの一部がシャドウなのだ。
しかも、このシャドウ達は現実世界でも悪さをしていたのだが……。
(ニュクスはもういない筈。それに、此処の世界のシャドウ達は直接、現実世界に悪影響を及ぼしてはいない。……本当に良く分からないな……この世界のシャドウは)
洸夜がそう思っていた時だった、洸夜の視界とフロア全体が大きく揺れた。思わず洸夜は上を見上げ、それに応えるかのようにヘメラから情報が送られた。
「……悠達も手こずっている様だな」
自分のいるフロアにまで響く震動と音に、上で完二のシャドウとの戦いの壮絶さを教えている。
そして、洸夜は自分もその場所を目指すようにゆっくりと階段を上り始めた。
「ハハ……流石に暑いか」
サウナの様な構造をしている為、フロア全体がムシムシしていてとても暑い。そんな中で歩いている自分の姿を想像したのか、可笑しそうに笑みを浮かべながら額の汗を拭き、洸夜はゆっくりと前に進んで行った
▼▼▼
現在:熱気立つ大浴場【最上階】
『うふふふふ。中々やる見たいだねぇ』
「センセイッ! 皆、大丈夫クマかッ!?」
完二の影と悠達の間には、消滅していく『タフガイ』と『ナイスガイ』の姿があった。
完二の影に二体のシャドウがサポートしていたのに気付き、倒したまでは良かったが、完二の影は全くの無傷であり、それどころかタフガイとナイスガイのサポートにより能力も格段に上がっていた。
それに引き換え悠達は疲労があり、四人の体力は徐々に限界に近付いていた。
だが、完二の影は悠達の様子に嘲笑い、悠達はせめてもの抵抗で睨み付けていた。
「ハァ……ハァ……ちくしょう!」
「やっと倒したのに……完二くんのシャドウはなんで元気なのよ!」
陽介と千枝がシャドウに対して決死の態度で構えている中で、悠は雪子に話し掛けた。
「……天城。回復は後何回ぐらい出来そうだ?」
「一人ずつなら、まだ余裕はあるけど……全体にするならそんなに余裕は……鳴上君は?」
「俺もそんな感じだ……」
皆の残りの体力も限られているこの状況で、完二のシャドウと一戦交えなくてはならない。
元々、完二のシャドウのサポート役だった『タフガイ』と『ナイスガイ』そ存在意味に気付くのに遅れたから今の現状を招いてしまった。
(あのシャドウ達は何とか倒したが、この状態で完二のシャドウを倒せるのか……!)
『何を考え事をしているんだい? もっと、僕を見てくれよ!』
「センセイ避けるクマ!」
シャドウとクマの言葉を聞き、気付いて顔を上げた悠が見たのは武器であるオブジェを振り上げている完二の影の姿だった。
「ッ!? しまっ……!」
『遅いよ! デッドエンドッ! うおりゃああああああああああッ!』
「ガハッ!!」
鈍い音が辺りに響き、シャドウの攻撃をモロに喰らった悠はそのまま吹っ飛ばされた。
「「「「相棒!/鳴上君!/センセイ!」」」」
「ッ! イザナギ!!」
陽介達の言葉が耳に入った事で、頭を切り替えた悠は壁にぶつかる寸前でイザナギを召喚し、受け止めて貰った事で壁への激突だけは避けれた。
しかし、シャドウの攻撃のダメージが大きく、立つ事が出来ない。
「く、くそ……!」
「鳴上君!……今、回復を!」
『行かせると思ってるのかい? 女は消えろやぁ!』
「あっ……!」
悠の回復へと向かおうとしたが、シャドウが雪子の前に出て妨害する。
そして、雪子目掛けてシャドウは武器を振り上げるが……。
「あんたの相手は私達よ!」
「行け! ジライヤ!」
「マハガル!」
千枝がシャドウに向かって、おもっきしの飛び蹴りを食らわし、陽介はジライヤの疾風攻撃を放つと攻撃を喰らった完二の影はそのままバランスを崩して倒れてしまった。
『あうッ!』
「千枝!」
「雪子! 此処は私と花村に任せて、早く鳴上君を!」
「分かった! クマさん!千枝達を!」
「任せるクマ!」
クマに千枝達のサポートを頼むと、雪子は悠の所へと走って行く。
すると千枝達に妨害されたシャドウも立ち上がり、武器を構えながら千枝達を睨み付けた。
『ふふふ、情熱的なアプローチだね。……それじゃあ、あの二人の相手は他に頼もうかな?』
