分かっていた事だけどね♪ と、言う訳で遅くなりました(;´・ω・)
7月9日(金)曇り
現在:稲羽郊外の道路
「わーい! お出かけお出かけ!」
「菜々子、ちゃんと座らないと危ないぞ」
「無理もない、ゴールデンウイークの事があったから余計に今が楽しいんだよ叔父さん」
「まあ、そうだな……」
現在、悠達は堂島が運転する車で稲羽の町を少し離れていた。また本来ならば平日である事で悠と菜々子は学校があるのだが菜々子は創立記念日で休み。悠は簡単に言えば学校に上手く言ってサボり。
堂島は有給休暇をとって今日は休みにした。ゴールデンウイークの一件もあった事で何とか取ることが出来たらしい。
「……」
そんな中、明るくはしゃぐ菜々子と真逆に洸夜がただ一人だけ機嫌を悪そうに景色を眺めながら黙っていた。
「洸夜、お前が機嫌を悪くするのも無理はないが……少しは落ち着け」
「兄さん、あっちに着くまでに疲れるよ? 折角の“お見合い”なんだ」
「何が折角だ……俺はお見合いをする気は無い!」
悠と堂島の説得も虚しく、洸夜はそう言って更に機嫌を悪くする。そもそも、事の発端は六日前の堂島に掛って来た洸夜と悠の母親からの電話だった。
その内容は単純なもので、昔の仕事の繋がり関係でお見合いをする事にした。相手は若い”美人”社長、別にお見合いを成功させろとは言わず、断られても良いので息抜き気分で行ってこいとの事。
その話を聞いた堂島も言葉を失い、洸夜も聞いた時は勿論、言葉を失った。
「怪しい……今年、大学受験をするとは言え、俺はまだフリーターだぞ? 明らかに釣り合っていない。――何かの尻尾切りにでも使われるんじゃ……」
「ドラマ化決定だ」
「アホな事を言ってんじゃない。どうせ姉さん達の仕事関係なんだ。向こうも本気じゃないだろう」
洸夜と悠の話に堂島は運転しながらヤレヤレとそう言って、話を聞いていた菜々子は堂島の話を聞いて更に頭を抱える洸夜の姿に首を傾げる。
「……ハァ」
「洸夜お兄ちゃん、なんか悩んでるみたい……」
「今度は見合いの断り方に悩んでいるんだろ……」
車内で今だに頭を抑えてイライラしている洸夜を心配する菜々子と、その光景に苦笑いする堂島。
実は奈々子を旅行に連れていく口実が出来たため、内心では洸夜に感謝している事は堂島の内心に隠しているのは内緒だ。
そんな風に会話をしていると悠が堂島に声を掛けた。
「そう言えば叔父さん、今日と明日泊まる場所って?」
「あぁ、確か見合い場所の近くのホテルでそれなりに良いホテルだ。俺の名前で予約していると姉さんが言っていたな」
「たかが見合いで二泊三日か……」
元々、そう言う事を勝手に決められる事が嫌いな洸夜は未だに機嫌が治らずに悪態を漏らす。
そんな兄の様子に悠も苦笑いしか出ない。
「まあ、そう言わないで……それに見なよ、あの菜々子の様子」
悠に言われて洸夜は菜々子の方を見ると、菜々子は旅行に行くかの様に助手席で楽しんでいる。
只でさえ、色々と我慢してきた菜々子にとって今回の事は旅行に思えて仕方ないのだろう。
そんな菜々子の笑顔を見た洸夜は、どうやって見合い相手に上手く断るかを考えていた自分が情けなく感じ、ゆっくり目を閉じた。
「……寝る、着いたら起こしてくれ」
「分かった」
そう言って洸夜は、ホテルに着くまでの少しの睡眠に入った。
▼▼▼
現在:ホテル【ロビー】
稲羽の町から数時間、車で移動して時間は丁度お昼頃に洸夜達は宿泊先のホテルへと着いた。
宿泊するホテルは見た感じ、中と外、どちらも良い感じの洋風のホテル。そんな感じのホテルを洸夜は寝起きの為、目を擦りながら眺めていた。
「……眠い」
「洸夜、見合いは一時間後だ。それまでは目を覚ましとけ。……さて、俺は受付に行くから菜々子と荷物を頼むぞ」
「叔父さん、俺も行く。……少しでも眠気を覚ましたい」
寝起きからのすぐにお見合いの準備をしなければならない事に面倒だと思いながらも、洸夜は少しでも眠気を晴らす為に堂島について行く事にした。
「そうか、なら悠、頼むぞ」
「分かった」
そう返事をして洸夜と堂島は目を輝かせながら辺りを見てみる菜々子と荷物、それらを悠に任せて受付へと向かい、そのままロビーにある巨大な柱の向こうに消えて行った。
そして、そんな二人の後ろ姿が見えなくなると悠は軽く一息入れた。
「やれやれ……」
なんだかんだ言いながらもお見合いに応じる兄の姿に悠は笑みを零していた。基本的に洸夜は自分の道は自分で決めたがる、だから洸夜は勝手に親が決めたお見合いが嫌なのだ。
相手の方も勝手に決められたら嫌な筈、そう思いながら洸夜が相手の事も考える性格なのを悠は知っている。
