あれって、絶対に月の連中が黒幕だよね? 謎がまだ残ってるよ~~!
同日
現在:堂島宅【洸夜の部屋】
「?」
帰宅した悠は先程の兄の行動が気になって部屋を訪れたが先に帰宅したと思われていた洸夜の姿はなかった。
(どうしたんだ……?)
胸騒ぎを覚えた悠は洸夜の部屋をキョロキョロと見渡していると、悠は畳まれた布団が雑になっている事に気付く。
いつも綺麗に畳んでいる故に珍しく思った洸夜が布団を持つと、そこには隠している筈の洸夜のペルソナ全書がなかった。
「!」
瞬間、悠は事態に気付いて急ぎ、陽介へ電話を掛けると陽介は3コール程で出てくれた。
「全員集合!!」
『ハァッ!?』
有無を言わさず悠は招集を掛けるのだった。
▼▼▼
現在:特出し劇場丸久座【最上層】
『アハハ! 見て~もっと私を見て!!』
「な、なにこれ……私……?」
目の前で妖美にポールダンスを踊る自分と同じ姿の存在を見て、りせは口を押さえながら後退りしてしまう。
訳の分からない世界、異常なもう一人の自分。この二つだけでも常人の正常さを奪うのには十分であった。
「りせ……」
「こ、洸夜さん……あれって……」
洸夜はりせの傍にいてあげるが、りせは不安の色を隠せずに洸夜に己のシャドウを指さしながら答えを求めていた。
そんな問いに対し洸夜は少し悩むように目を閉じたが、数秒ほどで目を開けて重い口を開く。
「信じられないかもしれないが……あれはもう一人の君だ」
「えっ……」
りせは言葉を失った。当然の事だ、明らかに自分とは異質なテンションで騒いでいる目の前の存在を自分だと理解は出来る筈がない。
りせは洸夜の答えに首を横に振りながら否定してしまう。
「うそ……あれが私なんて……」
「……抑圧された内面。君が認めたくない心の苦しみ……その具現化したものだ」
重く語る洸夜の口調から察し、りせは洸夜がふざけている訳じゃなく真面目に言っているのだとは分かった。
だが、納得できるかと言えばそれは別だ。
「そんな……そんなのって……一体、なんなのこれ……嘘よ全部!」
『嘘じゃないわ! もっと見て欲しいんでしょ? 本当の私を!』
そう言ってりせ?は更に過激な踊りを披露し始めた。体をクネらせ、唯でさえ露出の多い水着にも関わらずその紐を解く様な仕草もする。
「イヤッ! やめてよ!!」
自分よりもスタイルは良いが、それ以外は全部が自分と同じなのだ。りせ自身は堪えられない程に精神的に辛く、慌てて洸夜の方を向く。
「洸夜さん、お願い見ないで!」
「大丈夫だ……」
洸夜はちゃんと目線を逸らしており、りせ?の姿を見ないであげていたのだが、そのりせと洸夜の反応を見て当のりせ?は不満そうにしてポールでクルクルと回り続けていた。
『本当は見てもらいたいのに変なの~! 本当の自分……りせちーじゃない本当の自分を見て欲しいんでしょ~?――だったらアンタの方が嘘ついてんじゃないわよッ!!』
「っ!?」
突然、声を荒げたりせ?の言葉に体を震わせるりせは、洸夜の服を掴む。
『事務所の命令通りのキャラ付け……”りせちー”ってなによそれ? どこの誰よ? りせちーじゃない!! これが本当の私よ! 見て見て!』
「やめてよ……もう嫌……! あなたは私じゃない……私じゃない!」
本人が否定する。それはシャドウ暴走のトリガーに他ならない。
しかし、洸夜はそんなりせを止めようとはしなかった。寧ろ、言いたい事を吐き出させたいとすら思っていた。
この世界には煩い野次馬もしつこい記者達も存在しない。だからこそ、りせが己と向き会わせたかった。
(やるか……)
洸夜はゆっくりと刀を抜刀し左手に召喚器を持って戦闘準備をした時だ。
りせの影から大きな闇が溢れ出した。
『アハハハ!! 良いわ! だったら本当の私を見せてあげる!!』
巨大なステージの上でその姿を現すりせ?の姿。それは全身が気味の悪いカラフル、顔は巨大なアンテナと言う異質な大型シャドウ、それが『りせの影』の姿であった。
りせの影はポールに器用にぶら下がりながら揺れ動いており、己の存在を確立した時、洸夜は仕掛けた。
「魅せろ――マタドール!」
洸夜が引き金を引き、召喚されたのは魔界の闘牛士『マタドール』だ。豪華なカポーネに身を包み、鮮血の様に赤いムレータとサーベルを手に持ちし闘牛士。その骸の瞳の奥からマタドールはムレータとサーベルを構えてりせの影へ堂々と立ち塞がる。
『ヤル気は満々って事ね!!――アギラオ!!』
(!――初っ端から弱点属性!……あの姿もそうだが……まさか、りせの力は……!)
