新訳:ペルソナ4~迷いの先に光あれ~   作:四季の夢

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荷物整理をしていたらPS2ソフト【鋼の錬金術師 神を継ぐ少女】が出てきました。
楽しかったけど、後半のイベントシーンは怖くて直視できなかった思い出が蘇りました(;´・ω・)


第二十二話:久慈川りせ

同日

 

現在:堂島宅(洸夜自室)

 

 りせを送った日、悠に自分の事を話した夜、洸夜は雨が降り始めた事で映るであろうマヨナカテレビを部屋のテレビで映るのを待っていた。

 そしてその予想は当たり、いつもの様に砂嵐と異様な電波音と共にマヨナカテレビは起こると、その映った人物を見て洸夜は目を険しく細めた。

 

「……アイドルだから、もしかしたらと思ったが……やはり、“久慈川りせ”か」

 

 呟きながら洸夜は顔は見えないが、マヨナカテレビに映る水着姿の少女を見て、この少女が久慈川りせと確信した。

 

▼▼▼

 

 6月22日(水)晴

 

 現在:久慈川豆腐屋

 

 昨夜のマヨナカテレビの一件、洸夜はりせに注意を払いながらバイトを頑張ろうと思っていたのだが……。

 

「ねーねー本当はいるんでしょ? りせちーに会わせてよ」

 

「お客さん。オススメはオカラのドーナツです……」

 

「いや、そういうのは良いからりせちーは?」

 

「いるって目撃情報があるんだよ!」

 

「ねえねえ、お兄さんさ……りせちゃんに会わせてくれよ。じゃないと僕、暴れるよ?」

 

「……あぁ?」

 

「「「ひ、ひぃ……す、すいませんでした!!」」」

 

 洸夜が一睨みすると、叫びながら豆腐屋から走って逃げて行くカメラを所持したりせのファン達。豆腐も買わずに一時間近くも居座っている者ばかりが大半だ。

 今朝から洸夜が済ませているバイトもいつもの内容ではなく、やっているのはりせ目当ての営業妨害をするファンの対応ばかりだ。

 

(まさかここまでとはな……)

 

 本音を言えば、りせの人気を甘く見ていた洸夜。酷い奴は、店の前に車を止めようとする始末。そんな奴等の対応すらも先程からしていた洸夜は疲労からの溜息まじりで店内に戻った。

 

(睨まれただけで逃げるなら最初から来るな……)

 

 

 基本的には先程の様に洸夜が一睨みすれば大抵は逃げて行き、それでも帰らずに突っかかる者には正面から向かい合う事で対処していた。

 勢いで相手を臆させれば良いと思っていたのだろうが、洸夜はそんなどこにでもいる様な連中では臆す事はない。

 本気で肝を冷やさせる気ならばストレガのタカヤを5人は連れて来なければならないだろう。

 

「ありがとうね、洸夜さん」

 

 戻った洸夜へ椅子に座りながらお婆さんはお礼を言うが、その隣ではりせが申し訳なさそうな表情をしていた。

 

「洸夜さん……やっぱり、私が出て対応した方が良いんじゃ……? あしらうのにも私は慣れてるから……」

 

「君が良いならばそれで良いんだが……大丈夫なのか、君は休養中だろ?」

 

「でも、私のせいでお祖母ちゃんや洸夜さんに迷惑を掛けたく無いし……」

 

 そう呟くりせの姿は、口では強い感じにしているが無理をしているのは誰の目から見ても明らかだった。

 実は洸夜もりせが無理をしている事を早くから気付いており、自分が誘拐される可能性があるとは本人には悟られない様に注意している。

 実際、アイドルに突然そんな事を言う人はいないとは思うのだが、洸夜はりせのメンタル面に気を配っていた。

 

「りせ、そんな事を気にしなくて良いの。こういう時ぐらいは、お祖母ちゃん達を頼りなさい」

 

「俺もお婆さんと同じだ。それに、誰かに頼る事は悪い事じゃない。年下が年上に甘えるのに何の問題がある?」

 

「おばあちゃん……洸夜さん……」

 

 気持ちは嬉しい。だが複雑な表情のりせに背を向けて洸夜は、再び店の外に向かおうとした時だ……。

 

「すいません! 稲羽署の者ですが……って洸夜か?」

 

「叔父さん……? 珍しいね、バイト先に来るなんて」

 

「まあ、お前のバイトの様子を見たかったと言うのもあったが、こんな状況だからな……」

 