「……兄さんも十分不器用だ」
悠がそんな事を呟いた時だった。
「きゃっ!」
後ろの方から菜々子の声が聞こえ振り向くと、そこには尻餅を着いた菜々子、そして全身を隠す程に長いワンピースを身に付け、頭にも変わったアクセサリーの様なモノを付けた金髪の女性が心配そうに菜々子に手を差し延べている光景。
その様子から、菜々子が隣の女性にぶつかったのだと分かる。
「菜々子!」
その様子を見た悠は急いで菜々子の下へ向かった。
既にぶつかった後に言うのも難だが、これ以上は何かあってからでは遅い。
「ごめんなさい……」
悠が菜々子の下へ近付くと、菜々子はぶつかった相手に戸惑いながらも謝っていた。
それに対し、相手の女性も菜々子に視線を合わすように姿勢を低くしながら頭を下げた。
「いえ、こちらもよそ見をしていたもので……申し訳ありません。お怪我はありませんか?」
そう言って申し訳なさそうに菜々子に謝罪する女性の顔を見て、悠は思わず見とれてしまった。
その女性の表情は何処か幼さが残っており、だが大人の女性の様な気品も身につけていて整っていた。
千枝達には悪いが、はっきり言って今まで出会って来た女性の中でも一、二を争う程のレベル。
(綺麗な人だ。……だけど、あの頭と耳に着いてるのは一体……?)
そう思いながら悠は、女性の顔と頭に着いているアクセサリーとも言えるか言えないかの様なモノを眺めていると女性と目が合ってしまう。
それに思わず悠は身体をビクつかせ、女性は首を傾げる。
「あなたは……?
「あぁ、すいません……俺は悠と言います。この子……菜々子の――」
「……”洸夜”さん?」
「えっ……?」
悠はその女性から放たれた兄の名前に言葉を失う。何故、この初対面の人から兄の名前が出て来るのか。弟である自分の前で洸夜と言う名前は偶然では出ない筈だ。
悠はそう思っていると その女性も悠を見つめ続けており、何がしたいのか理解できず困惑してしまった。
「あの……なにか?」
「あ、いえ、失礼ですが……悠さんは、この子の……」
(まあ、本当は従妹だけど……菜々子からも実の兄の様に思われてる)
内心で悠は少し悩んだが、堂島家との繋がりは既に強い。家族と今ならば言えるだろう。
「はい兄です。ほら、菜々子」
恐らくもう会う事もないと思った悠は女性にそう告げ、菜々子に自己紹介させる為にしゃがみ、菜々子の肩に手を置いた。
そして、菜々子は少しおどおどしながらも女性の近くに向かい自己紹介する。
「……どうじま……ななこ……です」
「……どうじま?」
菜々子が自己紹介したが、その女性はまた何かを考えているかのように黙り込んでしまう。
どうしたのかと悠も菜々子も不思議に思ったが、その女性はすぐに我に返った。
「……はっ! すいません、少し考え事をしていました……」
やはり女性は考え事をしていたらしく、菜々子が自己紹介した事を思い出したのか、女性は視線を菜々子に戻し、おどおどした感じの菜々子に優しく微笑むと菜々子と同じ目線に合わせた。
「申し遅れました、私は『アイギス』と言います。先程は失礼しました」
そう言って女性『アイギス』は静かに落ち着いた感じで再び頭を下げ、手袋をした状態のままで菜々子と握手をした。
それに対し菜々子も、アイギスから感じる不思議な優しさを感じたのか笑顔になる。
「うん、もう大丈夫。それにさっきは菜々子もよそ見してたし……」
「ふふ、それでは今度からお互いに気をつけましょう」
「うん!」
(何事も無くて良かった……)
仲良くなった感じのアイギスと菜々子の姿に悠は一安心した。
都会に来た早々に問題を起こしたくもなく、菜々子の身に何かあれば堂島と洸夜が黙っていない。
そんな事を悠が思っていると、アイギスが自分の顔を再びマジマジと見ている事に気付く。
「あの……なにか?」
先程から何度も自分の事を見ているアイギスに悠は思わずそう言ってしまい、悠の言葉にアイギスも思わず恥ずかしそうに視線を反らした。
「あ、いえ……貴方の雰囲気と容姿が私の大切な方々に似ていたもので、つい……」
「似ていた……ですか? 良ければその人達の事を聞いても良いですか?」
ただ何となく気になったと言う理由で悠は今の勇気ならば可能であり、アイギスにその人達に着いて尋ねると、アイギスも頷いた。
「はい、別に構いません……その人達は――」
「アイギス!」
「明彦さん?」
突如、アイギスの後ろから彼女に声をかけたのはスーツを来た青年だった。
しかし、スーツが着慣れないのか少しぎこちない動きをする明彦と言う青年は目付きと雰囲気が獣の様に鋭かった。
(この人は……?)
