お医者さんから精神科を進められましたが、予約の電話をしたら数か月待ちと言われてしまいビックリしている私です。
ペルソナも音ゲーを出す時代ですね。1・2をやり始めた私ですが、1・2からは音ゲーを出すのは想像できませんので3・4・5は幅を広げやすいのですね。
同日
現在:堂島宅
それは突然の出来事だった。
居間で悠が菜々子と遊んでいると突如、玄関の扉が勢いよく開かれ、一人の少年が息を切らしながら入って来た。
金髪でどこか無駄に豪華な服。悠にとってもその人物は見覚えがある、と言うよりも人状態でのクマだった。
しかし、息を切らしているだけならなともかく様子も何かがおかしい事に悠は疑問を抱く。
「クマ……?」
「セ、センセイ! 大変だよ! テレビの世界が!?」
ここには菜々子もいると言うのに気にする余裕もない程の出来事が、どうやらテレビの世界で起こっている様だ。
クマは焦りすぎて息を整える前に話を進めようとする程だ。悠も嫌な予感を覚えると、クマの存在に菜々子も気付いた。
「あっクマさん!」
「あっ! こんにちは~ナナちゃん!」
余裕はある様だ。笑顔の菜々子へ笑顔で返すクマの姿に悠は静かにテレビの電源を入れる。
「って、センセイ! テレビ見てる場合じゃないよ! 本当にマズイクマよ!」
またクマの異常なテンション、と言う名の発作かと思いきや、どうやら本当に事態はマズイ事になっている様だ。
再び焦った様子で変なテンションへと変化するクマを見て、悠もふざけている場合じゃない事を理解した。
▼▼▼
「シャドウが……!」
クマを部屋へと招いた悠は、クマから何が起こっているのか聞くとどうやらテレビの世界、そこでシャドウ達が異常な行動をしているとの事だった。
「うん! クマはヨースケのパパさんと次のイベントの打ち合わせで一緒に行かなかったけど……その後、いきなりシャドウ達の異常を感じたんだ。調子の悪いクマの鼻でも感じる程だよ、本当にヤバいよ!」
「何かあったのか……?」
クマの話を聞いた悠は何やら嫌な予感を抱く。
陽介達の事も心配だが、それとは違う。
だがその予感は徐々に大きくなり、それは大きな不安、そして焦りとなってゆく。
――悠。
「兄さん……?」
悠は菜々子と遊んでいる時に感じた声を思い出す。
他者との繋がりは思っているよりも強い。
それが他の人物との繋がりでも強ければ、血の繋がった実の兄ならば……?
「それだけじゃないよ! なんか大勢の人間もテレビの世界に入って来てるんだ!? 色々ありすぎてクマも訳がわからないよ!」
「ッ! 陽介達以外にも人が!?」
クマのその言葉が決め手だった。
元から行かないと言う選択肢はなかったが、その言葉を聞いた瞬間、何か見えない力に引っ張られる感覚を感じた。
「行こう……菜々子には後で謝らないと」
困った様に悠は呟くが、その瞳は力強く光っていた。
▼▼▼
現在:テレビの世界【いつもの広場】
「……何が起こっているんだ?」
菜々子に謝り、急いでジュネスからテレビの世界へと悠とクマは入った。
――瞬間、異常に気付いた。世界の雰囲気も殺気に満ちており、周りの霧全てが鋭利な刃物の様に感じ、その世界の”住人”も異常に染まっていた。
「セ、センセイ……あのシャドウ達、何か変クマよ?」
「アブルリー型のシャドウ……けれど、あれは……」
二人は目の前で浮かんでいるシャドウの姿に唖然としながら見上げる。
卵の様な球体に巨大な口。それは悠が始めて戦った『アブルリー系』のシャドウ達がそこにはいたのだが、その姿は普段の時とは明らかに違っていた。
それは一言で言えば”オーラ”の様なもの。炎上する火の様に激しく動くオーラをアブルリー達が纏っていたのだ。
外見事態は変わっていないものの、雰囲気は別物でしかない。
「これが異変なのか……?」
悠は辺りも含め、辺りを見回しながら呟いた。
確かに成長して行く中で、最早敵ではない程の力の差が生まれた一部のシャドウ達がこんな状態になっているのだ。
異常という事も言い過ぎではない、悠がそう思った時だ。
クマが冷や汗を流しながら悠の方を向く。
「セ、センセイ……呑気にすごせる時間はなさそうクマ……」
震えた声で呟くクマの視線へ悠も向けると、アブルリー達全てが自分達の方を向いていたのだ。
大きな舌を大きく回しながら近付いており、明らかに敵意を持っていた。
「戦うしかない様だ……」
「そうみたいクマね……」
ジリジリと後ろに行きながら距離を取りながら悠とクマは武器を構え、ペルソナカードを取り出す。
そしてペルソナカードを砕いたと同時だった。それが開戦の合図となる。
『ヒャァ~~!』
「イザナギッ!!」
「キントキドウジ!!」
自分達を守る事も考え、イザナギとキントキドウジは召喚と同時に仁王立ちの如く。不動のまま構えるがオーラを纏ったアブルリー達はお構いなしに二体に飛び掛かる。
「イザナギ! 振り払え!」
「キントキドウジもミサイル発射クマ!」