洸夜はある考えを過ったが、考えるのはまずは攻撃を防いでからだ。
「マタドール!」
洸夜から蒼白き光が溢れ、マタドールが動く。弱点属性の炎をものともせず、ムレータで流した。
「馬鹿正直に弱点を喰らうか……!――コウモクテン!」
洸夜は四天王の一角、コウモクテンを召喚してマタドールと同時に攻勢に出した……その時だった。
りせの影のアンテナが僅かに光った瞬間、網状のレーザー光の様なものが現れ、それはマタドールとコウモクテンの全身をスキャンした。
『――マハアナライズ』
その異変はすぐに判明する。マタドールがサーベルをりせの影へ振り下ろした時だ、りせの影は何一つ無駄のない動作でポールを使って攻撃を回避し、その反動でマタドールへ強烈な蹴りを放つ。
更に、背後から回っていたコウモクテンにも同じように無駄なく顔だけを後ろへ向けてアギラオを放った。
その結果、マタドールは洸夜の傍に落下し、コウモクテンは火だるまになりながら鎮火するまで膝を付いてしまった。
「ッ!!」
ペルソナを通してダメージが己の体に流れた洸夜は若干の苦痛の表情を浮かべ、その姿にりせは掛け寄った。
「洸夜さん!? 大丈夫ですか!」
「……あぁ、大丈夫だ。……だが、そっちこそ大丈夫か?……少しずつ、理解し始めたんだろ?」
その言葉にりせの表情が曇る。それだけで洸夜の言葉を肯定している様なものだった。
決して頷く事はなかったが、りせは重い口をあけてくれた。
「……変わりたかった。最初は変わりたいだけだった……アイドルになれて虐めはなくなって、知らない人からも声を掛けて貰える様になれた」
今でもりせは覚えている。優勝してアイドルになってから世界が変わった事を。
親しい友人としか話す事はなかったのに、話した事もない者達から積極的に話し掛けられる様になった。苛めた者達はバツが悪そうで昔の自分みたいに孤立した事も。
勿論、りせは色んな人から声を掛けられる事は嬉しかった。だが、日々が過ぎて行く毎にりせは違和感を抱き始めたのだ。
自分に話し掛け始めた誰かが言った。
『あの子達、りせの事を苛めてたんだよ』
その言葉一つでクラスメイト、別のクラスの者達も一斉に苛めていた者達に矛を向けた。
最低・酷い・ダサい・苛めっ子がクラスメイトとか嫌だ。それ以外にも色々と言っていた気がしたが、突然の事で困惑していたりせは全てを覚えきる事は出来なかった。
徐々にヒートアップする中、ある言葉がその場に現れた。
『私達は”りせちー”の友達だから、また手を出したら許さない』
『”りせちー”何かあったら相談しろよ?』
『”りせちー”』
『”りせちー”』
ずっと続く言葉。りせちーという存在。段々とりせの中でその違和感は大きくなり、そして気付いた。久慈川 りせとして仲良くなっていた友達とは全く話す機会が無くなっていた事に。
久慈川 りせという本当の自分を知る者がいない事に。
「皆が見てるのはりせちーだけ……本当の私の事は誰も見てくれない。……本当の私を……」
りせの声は段々と小さくなっていた。まるで心の火が消えて行くかの様に。
だが、洸夜は口を開く。
「……本当の君ってなんだ?」
「……えっ?」
言葉通り、本当に分からないと言った口調の洸夜の言葉にりせは不意を突かれた様に意識をその言葉に持って行かれた。
「……君と会った事も切っ掛けだったが、妹がりせちーのファンでな。ネットで色々と調べてみた」
洸夜が検索した内容には色々なものがあった。古典的な批判も含めてあったが、大半がりせを応援するものが多かった。