悠が明彦を見た瞬間、何故か悠は明彦を初めて見た気がしなかった。同時に何故かアイギスの事も知っていた気がし出し、頭を捻りながら明彦を見た。
獣の様な雰囲気。爪と牙を潜ませている。その位、明彦と言う青年の存在感は凄まじかった。見覚えがあるなら忘れはしないだろう。
悠がそう思っているそして明彦はアイギス達に近付くと、近付くにいた総司達の方を向いた。
「ん? 君は……!」
明彦が悠を見た瞬間、アイギス同様にその様子が変わる。驚き、恐怖、色んな感情が明彦の目から悠は感じ取る事が出来た。
そしてそんな明彦にアイギスは現状を説明した。
「悠さんと菜々子ちゃんです。実は先程ぶつかってしまいまして……」
「ホントか?……友人がすまない事をした。怪我はなかったか?」
「いえ、ぶつかったの俺じゃなくてこの子の方で……」
「そうなのか?」
そう言って明彦は菜々子の方を向いた。それに対し身体をビクッとさせる菜々子。
外から見たらライオンと子羊の様な絵だが、明彦はそんな菜々子の容姿に気付かず先程のアイギス同様にしゃがむ。
「友人がすまなかった……大丈夫か?」
「っ!?」
明彦に悪気はないのだが、菜々子は明彦の雰囲気に怖がってしまい涙目に鳴りながら悠のズボンを掴みながら後ろに隠れた。
「……!?」
菜々子に怖がられたのが思ったよりもショックだったのか、明彦は身体を奮え上がらせると床に手を着いてしまった。
(どちらにも悪気が無い分、余計にややこしい……)
涙目の奈々子。落ち込む明彦。
どちらにも非はなく、どうすれば良いか悠は分からなかった。
そして悠が菜々子と明彦の様子を見てそう思った時、アイギスが明彦に近付いた。
「ところで、なにか私に様が合ったのでは?」
「……あ、忘れていた。美鶴が呼んでいる。そろそろ時間だ」
「……そうですか、ならば急がなければ。……ではお二人とも私達はこれで失礼します」
「おっと、俺もまだ準備が終わっていない。……じゃ、またな」
「え、あの……」
余程、時間がないのかアイギスと明彦は急いでエレベーターの中に入って行ってしまった。
そして、二人がエレベーターへ入ったのと同時に洸夜と堂島も戻って来る。
「やれやれ、思ったより時間が掛かったな……」
「全く……ん? 悠、菜々子どうした?」
まるで嵐が過ぎたかの様に呆気に捕われていた悠と菜々子に受付で鍵を貰って来た洸夜と堂島が声をかけた。
「いや……なんか、嵐と言うか美人と言うか獣……?」
「……なに言っているのか分からないが早く部屋に行くぞ。時間がない……ちなみに叔父さんと菜々子、俺と悠が同じ部屋だ。あと部屋は隣同士だ」
そう言われながら悠達は、着替える為に急いでエレベーターへと向かって行った。
▼▼▼
現在:エレベーター
アイギスと明彦はエレベーターの中で会話をしていた。話の内容、先程出会った少年、悠についてだ。
「……さっきの少年、似ていたな」
「……そうですね」
明彦の言葉にアイギスは頷き、似ていると思うのは自分だけではなかったと内心で安心もした。
何処か不思議な雰囲気。例えを言えと言われても恐らくは無理だろう。掴みどころの無い雰囲気なのだから。
「……雰囲気は『アイツ』だが、容姿は洸夜に似ていた」
何処か懐かしい様な、そして何処か悲しそうな感じで話す明彦。その彼の言葉にアイギスは静かに頷いた。
「はい……ところで一つ聞いても良いでしょうか?」
「……なんだ?」
アイギスの真剣な表情に明彦は静かにアイギスの言葉を待ってくれた。
「いえ、ただ……洸夜さんにご兄弟はいらっしゃったでしょうか?」
「洸夜の兄弟……? 確か弟が一人いると聞いていたが……まさか、さっきの奴か!?」
アイギスの質問に明彦は先程の少年が洸夜の弟なのかアイギスに問い掛けるが、アイギスは静かに首を横に振った。