 指を外へ向ける堂島に合わせ、洸夜も視線を向けると先程までいたファンと野次馬は殆ど消えており、その中心には足立が立っていた。

 

「はいはーい。こんな所で車を止めない! 行って、行って!」

 

 刑事である足立が交通整理をして車を動かさせていた様だ。おそらく、ファンと野次馬達は堂島が蹴散らしたのだろう。

 堂島の姿にお婆さんは頷いていた。

 

「私が呼んだのよ洸夜さん……流石に何かあると大変だから」

 

「成る程……でも、何でわざわざ叔父さんと足立さんが? 交通整理とかになんで刑事が……?」

 

「ん? まあ、こっちにも色々と事情があるんだ……」

 

 そう言った堂島が一瞬だけ目を逸らしたのを、洸夜は見逃さなかった。

 

(まさか、警察もりせが誘拐される可能性がある事に気付いたか? 警察側には直斗がいるからあり得ない話ではないが、まだ判断するには早いか……)

 

 別に警察に誘拐される人物を特定されても洸夜は別に困りはしないが、少し動きづらくなる。

 誘拐を阻止するには最低でも、誘拐される人物には接触しといた方が良く、下手な行動で警察に怪しまれたり堂島に迷惑を掛ける事は避けたかった。

 警察が狙われている人物を護衛し犯人を捕まえてくれるならば苦労はないのだが……。

 

「それはさておき、久慈川りせはどうしてる?」

 

 堂島はお婆さんとりせに注意しながら洸夜に耳打ちした。

 

「いくら叔父さんでも言える訳ないだろ……それとも何か訳あり?」

 

 洸夜の言葉に堂島は頭を抑えながら、あー……と呟いていたが、洸夜に顔を近付けて静かに口を開いた。

 

「余り詳しくは言えないが訳ありだ……それで、久慈川りせはどうしてる?」

 

「……今は奥にいるが、話を聞くなら後にした方が良い。……少なくとも、野次馬達が完全に消えるまでは我慢してくれ叔父さん。彼女は態度には出してないが、かなり無理をしている」

 

「そうか、なら一旦戻るか。……洸夜、何も言わずに黙って聞いてくれ……久慈川りせから目を放すな」

 

「……その意味は?」

 

 堂島の言葉に洸夜は、意味は理解しているが敢えて知らない振りを決め込んだ。仕事とプライベートをきちんと分ける堂島が洸夜に対してこの様な事を言ったのだ。

 現在りせの一番近くにいるのと、洸夜がこの事件の事とは一切の関係がないと思っているからだ。

 

「……後でまた来る」

 

 堂島は洸夜の質問には答えずに店を出て行ってしまった。

 

(警察は完全に気付いている。流石だ、直斗……)

 

 警察に上手く情報を伝えている直斗の動きの早さに、洸夜が純粋に感心していた時だった。

 

「何だよ……りせちーいないじゃん」

 

「いるのは、いつもの婆さんとバイトだけ……」

 

「ガセネタだったか……」

 

 そう言って最後まで粘っていた店の前の野次馬達が去って行き始めた。どうやら、りせが全く姿を見せない事でガセネタと判断した様だ。

 

「……やっと一段落付ける」

 

「ご苦労様、洸夜さん。奥に入って休憩して下さい」

 

「ありがとうございます……」

 

 そう言って洸夜はお婆さんからの許可を貰い、休憩の為に奥に入ると、そこではりせが下を見ながら座っていたが洸夜に気付き顔を上げた。

 

「洸夜さん……」

 

「ファンと野次馬は帰ったから大丈夫だ。……あと、すまないが少し休ませて貰う」

 

 洸夜は、りせの隣の空いているスペースに座って一息整えるとりせは、その疲れた様子の洸夜を見て再び申し訳なさそうな表情になってしまう。

 

「ごめんなさい……」

 

「何がだ?」

 

「だって、私がいるから、お祖母ちゃんや洸夜さんに迷惑掛けて……」

 

 そう言いながら顔を下の方に見続けるりせの様子を見ていた洸夜は、少し気になった事があり、りせにそれを聞く事にした。

 

「……りせ。一つ聞いて良いか?」

 

「……別に良いですけど、なんですか?」

 

「……君は何でアイドルになった?」

 

「えっ……?」

 

 その言葉にりせは予想外の事だったらしく、面喰らってしまう。

 

「深く考え無くて良い。ただ、気になっただけだ」

 