イベントでの写真等も多くあり、中には小さな子供達や高齢者の方々との写真もあり、洸夜はその写真の全てに驚かされたのだ。
「小さな子供達から高齢の人達……この人達と写る君は本当に嬉しそうな笑顔だった。実際にそこにはいなかった俺が見ても元気が貰える位に良い笑顔だった」
直感的だが分かってしまうものだ。その写真に写っている人の笑顔が本当なのか、嘘なのか。
わざとらしいとか、そういう事ではなく、純粋な違和感。よく見るアイドルや芸能人の笑顔、その笑顔の中で本当の自分の笑顔をしているのは一体何人いるのか。
誰でも出来る仕方ない笑顔ではなく、その人だけが出来る本当の笑顔だけが見る人も楽しく、そして嬉しくさせる笑顔だと洸夜は思っている。
その笑顔を洸夜はりせから感じたのだ。
「俺は芸能人じゃない……だから君のその苦しみを理解する事は絶対にない。――だが、色んな人達と写っていた君の笑顔が偽物だとは俺には思えない」
「洸夜さん……でも、私……りせちーになったから私は……!」
「妹に笑顔を与えてくれるりせちーは……りせだから出来るんだ。……久慈川 りせだから皆が君を応援してくれるのさ」
洸夜はそう言って立ち上がり、りせの影の前へと再び立つ。その背をりせはまだ、眺めているだけだったが、その中にある心には変化が起こり始めていた。
だが、そうであっても戦いはまだ終わらない。
『キャハハハ! 安い演説は終わったのかしら?』
「……安心しろ、もう終わりだ。――終わらせる」
洸夜の全身から青白い光が徐々に大きさを増し始め、洸夜はその引き金を引く。
「照らせ――ヘメラ!!」
洸夜は再度ヘメラを召喚する。これが最後、ヘメラでなければりせの影を倒す事は出来ないだろうと気付いていた。
アナライズのスキルはとても希少で強力な力であり、自分達の能力を解析されればりせの影への攻撃は全て無効化されてしまう。……故に洸夜は探知特化であり、探知に対する対策を持つヘメラを召喚したのだ。
『何をしようが無駄よ!!』
りせの影は洸夜が動こうとするよりも先に攻撃を仕掛ける。その攻撃は先程と同じマハアナライズだった。
『マハアナライズ!』
洸夜とヘメラに照準は決められ、解析が始まろうとした時だった。ヘメラが瞳を大きく開く。
『昼光の逆光』
ヘメラから巨大な光が放出された。昼光の道標とは違い、攻撃的で直視できない程の光がりせの影を襲う。
『キャアァァァァァァ!!?』
りせの影からすれば閃光弾をモロに受けたようなもの。巨大な光によって怯みはしたが、マハアナライズは既に洸夜達へ成功している。
りせの影からすれば油断したが、相手の悪足掻きを受けたに過ぎなかったとしか思えてならなかった。
『クッ……! ウザイ……けど、勝負はこれで……!』
憎らしい口調でりせの影は解析結果を得て、洸夜の全てを読もうと試みた。……だが、それは叶わなかった。
『!?……な、なによコレェッ!!?』
りせの影に映る洸夜の情報、それが全く見る事が出来なかったのだ。
マハアナライズは成功したが解析結果には全てフラッシュの残光、そして靄や砂嵐等も起こって何が何だかりせの影には分からなかったが、ある考えがすぐに過り、りせの影は洸夜の方を向いた。
『まさか……!』
「……ああ、それで正解だ」
りせの影の考えている事が分かっているかの様に洸夜は静かに頷く。そう、りせの影を襲っている異常現象の原因はヘメラが放った攻撃にあった。
「ヘメラは探知特化のペルソナだ。……だが、ヘメラには他のペルソナにはない特別な力がもう一つあった。――それがジャミング攻撃だ」
『ジャミング攻撃……ですって……!』