主の命に従い、大剣を振りアブルリー達を一閃するイザナギとミサイルを発射し、爆風で多数のアブルリーを消滅させるキントキドウジ。
しかし、倒された事でスペース空くと同時に再びアブルリー達が埋める様に現れる。
それも倒した数以上に出現し、一部はペルソナ達を上手く横切り悠達へ直接襲いに掛かった。
そんなシャドウの群れに悠とクマも武器を持ち直し、迎え撃とうとする。
「クマ!」
「りょうかいクマ!」
悠はクマの名を呼びながら合図し、飛び込んできた一匹のアブルリーを刀で相手の勢いを利用して斬りつけると、アブルリーに大きな切り傷が生れる。
人間では致命傷になりかねない傷でもシャドウにとっては別であり、今にも口から下が落ちそうになりながらもアブルリーは悠へと襲い掛かろうとする。
――しかし、それは悠にとっても想定内だ。
「今だ!」
「やるクマァ!」
致命傷にならなくとも傷自体は大きい。そのダメージによって鈍ったアブルリーの動きを悠は見逃さず、クマがすかさず爪で追撃を行った。
クマの鋭利な爪はアブルリーを切り裂き、アブルリーは奇声を上げる事もなく大きな肉片となりながら消滅していった。
これが目の前の異常なシャドウ達と戦う上での悠とクマの作戦だった。
明らかにいつもよりも強くなっているであろうシャドウを生身で、しかも単身で相手をするのは危険と判断した悠は二人掛かりで確実に倒す案を考えていたのだ。
そしてこの作戦は功を奏し、二体、三体、とペルソナが取り零したアブルリー達を悠達は確実に倒していき、数を確実に減らしていった。
「良し……今だイザナギ!」
悠はそう叫ぶと、悠とイザナギの瞳が、身体が蒼白い光を放つ。
主とペルソナの力が一つとなり、巨大な力を得たイザナギは大剣から数多くの斬撃を飛ばした。
それはまるで空間全体を巻き込むかの如く。その『空間殺法』と言う技名の通り、アブルリー達は次々とバラバラになって消滅していった。
これで多くの数を倒した事になる悠とクマは、これで戦闘は終わるだろう思っていた……が。
「駄目クマよセンセイ!? キリがないクマ!」
全滅させたであろうアブルリー達だったが、先程同様に空いたスペースを待っていたかのように雪崩れ込みながら再び出現する。
しかも、その数は最初の時よりも確実に多かったのだ。全ての個体が不気味なオーラを纏っており、新たに現れたシャドウ達も全てが”強化”されているのだ。
辺りを覆うであろう数に悠とクマは圧倒され、流石の悠も全力を出さず得なくなる。
「力を節制したかったけど……そう言ってられないか」
悠は新たなペルソナカードを取り出しながらシャドウ達を睨み付ける。
こうなれば一気に決めるしかない。強力なペルソナを召喚し、悠は目の前のシャドウ達を素早く全滅させようと考え、ペルソナカードを砕こうとした。
――まさにその時だった。宙に浮くアブルリー達を”何か”が切り裂いたのは。
『ヒャッ!?』
それはまるで蛇の様に長く、動きもしなる様な動きをしながら次々とアブルリー達を消滅させてゆく。
そんな突然の出来事に驚きながらも、悠とクマが集中してアブルリー達を攻撃しているものを見詰めると、それは刃の付いた紐の様な何かであり、先程までの動きも入れると”正体”は一つしかなかった。
「”鞭”……なのか?」
それは刃の付いた鞭。その正体に悠が気付くと同時、異変はまだ終わらなかった。
「センセイ! あれを見るクマよ!」
指を差しながら叫ぶクマ。その示した場所へ悠は顔を向けると、そこには一つの”球体”が浮かんでいた。
まるで地球儀の様にも見えるが、不思議なのはその地球儀にアブルリー達が吸い寄せられている事だ。
その光景は一言で言えば”引力”が働いている様に見え、一定の数が集まるや否や、巨大な雷がアブルリー達を飲み込んだ。
――しかし、それでもまだ序の口に過ぎなかった。
(何か来る……)
不意に悠は何か感じ取った時だった。
二人の上空を”何か”が横切ったのだ。悠は反射的に顔を上げ、すぐにその”存在達”の姿を捉えた。
「あれは鳥?……牛の骨?」
牛の骨の様な物に座る女型。
金色の翼を持ちし人型。
巨大な球体を肩に持つ者。
三つ首の番犬。
火の灯った杯を持ちし女型。
それらは現れると同時にシャドウ達を次々と薙ぎ倒して行き、その光景に悠とクマが目を奪われていた時だった。
隙を見せた悠とクマへアブルリーが巨大な口を開けながら襲い掛かってきた。
「しまっ――」
悠は気づくがワンテンポ相手の方が早い。
強い衝撃を悠は覚悟したが、それが訪れる事はなかった。
巨大な”盾”と、盾よりは小さいがそれでも大きな”槍”を持ちし者がアブルリーを吹き飛ばしたからだ。
「助かった……が」
悠は冷や汗を流しながらも、己を助けてくれた存在を見上げる。
シャドウを圧倒していたから既に察してはいたが、その存在から発せられる幻想的な蒼白い光がある事でそれは確信へと変わった。
「……ペルソナ?」
「はい……これが
