新訳:ペルソナ4~迷いの先に光あれ~   作:四季の夢

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第三話:非現実の洗礼

 4月12日(火)雨→雲

 

「……夢の中だったか」

 

 霧の中の戦いから洸夜は目覚ます。最初に目に入ったのはまだ見慣れない天井だ。

 顔を左右を向ければ開封・非開封の段ボールの数々。洸夜は今日も片付けをしなければならないだろう。

 

(何時だ……?)

 

 洸夜が上体を起こし、近くにあるミニテーブルの上に置時計を見た。

 時計の針は丁度六時を指しているがまだ外は暗く、本来ならここで二度寝もありとも考えたが今はそんな気分にならなかった。

 そして洸夜は欠伸をしながら自室を出て一階へと降りていった。

 

▼▼▼

 

 現在:堂島家【居間】

 

 一階に降りると、洸夜の耳にテレビの音が聞こえてきた。

 誰かいると思いそのまま居間に入ると、そこにはテーブルの前に腰を下ろしてコーヒーとトーストだけの簡単な朝食を食べていた堂島がいた。

 そんな堂島は洸夜の姿に気付き、朝食の手を止めた。

 

「おお、なんだ洸夜。朝早いな?」

 

「叔父さんこそ、今日はもう出勤?」

 

 まあな……。堂島はそう言うとコーヒーを飲み干し、コートを持って立ち上がった。

 

「すまんが、俺はもう行かなきゃならん。すまんが後は頼む……」

 

 堂島は洸夜へそういうと家へ出た。だが、先程の堂島の表情は少し険しかった事に洸夜は気づいていた。

 昨夜の謎の夢、その直後での刑事である堂島が朝早くの出勤。

 

「……胸騒ぎがする」

 

 誰もいなくなった居間で洸夜は一人呟いた。

 まるでそれは、覚悟はしておけと自分に言い聞かせるようだ。

 

「……朝食作るか」

 

 目が完全に覚めてしまった洸夜の今日の初仕事。それは冷蔵庫との会議だった。

 

▼▼▼

 

 七時が過ぎた辺り、菜々子が起床してきた。

 欠伸をしながら部屋から出て来た彼女は朝食を作っていた洸夜と目が合い、一瞬だが固まる。

 洸夜と悠が昨日からいた事を忘れていた様子。更に言えばパジャマ姿に欠伸、恥ずかしい事この上なかったようだ。

 菜々子は顔を真っ赤にしながら洗面所へと走って行ってしまい、やがて戻って来た。

 

「おはよう」

 

「お、おはよう……」

 

 顔を洗って目を覚ましたようだが、菜々子の表情はまだ赤く挨拶も堅い。

 流石に昨日の今日で打ち解けれる筈がない。

 

「朝ごはん出来てる」

 

「……う、うん。じゃあ、菜々子……着替えてくる」

 

 小走りで部屋に入って行く菜々子。その姿は小動物から逃げられたような気分になり、洸夜は謎の罪悪感を抱いてしまった。

 

▼▼▼

 

 白米、目玉焼きにウィンナー、そして味噌汁を奈々子はテレビを見ながら食べている。

 本当ならば成長期の菜々子の為に、洸夜はもう少し工夫したかったが食材が本当になかった。

 ゴミ袋には総菜の空きパックやカップ麺のゴミが多くあり、食生活が少し偏っているのはすぐに分かった。

 また、これによって洸夜の今日の予定に買い出しが決定となる。

 そして、菜々子が朝食を食べ終えた頃、丁度よく悠も一階に降りてきた。

 

「おはよう。朝ごはんが出来てるぞ」

 

「うん。……菜々子ちゃんもおはよう」

 

「おはよう」

 

 挨拶を終え、悠の朝食を洸夜が盛り付けていると悠は堂島は既にいない事に気付いた。

 

「堂島さんは?」

 

「今朝早くに出たぞ。刑事だから忙しいんだろうな」

 

「たぶん事件……いつもの事だから」

 

 悠と洸夜の会話に菜々子がそう言った。特に様子も変わらず、言い方に菜々子の中では本当にそれが普通の日常となっているのだと二人は察することが出来た。

 

「学校行く時、一緒に行こう。道、分からないでしょ? 途中まで同じだから教えるね」

 

「頼む……」

 