ヘメラが先程放った”昼光の逆光”は所謂、アナライズ潰しのスキル。更に使い方を変えれば己の気配も隠す事も可能とする特殊スキルであり、アナライズを潰されたりせの影に焦りが現れた。
『ふ、ふざけんじゃないわよ!! 私が何を間違ってるのよ!? 適当に作られたキャラだけの”りせちー”が何なのよ!? あれが私にとって何なのよ!!』
りせの影……否、りせの心の叫びが咆哮として放出される。ずっと誰にも言えなかったりせの闇。仕事だから、それだけでしかなく、自分から本当の自分を奪った存在としか今まで見る事が出来なかった。
だが、今は違うと洸夜は思っており、後ろにいるりせへ答えを聞く為に振り向いた。
「りせ……答えは出たか?」
「……はい」
そう頷く姿のりせの顔は憑き物が取れた様にスッキリとした笑顔をしていた。答えは彼女の中にもうあるのだ。
「あなたは……私。私だから生まれたのよね”りせちー”も……全部。今の私も、あなたも”りせちー”も……これから先も生まれる新しい私も全部……が私なんだよね」
『あ……あぁ……!』
りせの言葉にりせの影に変化が起き始めた。消えて行くかのように全身から闇が放出されて行き、徐々にその姿はりせ?へと戻って行き始めたのだ。
その姿を見て、洸夜は満足そうな笑みを浮かべながら刀を収めるとその場に膝を付いた。
「洸夜さん!」
りせが洸夜の下へ駆け寄って洸夜の表情を見ると、洸夜は額から汗が多く流れていて息も乱れていた。
「……大丈夫なんですか?」
「あぁ……大丈夫だ。……りせこそ、自分を見つける事が出来たんだな」
「!……はい!」
二人の目の前にいるりせ?と向き合えばこの戦いは終わる。洸夜はまずは安心だと思いながら不意にペルソナ全書の開いてあったページを覗き、異変に気付く。
(ベルゼブブやコウリュウが……)
本来いる筈の名前が虫食いの様に所々で消えていたのだ。ペルソナが消えるなんて事は今までなかった事だが、洸夜はその異常の光景に驚く事もせず、ただ笑みを浮かべてしまった。
「ハハ……」
納得した様な小さな笑みを洸夜が浮かべた時だった。後方の扉が騒がしくなるのを感じ矢先、悠達が雪崩れ込むかのように入って来て悠達は洸夜とりせの姿を見つけた。
「見つけた! りせちゃんと……えっ!?」
「マ、マジかよ……」
りせの隣にいる洸夜の姿に気付いた千枝と陽介は驚きの表情を隠せなかったが、悠と雪子は別だった。
「兄さん!」
「洸夜さん!」
驚く四人はその場で立ち尽くし、悠と雪子は洸夜とりせの下へと駆け寄った。
「二人共無事でよかった……」
「やっぱり……やっぱり洸夜さんだったんですね」
「ハハ……今更、言い訳は出来ないか」
単身でりせを救出しようとした時点でこうなる事は洸夜の予測の範囲内だった。既に言い訳する気は洸夜にはなく、雪子に回復されているとそんな二人に遅れて完二達もやって来る。
「うお……本当に洸夜さんじゃねえか。……それと」
悠がペルソナ使いの時点で驚きはしないのか、完二は洸夜がいる事に特に驚きはせず、そのままりせとりせ?へと視線を向けた。
「もう……終わっちゃった系?」
「……いや、まだ終わらない。……そうだな、りせ?」
「はい」
りせはそう言ってりせ?前へと向かい、向き合う様に立った。
「りせちーも、もう一人の私なんだね。ゴメンね、アナタだけに辛い思いをさせて……私の中には色々な私がいる。……前に洸夜さんが言っていた意味が今なら分かる。私は一色じゃない……こういう意味だったんだね。私の中には沢山の私がいる……その中で“本当の自分”なんて最初から居なかった」
「!……本当の自分なんていない?」