「いえ、さっきの方は隣にいた少女の事を妹だとおっしゃっていました。そしてその子の名前は”堂島”菜々子ちゃんと仰ってました。……ですから……」
「……”堂島 悠”か。洸夜とは無関係だな。……今、思い出しても確かに妹がいるとは聞いてない。下に弟が一人だけいるとしか聞いてなかったからな……」
洸夜には弟が一人だけとしか明彦は聞いておらず、妹の話は一切なかったと思い出す。
洸夜の性格から妹の事だけを話さないと言う事はありえず、今の話を聞く限り先程の二人は洸夜とは無関係、他人の空似と言う結論で落ち着いた。
「他人の空似か……しかし、あそこまで似ている人間がいるとはな……世界は狭い」
「はい……目も『あの人』と洸夜さんの二人に似ていました。何事にも恐れず、まるで未来を見ているかの様に真っすぐな目……」
「……アイギス」
悲しそうな目で話すアイギスに明彦が心配し彼女の方を向くが、アイギスは静かに大丈夫だと言った感じで首を横に振った。
「大丈夫です……ただ、あまりにも似ていたので御二人の事を思い出しただけです」
忘れた事すらない思い出を胸にアイギスは明彦にそう告げた。その様子に明彦は腕を組んで「そうか……」とだけ返した。
すると、明彦は今度は気まずそうに口を開いた。
「なあ、アイギス……」
「はい、なんでしょう……?」
いつもより真剣な表情に感じた明彦に、アイギスは何事かと思い言葉を待った。すると……。
「俺は怖いのか……?」
先程の菜々子との一件の事だろう。
明彦は何処か真剣な目でアイギスに聞くが、聞いた相手が悪かった。
「はい怖いです、(あの様な小さな子にとっては)恐怖の対象です」
アイギスは思った事をそのまま口にした。あの時、奈々子は確かに怖がっていた。
しかもアイギスに悪気は無く、ただ明彦も気付いていると思って言ったのだが明彦にトドメを刺すのには十分だった。
「グッ……! そうか……」
そう言って明彦は、エレベーターの扉が開くまでずっと落ち込んでいた明彦。
そして何故、明彦がそんなに落ち込んでいるのか分からずに首を傾げるアイギスだけがエレベーターに乗っていた。
すると今度はアイギスがある事を思い出した。
(そう言えば……”御二人”の準備はもう良いんでしょうか?)
▼▼▼
現在:ホテル【悠の部屋のフロア】
着替えと言っても悠自身は制服で良い為、兄達の着替えが終わるまでフロアをブラブラとして時間を潰していた時だった。
悠はフロアのエレベーター前で何やら言い争いの様に騒いでいる変な”男女の二人”を発見する。
「絶対に阻止よ! そんな訳の分からない男に美鶴先輩を渡せないわよ」
「いや、俺等にそんな決定権ってないじゃん……」
その男女は両方とも若く、見た感じでは二十歳手前だと悠は思った。
更に良く見れば二人共、良い服装をしていた。青年はスーツ、女性はドレスではないが落ち着いた雰囲気の服を身に纏っていた。
「って言うか俺っち、今回はシャドウワーカー関係ってアイギスから聞いてたんだけど……」
「ちゃんとシャドウワーカー関係じゃない。美鶴先輩が親の”七光り”の訳の分からない男とお見合いするのよ?――”順平”? あんたは何も思わないの?」
「いやいや、"ゆかり"っち。相手がどんな奴かって俺等も桐条先輩達も知らないって聞いてたじゃん」
順平と呼ばれた青年はやや疲れ気味で返答しているが、ゆかりと呼ばれた女性は何故か一人でヒートアップして行く。
「あんたね……美鶴先輩の前の許婚の男って凄い年上だったのよ? 前例がある以上、今度の奴は紐男ね! 結婚を境に美鶴先輩にたかる気ね」
「少し羨ましいかも……」
順平は呑気に呟いていたが、ゆかりの一睨みで沈黙する。
そしてそんな光景を見ていた悠は……。
(バカップル……?)