 菜々子の言葉に悠は頷き、今度はテーブルに朝食を置いている洸夜の方を向く。

 

「兄さんは今日どうするの?」

 

「片付け、買い出し、バイト探し……やる事だけならなんでもある」

 

 洸夜はそう返答し、菜々子の食べ終えた食器を片付け始める。

 

「バイトだったら商店街の掲示板を見なさいってお父さんが言ってたよ。……人がいないからバイトならすぐにみつかるって」

 

「そうか、ありがとう。後で早速行ってみる」

 

「……うん」

 

 お礼を言われた菜々子は顔をまた赤くした。だが、それが照れであるこが分かり、どうやら嫌われてはいないのだと洸夜は安心する。

 するとその時、窓から音が聞こえたので洸夜が窓の外を見ると雨が降り始めていた。

 

「降ってきたな……」

 

 洸夜は傘を二人に持たせ、二人は優しく送り出してから自分に仕事に取り掛かった。

 

▼▼▼

 

 部屋・家の片づけを終えた後、洸夜が食材の買い出しを終えた頃には12時を過ぎていた。

 色々と場所を把握するのに手間取り、先に送っていたバイクのおかげで足の時間は短縮することが出来たのだが、問題もあった。

 洸夜が乗っていたのは黒のビックスクーター。普通の人が見た感想はでかい、なんか凄いバイクと思われたのか視線を多く感じてしまった。

 自分のバイクを見てもらえていると思われれば洸夜も悪い気はしなかったが、とある道角を曲がった時にはそれは起こった。

 

(ん……?)

 

 道の角を曲がったその先にいたのは人だかり。周囲にはパトカーや警察。ドラマなどでよく見る警察のバリケードテープも見えた。

 何かが起こったのは明白だが、人だかりの中で洸夜はバイクで突っ切る事を諦めた。

 

(引き返すしかないな……)

 

 洸夜が周りに注意しながら引き返そうとしたその時……。

 

「はい! そこまでだ!!」

 

 突然、洸夜は横からハンドルを掴む右腕、その手首を掴まれた。

 

「……は?」

 

 何が起こったのか一瞬理解が遅れた洸夜はその腕を辿る。そこにいたのはドヤ顔で自分を見つめるスーツ姿の若い男。

 

「犯人は現場に戻ってくる……どうやら僕の推理が当たったようだね」

 

「……あのこれは? というよりあなたは?」

 

「僕は『足立 透』――稲羽署の刑事。そして……君を捕まえた男さ!」

 

 足立という男はそう言って先程の倍以上の威力を持つドヤ顔を洸夜へ披露する。

 そんな光景に洸夜は更に混乱してしまっていた。自分が捕まえられた理由が全く分からないからだ。

 

「……ところでこれはなんですか? なんで俺は手首を掴まれて……」

 

「ふっ……とぼけるかい? 流石は”怪奇殺人”の犯人だね。けどとぼけても無駄だ。詳しい話は署で聞かせてもらおうか?」

 

 くぅ~この台詞言ってみたかった! 足立はそう言いながら洸夜を連行しようとする。

 だが、洸夜も訳も分からないまま連行されては堪ったものではなく、流石に抵抗し始めた。

 

「なっ!? ちょっと待ってくれ! そんな理由で納得できる訳――」

 

「おっ? 抵抗するか! なら……ちょっと来てくれ!」

 

 足立が声をあげるとそれに気付いた周囲の警官が洸夜と足立の周りに三人程、集まってきた。

 

「足立刑事……これは?」

 

 流石に現状の光景だけでは警官も何があったのか理解できなかった様だ。

 ヘルメットを着けてバイクに跨る青年の手を掴む足立。警官の顔にはなんだこれは?と書かれている。

 

「よく聞いてくれた! 聞いて驚け! この怪奇殺人の犯人を捕まえた!」

 

「……は?」

 

 警官達が最初に洸夜が言った事を同じ感情で言うと、三人は互いに顔を見合わせて全員が頷き会う。

 そして、その内の一人が振り返った。

 

「堂島刑事! 少しよろしいでしょうか!」

 

「えっ……ちょっ!?」

 

 洸夜に聞き覚えのある名前が警官の口から飛び出し、その名前を聞いた瞬間、足立の表情が青くなった。

 明らかに警官を止めようとする足立だが、それよりも先に堂島がこちらへやって来た。

 