りせの言葉に周りから距離を取っていたクマが意味深に呟くが、それに気付く者はいなかった。
「これからも……一緒に頑張ろう! あなたもりせちーも私なんだから!」
その言葉にりせ?は頷くと、その姿は輝きを出して新たな姿となる。アンテナの頭部に純白の白衣を纏う仮面『ヒミコ』だ。
そしてそのヒミコの力は勿論、探知特化。
「……そのペルソナの力は強力だ。おそらく、それでもまだ力は大きくなる。……先が楽しみだ」
「勿論です! 私はこれからも頑張りますから!」
りせの表情はすっかり吹っ切れた様子であり、悠もその事に安心した表情を浮かべるが他はそうではなかった。
「相棒は知ってたのか……その、自分の兄貴の事?」
「……知っていた」
「マジか……」
陽介の中では洸夜がこの世界にいる事自体がまだ納得できず、困惑し続けていたが雪子はそうでもない。
「……私のシャドウの時に助けてくれたのはやっぱり……」
「……俺だ」
雪子の言葉に洸夜は返答するが、その声と表情には先程までの覇気は殆どなかった。弱体化の影響とでもいうのか洸夜は先程のペルソナ能力の使用だけで体力・精神共に限界まで持って行かれてしまっていたのだ。
(悪いが……ペルソナはまだ手放せないんだ)
己自身に言い聞かせるかのように心の中で洸夜が呟いていると、完二が納得した様に頷いていた。
「けでよ、鳴上先輩がペルソナ使えんスから、洸夜さんも使ってんのは納得できるぜ」
「えぇ……そんな単純なの?」
同じ単純でも千枝の方はすぐに理解は出来ていなかった。よく考えれば洸夜と千枝の間にはそれ程の繋がりがないのだから当然でもある。
そしてそんな困惑した様子の二人に気を使い、洸夜はゆっくりと口を開く。
「……それが普通の反応だ。こんな状況で言い訳する気はないが、まずはこの世界から――」
洸夜がそこまで言った瞬間、自分達の背後からとても凶悪な力を感じた。
ゾクリと、背筋を凍らす程の何かに洸夜は視線をすぐに向けるとそこには今まで話に入ってこなかったクマが虚ろな目で自分達を見ていた。
「本当の自分は……いない……?」
「クマ……?」
「お、おいクマ、 どうした? 頭でも打ったか? まあ、中身は無いけどな」
悠が心配し、陽介も冗談混じりで言いながらクマに近付こうとするが、りせがそれを止めた。
「近付いちゃ駄目! その子の中から何か来る!」
「へっ? 何かって……」
りせの言葉に陽介が聞き返そうとした時だ。クマの背後から何かが現れた。
『ハハハ……実に愚かだ』
「なっ!?」
「アイツは……!」
千枝と完二は言葉を失う。クマの背後に現れたのはシャドウ特有の禍々しい金色の瞳をしたクマ?がいたのだ。
本人とは違い、愛嬌の欠片もない表情は能面の様に不気味だ。
「彼のシャドウか……!」
雰囲気は本人とは全くの別物であり、その圧倒的な存在感は洸夜に満月の大型シャドウを彷彿させる程だった。
「皆どうしたクマ?……って、おわぁッ!? ダ、ダレクマか!?」
メンバー達の様子に、今更自分の後ろにいるシャドウに気付いたクマ。
そんな様子にクマ?も、洸夜と悠達とクマに視線を交互に動かし、金色に輝き他者を恐怖させる様な目で見ながら口を開いた。
『オマエもキサマ等も本当に愚かだ。こんなに広く、迷いの霧に包まれた世界でどんな真実を求む? そんなのは愚かとしか言えない』
「んだとぉっ!」
「まて完二!」
シャドウの言葉に逆上する完二を悠が手で静止させるが、それを無視してクマ?は更に話を続けた。
『元々、真実を手に入れるの不可能だ。どれだけ苦労して手に入れた真実も、それが本当に真実だと確かめる術は無い。だったら己と全てを騙した方が、ずっと楽で賢いじゃないか?』