いやらしい笑みを浮かべた完二の影は悠と傷を治す雪子に向けられる。
その視線に気付いた千枝はハッとなって二人に叫んだ。
「雪子! 鳴上君! 逃げ――!」
「千枝ちゃん! ヨースケ! 避けるクマ! 攻撃が来るクマ!」
危険を知らせようと瞬間にクマが叫び、千枝と陽介は咄嗟にペルソナを召喚して防御を固めたが二つの武器を構えると武器を振り回した。
『オラァッ!電光石火ッ!』
「きゃああッ!」
「うわぁあッ!」
完二の影の怒濤の攻撃が千枝達を襲い、更に悠達にも迫っていた。
『メディア!』
「大丈夫? ……鳴上君?」
「何とか。……っ! 天城! 後ろだ!!」
雪子に回復して貰った悠は声をあげた。雪子のその背後にいつの間にかレスラー姿のシャドウが立っていたからだ。
「っ!?」
雪子も気付き、急いでコノハナサクヤで迎撃しようとしたが相手の方が一瞬だが速かった。
「イザナギ!!」
悠がイザナギでシャドウを間一髪で抑えたが、その隣を何者かが過ぎ去っていったのを悠は見逃さなかった。
「っ! もう一体……!?」
シャドウは一体ではなかった。イザナギが目の前のシャドウと取っ組み合った瞬間にもう一体のレスラー型のシャドウが横切り、雪子へと突撃してゆく。
「あぁっ――!」
助かったと思った矢先の事で雪子の判断は遅れ、コノハナサクヤの動きが鈍った。
防御が間に合わないと思い、雪子は咄嗟に目を閉じてしまう。その瞬間……。
『グボォア!!』
雪子に迫ったシャドウの腹部を”黒い腕”が貫いた。
シャドウはそのまま悶絶した様子で消滅し、悠も目の前のシャドウを倒した事で雪子の方へ振り向き、その存在を目の当たりにする。
「これは……ペルソナ?」
「……えっ?」
悠の言葉に雪子も目を開けると、そこにいたのは黒い長髪の人型のペルソナ、そうアイテルが君臨していた。
『んん?』
アイテルの存在に完二の影も気付く。その異質な存在感に無理矢理に目を奪われてしまったのだ。
あまりに強い力。故に気に入らない。
『気にらないな……なんだい、あれは?』
完二の影の言葉に陽介と千枝もようやくアイテルの存在に気付いた。
「す、すげぇ……相棒の奴、まだあんなペルソナ持ってたのかよ……」
陽介は純粋に悠が召喚したペルソナだと思っているようだ。しかし、悠も驚いてる様子に千枝は気付いたが、それを踏まえてもどこかアイテルが悠のペルソナじゃないと感じた。
「あれ……本当にそうかな?」
一目見た感想が異質。千枝は直感的にあのペルソナと悠が無関係と判断する。
白いキャンパスに突然に現れた黒。そのぐらいの異質だった。
『……』
悠達が色々と考えているとアイテルはやがて右手を悠へと向けた。
「!」
思わず攻撃が来る可能性を思い、悠は咄嗟に身構えた。
『メシアライザー』
だが悠へ放たれたのは攻撃ではなく、不思議な光だった。
そんも光を浴びた瞬間、悠は体が軽くなるのを感じ、同時に力が漲ってくる感覚も感じ取った。
「これは……?」
悠はアイテルが自分に力を貸したとすぐに分かった。何故か、それに疑いは持てなかったのだ。
そのまま悠はアイテルを見上げると、アイテルも悠をジッと見詰めていた。
(不思議だ……このペルソナを俺は信頼している)
安心、敵対してこない。悠はアイテルに何故かそんな想いを抱いた時だった。
『アハハハハハハ!!』
完二の影が笑いながら悠達へ突撃してきていたのだ。武器である二つのオブジェを手に、狂った笑顔でアイテルに照準を絞っていた。
『死んで!! 僕の為に死んでちょ~だい!!!』
完二の影は右手のオブジェを高く上げ、アイテル目がけて全力で振り落とした。だが……。
『……』
アイテルは左手一本で攻撃を受け止めた。
『えっ……!』
完二の影の顔が初めて崩れ、アイテルは掴んだオブジェを握るとそのまま握り絞める様に砕いた。
そして、完二の影へ手を翳した瞬間、完二の影は吹き飛んだ。
『ギャアァァァァ!!!』
悠達から少し離れた所に完二の影は吹き飛ばされた。その圧倒的な光景に悠達も呆気になっていると、再びアイテルが悠を見詰めた。
”お前はその程度なのか……?”