背後からの声。それは女性的な声で在り、明らかにクマのものではなかった。
しかし、少なくとも悠には聞き覚えがある声でもある。
「だ、誰クマ!?」
ただ一人、クマだけは知らないのもあって警戒するが、霧から現れる者達の姿に悠は一息入れた。
「やっぱり、アイギスさん……美鶴さん達も」
「やはり悠さんだったんですね……」
霧から現れた者達。それは辰巳ポートアイランドで姿を消したアイギスと美鶴達だった。
▼▼▼
「テレビの中だあ!?」
「正確にはテレビの"中に存在"する世界です」
情報交換兼整理。今の状況を悠が美鶴達に説明すると、素っとん狂な声で叫ぶ順平へ慣れた様子で悠は冷静に対応する。
そんな悠に順平だけではなく、ゆかりも混乱気味に聞いてしまう。
「そんなテレビの世界って……あぁ~ちょっとゴメン。まだ頭が全てを処理できないみたい」
頭を押さえながら何とか現状を理解しようとするゆかりだが、無理もあるまい。
順平もゆかりも、美鶴達全員に言える事だ。
この世界に来た当時、この世界に入った時のショックからか美鶴達は意識を失っていたのだ。
そんな時に不幸中の幸いと言うべきか、最初に意識を覚醒したのは美鶴・明彦・アイギスの三人。
この世界の事等は微塵も分からず、先程まで自分達は月光館学園にいたと言う事実によって美鶴達は困惑状態であった。
しかし洸夜がいない事で先程の光景が甦り、自分達は再び”非現実”に巻き込まれたのだと理解できたのだ。
その後は風花も目を覚まし、彼女の探知特化のペルソナ『ユノ』によって場の把握をし始めた所、大量のシャドウの反応。そして誰かが戦っている事を知った美鶴達はその場に駆け付けて現在に至るのだ。
それでもまだまだ混乱しているであろう状況だ。悠は落ち着かせるように話す。
「無理はしないで下さい。逆に、こんな現状をすぐに理解出来る方が難しい」
順平同様に、ゆかりに対しても冷静に対応する悠。
そんな慣れた様子の悠に美鶴が口を開く。
「……先程、君はこの世界について軽く説明してくれたが、それだけでは分からない事が多すぎるな。前にも似た様な場所へ連れて行かれたが、あの時とは状況が違い過ぎる」
前はお見合いの時に洸夜の”異変”によって巻き込まれたがすぐに帰還を果たした。だが今回は前とは違い、完全にこの”世界”へ足を踏み入れたと感じ取れる。
「似た様な世界を知っているが……ここもまた”異常”な世界か」
そう言って美鶴は己の足下を見た。
そこには何処から出ているのか分からない光によって生まれた彼女自身の影があったのだが、これがまた普通の影では無い。
本来ならば只、真っ黒な筈の影なのだが今は真っ黒どころか二、三色の色が混ざりあっている様な変な模様が映し出されている。
常識はずれな影を見て、美鶴ですら多少は困惑の表情を表してしまう。
そして、アイギスと風花もまた、美鶴の言葉に繋ぐ様に辺りを見た。
「それだけではありません。この霧、そして……」
「さっきのはやっぱり……」
シャドウ関連に対策されているアイギスの眼すらも遮る霧と、辺りから微かに感じている気配に風花が恐る恐ると言った表情で辺りをキョロキョロと見回す。
そんな風花の様子に悠が気付き、悠は彼女へ言った。
「こんな世界にも住人はいます……"シャドウ"が」
悠の言葉にあった聞き慣れた単語に、混乱していた風花達は驚いた表情を出すがすぐに冷静になれる。
最初に風花が”シャドウ”の気配を感じ取れていた事もあるが、やはり詳しい者から聞くのとでは印象が違う。
美鶴達もそうなのだろう。やはりか……と呟きながらも、冷静な態度は崩さなかった。
「ところで……次は俺から良いですか?」
美鶴達が落ち着いた事で今度は悠が質問をしようとする。
説明はしたが、美鶴達がこのテレビの世界にいる理由はまるで分っていないのだ。
「一体、何があったんですか?」
「……そうだな」
悠の言葉に美鶴は周りの様子を確認しながらも、静かに頷いた。
▼▼▼
「兄さんが!?」
美鶴からこれまでの話を聞いた悠は驚き、声を上げた。
まさか普通に出て行った筈の兄、洸夜が関係しているとは思わなかったからだ。
しかし悠の驚きは仕方ないが、その悠の声で驚く者達もいた。
「えっ……兄さん?」
「やっぱり、あなたは洸夜さんの……」
風花は困惑した様に。乾はどこか察していた様な感じで呟くと、悠は二人の方を向いた。
「……俺は鳴上 悠と言います。兄は鳴上 洸夜です」
「えぇッ!?」
「そう言えば似てる……」
風花は驚き声をあげ、チドリは冷静に悠の姿と洸夜を重ねていた。
洸夜の弟がこんな所にいる。誰でも驚くべき内容である筈なのだが、先程からの様子を見る限り例外がいた事に気付く者がいた。
それは乾だ。乾は困惑気味に、そして疑いの眼差しを美鶴達へと向ける。
「美鶴さん達は悠さんの事を知っていた様子でしたよね……どういう事ですか?――今思えば、先程の洸夜さんとの再会の時から変でした。僕達に何か隠しているんじゃないんですか!」