 口ではそう言っているが、洸夜は内心では別の目的があった。

 それは、りせがここまで本当の自分に付いて強く意識しているのはアイドルの仕事だけではなく、根本的な部分、つまりはアイドルになった時に何かあったのでは無いかと判断したからだ。

 

「実は……」

 

 洸夜の言葉に、りせは暗い表情をしながらも意を決した様に口を開いた。

 

「……私、アイドルになる前は学校でイジメられてたんです」

 

「何だと……」

 

 りせの言葉に洸夜は、表情は冷静を保っているが内心では憤怒していた。

 基本的に洸夜はイジメが嫌いだが、イジメられている者にも多少は問題がある場合がある可能性を考える派だが、洸夜はりせに問題があるとは思わなかった。

 恐らくは、風花の時と同じパターンだ。

 

(風花の時もそうだったが、聞いていて良い感じはしない)

 

「……イジメが続いて何度も嫌になったけど。私、それでも自分を変えたいと思ったんです。そんな時にアイドルのオーディションの合格……イジメは無くなって、知らない子からも話しかけられる様になりました」

 

(……そういう事か。この子もまた、不器用な子だ)

 

 ここまで聞いた時点で、洸夜はりせが本当の自分について深く考える様になった理由を理解した。理解はしたが、洸夜はりせ自身からの言葉が聞きたかった為に黙ってそのまま話を聞き続ける。

 

「でも、そんな時に気付いちゃったんです。皆が好きで、ちやほやするのは本当の私じゃない……売る為だけに作られたアイドルの“りせちー”何だって」

 

「……りせ、一つ言わ――」

 

「すいませーん!」

 

「……」

 

 りせに何かを伝え様とした洸夜の言葉は、店の方から響き渡る声によって遮られた。そんなその後の洸夜の間が面白かったのか、りせは思わず吹いてしまう。

 

「クスッ……! また私の為に何か言ってくれようとしてくれたんですよね? ふふふ……また今度に聞かせてね洸夜さん」

 

 そう言って嬉しそうにりせは店の方へと歩いて行こうとし、洸夜は心配し声をかけた。

 

「もう、大丈夫なのか?」

 

「……うん。気持ちの整理が付いたから。それに、お客さんも高校生だし、ファンとかなら上手く聞き流すから大丈夫だよ洸夜さん」

 

 そう言ってりせは、顔を引き締め直して店へ向かう姿に洸夜は今までの事と嘗ての仲間たちの事を思い出してしまった。

 

(……なんでこうもアイツ等と被るんだ。花村は順平、完二は明彦、りせは風花、雪子ちゃんと千枝ちゃんは……ゆかりとアイギスとは……似てないか。だが、ワイルドに異常な程に早いペルソナ能力の成長。……悠と『湊』の姿が重なる)

 

 それぞれが心に悩み等を持つ、この町のペルソナ使い達(りせは例外)を洸夜は、かつての仲間達と被って見えてしまった。

 そして何と無くだが、洸夜は冷静に昔と今の自分の事を考えると自分は普通の人とは明らかに違く、また色んなモノを失った事に気付く。

 

(五年前まで、ただの学生だった俺が今ではペルソナと言う力でこんな事をしているのか……これが俺の運命ならば、自ら切り開くには障害が多過ぎる……)

 

 全ては偶然なのかどうかは今では確かめる術は無い。それについて苦しんでも、支えてくれる仲間は洸夜にはもういないのだ。

 全ての始まりは夢で見たイゴールと、忘れ物をして偶然巻き込まれた影時間とタルタロス。何故、自分は高校を決める時に学園都市を選んだのか……。

 そして何故、自分は友や大切な人を失ったのにも関わらず仲間達を傷付けたのか。今まで皆を助けた力によって……自分だけ失って行く。

 そう思っている内に、洸夜の心の中に色々な感情が生まれて始めた。

 

「何で俺と『アイツ』だけが……」

 

 あの事件の元凶で両親を失い、最後には自分すらも。そして洸夜もいつも前に出て戦っていた。ストレガのタカヤに目を付けられてからは本当に死ぬとも覚悟した。

 

(基本的に俺と『アイツ』に守られるだけで、『アイツ』の中にデスが居る事が分かった時の態度……今思えば、アイツ等に守る価値は最初から無かった……! 桐条の罪……! ストレガの者達への罪悪感……! 何故、俺だけにそれ程の罪が……! 今も何処かでアイツ等が笑っていると思うと憎くて堪らない!……だが、俺が誰も守れなかったのも事実。俺はどうしたらよかったんだ……)