「……!」
悠は何故かアイテルからそう言われた様な気がし、表情を固めると悠は完二の影へ向かって行き、アイテルはそれを見送ると姿は消え始め、やがて消滅する。
「ハイピクシー!」
悠が召喚したのは、小さな妖精のペルソナ。召喚されたハイピクシーの身体から雷が流れ始めながら、悠とハイピクシーは完二の影へと向かってゆく。
『な、なんだ一体それは!』
「ただの妖精さ……ハイピクシー!」
ハイピクシーが一気に完二の影へ距離を詰めようとするが、完二の影も最後の意地を見せた。
『なめんじゃねぇぇぇ!!!!』
完二の影は無事の方のオブジェでハイピクシーを叩き落そうとした。
だが、先程のメシアライザーで悠とハイピクシーのスピードは遥かに上がっており、ハイピクシーは踊る様に完二の影の攻撃を避けた。
そして、その小さな手を完二の影の目の前に翳す。
『ジオンガッ!』
『ガアァァァァァァァッ!!?』
特大の雷を浴びながら叫んだ後、完二の影は倒れ、悠達は警戒しながらも完二のシャドウが立ち上がらないのが分かると腰を下ろす。
既に疲れた事が分かるが、悠達の顔には笑みが生まれていた。しかし……。
『…………ッグ……ウフフ……ふふふ、情熱的なアプローチだなぁ。これならみんな……素敵なカレになってくれそうだよ』
「「「「ッ!?」」」」
悠達は声の聞こえる方を向くと、そこには完二の影が完二の姿に戻りながらもこちらに近付いてくる姿だった。
「ま、まだ向かってくるクマ! よっぽど強く拒絶されてるクマか……?」
「……そりゃ、これだけのギャラリーがいればな」
「ある意味、一生の恥だもんね」
陽介と千枝の言葉に苦笑いしながらも、何とか平常心を保とうとする悠達。すると……。
「……めろ」
「?……なんだ? 誰か今、なんか言ったか?」
「ううん。私は違うよ」
「私も」
今一瞬だけ、誰かのドスの効いた声が聞こえた様な気がした悠だったが千枝達は首を横に振る。すると、そんな事を言っている間にも完二?がこちらに近付いて来ていた。
『誰でもいいんだ……誰かボクを受け入れてよおおおお!!!』
「止めろって! 言ってんだろおおおお!!」
「!!」
突然、完二が自分のシャドウを殴り飛ばし、その殴った時のバキッ!と言う音が周りに響く。
そして、殴り飛ばしたシャドウを見ながら完二はゆっくりと語り始めた。
「情けねぇぜ……こんなんがオレん中にいるかと思うとよ。……知ってんだよ、お前がオレん中にいることくらいな!」
そう言って完二はシャドウの前に立つ。その姿は、先程まで恐怖に支配されていた姿では無く自信に満ち溢れていた。
「オラ立てよ! 俺と同じツラ下げてんだ。……ちっと殴られただけで沈む程ヤワじゃねえだろ。男だ女だってんじゃねえ、拒絶されんのが怖くてビビってよ……自分から嫌われ様としてるチキン野郎だった。……でもよこの間、店に来たお客が俺の作った人形を妹の為とは言え……あんなに褒めてくれて買ってくれたのを見て正直……てめぇも嬉しかった筈だろ!」
『……』
完二のその言葉に、完二?は立ち上がると完二に近付いてくる。