「ちょっ! 落ち着けって乾! 俺等にも色々あったんだ……」
順平は慌てて乾を止めようとする。
「落ち着ける筈ないでしょう!? 洸夜さんが突然去った理由も分からなかった……美鶴さん達が知っていた様子でも、いつか話してくれるって信じてました。――けど! こんな状況で何も言ってくれないなら、僕達はどうすれば良いんですか!」
「……確かにそうだな」
明彦は言葉が見つからない、そう言った風に険しい表情で呟いた。
そんな表情を見てしまうと何とも言えない気分になる。自分で言った手前、どうすれば良いのか乾も分からなくなってしまった。
「本当に、何が起こっているんですか……」
「――私から話そう」
「私にも……話をさせてください」
美鶴と風花が前に出てそう言った。
美鶴は
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美鶴が語った事、それは何故自分達が悠の事を知っているのか。何故、洸夜の事を分かっていたのか。
――そして二年前、洸夜が消えた時の出来事。
風花が語ったのは洸夜から伝えられた事、それはペルソナの制御が出来ない事、ワイルドの力が制御出来ない。
――そして、このままでは”再び”皆を傷付けてしまうという事だった。
美鶴と風花は己が知っている事を全て吐き出し、両者が語り終わった時に出迎えたのは”沈黙”
怒り・悲しみ等の感情の言葉ではなく、誰も何も発さない沈黙。その中で、ようやく言葉を放ったのは乾だった。
「なんですかそれ……そんな事、信じられる筈ないじゃないですか!」
暗く重い表情を浮かべていた乾だったが、感情を爆発させる様に叫んだ。
――信じられなかった。あんなに強かった洸夜がそんなに苦しんでいる事が。
――信じる事は出来なかった。洸夜と美鶴達にそんな事が起こっていた事が。
「――すまない」
美鶴が呟き、明彦は口を閉じたまま沈黙を貫くが握られた拳は震えていた。
その光景で充分だった、乾が今までの事が本当の事だという事が。
「どうして……そんな事になってしまったんですか……?」
乾は諦めた様に顔を下げながら誰に言ったでもなく呟く。
「……それは私達にも分からないの」
「分からないってそんな……自分の事じゃないんですか!」
「落ち着いてくれ乾! 本当なんだ!――本当に俺っち達にも分からねぇんだ……」
顔を下に向けながら呟くゆかりの言葉に感情的に迫ろうとする乾。そんな彼を順平が間へと入り、何とか説得するがやはり当事者である順平の表情は暗かった。
そして結局、望んだ答えは何一つ得られなかった乾も黙るしかなかった。
美鶴達も本当は何か話してあげたかったが、事実を知っているのは洸夜だけだ。その洸夜から何も聞き出せなかった自分達には何も出来ることがないと諦めるしかなった。
アイギスもそれは同じであり、何か思う事があってもそれが”真実”なのかと言う保証もなければ、その答えが未だに自分の中でも曖昧過ぎて言葉に出来なかった。
そんな中で悠はある言葉を思い出していた。内容は前に洸夜が言った言葉だ。
『俺は……利用してしまっていたんだ。……その結果、俺は仲間達に苦しみの絆を――』
『これは”罰”なんだ……』
利用・罰。二つとも良い思いとは少し離れている言葉。
それを洸夜が仲間の話の時に言っていた事に悠は疑問を抱いていた。
その言葉を言った時の兄の声には”後悔”の感情も混ざっており、まるで洸夜自身が美鶴達に何かをした様にも聞こえる。
――兄は一体何を後悔している?
悠は今までの兄の姿もあってか悩みながら考えた時だった。
『築け……黒の絆を――!』
「!」
悠は不意に思い出す。兄の部屋を調べた時に聞こえた声の事を。
思い出すと同時に胸がザワザワと仕出し、悠の中に一気に不安が込み上げる。
――恐らく……俺は兄さんと美鶴さん達の間に何が起こったか分かっている。
だが悠は己が不安を抱いた事、それが”本能”から来ている事も理解する。
何か自分にとっても何かがあるのだろうが、悠は目の前の問題から目を逸らす事はしなかった。
――思い出せ。……あの声が聞こえた時、自分は何をしていた時だったかを。
悠は思い出そうとし、その答えが喉まで出かかった。
――その時だった。
「やっぱりそうクマよ……」
「クマ……?」
不意に耳に届くクマの声。それに悠の意識、そして美鶴達の意識も引っ張られた。
悠や美鶴達がクマの方へ顔を向けると、クマは周囲を不安そうにしながらキョロキョロと見回していた。
いつもならば美鶴達の様な美人にうるさいのに、今の状態のクマは珍しく悠もそんな様子に首を傾げていると美鶴が悠に声を掛けた。
「悠君、その……先程から気にはなっていたんだが……”あれ”はなんなんだ?」
美鶴が代表する様にクマの方を向いた。
確かに始めてクマを目撃した美鶴達からすればクマの存在は謎でしかない。
故に悠は考えた……。
――なんて説明しようか……?