 

 自分一人では抱えられない程の罪。それに対し、自分は一人でどう向き合えば良いか悩みながら目を血走らせる洸夜。

 そんな時だった……。

 

『そうだ。……それが正しい感情。傷の舐め合いの様な生温い絆じゃない。怒りや憎しみ、決して薄れる事のない感情こそが真の絆……!』

 

「ッ!――やめろ!!」

 

 洸夜は不意に我に帰れた。危うく戻れなくなりそうな程に危険だった。

 

「俺は……なんて事を……!」

 

 自分がとんでもない事を考えてしまった事に洸夜は本気で焦り、自分の中の力が悪い意味で強くなっている事に胸を抑えながら苦しんだ。

 

「認めない……! 認める訳にはいかないんだ……!」

 

 胸を抑えながら洸夜は息を整えると、やがて苦しみは治まると今度は店の方が騒がしくなり始めた。

 

「――!」

 

「――。――!」

 

「騒がしいな……」

 

 店の方が騒がしく感じた洸夜は、休憩を終わらせて店の方へと足を進めたが、この時に洸夜は気付かなかった。

 テレビの世界から出られる力が宿っている腕が、一瞬だけ禍々しく光った事を……。

 そして、堂島宅の自室に置いていたペルソナ白書が光り出し、その中に記されていたペルソナ数体の名が消えた事に……。

 

 

▼▼▼

 

 店の奥で休憩していた洸夜が店へと戻ってから見たのは自分の弟である悠、花村、完二がりせに対して何かを話している光景だった。

 そして、洸夜が奥から出て来た事に悠達も気が付き、視線をこちらに向けた。

 

「兄さん……? どうして此処に?」

 

「……お前に言ってなかったか? 俺が此処でバイトをしているってさ。確か、完二は知っていた……よな?」

 

「うっす。結構近所のオバサン達が噂してるッスよ?。豆腐屋にイケメンのバイトが入ったって」

 

「ハードル高いな……」

 

 完二の言葉を聞き、自分のいる町が田舎町だと言う事を再度自覚した洸夜。田舎町だけあって、どうやら些細な事でも噂になってしまう。

 そんな中、悠達と話していたりせの様子が少しおかしい事に洸夜は気付いた。

 

「どうしたりせ? 何か様子が変だぞ……?」

 

「えっ? いえ、大丈夫です。何でもありませんから……」

 

 そう言って平常心をよそおっているりせだが、身体が無意識に震えているのを洸夜は見逃さなかった。

 洸夜はまさかと思い、悠達に視線を移す。

 

「……悠、花村、完二。お前等、何かりせに言ったか?」

 

「えっ!? いや、オレ達は……何も言ってないッスよ……」

 

「そうそう! 俺達は別に……」

 

「? ……さっき、私が誘拐されるかも知れないから気をつけてって……」

 

「「「ッ!?」」」

 

「なに……!」

 

 りせの言葉にマズイと言った感じの表情になる悠達。その様子を見た洸夜の表情にも微かに怒りが現れる。

 

「お前等……休養中の子にそんな事を言ったのか?」

 

「いや、兄さん……これには訳が……」

 

「そうそう、深~い訳が……」

 

「問答無用……!」

 

 洸夜の怒気に悠達は疎か、隣にいたりせも驚いていたが、隣で座っていたお婆さんは平気な顔をしていた。

 

「お前等な……!」

 

 呆れた様子の洸夜が此処まで怒るのも無理はない。洸夜自身はりせが休養中だと言う事もあって、負担を掛けない様に誘拐については直接は伝えない様に上手く立ち回っていた事が無意味になる。

 りせは自分達が思っているよりも心身共に大きく疲労しているのだ。只でさえ、近頃は叔父である堂島が悠達の事を疑いの視線で見ている事もある。そのフォロー等の為、本人達の知らない所で洸夜が動いてもいる。

 そんな中での今回の事、本人達は良かれと思った行動だが言い方が悪かった。

 ハッキリ言って、精神的な部分で休養している人に向かって、誘拐されるかも知れないと言われて良い気分になる人なんている訳がない。

 

「流石に今回は堪忍袋の尾が少し切れたぞ……!」

 

「マズイ……兄さんが本気で怒ってる。――勇気ある撤退だ」

 

「な、何で此処までキレんだよ!? 訳分かんねえよ!」

 