「今まで、お袋以外に俺の趣味を認めてくれた奴はいたか?……いねえだろ!あの人が言ってくれた言葉を聞いて……もう少し頑張ってみようと思ったんじゃねえか! だから来い! あの人が認めてくれた様に俺も認めてやる!てめぇは俺だあ!」
完二の言葉にシャドウは頷き、光に包まれると全身が黒く巨大で髑髏のイラストが描かれていた。その手に雷のオブジェを持つペルソナ『タケミカヅチ』になり、完二は自分のペルソナを見上げた。
「頼むぜ相棒……」
『オオオオッ!』
完二の言葉に答える様にタケミカヅチは手に持つ雷のオブジェを掲げ、新たに決意を胸に固めたのだった。
そしてその光景を見ている者がもう一人おり、扉の隙間からその人物である洸夜は満足そうな笑みを浮かべながら現実のの世界へと帰って行った。
チリーン……!
この時、鈴の音が響いていた事に洸夜は気付かなかった……。
▼▼▼
チリーン……!
「今……!」
「どうした相棒?」
薄っすらと聞こえた鈴の音に、反応している悠に陽介が声をかけた。
「今、兄さんの鈴の音が聞こえた気がしたんだ……」
「ハハ、いくら死に掛かったからって、それは無いだろう……今日はお前も俺達も、疲れてんだ。早く帰ろうぜ」
そう言って笑いながら、千枝達の下へ行く陽介。
その様子に何処か納得出来ない感じの悠。先程の謎のペルソナの事もある。この世界には未だ、自分達の知らない事があると悠は感じていた。
だが、陽介の言う通り、兄である洸夜がいる訳はなく、また戦いでの疲労が半端でなかった為、完二を連れて、此処から早く帰る事にした。
▼▼▼
現在:堂島宅
「ただいま……」
「お帰りなさい……って、お兄ちゃんどうしたの凄い汗だよ!?」
「はは……ちょっとね」
菜々子が驚くのも無理はなく、悠のワイシャツは汗でビショビショだった。
いくら今が夏とは言えこれは流石に流しすぎであり、汗でシャツが透けていた。まあ、サウナの様な場所で戦って来たから当然なのだが。
「……シャワーを浴びてくるよ」
菜々子にそう言って浴室に向かう悠だったが。
「あっ! お兄ちゃん。今は洸夜お兄ちゃんがシャワー使ってるよ」
「兄さんが……?」
「うん、洸夜お兄ちゃんも、お兄ちゃんと一緒で凄い汗かいてたんだよ。何かね、素振りしてたんだって」
「素振り……」
菜々子の言葉に悠は少し考える。洸夜がどこでハマったのか趣味?の剣術をしている事は悠も知っている。
その為、木刀の素振り等をしていてもおかしくは無いのだが、悠は玄関に置いてある木刀に目を向け、不意に近付いた時だった。
「さっぱりした……ん? なんだ悠、帰っていたのか」
「たった今ね、ただいま兄さん」
「お帰り……。お前も早くシャワー浴びてこい」
悠の姿を見て、洸夜は特に気にするそぶりもなくそう告げて木刀を持って部屋へと行ってしまった。
そして、悠はその後ろ姿を静かに見詰めていた。
(なんだろう……この違和感?)
他愛もない兄弟の会話だった筈だが謎の違和感を悠は感じてしまったが、理由は結局分からず、心の中をモヤモヤさせながらシャワーへと向かって行くのだった。
END