【ジュネスのマスコット・秘密兵器・授業で作りました】
悠が考えたのはこの三択で在り、考えてみれば悠もクマを他者に説明出来る程理解は出来ておらず、それはクマ自身も己の正体を分かっていない為仕方ない事だった。
と言う訳で、悠は取り敢えず三択から考えた。
「秘密兵器です」
「秘密にしてはやけに目立っているが……?」
悠の言葉に明彦は疑問を持つように首を傾げると、辺りを見ていたクマの動きが止まり、悠達の下へとやって来た。
「クマ、どうしたんだ?」
「センセイ……やっぱりそうクマよ。この世界の異変の原因は”大センセイ”クマ……」
申し訳なさそうに呟くクマに悠は驚いた。
「大センセイ……とはどなたの事でしょうか?」
「兄さんです」
聞きなれない”大センセイ”と言う者が誰なのかアイギスが悠に問い掛けると、悠は洸夜である事を教えると順平は納得する。
「あぁ……ずっとお前の事をセンセイって呼んでたからな。その兄である鳴上先輩は大センセイか!」
「分かりづらいでしょ!」
ゆかりが順平とクマへ向けて言い放つが、事態はそれどころではない。
「えっと……クマくんでいいのかな?――この世界の”異変”って……それとその原因が洸夜先輩って言うのは一体?」
「あっそうか……フウカちゃん達はこの世界初めてクマね。それなら仕方ないクマよ」
情報交換はしたが今この世界で起きている異変を美鶴達に説明はしていなかった事を悠とクマは思い出し、このまま話しても美鶴達には内容が伝わらないだろうと考えた。
洸夜が原因と言うのも気にはなったが、悠はまず”異変”から説明し始めた。
異変に関しては悠自身もあまり分かっておらず簡単に短時間で説明ができた。
風花は途中でクマから呼ばれた事に『フ、フウカちゃん……』と困惑していたが、美鶴達はその話は理解した様に頷いてくれた。
「……そういう事だったのか」
「ここのシャドウは少し変だなとは思ってましたけど、あの状態は異常なんですね?」
美鶴と乾の言葉に悠は頷いた。
「はい。この状態はいつものこの世界ではないんですけど、その原因が……」
「洸夜さんと言うことですね」
アイギスが先程の言葉を思い出すと、彼女や悠を含め全員がクマの方へ顔を向ける。
「なんとなくだけども……前に会った時に大センセイの力が不安定な気はしていたクマよ。それとさっきまでの話を聞いて確信したクマ。きっと大センセイのワイルドが周りのシャドウに影響を与えているって」
「つまり……結局はいつも通りなのか?」
「まぁ……簡単に言えばそうクマね。多分、大センセイのシャドウが出ているクマよ」
悠はまさかとは思ったが、今までと同じでどうやら【洸夜の世界】とシャドウが出ているらしい。
その結果がこれだが影響が今までの雪子達の比ではない。ワイルド故なのか、どうやら今回は一筋縄ではいかない事を胸に秘めた方が良いだろうと悠は思っていた時だった。
「あぁ……すまんが俺達にも分かりやすく教えてはくれないか?」
明彦が事情を知りたそうに悠へ問い掛ける。
そして悠もシャドウはシャドウでも、抑圧された存在のシャドウの事は話していない事を思い出し、明彦達にすぐに説明する。
明彦達も本当ならパンクしそうな情報ばかりなのだが、彼等が静かに聞いている事に場数の差も悠は感じ取っていると明彦達は頷いた。
「成る程な……どうやら今の話通りならば洸夜のシャドウがいるという事か」
「実際、私達は鳴上先輩のシャドウらしきものを見ているから……今の話を聞けて寧ろ納得できたわ」
お見合いの時、テレビの世界に来た時。二回、洸夜のシャドウらしきものを目撃しており、明彦達は困惑するよりも寧ろ洸夜?の正体が分かり安心すらあった。
「しかし問題はその原因の場所……そこを探すには探知能力のペルソナがいる……」
「うん……だから私が見つけてみせます」
チドリの言葉に風花が前に出ると同時、彼女のペルソナ『ユノ』が現れて彼女を包み込んだ。
「凄いな……」
「ひゃあ……フウカちゃんは探知タイプのペルソナ使いだったクマね」
現れたユノから放たれる存在感はりせのヒミコの比ではなく、見ただけで風花がりせ以上の力の持ち主である事を理解した悠とクマは驚き、そして尊敬の目を風花へ向けた。
「はは……」
二人からの真剣な眼差しに思わず風花は苦笑いを浮かべる。
そんな眼差しで見詰められたのが初めてであり、同時に目の前の二人はペルソナ使いとして後輩でもある。
つまりは風花も照れくさいのだ。
「あっ……そうだクマ。美鶴さん達に装備を持ってこないと」
「そういえばそうクマね。それじゃ、クマもお手伝いするクマ」
悠の言葉にクマが頷くと、二人は広間の隅っこに向かい何やら漁り始める。
美鶴達は今度は何だと思いながら見守っている内に二人は両手一杯に何かを抱えながら戻って来ると、それを美鶴達の前に置いた。
それは一言で言えば”武器”だ。剣・槍・弓等何でもござれ。これらは全て悠達がだいだら屋で買い漁った物だが、誰の装備にもはまらなかった武器。言わば残り物だが、だいだら屋製であって質は良い。
そしてそんな山の様な武器に美鶴達は絶句してしまう。
「……これは君達が?」
「これは流石のおれっちも驚き……」
美鶴は困惑する様に、順平は反応が困る様に苦笑している。
よく今まで警察に捕まらなかったと叱るべきか、それとも褒めるべきか悩むレベルだ。
少なくとも銃刀法違反を回避するのは難しいレベルだろうが、今はありがたい事だった。
「まぁ今はありがたく使わせてもらいましょう。流石にこの世界を手ぶらでってのは不安だもの」
「そうですね……僕もこの槍を使わせていただきます」
「ワン!」