適当に前方の男女をそう判断しており、これ以上は見ていても良いものじゃないと思った悠は、そそくさと二人の横を通り過ぎようとした時だ。
それに気付いた順平が自分達が道を塞いでいると思い、軽く避けながら謝った。
「あぁ、悪い……」
そう言って順平は顔を悠へと向け、ゆかりも自然と悠の顔が映り、二人が悠の姿を認識した時、二人の目に別の青年が重なって見えた。
「待ってくれ!!」
「……!」
気付けば順平が悠の左手を掴んでおり、ゆかりも唖然とした表情で悠を見ていて止める事は出来なかった。
そうなれば最も困惑するのは悠本人だ。
「??」
見覚えのない二人に止められたのだ。これは犯罪の匂いを感じるべきなのか、と悠は冷静に考えていると悠はある事に気付く。
悠には目の前の二人に何故か”見覚え”がある事に。
「あの……」
悠は二人に問い掛けようとすると、それよりも先に順平とゆかりが我に返った。
「あっ……違う。よく見たら髪も短けぇし……」
「!……そ、そうよね。――あの”人”が、ここにいる訳ないもの……」
そう言って順平は手を放し、ゆかりと同様に二人は暗く思い詰めた様子で顔を下に向ける。
「……あの?」
悠がもう一度、二人に問い掛けると二人は一瞬、なんで悠がここにいるのか分からなかったが、すぐに我に返った。
「あ……あぁ!! わ、わるい! その……」
「ごめんね……君がちょっと知っている人に余りにも似てたから……つい……」
ゆかりの言葉に悠の脳裏に、ついさっき出会ったアイギスの姿が浮かぶ。
(あっ……兄さんの写真)
悠は思い出した。兄の部屋の写真立てに写っていた人物達の事を。
先程のアイギスと明彦。そして目の前にいる順平とゆかりの二人も容姿は変わっていたが、確かな面影があった。
そして悠がジッと見詰めていた事で順平とゆかりも、それに気付く。
「ど、どうした……?」
「や、やっぱり突然の事で怒ってるよね……」
悠はただでさえ無表情な事もあって二人は悠が怒っていると感じたが、悠は怒りではなく自分の心にある疑問を口にした。
「写真の人……?」
「へっ……写真って……ゆかりっち?」
「もしかして私の……ファン?」
順平が写真と聞いてゆかりの方を向き、ゆかりも少し嬉しそうにしながら聞き返しながら照れ始めた。
「写真って事は雑誌よね……まさかフェザーマン以外で気付かれるなんて思わなかった……!」
「フェザーマンですら気付かれてないもんな」
余計な事を言わなきゃ良いのだが順平はゆかりに睨まれ、冷や汗を流しながら顔を逸らす。
そして悠は話が脱線している事に気付き、首を横に振りながら訂正した。
「写真立ての写真」
「……写真立ての写真?」
「……どういうこと?」
話がキナ臭く感じたのか、二人の様子が変わる。
「なぁ、お前……名前はなんて言うんだ?」
「……」
何かを感じたのか順平は少し真剣な表情で悠を見詰め、悠もゆっくりと口を開こうとした時だった。
丁度のタイミングで可愛らしい着信音が鳴り響く。
「あっごめん、私……って美鶴先輩から!?――もしもし?」
ゆかりは焦った様子で電話を出ると、何やら相手と素早く半紙をしてすぐに電話を切った。
「順平! もう時間みたい、皆は外にもういるって!」
「えっ! もうかよ!?……あぁ……悪いけどよ、もう俺等は行かなきゃ駄目なんだ!」
「色々とごめんね!」
二人は余程の急ぎなのだろうか、二人は悠に頭を下げながら急いでエレベーターに乗り込み、そのまま一階へと向かった。
残された悠も後はどうする事も出来ず、その場で壁に寄り掛かって兄達を待つ事にするのだった。
▼▼▼
現在:お見合い会場(とある料亭)
あの後、ホテルでスーツに着替えた洸夜達と悠は合流し、見合い会場である料亭に来ていた。
見た感じはそれなりであり、ホテルとは真逆で完全に和風な雰囲気を漂わせていた。
「うわー! すごいすごい!」
普通ならば子供が喜びもしない料亭だが、基本的に稲羽の町から出た事のない菜々子の好奇心を刺激するには十分だった。
菜々子は入口に飾られている鎧の前で目を輝かせ、元気にはしゃいでいる。
「こら菜々子……あまり騒いだら駄目だろ」
「……は~い」
堂島に注意されて少し頬を膨らます菜々子。
こう言う所も菜々子の数少ない子供らしい一面の一つ。そんな光景を洸夜は悠と二人で見守っていると、料亭の着物を着た女性従業員らしき人が堂島と菜々子に近付いた。
「ふふふ、騒がしくなっても大丈夫ですよ。今日はこの料亭全体がお見合いのため貸し切りですので」