「どうした?」

 

「それが……」

 

 警官が足立に視線を向け、堂島も同じように向けた。

 

「足立? 何かあっ……そのバイクは……?」

 

 堂島の視線が足立から隣の洸夜へ移された。見覚えのある洸夜と悠が来る前日に届いた大型バイク。それを運んだのも堂島自身でありよく分かっていた。

 そして何かを察した様子の堂島に洸夜もようやく安心し、足立の腕を払いながらとヘルメットを外すと、そこから出てきた甥の顔に堂島は目を点にした。

 

「洸夜? お前こんな場所でなにして……」

 

「叔父さん……実は――」

 

 洸夜はここまでの経緯を全て説明した。すると、納得したらしく堂島は頷き、やがて表情が一変し顔を真っ赤にした怒りの表情で足立へ雷を放った。

 

「足立ぃッ!! この馬鹿野郎がぁ!!」

 

「……うっ、す、すいません……」

 

 菜々子には絶対に言わないだろうと思われる怒号が足立を貫く。

 既に警官達はこの場にはおらず、堂島の逆鱗に触れた足立はフラフラと歩きながらその場を離れて行った。

 

「やれやれ……災難だったな」

 

「本当だよ。……まさか、こんな事になるなんて」

 

 ようやく誤解が解けた事で洸夜は安心の笑みを浮かべながら頷く。

 

「すまんな……あいつ警視庁から来た奴で手柄を焦ったのか、いつもなら流石にここまでのポカなんかしないんだが……」

 

「過ぎた事だって……納得できるから大丈夫。ところでこの騒ぎは……」

 

「……あぁ、少し訳ありだ」

 

 堂島はそれだけ言って視線を洸夜から外した。それはこれ以上、事件について言うつもりはないという表しに見えた。

 

「そう。……今日は早いの?」

 

「いや、遅くなりそうだ。夕飯は先に済ませておいてくれ」

 

 堂島はそう言って事件現場へと戻って行こうとした時だ。堂島は足を止めて洸夜の方へ振り返った。

 

「そういえば洸夜。お前、商店街の【久慈川豆腐店】って店知ってるか?」

 

「豆腐店?……いや、まだ商店街には行ってない」

 

「なら少し顔出してみろ。こないだ行った時、バイトを雇いたいが人がいないって言ってたからな。お前が来る事前にそれらしい事を言っといたぞ」

 

 堂島はそう言い残し、今度こそ現場へ消えていった。

 

(豆腐店か……とりあえず、顔を出しに行くか)

 

 そう思いながら洸夜はヘルメットを被り直すと、その場を去ろうとアクセルに手を伸ばした。

 まさにその瞬間、偶然、洸夜の耳に噂話をしていた主婦たちの会話が聞こえた。

 

「この事件って殺人でしょ? しかも殺されたのって、あの不倫アナウンサーの……なんて言ったかしら?」

 

「山野真由美でしょ……でも、死体が家のアンテナに引っ掛かってたんなんて普通じゃないわよ」

 

「それに私、見ちゃったんだけど……死体、本当に綺麗だったわよ? 刑事たちはも外傷がないって言ってたし気味が悪いわ」

 

「あ~怖い。早く帰りましょう」

 

 いくら規制しようにも人間の口を完全に封じさせる事などは無理。それを洸夜は実際に体験する。

 だが、同時に先程の足立が言っていた『怪奇殺人』の意味が分かり、悪い事だけではないとも理解した。

 外傷無しの死体、それが民家のアンテナの上に吊るされていた。怪奇以外の何ものでもない。

 

「始まったのか……?」

 

 洸夜は嘗ての様な非現実の世界に立った様な感覚を思い出した。

 その蘇る記憶によって無意識にハンドルの握る手が強くなった時だった。再び洸夜の右腕が掴まれた。

 

「話を聞かせてもらおう……」

 

「!?」

 

 迂闊だった。そういうしかないと洸夜は息を呑んだ。

 つい先程、足立にやられたばかりでの出来事に洸夜は後悔するしかなく、洸夜は腕の持ち主と対峙する覚悟を決めてそちらを向く。

 

「なんてね」

 