ゆかり達も苦笑しながらもそれぞれ武器選んでいき、乾も槍を持ちながらコロマルへ小太刀を取り付けてあげた。
その後は順平、チドリも武器を選んでゆくが美鶴・明彦・アイギスは選ばなかった。
「あれ? ミツルちゃん達は選ばないクマか?」
「ッ!?――ミ、ミツルちゃん?――ゴホンッ! 私は大丈夫だ。アイギス、頼めるか?」
「はい」
クマからのまさかのちゃん付け呼びに美鶴は一瞬固まるがすぐに戻り、アイギスへと何かを頼むとアイギスはどこからともなく一本のサーベルを美鶴へと渡す。
「今は手慣れた武器を使いたい」
「そうだな……」
美鶴はサーベルを慣れた様に振り、明彦もいつの間にか腕にグローブを付けている。
「全武装の安全装置を解除しました」
アイギスはそう言うと服を脱ぎ捨てた事で彼女の姿が現れる。
白銀の身体。それは機械の身体だった。
「アイギスさん?」
「クマも今日は驚きばかりクマ!」
アイギスの姿を見た悠とクマは純粋に驚くが、しかしその様子に恐怖などは一切見せなかった。
「驚きましたか?」
「びっくりです」
アイギスの問い掛けに悠がそう言うと、アイギスは思わず笑顔を浮かべてしまう。
菜々子と同じ悠からも恐怖などの感情が無い事を察したからだ。
そんな風に悠とアイギスが話していると、クマは手をポンッと叩いて何かを思い出していた。
「あっ忘れていたクマ……もう今日は色々あって大変クマね」
そう言いながらクマは美鶴達に眼鏡を配りまわり、全員が受け取るのを確認すると困惑気味に眼鏡を持つ美鶴達に説明する。
「そのクマ特製の眼鏡をかければ霧の中でも大丈夫クマ。度も入っていないから問題もない筈クマよ」
「そう言えば君も付けているな……」
「ハイカラです」
美鶴が悠も眼鏡を付けている事に気付くと悠は誇らしげに頷いた。
「ハイカラかどうかは分からんが……霧は見えなくなったな」
「もう何でもっすね」
明彦と順平は受け入れが早く、他のメンバーも次々と掛けて行く。
クマはコロマル用にも配慮してか、コロマルのはゴーグル型の眼鏡で邪魔にもなっていない様だ。
「これで準備は大丈夫な筈クマ……後は――」
下準備が完了したことで後は洸夜?はいるであろう世界の場所だ。
クマはそう言って風花の方を向き、悠達も風花の下へと向かう。
「風花さん。何か分かりましたか?」
悠が風花に声をかける。
「……不思議な世界ですね。この世界以外にも周りから別のなにかを感じます」
目を閉じながら集中する風花。
別の何かとは雪子達が生み出した世界の事だろう。
洸夜のシャドウの影響が強いとは言え、この世界に馴れていない風花には霧や他の世界が邪魔でいつもの様には探知が出来ないでいた。
しかし、それであっても風花と"ユノ"の力は強力だ。少しずつだが、探知で範囲を広げている。
――そして、その時が来た。
「!……見つけました。ここから少しですが、離れた場所に洸夜さんと強い力を感じます」
風花のその言葉に悠と美鶴達は頷き合う。
「……風花、案内を頼む」
「はい。皆さん……こっちです」
美鶴へそう言うと、ペルソナを一旦消し歩き出す風花を悠とクマ、そして美鶴達が後を追った。
▼▼▼
――違和感
風花の案内によって兄・洸夜の下へ向かう現在の自分達の状況。それに悠は違和感を感じていた。
先程の広場と変わらない道。洸夜の場所にはまだ着かないにも関わらず、シャドウとはまだ一回も戦闘になっていなかった。
洸夜のシャドウによって影響を受けているであろう異常なシャドウ達。
天敵であり、問答無用で襲う対象が集団で移動しているのにシャドウには全く出会ってなかった。
雪子達の世界へ向かう途中でも数回は戦闘しており、今この世界に起こっているシャドウ達の異変も考えれば何者かの作為を感じる程に出会わない。
しかしそれでも救いなのは、りせを超える力を持つ風花が同行している事だろう。
なにかあれば彼女が異常を知らせ、クマも少しは勘づいたりしてくれる。
だがそれでもいつもと違う世界の雰囲気に、悠は胸の中で静かに神経を削っている間に順平達はテレビの世界を見回していた。
「……何もないんだな」
「特にこれと言った物……だけどね」
順平とゆかりは物珍しそうに辺りを眺めながら歩いて行く。
タルタロスとは違う異質な世界。なにか思う事があるのだろう。
そんな風に暫く歩いていた時だ。突如、コロマルが足を止めて唸り声をあげ始める。
「……グルル」
「どうしたのコロマル?」
チドリがコロマルに気付き顔を向けると、アイギスがコロマルに近付き通訳する。
「……視線の様なものを感じる。そうコロマルさんは言っております」
「視線……ですか? でも、僕は何も……悠さんは何か気付きましたか?」
「いや、特にこれと言った事は……でも、油断しないに越した事はない筈だ」
歩きながら振り向き、乾にそう伝える悠。
自分達よりはこの世界に慣れている悠の言葉には説得力があり、乾やチドリ達も少しは安心できた様子であり、最低限の警戒心を纏いながらも乾達は肩の力を抜いた。
――その時だった。
「これは!」
突如、悠達の世界が黒に染まった。
その事でパニックにはならなかったが、困惑の表情を隠せないメンバー達に風花は素早く説明する。
「入りました。ここからが洸夜先輩が生み出した世界です」
「ここが兄さんの世界……?」
「洸夜はこの先にいるのか?」
悠は息を呑むように呟き、明彦は風花の方を向いて聞き返した。
「はい……ここから少し行った所に何か大きな力を感じますから」
風花の言葉に全員が再び周りを見回した。
文字通り黒い地面、周りに佇むオブジェなのかどうかも分からない、赤やら青やら色々な四角い物体。