「いや、普通に考えて俺らの行動ってかなり酷かったんじゃないスか? アイドルとは言え、女子に向かってお前誘拐されるって結構失礼なんじゃあ……?」

 

 そう言って冷や汗を全開で流し続ける悠達に洸夜が徐々に悠達に迫ろうとした時だった……。

 流石に悠達が可哀相に思ったのか、りせが洸夜を止めに入る。

 

「洸夜さん……その辺で許して上げて下さい。伝え方は酷かったけど、一応私の事を心配してくれたからですし……」

 

「いや、りせ……そう言うが」

 

 堂島の悠達への疑いの眼差しへのフォローも日々日々、きつくなっている。ちょっとでも良いから冷静な行動をしてもらいたいのが本音だ。

 

「それに……さっきの人達、もういなくなってますよ……」

 

「なにッ!」

 

 りせの言葉に洸夜は、急いで店から出るとそこには必死で走って逃げる悠達の後ろ姿が見えた。

 その逃げ足は驚異的なスピードで、既に神社のところまで走っており、その様子を見た洸夜は頭を抑えた。成長する場所が違うだろ……と。

 

「アイツ等……足の速さは成長しているのに、何故もう少し考えて行動が出来ない?」

 

「あははは……ハァ……」

 

 洸夜の様子に苦笑いするりせだったが、突然ため息を吐いて肩を落とす。

 

「どうした?」

 

「いえ、ただ……少し、心を落ち着かせたかったからこの町に来たのに……私もう問題に巻き込まれてるのかな……って」

 

「……りせ。こんな事しか言えないが、気にするな。そんな事に一々気にしていたらキリがない」

 

「はは、大丈夫だよ洸夜さん。さっきの人達の言ってた事だって、そんなに気にしてないし……」

 

 そう言うりせだが、相変わらず無理をしている様子だ。そんなりせを見て、洸夜はポケットから紫色の鈴を取り出してりせに手渡し、それを見たりせは首を傾げた。

 

「洸夜さん……? コレって?」

 

「お守りだ……出来れば肌身離さず持っていて欲しい」

 

 実は洸夜が今渡した鈴は昨夜、洸夜がムラサキシキブの力を使って鈴にメディアラハンやテトラカーン・マカラカーン等を鈴に宿したもの。

 こうすれば、もしりせが万が一誘拐されても、テレビの世界での異常な体力消費やシャドウから身を守ってくれる。

 SEES時代に出来るだけ皆を守れる様にとペルソナ能力を応用し、回数は限られるが物に補助技を宿す芸当が出来るのも洸夜の才能だろう。

 しかし、その言葉を聞いた当の本人のりせは、洸夜の言葉に顔を赤くしてしまう。良く考えれば異性に対して物を渡し、そして肌身離さず持っていて欲しいと言う言葉は結構な誤解を招く言葉だった。

 

「……どうしたんだ?」

 

 このタイミングでそんな事に洸夜が気付く筈がなく、首を傾げながらりせに尋ねると、洸夜のそんな様子を見たりせはため息を吐いた。

 その様子から、洸夜が恋愛面では鈍い事を理解した様な表情すらしている。

 

「もう、洸夜さん! そういう言葉をもしかして、会う女の子全員に言ってるんじゃないですよね!?」

 

「……いや、そんなには?」

 

 そういうものの、どんな意味でりせが機嫌を悪くしているのかは分かっていない洸夜は前に菜々子にも同じ事を言っていた気がしたのを思いだし、りせの言葉に頷く。

 そしてその結果、その言葉を聞いたりせは頬を膨らませて洸夜にしゃがむ様に合図する。

 

「洸夜さん。ちょっとしゃがんで下さい!」

 

「?……なん――」

 

「良いから!」

 

「は、はい……」

 

 りせの迫力に圧された洸夜は、言われるがままにしゃがみ、洸夜がしゃがんだ事によって洸夜の顔がりせの射程圏内となり、そのままりせは洸夜の頬を引っ張る。

 

「イタタタタッ!?」

 

 何故自分が年下の女の子に頬を引っ張られているのか理解出来ない洸夜にりせは更に力を強くする。

 

「洸夜さんが悪いんです! 洸夜さんは少し女心を学ぶべきです!」

 

「な、何故!?」

 

 

▼▼▼

 

 

 現在:商店街

 

 

「女心が完璧に記されている書物はこの世にあるのか……」

 