「「「はっ!?」」」
「……?」
従業員の言葉に洸夜達は絶句してしまい、今一意味を理解していない菜々子は首を傾げていた。
ほとんどお客が見られないと思っていたが、貸切状態ではなく本当に貸し切り。
その言葉を聞きはするが、実際に体験する機会は滅多にないだろう。
洸夜は気分が悪くなり、表情が悪くなってゆく。
「おいおい、料亭を貸し切りとか相手側は何を考えてんだ……」
「それだけ相手側は本気? なんか、周りの従業員の人達もそわそわしている」
「勘弁してくれ……それにまあ、少なくとも料亭一件を貸し切りに出来る程の財を持つ相手だ、迂闊に変な断り方が出来なくなった……」
悠の言葉に思わず頭を抑える洸夜。
周りの店員の落ち着かない様子。貸し切りと言う徹底ぶり。
しかも、相手側の情報が何一つ聞かされていない中、料亭一つを貸し切れる力を持つと言う情報だけでは頭が追い付かず洸夜は不安になるだけだった。
「一体、母さんは誰とお見合いを?」
「分からないが多分、相手側は一般的な考えがない相手だ……」
「兄さん、良く分かるね」
「俺にも良く分からないが……何故か俺の勘がそう言っている」
互いにそんな会話をして緊張感を和らげようとする洸夜達。
しかし、虫の知らせと言うべきなのだろうか。洸夜はざわざわとする自分の胸を落ち着かせる為に掴んだ。
そんな中で堂島が洸夜達を呼び寄せる。
「洸夜! 悠! そろそろ移動するぞ」
堂島の言葉に、思わず洸夜は膝を付いた。
まだ、お見合いは始まってもいないのに雰囲気は何処か今にも燃え尽きそうだ。
「……ついに来たか死刑宣告が」
「馬鹿言ってないで……ってあれ?、兄さん髪型が?」
「……髪型?……ああ、何本か飛んでいるな」
さっきまで車で寝ていたからか、朝にはちゃんとセットした洸夜の髪の一部がはねていた。
四方八方に自己主張する洸夜の髪。
流石にこのままお見合いをする訳にも行かず、洸夜は面倒だと思いながらも髪型を直す事にした。
「仕方ない……悠、すまないがワックス持ってるか?」
「一応持って来て正解だった……」
洸夜の言葉に悠はスーツの内ポケットからワックスを洸夜へと手渡す。
「すまない! あと先に行っててくれ、髪型を直したらすぐに行く」
そう言って洸夜は通路の角にあるお手洗いへと走って行った。
そんな様子の洸夜に、堂島は思わず溜め息を吐く。
「全く……仕方ない、俺達だけでも先に行くか……」
「そうだね……」
「では、こちらになります」
そう言って悠達も案内されるまま、お見合いに使う部屋へと案内されて行くのだった。
▼▼▼
現在:とある一室【お見合い場所】
悠達が一室に案内されると相手はまだ来ていなかった。
また目の前の室は和風な一室で、部屋な真ん中にはテーブルに座布団、周りには和風な置物が置いてある。
お見合いをしそうな和風の部屋を考えて下さいと言われたら、十人中八人ぐらいが同じイメージをしそうな部屋だろう。
そんな事を思いながら、悠達は座布団に腰を下ろした。
「そろそろだ……」
「ああ……この調子なら洸夜は遅刻決定だな。言い訳を考えとくか……」
悠と堂島は他愛もない話をしていると、座布団に座って周りを見ていた菜々子が堂島と悠に話かける。
「ねーねー、おみあいが終わったら洸夜お兄ちゃんは結婚するの?」
「結婚……するかしないかはまだ分からないが、恐らくしないだろう」
「兄さんの性格から考えて、それが妥当だ」
「……菜々子わかんない」
何故、洸夜の性格だと結婚しないのか理解出来なかった菜々子。
その様子に悠と堂島が苦笑いしていると、何やら廊下から段々と近付いてくる足音と話し声が聞こえて来た。
どうやら、相手側の人達が来た様だ。
「……全く、明彦のおかげで危うく遅刻する所だったな」
「こんな所にレイピア何か持ち運べる訳が無いだろ」
「その事じゃない。時間ギリギリまで部屋から出てこなかった事だ。何かあったのか?」
「……俺にも考える事ぐらいあるさ」
外から聞こえて来ているのは女性二人と男性一人の声。相手は三人、かと思いきや。
「大体は順平のせいですけどね」
「何でもかんでも俺っちのせいにするの止めて……」
「どちらにしろ、相手の方々を待たせる訳には参りません。ですから早く中に入る事をオススメ致します」
「……」
更に外から聞こえてくる声から察するに相手側は五人。
しかし、悠は話の内容からしてまともでは無い気がした。
(兄さんの予感が当たった……)
そんな事を冷や汗をかきながら思っている悠だが、その間にも襖が開かれた……。