悠とクマでさえ今までのダンジョンの中で、一番の異常さを嫌でも感じてしまった。
流石の悠とクマでさえ息を呑み、そんな様子に順平も帽子を被り直しながら空を見た時だった。
順平はこの世界の異常を思い知らされた。
「なっ!?――あれって……!」
順平の平常ではない口調の言葉に全員が順平に視線を向けた後、メンバー達も同じ様にが同じ様に空に顔を向ける。
そして、そこには合った物に悠と美鶴達は我が目を疑った。
「!……どこまでも、驚かされるな」
「黒の……"満月"です」
黒く染まった世界の空に君臨していたのは、空と同じく黒色の満月だった。
しかし黒とは言え、それは新月でも日食の様でもない。確かに月の姿が捉える事が出来ており、それでも色が黒だと言える状態だった。
だがその月の異常さは色だけではない。ジッと見つめていると、まるで意識までも呑まれてていきそうな力を感じてしまう。
そんな月に当てられてたのか、ゆかりと風花は見ているだけで思わず吐き気を催した。
「なにあの月……頭がクラクラする……!」
「私、少し気分が……」
倒れそうになる風花に、側にいたチドリが支える。
「大丈夫、風花?」
「ありがとうチドリちゃん……でも、大丈夫。行きましょう」
「……はい」
再び一人で立つ風花の姿に、悠と美鶴達も頷くしか出来なかった。
洸夜を見付けて助ける。自分にはこれしか出来ない。そんな思いを胸にしまいながら風花は静かに案内の為に前に出たのだ。
――だがそんな時だ。
『何処ニ行ク……?』
聞き覚えのある声が悠と美鶴達に聞こえた瞬間、反射的にメンバー達の動きが止まった。
そして全員がゆっくりと背後を振り返ると、そこにいたのは……。
「兄さんのシャドウ……!」
服装は変わっていたが歪んだ笑みを浮かべた洸夜?改め<洸夜の影>がそこにいた。
全身を基本的に黒で統一された服装だが、服の柄は色んな色の鎖が施されたもの。
まるで拘束衣を思わせる姿に悠と美鶴達は危うく呑まれそうになるも何とか耐えるが、風花とクマは別の意味で呑まれようとしていた。
「嘘……! こんな近くまで接近されてのに気付けなかったなんて……」
「匂いが感じ取れなかったクマ! こんな強い力を持ってるシャドウなのに、気付けない方がおかしいクマよ!?」
自分達の探知を糸も簡単に抜けられた事に驚きを隠せない二人。
りせを上回る風花、悠達が来るまではシャドウから隠れた生活をしシャドウに敏感なクマの二人は、糸も簡単に己の探知を突破された事に驚きを通り越してショックすら覚える。
だが、それと同時に今回の様な出来事に美鶴達を始め、当事者である風花にも何故か初めての体験に思えない感じを覚えた。
デジャブの様な感覚。嘗て、自分達はこんな光景を見た事があった様な気がする。
そう考えた美鶴達、そしてそれが何か気付いた。
「まさか!?」
風花は何かを思い出した様に声をあげると、その声に答えるかの様に美鶴も苦虫を噛みながら洸夜の影を睨み付ける。
答えは簡単だった。少なくとも二年前、洸夜と共にいた者には分かる事がある。
――それは。
「”ヘメラ”のジャミング能力……【アンチ・マハアナライズ】か……!」
【アンチ・マハアナライズ】……通称、ジャミング能力。
それは現在、桐条が把握しているペルソナの中でも洸夜のペルソナ『ヘメラ』だけが持つ希少なスキルである。
風花やりせが持つ、能力を把握する為のアナライズとは真逆の能力処か、彼女達にとって最悪にし最強の天敵であると同時に完全なアナライズ潰しの力。
情報はおろか、姿すらも隠せる程に強力なスキル。戦闘能力を捨てた対価に得た力とも言えよう。
それが今、洸夜の影がその力を得ている。悠は静かに刀に手を添えながら、洸夜の影から視線を外さずに見続ける。
「やっぱり、ペルソナの力も支配下にしているのか……」
「ゴクッ……! クマ、ちょっと武者震いが……」
人の姿でありながら、大型シャドウを前にしている様な迫力を前に悠は息を呑み、クマは思わず震えてしまう。
だが、大型シャドウ化していないと言う事は洸夜はまだ否定していない証拠。どう行動するか、ここが分岐点となるとこの場にいる全員が思っていた。
――そんな時だった、洸夜の影が不意に一冊の本を悠の前に放り投げた。
それは辞書よりも厚い本であり、悠達にとっても見覚えのあるものだった。
「――兄さんの"ペルソナ白書"!?」
悠が拾ったのは洸夜の所持品であるペルソナ白書だった。
本来なら洸夜が持っている物。その白書を悠は無意識の内にページを捲ると、悠の視界に入ったのは全て"白色"となったページのみであった。
「既にペルソナが……」
「クッ!――シャドウ! 洸夜は何処だ! アイツに何をした!!」
この世界に来るときに洸夜は呑み込まれてしまった。その事を思い出し。洸夜の身の危険を感じた明彦は拳を握り締めながら洸夜の影に向けた。
しかし、そんな明彦に洸夜の影は特に気にもせずに静かに笑い声を出す。
『クク……! ココマデ来タ……新タナ絆ヲ築ク為カ? 寂シイモンナ……孤独ハ……』
「なにか様子がおかしい?」
「気にする事ないわよチドリ。言葉遊びに決まってるわ! それよりも質問に答えなさいよ!」
「兄さんは何処にいる……!」
ゆかりと悠の言葉に続く様に美鶴達も又、静かな構えを解かずに洸夜の影へ少しだけ距離を詰めた。
数的にも何かされたとしても対処できる筈だった。
すると、洸夜の影は悠の言葉に首を傾げた。
『見エナイカ? ”ソンナ物”ヲ付ケテイルカラダ……見エルダロウ……目ノ前ニ!』
「ッ!?――これは……!」
悠は己の目の前で起こった事に驚きを隠せなかった。
空に君臨する黒の月の光がこの世界を照らした瞬間、それは出現する。