 先程、りせに引っ張られて赤くなった頬を抑えながら洸夜は帰宅の為に商店街を歩いていた。

 りせが怒った理由は、さっき上げた鈴が気に入らなかったと思ったのだが……。

 

『気に入らないなら、別のにするか?』

 

 と言ったのだが……。

 

『えっ? あ、あの……その……こ、これは別です!』

 

 と言われて、別に鈴は気に入っている様子だった。

 

(いつか女性で苦労するな)

 

 何で苦労するのかは分からないが何となくそう思ってしまい、そんな感じで歩いていた洸夜だったが、すると……。

 

「何をしているんですか貴方は?」

 

「ん? 直斗か……やっぱり女難が出てるか」

 

 りせに負けず劣らずのキャラの濃さを備えている直斗の登場に、洸夜は何故か無意識に溜め息を吐いた。また、出会って直ぐに溜め息を吐かれた直斗はムッとした表情をする。

 

「なんですかいきなり? それに、僕の性別の事をそう軽々しく口にしないで下さい。僕はその事に対して嫌悪をしていると言っても足りないぐらい何ですから……!」

 

「……その割に俺にはすぐにバラしたろ?」

 

「あ、あの時は……! あの時は……仕方ないと思ったんです。既にバレている事を隠すのは嫌なんですよ……」

 

 初めてあった時の事を思い出したのか、直斗は恥ずかしさで顔を赤くしたり怒りで顔を赤くしたりしている。

 やはりバレているとは言え、余り性別の事には触れて欲しくないのだろう。そんな直斗に洸夜は悪かった悪かった……と言いながら謝罪をするが、表情は笑っていた。

 そして、そんな洸夜の様子に全ては納得してはいない感じの直斗だが、仕方ないと諦めた様にため息を吐き、歩いている洸夜の隣に並んで歩きだした。

 

「……」

 

「……」

 

 基本的には、余り必要最低限の事や意味のある言葉しか話したがらない洸夜と直斗。こういう場面では何だかんだで波長が合う二人だ。

 そして暫く歩き、先に沈黙を破ったのは直斗だった。

 

「……次に狙われるのは、久慈川りせで間違いなさそうですね」

 

「……やはり気付いていたか。だが、それを俺に言って良いのか? 一応、俺は一般人だ」

 

「確かにそうですが一応、僕は貴方に期待しています……その勘の鋭さや僕とは違う推理力や想像力にね」

 

 そう言って軽く微笑む直斗。一応、直斗は自分の事を一般からの協力者として見ている事を洸夜も理解した。

 年下とはいえ、プロの探偵からそこまで評価して貰えると嬉しいものだ。……態度がでかいのがたまに傷だが。

 

「そりゃどうも……それと豆腐屋に叔父さんと足立さんが来たのはお前の差し金か?」

 

「えぇ、その通りですよ。犯人がファンや野次馬の中に紛れている可能性もなくはないので、刑事である堂島刑事達が豆腐屋に出入りをしていれば、多少は犯人も何かリアクションをすると思ったのですが……今日来ていたファン達の中には怪しい動作をする人はいませんでした……」

 

 そう言って帽子を被り直す直斗だが、その表情には悔しさ等の感情はない。この程度の事で犯人が尻尾を掴ませるとは、直斗も最初から思っていなかった様だ。

 

「だが、今回は久慈川りせの近くには俺もお婆さんもいる。それに、いくら田舎町の商店街とは言え人通りも少なくはない。この状況下で犯人がどう動くか……」

 

 洸夜は悠達の事もあり、テレビの世界の事の方に偏った調査をしてしまっている様に見えるが、ちゃんと現実世界の何処かにいる犯人についても調査をしている。

 しかし、コレと言った手掛かりはまだ見付かっていないのが現状。

 直斗に協力をして貰えば、もっと成果が上げられるのだが、テレビの世界やペルソナとシャドウ等の非現実的な物に直斗を巻き込みたくはない。

 何より、ペルソナやシャドウ等の存在を話しても誰も信用しないだろう。

 

「どうかしましたか? いきなり上の空になっていましたが……」

 

「いや……大丈夫だ。少し疲れた」

 

「そう言えば、ファンや野次馬の対応に追われてましたね」

 

「見てたのか……良い趣味してるな。こっちは大変だったんだがな」

 

「まあ、貴方も久慈川りせが来た事でこうなる事は分かっていたのではありませんか?」

 