(また綺麗な人だ……)
襖が開く音と共に中に入って来たのは赤く綺麗な和服に身を包み、髪は和服以上に綺麗な紅色で容姿共に完璧な女性だった。
先程出会ったアイギスもそうだったが、悠は今日だけで二人も並以上の美人に出会った事になる。
陽介辺りに言ったら……。
『お前! なに学校サボってそんなうらやましい事をしてんだよっ!!』
等と言われそうだが今回は仕方ない。
悠が陽介で勝手な想像していると、和服の女性が向かい側に腰を下ろして頭を下げた。
「この度はどうぞ宜しくお願い致します……」
「いえ、こちらこそ宜しくお願い致します」
和服の女性と堂島が互いに挨拶を交わし、それに吊られて悠も頭を下げた。
(凄く威厳を感じる……)
悠が相手の女性に感じたのは綺麗だと言うだけではなく、彼女から伝わるとてつもないリーダーシップと雰囲気。
だからこそ、堂島もそれ相応の対応をしているのだろう。
見ただけで伝わるその雰囲気に悠が下げた頭を、かなり上げずらく感じていると……。
「あっ! アイギスお姉ちゃん!」
「っ!?」
隣にいた菜々子の声を聞いて頭を上げると、先程出会ったアイギスと明彦の姿が会った。
「菜々子ちゃんに、悠さん……?」
「まさか、本当にまた会うとは……世界は本当に狭いな。(俺の事は……?)」
驚いているのはどうやら悠だけではなく、アイギスと明彦も驚いている様だ。
アイギスは思わず瞬きを繰り返し、明彦も似たように見えるが菜々子に呼ばれたのがアイギスだけだったからか、何処か複雑な表情をしている。
しかし、話は更にややこしくなった。
「あっ! お前……!」
「君はさっきの……!」
「さっきの変なカップル……」
「違う!!」
順平とゆかりの存在にも悠は互いに気付き、悠が思わずそう呟くとゆかりが猛烈に否定した。
そしてそんな光景に驚いているのは悠達だけではなく、初対面の堂島と女性もキョトンとしていた。
「なんだ? 菜々子と悠の知り合いか?」
「アイギスと明彦も……更に君達まで初対面ではないようだが?」
「実はさっき、菜々子がアイギスさんにぶつかって……」
「いえ、それは私の不注意で……」
説明中……。
▼▼▼
「そうか、それは申し訳ない事を……」
「いえいえ、こちらこそ娘がご迷惑を………」
「もう良いよ……それにさっきアイギスお姉ちゃんと一緒に気をつけるって約束したもん!」
「ふふ、そうですね」
女性と堂島が互いに頭を下げる中、すっかりアイギスの事が気に入った様子の菜々子。
基本的に堂島家は男成分が強いため、菜々子にとってアイギスとの会話は良い息抜きになっている様子。
また、アイギスにとってもこの位の小さな子と接する機会も少ない為、良い経験だった。
そしてその二人の様子に女性は、何処か嬉しそうに微笑んだ。
「アイギスがお姉ちゃんか。……それに、既にお互いが知っている様だな。……なら、後は私だけだ」
そう言って女性は姿勢を正し、静かにお辞儀をした。
「……改めまして、私は桐条美鶴と言います。呼び方も美鶴で構いません」
「桐条……!?」
女性『美鶴』の言葉に真っ先に反応したのは意外にも堂島だった。
また、桐条と言う名を聞いた瞬間、堂島が雰囲気が刑事としての雰囲気になったのを悠は感じた。
「どうかしましたか……?」
「なにか、気に障る事でも……」
美鶴の後に言葉を発したのは、これ以上は菜々子に怖がられまいと黙っていた明彦だった。
しかし、堂島の雰囲気が変わった事を察したらしく、明彦からも鋭い雰囲気が発せられる。
その雰囲気を感じて堂島は我に帰ったらしく、頭を抑えてやってしまったと言わんばかりにため息を漏らした。
「あ~、お見合いの場で言う事じゃありませんが……私は刑事をやっていまして」
「刑事を……なら、仕方ありませんね」
あの様な雰囲気を出されて怒るかと思った悠だったが、美鶴は怒るどころか納得した様子で頷いている。
「 叔父さん、一体何の話……?」
「……ここで言うような事じゃない」
堂島に一蹴されてはこれ以上は聞く事は出来ないと悠は感じ、静かに黙るしかなかった。
そんな時だ、アイギスが静かに手を挙げたのは。
「あの、宜しいでしょうか?」
「え? はい、どうぞ……」
まさか、このタイミングでアイギスが口を開くとは思ってなかった堂島は呆気な様子で返答したが、アイギスは気にした様子もなく、目線を悠に向けて静かに口を開いた。
「貴方様は菜々子ちゃんと悠さんの叔父さんなのですか?」
「はい……?」