一言で言えば黒い塔。
最上階が円上の広場になっている、天にも届くと錯覚しそうになる程に高い塔だ。
だが、悠も美鶴達も最上階等は目にも入らない。
そんなモノを見るよりも意識を持っていかれるモノが目の前にある。
出現したのは黒い塔だが、形が異常であった。
赤い家、黄色のビル、青い小屋等々、色とりどりの建物や物が黒い塔にぶっ刺さっているのだ。
いや、恐らくはぶっ刺さっていると言う表現も正しくはない。
正しく言うならば、黒い塔から色とりどりの物が"生えて"いる。
建物の存在感や異常さ、この全てが圧巻なのは悠もクマも、美鶴達でさえ否定出来ない。
しかし、そんな状態でも異常は終わらない。そんなメンバー達の上を”何か”が通って行くのに悠は気づき、見上げるとそこにあったのは……。
「電車……?」
そう電車だった。電車は真っ直ぐに異様な目の前の建物の中へと入って行き、その光景を見ていたアイギスは再び気付く。
「良く見れば……他にも電車があります」
アイギスの言葉に悠や美鶴達も目を凝らし、しっかりと目の前の建物を見るとまるで纏わり付く蛇の様に電車が何台も走っているのだ。
そんな不自然な建物だが、電車や建物の姿を見るとある場所に思えた。
「まるで”駅”だ……」
悠の呟きに美鶴達も思わず納得する。
”黒い電車”が赤・青・黄色等、色んな色の建物に入って行くのだ。
確かに駅と言うのが的を射ているのかも知れない。
そう、ここが洸夜の作り出した世界【黒の駅】なのだ。
そして、悠達がこの世界の存在を完全に認識した瞬間、洸夜の影は悠を見ながら静かに語り出す。
『来ルノカ? 黒キ愚者ノ下ニ?』
『入ルノカ? 黒キ愚者ノ世界ヘ?』
『見エルノカ? 黒キ愚者ノ真実ガ?』
一々、間を空けながら話す洸夜の影。
まるで何かの役になりきっているかの様に両手を挙げたり等、何かリアクションをしながら話していく。
そんな様子だが、悠達は静かに状況を見極めようとする。
確実な事しか出来ない。その思いを胸に、悠達は洸夜の影を見ていた時だった。
洸夜の影の雰囲気が変わり、場の空気が変わる。
『……辿リ着ケルノカ? 黒キ愚者ノ所ヘ?』
そう呟いた瞬間、洸夜の影から巨大な力が放たれる。
『コノ数多ノシャドウヲ倒シテナ!!』
「!――シャドウです!?」
洸夜の影が言い終わるのと同時に風花が叫んだ瞬間、悠の周りから大量のシャドウ達が出現する。
アブルリー・ダイス・ギガス・アニマル・武者。
少なくとも、一目見ただけで五種類ものシャドウが確認出来る。
所々に通常の大型シャドウも存在しており、悠達は瞬く間にシャドウに囲まれてしまった。
その中に既に洸夜の影は消えており、クマは武器である爪を出しながら悠に言った。
「やっぱりそう言う事だったクマか。ここまでシャドウに会わなかったのは、シャドウがこの世界に集まっていたからと言う事……」
「それは随分と手の込んだサプライズだな」
「ああ! 腕が鳴る程にな!」
悠の冗談に明彦も腕を鳴らしながら答え、美鶴達もそれに頷く。
「風花、君は後方に下がってサポートだ。ゆかりとチドリは風花の護衛……残りのメンバーも臨機応変に対処。悠君、クマ……君達もいけるか?」
「いつでもどうぞ」
「センセイと同じく」
美鶴からの問いに頷き、ペルソナカードを取り出す悠とクマ。
シャドウも既に臨戦態勢。
「皆さん!」
アイギスは素早く、何処からともなく出した白い拳銃"召喚器"を所持していなかった順平達に投げた。
そして、順平達がそれを素早く掴んだ瞬間、全員が叫ぶ。
――ペルソナ!!
仮面の名を呼び、悠達の周りに多数のペルソナが現れシャドウ達に飛び込んで行く。
洸夜救出の幕が上がった。
――しかし、この戦いを洸夜だけの為と思ってはいけない。
――洸夜救出のだけの戦いとは思ってはいけない。
――これは鳴上悠、そして元S.E.E.Sメンバー達にも大きな意味があるのだから。
▼▼▼
――悠達がシャドウと戦いを始めた頃、テレビの世界に新たに”二人”足を踏み入れる者達がいた。
一人はエレベーターガールの格好をした銀髪の女性であり、彼女の周りを小さな妖精が飛び回っていた。
もう一人は、破れたニット帽とボロボロのコートも纏う青年だ。青年は警戒するように辺りを見回していると、女性の方が何やら拾い、それを青年へと渡す。
「これをどうぞ……」
「……?」
青年が受け取ったのは眼鏡だ。拾った物であり、何故眼鏡をしなければならないのか分からなかったが青年は渋々と眼鏡を掛ける。
すると、その瞬間に青年の視界から霧が消え去った。
「そういう事かよ……」
「そういう事でございます。――ではレッツゴーでございます。」
謎のテンションの銀髪の女性に青年は溜め息を吐いた。
と言うのも、この青年は目の前の女性に誘拐に近い形でここに連れて来られた様なものだった。
青年も一応は抵抗したのだが、見た目に似合わず女性は力が強すぎたので諦めたのだ。
――しかし青年が諦めた理由は彼女との力差ではなく、それは彼女から言われた事であった。
『その鈴を与えた貴方様の親友様が命の危機に陥っております。――このまま自分は死んだと嘘を吐き続け、見殺しにするのですか?』
「――チッ!」
目の前のヘンテコエレベーターガールに言われた事を思い出しながらも、己の意思で青年はここに足を踏み入れたのだ。
命を助けられた親友の危機。見捨てる事なんて出来なかった。
――今度は何に巻き込まれやがった……洸夜。
異常なモノに縁のある親友の名を呟きながら青年は女性の後を追いかける。
――その時、チリンッと彼の持つ歪になった鈴が小さな音を出していたが、青年以外に聞く者はいなかった。
END