 そこには実の弟である悠がいた。その左右には緑のジャージ、赤い制服を着た少女達がいるが洸夜の意識は完全に悠へ向けられる。

 

「……」

 

 Vサインを自分に向けている悠。洸夜は黙って弟の頭をパコンと叩いた。

 

「お前は兄に何がしたかったんだ……?」

 

「特に何も?」

 

 一瞬でも後悔した自分が馬鹿だったと洸夜は納得した。

 我が弟ながら思考が読めない。洸夜がそう思っていた時、悠の左右にいた女子達がその光景に楽しそうに笑っている事に気付いた。

 

「アハハ。鳴上くんって意外にお茶目なんだね」

 

「確かにちょっと意外だね」

 

 楽しそうにしている二人。洸夜はさりげなく観察すると悠と同じ学校だと気付く。

 転校初日で女子二人と帰宅。他人と一定の距離を取る悠だけに、その光景は洸夜にとって驚きでしかない。

 

「悠……お前、転校初日でこんなレベルの高い女子二人と帰宅してるのか? 一体どうやって? というよりはどんな関係だ!」

 

「あっいや……私達と鳴上君は別に……」

 

 ジャージを着た方の女子が少し照れ臭そうに誤解を解こうとするが、悠が突然その女子の肩に手を置いた。

 

「えっ!? ちょっ! 鳴上君!?」

 

「!……まさか悠……本当に?」

 

 こんな芸当を転校初日の奴が転校先の女子にできる訳がない。

 そう確信した洸夜が悠を見ると、悠は頷きながら右手をグッとして笑顔で返した。

 

「逆ナンされました」

 

「!?……なんだと……!」

 

「おいおいおいおーい!!?」

 

 衝撃発言に洸夜の目が極限まで開き、その当の女子も顔を真っ赤にして悠へ抗議する勢いだ。

 しかし、洸夜はそんな光景よりもショックの方が大きかった。

 

「明るく元気な感じなのに逆ナン……見かけによらないか」

 

「待て待て待てぇぇぇぇ!!?」

 

 洸夜の発言に誤解が大きくなっている事に女子は最大の声で制止させるのだった。

 

 

▼▼▼

 

「なんだ、やはり誤解か」

 

 洸夜は女子達の言葉にようやく頷く。

 ジャージを着た子が『里中 千枝』で赤い制服の方の子が『天城 雪子』だと、二人の自己紹介と一緒に誤解が解け、洸夜はその光景に笑いを堪えきれなかった。

 

「ハハハ……! どうりで変だと思った訳だ」

 

「笑いごとじゃないですってば……もう!」

 

「反省はしてるが後悔はしてない」

 

「中途半端に質が悪いわ!」

 

 完全に悠と千枝が漫才をしている様にしか見えなかった。

 そして第三者だった雪子もその光景を見ている一人となっていた。

 

「千枝……逆ナン……ブフッ!」

 

「ん……?」

 

 何やら笑い声の様な変な音が聞こえた洸夜が雪子の方を向くが、雪子は咳をしていただけだった。

 

「こほっ……どうかしました?」

 

「あぁ……いや何でもない」

 

 特に何もないのならばそれでいい。洸夜は視線を戻した。

 

「そういえば自己紹介が遅れた。俺は鳴上 洸夜。弟共々よろしく頼む」

 

「あっはい! よろしくおねがいします!」

 

「こちらこそよろしくお願いします」

 

 千枝と雪子は明るく頷き、洸夜もそれに答えるように頷きくと漸くヘルメットを被ってバイクのエンジンを入れる事が叶う。

 

「それじゃ悠、俺は商店街に寄ってから帰る。千枝ちゃんと雪子ちゃんも今日は早く帰った方がいい。それじゃあ……」

 

「分かったよ兄さん」

 

「あ、はい!」

 

「お兄さんもさよなら」

 

 悠達の言葉に洸夜は頷きながらバイクを商店街へと走らせ、その心の中では決意を新たにしようとしていた。

 今回の事件、既に異様な何かの存在を感じていた洸夜は二年前と同じだと思った。

 きっと、今回の事件も異常何てレベルでは片付けられなくなるだろう。

 

(影から霧か……)

 

 洸夜の瞳は真剣なものへと変わっていった事、それはヘルメットによって誰も知ることはなかった。 

 

 

 

END

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