アイギスの質問に堂島は困惑するが堂島は何かを察したらしく、落ち着いて返答する事にした。
「もしや、そちらも見合い相手の情報を知らなかったんですか?」
「恥ずかしながら……知る時間がなかったモノで」
本当はあったのだが、ここまで来たのだから相手の事を知らずにぶっつけ本番でお見合いをしようと思っていた美鶴にとって、結局知る事はなかったが正しい。
そして、美鶴の反応に堂島も軽く頭を下げた。
「あ、いえこちらも似たようなモノですから……それで先程の質問だが……私は堂島遼太郎と言いまして、この子は堂島 菜々子で私の娘ですが、こっちの悠は息子ではなく甥っ子です」
「「っ!!」」
堂島の言葉に驚愕するアイギスと明彦は何かを感じて目を大きく開けながら驚き、順平とゆかりは情報がアイギスと明彦程はなく、二人の様子に困惑気味であった。
だが、次に発する堂島の言葉と、それに答える悠の言葉に美鶴達の表情は驚愕に変る。
「ほら悠……お前も自己紹介はしておけ」
「悠です。――”鳴上”悠」
その言葉を聞いた瞬間、美鶴を除く四人の表情が驚愕に変った。
「っ!?」
「鳴上……!」
「鳴上って……まさか……!」
「そう言えば……さっき写真立ての写真って……」
ゆかりは先程の悠との会話を思い出し、悠の方へ問い掛けるように顔を向けると悠はそれに答えた。
「兄さんの写真立て」
「兄さんだとッ……!」
その言葉に真っ先に反応したのは明彦だ。明彦が突然、声をあげた事で菜々子は呆気になり堂島も何事かと様子見をしている中、聞き覚えのある苗字に美鶴は悠の方を見ながら口を開く。
「鳴上……?――すみませんが、私のお見合い相手は誰なんでしょうか。彼ですか?」
無意識かどうかは分からない。だが、ある考えが脳裏を過った美鶴の心拍数は徐々に早くなっていく。
そう感じながらも美鶴はこの場で一番見合い相手らしい悠が自分の相手かどうか気になった。
また、そう言って悠を見る美鶴だが堂島は普通に首を横へと振る。
「いえ、こいつは私達と同じ付き添いで貴女のお見合い相手はこいつの兄貴です。まあ、今は髪を直して遅れていますが……」
「そう言えば兄さん遅いな……」
そう言って悠が美鶴達の方を向くと驚愕した。
先程と違って美鶴達、五人全員が信じられないと言った様子で蒼白い表情をしていたからだ。
(あの女の子と、この少年が兄妹じゃないなら……この少年の兄はまさか……!)
(もしかしたら、私はとんでもない勘違いをしていたのでしょうか……?)
アイギスについては大丈夫なのだが。
段々と、ある考えが強くなって行く明彦と美鶴の表情は青白くなっていた。それに気付いた菜々子も心配して声をかけた。
「……ぐあい、わるいの?」
「い、いや大丈夫だ、心配してくれてありがとう」
美鶴は菜々子を心配させまいと笑顔でそう答えるが、無理をしているのは明らかだった。
すると、ゆかりが悠へ問いかける。
「ゆ、悠君……君のお兄さんの名前って……」
「すぐに分かる」
「ハッ!?……な、なに言ってん――」
順平がそこまで言った時だった。部屋の戸を叩く音が室内に響く。
それは堂島達の後ろの引き戸からで、それと同時に声が発せられた。
「すいません、遅れました……」
悠達の後ろの方から声が聞こえ、堂島は一段落した気分になった。
その声の主を悠達は知っているのだから。
「兄さん……やっと来た」
「たく……髪直すのに時間をかけすぎだ。……じゃあ、あとは本人から自己紹介させた方が言いと思いますので……ほら、早く入って来い」
「“洸夜”お兄ちゃん遅刻だよ!」
「「「「……っ!!?」」」」
菜々子の言葉で美鶴達は思わず息を呑み、襖の戸は開かれ始める。
だが、その開かれている間の時間は美鶴達にとってはとても長く感じた。
明彦も珍しく呼吸が乱れ落ち着きがない。美鶴自身も不安と言う名の重苦しい感情によって胸が苦しくなるのを感じていた。
そして、襖は開かれた。
「悪かった、今からちゃんと……っ!? お前等……!」
襖を開けた洸夜は美鶴達が視界入った瞬間、まるで此処にいる訳がないモノでも見たかの様に頭がフリーズし驚愕した表情のまま視線を外せなかった。
「洸夜……なのか……!」
「洸夜さん?」
「洸夜……」
「な、鳴上……先輩……」
「洸夜先輩……!」
洸夜と美鶴、アイギス、明彦、順平、ゆかりの五人は互いに無意識に目を限界まで開いた状態のままお互いを見続けていた。
今、言える事は現在において、もしこの再会を仕組んだのが神だとしたら、洸夜はその神に祈る事は無いだろう。
End