第十六話:再会への予兆
同日
現在:???
そこは広いフロアで豪華な一室であった。周りに飾られている装飾品を見ても高級品と分かる。
そんなフロアの主である紅く長い髪を靡かせ、毛皮のコートを羽織っている女性は周りにいる部下らしき者達へ怒りを放っていた。
それを同じく、全身を隠す様な服を着ている付き人らしき金髪の女性が様子を静かに見詰めていた。
「何故、私の許可なくこんな事をした! ようやくシャドウワーカーも設立して間もないんだぞ? そんな忙しい時に……!」
そう言って近くの机の上の資料をバンッ!と叩く紅髪の女性。その音にビクッ!とする部下の人々は恐る恐るでありながらも資料を見せながら食い下がった。
「で、ですが、ご当主。幹部の汚職等が原因での“桐条グループ”の大変な時期は何とか乗り越えました。しかし、それでも世間的にはまだ風当たりが強いので……」
「ご当主の“お見合い”話をして、少しでも世間やグループ内を明るくしようと……」
「それか、せめての息抜きなどと思い……」
ビクビクしながら語る部下達の声のボリュームは徐々に下がって行き、紅髪の女性はため息を吐いた。
「……お前達がそう考えるのは納得出来るが、私はまだ! 身を固める気は無い!!」
「で、ですが、ご当主! 相手のご両親は、国々とのパイプを持っておりますし……それに、見合い相手も高卒ですが……学力・行動力共に問題無いと資料に……何より、このお見合いは先代のご当主が決めた事なのです」
「お父様が……」
部下のしつこい言葉に、イライラし始める紅髪の女性だったが父の名前を出された事で耳を傾ける。
許婚やら見合いやらの事は昔にもあったが、彼女が当主になってからは一度も起こらなくなった。彼女が絶対にさせなかったからだ。
だが、今回の話は珍しく部下達が行動的であり、しかも今亡き父の名も出たのだ。彼女といえど、無視する事はできない。
「はい……当時の話によれば直に見て気にいったらしく……その……本来ならば、もう少し早く行う予定だったのですが、先代のご当主の不幸等が重なり、今に至ります」
「……そうか」
少し考え込む紅髪の女性を見て、部下達は手応えありと判断したのかここぞとばかしに畳みかける。
「それにご当主も、誰かに支えられた方が仕事等も捗るのでは?」
「それとも、どなたか心に決めた方でもいるのですか?」
「ッ!?」
部下の何気ない言葉に、無意識に彼女は二年前の事を思い出す。
突然、黙り込む当主のその様子に部下達も少し焦り出すが、彼女は頭からその事を振り払い、何も無かったかの様に振り向いた。
「分かった。そのお見合いを受けよう。日時や場所が決まったら報告してくれ」
「おお……!」
彼女のの言葉に、部下達は喜びの言葉を上げるのだが……。
「その変わり、共に行く人員は私が決める。それが最低条件だ」
「えっ! ですが、ご当主……」
「何か文句があるのか?」
「ヒッ! い、いや、何でもありません! そ、それでは私達はこれで……!」
そう言って、一睨みすると部下達は逃げる様に去って行く。それによって部屋には部下達が居なくなり、それを確認すると近くの椅子に女性は腰を下ろした。
「心に決めた者……か」
「大丈夫ですか? ”美鶴”さん」
「”アイギス”……」
金髪の女性“アイギス”に紅髪の女性“美鶴”は顔を下に向けて口を開いた。
基本的に一人で頑張って来た彼女がこう言う表情をするのは珍しく、それを知っているアイギスは余計に心配してしまう。
「先程の言葉……洸夜さんの事を思い出したのでは?」
「……否定すれば嘘になるな」
「美鶴さん……」
美鶴は切なさそうに笑みを浮かべるがアイギスは知っている。美鶴だけでは無く、明彦達も洸夜が消えた事に後悔している事を。
この事を知らないのは、風花・乾・コロマル・チドリぐらいだ。特に、風花と乾には伝える事は出来ない。
彼女達は、あのメンバーで人一倍懐いていたからだ。故に洸夜が消えた理由をうまく伝えていないのだ。
「そう言えば、どなたをお見合いに連れて行くのですか?」
話を変える為か、アイギスはお見合いの方に話を振った。
「それは君と明彦に同行をお願いしようと思っている。君達が一緒ならば、安心出来るからな。無論、自分の身は自分で守るつもりだ」
そう言うものの、自分でも何処か無理をしている様に美鶴は感じいた。
元々、お見合い自体乗り気では無いのだが、今は亡き父の名が出たならば無下には出来ない。
「あっ……そう言えば、お見合いのお相手に関する話を聞いてませんでしたね」
「そう言えばそうだな……まあ、顔も知らない相手との見合いも面白そうだ。それよりもアイギス、明彦に連絡を頼めるか?」
と言いながらも、美鶴は元々興味が無いお見合いなのは変わらない為、相手に興味等は微塵も無かった。
しかし、念のために明彦には連絡しなければならない。
「分かりました。それでは少し席を外します。え~と……携帯はどう使うんでしたっけ?」
「……」
少し心配な言葉を発しながらアイギスが部屋を出ていくのを確認し、美鶴は静かに窓から空を眺めた。
その内心では今はどこにいるかも分からない、自分にとって大切な男性である洸夜について考えいた。
「お前は今、何処で何をしているんだろうな……洸夜。――お前はあの時、何を伝えたかったんだ……?」
美鶴は洸夜が消えた時の最後の電話の内容を思い出す。
『……美鶴。すまない……俺がお前達を傷付けてしまった。辛い絆を……お前達に刻んでしまった……! 本当にすまない……!』
――俺はもうお前達に会えない。それが、美鶴と洸夜の最後の会話であり、言葉だった。
「傷付けたのは私達だ……なのに何故、お前が謝るんだ洸夜……!」
豪華な椅子の上で美鶴は、自分を抱きしめながら体育座りと言う似合わない座り方でそう呟いたが、誰もそれに答える者はいなかった。しかし、美鶴は知るよしもなかった。
洸夜が桐条とは関係の無いシャドウの事件に巻き込まれている事を。
そして、美鶴が貰い忘れた見合い相手の資料。その名前の欄に……『鳴上 洸夜』と書かれている事に。
END