 帽子を触りながらクスクスと笑う直斗を見て、洸夜はため息を吐いた。

 

「全く、人事だと思って言いたい放題だな。……最初に会った時の方が可愛げがあった」

 

「……何ですかそれ。もう一度、あんな事が起きたら全力で叫びますよ?」

 

「……叫んだら女の子だってバレるぞ?」

 

「……」

 

「……」

 

 互いの言葉に黙り込む洸夜と直斗。なんだかんだでお互いにレベルの低い争いに一歩も引かないが、やはり互いに息が合う二人。

 

「引き分けだな……」

 

「その様ですね」

 

 だが結局、互いに冗談だと分かっている為に洸夜と直斗は互いに微笑んだ。

 そして暫く直斗と会話した後、互いに帰宅した。

 

▼▼▼

 

現在:堂島宅

 

本来、家族での夕食と言うのは空気が明るくなる場面が多いだろう。しかし、今日の堂島宅の夕食は空気がピリピリとしていた。

 

「わー! おとうふがいっぱいだね!」

 

空気がピリピリとしている中で、それに気付いていない菜々子は今晩の夕食の献立に目を輝かせている。

 今日の献立は、悠と堂島が豆腐を大量に持っていた為、冷やっこ、麻婆豆腐、肉豆腐、ねぎと豆腐の味噌汁等と言った豆腐尽くし。

 中々にヘルシーな夕食だが、部屋を包むピリピリとした空気がそれをぶち壊す。

 

「しっかり食べなさい菜々子。豆腐と言うより、大豆は肌を綺麗にしてくれるからな……」

 

「はーい!」

 

 そう言って明るく話す菜々子だが、洸夜は視線を堂島と悠に向けると……。

 

「……上手いな」

 

「うん……」

 

(気まずい……)

 

 モクモクと食事を続ける堂島と悠だが、空気がピリピリとしている原因はこの二人だ。

 重い空間のその様子を見る限り、堂島と悠の間に何かあったのかが分かる。するとそんな時、堂島の視線が悠を捉えた。

 

「……悠、久慈川りせと何を話した?」

 

「……!」

 

 堂島の言葉は何気ないモノだが、悠は堂島の言葉に目を少し大きく開き、軽く冷や汗を流していた。その表情には焦りと言った感情が読み取れる。

 そして、流石にマズイと判断した洸夜だが、此処で下手に口を出せば自分も何か関係があると思われ、後々の行動にかなり支障きたすのは想像に容易く、口が出せない。

 前々から何処か事件の裏には必ず悠達がいる事に疑問を感じていた堂島。恐らくは、洸夜がバイトを終えた後にもう一度豆腐屋に行き、りせに何かを聞いたのだろう。

 洸夜が状況を見守る中、その時……。

 

「お父さんたち、りせちゃんに会ったの!?」

 

 堂島の言葉に、りせのファンである菜々子はパアッと明るい笑顔を見せる。

 

「あ、ああ。まあな……」

 

「一応……会ったかな」

 

 菜々子の笑顔に調子が狂ってしまった堂島と悠。しかし、その二人のいつもと違う様子に気付いた菜々子は表情を暗くした。

 

「ケンカ……?」

 

 表情を暗くしながら不安そうに二人を見る菜々子。そんな菜々子の顔を見たら堂島と悠も話を止めるしかなかった。

 

「はぁ~違う。大丈夫だから食べなさい……」

 

 そう言って再び食事を始める堂島と悠。堂島家で菜々子の悲しむ顔を見たいと思うのは誰もいないのだから当然の終結だった。

 

「どういういみ……?」

 

 菜々子はどう言う事なのか良く分からない様な表情をしていると、そんな菜々子に洸夜は頭を撫でてあげた。

 

「菜々子は良い子って事だ」

 

「???」

 

 そんな感じで菜々子によって、堂島家の一触即発の危機は回避されたのだった。

 

▼▼▼

 

 現在:堂島宅【洸夜の部屋】

 

「兄さん、今……大丈夫?」

 

「良いぞ、入ってこい」

 

 夕飯の後、それぞれが自室に戻って自分の時間を過ごしていた中、悠が洸夜の部屋を訪ねていた。

 洸夜もそれに頷き、悠を部屋へと入れた。

 

「どうした?」

 

「いや……久慈川 りせの事で……」

 

 おそらく、今日の出来事の一件。そしてその事で堂島に何かを悟れたかも知れないという事なのだろう。

 洸夜は白いノートを書いていたペンの手を止め、悠の方を振り向いた。

 