「どういう意味だ?」
クマのシャドウに悠は聞き返す。
『……貴様らにも分かる様に言ってやろう。例えばだ、貴様らの目の前で誰かが死んだとしよう……そんな時、貴様らは何を考える? 何故死んだ? 誰かに襲われた? そんな事を考える意味はない。お前がその事をただ死んだと思えば、それはもう真実なのだ』
「……なに言ってんだコイツ」
「イカれてる……!」
陽介と千枝はクマ?へ非難の目を向け、洸夜と悠達も理解出来ないと表情を青ざめるがクマ?は小馬鹿にした様に笑い飛ばし、クマの方に目を向けた。
「……オマエもだ。最初からカラッポなのに何を求める?』
「カ、カラッポ……? 失礼しちゃうクマ! クマはコレでも一生懸命考えてるんだクマ! それなのに勝手な事言うなクマ!」
『それが無駄なのさ……カラッポのオマエは何かになりたい為に、何かになろうとする。記憶も無い、何もない……即ち”無”……それがオマエだ』
「うるさいクマ! もう止めるクマッ!」
クマがクマ?に突っ込もうとした瞬間、クマ?から謎の力が放たれてクマは吹っ飛ばされて壁に激突した。
「ク、クマ~」
「クマッ! お前……!」
『キサマ等にも真実を与えてやろう……『死』と言う真実を……『死』と言う名の定めを!』
そう言い終えた瞬間、クマ?から大量の闇が放たれ自身を包み込んだ。
そして、その場に現れたのは床を突き破る程の巨体、大きすぎて上半身しか出せない程であり顔面の部分から闇を溢れ出しているシャドウ『クマの影』となって出現した。
『我は影、真なる我……『死』の真実、『死』の定め……キサマ等に与えよう』
シャドウになった事によって存在感が更に増えたクマの影。その様子に気を圧される悠達。
「……なんて奴だ。こんな奴がクマの中にいたのか!」
「なんて力……!」
「こんな奴とどうやって戦えばいんだよ!?」
陽介がシャドウの姿に恐怖した時だ……。
「恐れるな……」
膝を付いたまま顔色が悪い洸夜が、陽介達が恐怖に呑まれないよう言葉の腕を掴む。
「もう……俺が裏で助ける必要もない程に君たちは強くなっている筈だ。……後は心の問題だ……己を……仲間との絆を信じれば君達はあのシャドウに勝てる……俺はそう信じたい……」
洸夜はそう言い終えたが、兄の異変に悠は気付ていた。
(様子がおかしい……)
洸夜に比べれば悠自身も経験は浅いと思ってしまうが、それでも兄の様子がおかしいのは分かる。
異常に疲労しており、雪子に回復してもらってもあまり効果は薄く感じ、悠は嫌な胸騒ぎを抱くが洸夜は弟の様子に気付かず、りせへ視線を向けた。
「……りせ、皆を助けてあげれるな」
「うん! 今度は私が守ります――ヒミコ!」
りせがカードを砕くと同時にヒミコが召喚され、手をリング状にしてりせに載せた。
「ペルソナ!? 大丈夫なのその体で!?」
雪子がりせを心配するが、りせは笑顔だ。
「大丈夫!……見てて洸夜さん! りせちーは何でも出来るんだから!!」
「あぁ……俺も簡単な手助けぐらいは出来る」
洸夜はそう言って今度は悠へ視線を向け、悠もその視線を受け取った。
「……」
無言で見詰める洸夜だが、その瞳から兄の意志を悠は理解する。
”お前が皆を助けるんだ”
強い意志を受けた悠も、そんな事は言われるまでもない。仲間を、クマを、そして洸夜も悠は守ろうとペルソナカードを取り出し叫んだ。
「行くぞ!――ペルソナ!!」
『来い!!!』
その叫びがVSクマの影、開幕の合図となり全員の仮面がその姿を現した。
END