「気持ちは分かるが、少し伝えた方を考えるべきだったな。おそらく、叔父さんが豆腐店に行った時にりせが話したんだろう」

 

「……警察も勘付いている?」

 

「叔父さん達だって無能じゃない。それに今の警察には”あいつ”がいるからな」

 

「あいつ……?」

 

 兄の言葉に引っ掛かり、悠が聞き返すと洸夜も気付いた様に目を開いた。

 

「そうか、お前はまだ会っていないのか。……白鐘 直斗。警察が雇った探偵だ」

 

「探偵?」

 

「ああ、見た目は……あぁ……帽子を被った小柄な少年だが、その実力は凄いぞ。雪子ちゃんや完二の件も最初から事件との関係性に気付いていた程にな」

 

 洸夜の言葉に悠も少し考える素振りをした。

 探偵、しかもそこまで勘付いているだけでもかなりの能力を持っている事が想像できる。おそらく近々、自分達も会う事になるだろうとも……。

 

「あと、直斗の事もそうだが……叔父さんの事も頭には入れとけ。お前等へのマーク、当分は外す事はないぞ?」

 

「分かってる。でも……やっぱり、りせの事も気になる」

 

「りせの事は今週一杯はずっとバイトに入れる事になってる。四六時中ではないにしろ、俺も近くで護衛できる。……お前等は、もう少しだけ目立たない様に見張ってくれると助かるがな」

 

 流石に何も買わないで辺りをウロウロされるのは店側からしても辛い。現に今日の売り上げはファンや野次馬のせいで一般のお客が買いづらかったらしく、ハッキリ言って酷かった。

 今日ほどではないにしろ、明日もそんな連中ばかりではお婆さんも倒れてしまうかもしれない。故に悠達だけでも慎重になってくれるだけでも違う。

 

「大丈夫。今日の事で反省したから策がある」

 

 悠は自信満々の表情で言い切り、その表情の悠に洸夜は頷いたが心の中では……。

 

(明日も駄目かもしれない)

 

 そう思っていたのだった。

 

▼▼▼

 

 6月28日(火)曇

 

 現在:久慈川豆腐屋

 

 あれから数日、マヨナカテレビに映っているのがりせだという事は分かったが、りせに変わった様子はない。

 やはり、人目が多い事もあってか、犯人も動きづらいのかも知れない。

 そして、洸夜は今日のバイトは夕方であった為に今、バイクを豆腐屋に走らせていた。

 すると店に着いた洸夜が目撃したのは、店の前で高校生ぐらいの少年が一人、りせに話し掛けている光景だった。

 一見、またファンが来たのかと思ったが様子が少しおかしく、りせはその少年の話を上手く流している様だが、少年がしつこく食い下がっていた。

 りせも流石に辛そうで、表情も雲っており、その様子に気付いた洸夜は急いでバイクを止めて、りせと少年の下へと向かった。

 

「お客さん、何かお探しですか?」

 

「な、何だよお前!!」

 

「洸夜さん……!」

 

 洸夜が来た事で、りせは安心した様子で洸夜の後ろへ隠れたが話を邪魔された少年は洸夜を睨みつけた。まるで親の仇でも見るかのような瞳だが、所詮は感情に任せて相手をビビらせる為だけのもの。

 その程度の事で洸夜は怯む気すらなかった。

 

「此処で働いてる只のバイトです。それで、何をお探しでしょうか? 木綿、絹、焼き、オカラ、ガンモ……他にもありますが?」

 

「うぅ……くそッ!」

 

 全く怯まない洸夜の雰囲気に圧されたのか、少年はそのまま走って行ってしまうと、その様子を確認したりせも大きく息を吐いて自分を落ち着かせた。

 

「洸夜さん……本当にありがとう」

 

「大丈夫だったか?……しかし、さっきの子は何だったんだ?」

 

「多分、ファンの子だとは思うんですけど……いきなり、りせ!って呼び捨てにされたり、暴走族って迷惑だよね。とか、誰かの悪口ばかり言ってました。……それにどこか気味が悪かった……」

 

「確かに明るい子とは言えないな……」

 

 虚な目に雰囲気も気味が悪かった。洸夜は何故かその少年が存在がずっと気になっていたが、今はバイトだと割り切る事にした。

 その少年を後姿が曲がり角で消えると、洸夜はバイトをし始めるのだった。

 

 

 

 

End

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