新訳:ペルソナ4~迷いの先に光あれ~   作:四季の夢

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お久し振りです。
ただ一言。私は大丈夫です♪ 


第三十八話:洸夜の根源。逆位置の脅威

 

 同日

 

 現在:テレビの世界【洸夜の世界・黒の駅】

 

 悠は僅かに乱れた息を必死に落ち着かせようとしていた。

 兄、洸夜のシャドウが放ったシャドウ達も全てがオーラを纏っており、一体一体が通常よりも強かった。

 そんな変異シャドウの群れとの戦いだが、美鶴達の協力もあって何とか余力を残して全滅させる事が出来たが、悠自身が考えていた予想よりも体力を持っていかれている。

 周りを確認するように悠は横目で美鶴達を見るが、慣れている様子で疲れた姿を見せる者は誰もいなかった。

 

――俺がここで疲労を見せている場合じゃない。 

 

 悠はそう考えている内、乱れた息は落ち着きを取り戻し、そして落ち着いた。 

 美鶴達の事は兄から話は聞いており、歴戦と言うのは変だが自分達よりは確実にシャドウと戦い慣れているのには悠も気付いている。

 故に足を引っ張りたくない。まだ兄の世界に入ってすらいないのだ。自分の知らなかった兄の事が知りたい。

 

『お前が知るには……まだ足りない』

 

 悠は、入口の前にいるだけで疲労している自分に兄がそう言っている様な気がした。

 だがこちらも後戻りをするつもりはない。向くのは前と横だけだ。

 悠は覚悟を入れ直して黒の駅の入口へと立つと、美鶴達も気付いた様に悠の下へやって来る。

 

「洸夜の作り出した世界……か」

 

「はい。兄さんの心そのもの……そう思う事も出来ます」

 

 感傷深く美鶴が黒の駅を見上げ、悠も同じように見上げると明彦達も同じように見上げる。

 一見すれば駅とは思えない様な異様な姿だが、所々に確かに駅らしき形があると同時に強烈な威圧感も存在感と同居している。

 中に入れば変異シャドウだけではなく、大型シャドウレベルの敵もいる筈だ。油断すれば途中下車させられるだろう。

 そんな想いを胸に悠は意を決して中に足を踏み入れると、美鶴達も続くように足を踏み入れた。

 

 

▼▼▼

 

 現在:ベルベットルーム

 

 悠の視界に広がったのは幻想的な明かりに照らされている車内。ベルベットルームだった。

 

「あれ……?」

 

「!――おやおや……これはこれは……」

 

 突然招かれたと不思議に思っている悠の姿に、イゴールも何故か驚いた様子で見ており、隣のマーガレットも同じ様子だ。

 

「この様に突然訪れるとは、どうなされましたかな?」

 

「いや……俺もさっぱり。兄さんの世界に入ったと思ったらここに来ていた。――イゴールが招いたんじゃないのか?」

 

 まるで自分達は関与していないと言わんばかりの態度にイゴールの様子に困惑しながらも、悠は事情を知る為に問い掛ける。

 普段から何を考えているのか分からないイゴールだ。今回も何かあるかもしれない。

 悠が警戒とまではいかずとも色々と考えるが、当のイゴールは特に気にすることなくいつもの様子で笑い出した。

 

「ヒッヒッヒッ……いえいえ、貴方様が今、大きな力の前に立ち向かおうとしている中でこちらから招く事は致しませぬよ。――寧ろ、これは貴方様の意志で訪れたのでしょう」

 

「俺の……?」

 

 悠は思わず考え込む。あの瞬間、一体なにを自分が思っていたのかを。

 イゴールは胡散臭いとはいえ信用が全くないわけではない。言葉が正しいならば自分の意志でベルベットルームに訪れた事になる。

 そんな風に悠は悩むように考えていると、その光景にイゴールが笑い出す。

 

「ヒッヒッヒッ!――分からないならばそれも結構……!――ですが自覚がなくとも私に聞きたい事はあるのでは?」

 

「……確かにある」

 

 イゴールの言葉に悠は素直に頷く。

 悠が洸夜から聞いた二年前の事件の事、それは詳しく聞いた様で実はそうではない事を悠自身は分かっていた。

 影時間・ストレガ・ペルソナ暴走での死者。重要な”単語”は聞いたが、肝心な内容は最低限のハリボテの様な内容だった。

 陽介達はそれでも驚いて納得した様だったが、悠自身は違った。事件の規模の割には洸夜の教えた内容が薄っぺらいと感じていた。

 しかし、だからといって悠はその事を兄へ追求するような事はしなかった。

 兄の弱々しい表情や声を聞いてしまえば、それが聞いてはいけない事なのだと分かる。

――だが……。

 

「兄さんにとって……とても辛く、そして大切な思い出に土足で踏み込む事になるけど……それでも俺は兄さんの事を知るべきだ」

 

 両親が留守にしがちの生活。寂しい想いも沢山あった中で悠の記憶にあるのは兄――洸夜の存在だった。

 誕生日やクリスマス等の表立った日は勿論の事、両親と共に過ごした記憶は悠にはなかった。

 両親的には子供達を食べさせて行くには仕方ないと思いながら働いていただろうが、両親のいない日々や引っ越しばかりの生活は辛いものと言える。

 しかし、そんな中で自分を支えてくれたのが洸夜だったのを悠は知っている。

 誕生日だろうがクリスマスだろうが共にいてくれた兄を救う為、悠は覚悟を決める。

 

「頼むイゴール……兄さんの事を話してくれ」

 

「……構いません。――ですが、先の事件につきましては洸夜様本人から聞いた方が宜しいでしょう。――私がお話しする事は更なる真実の欠片。あの方のワイルドに関してでございます……宜しいですかな?」

 

「……構わない」

 

 寧ろ好都合だと悠は思った。おそらく、今回の一件に一番影響を及ぼしているのは兄のワイルド能力。悠はそれを知らねばならないとずっと思っていたが機会はなかった。

 しかし、イゴールは鼻は長いが嘘を言う存在ではないと悠は信頼しており、直接真実を貰えるとは思っていないが確実にヒントは貰えると感じている。

 そんな信頼を知ってか知らずか、イゴールはいつもの調子で笑い出した。

 

「ヒッヒッヒッ……他者との繋がりで成長して行く力……”ワイルド”は謂わば白。――真っ白な何も存在しない白紙その物でしかありません」

 

「なんとなく理解できる」

 

 イゴールの言葉の通りとは言いずらいが、少なくとも言わんとしている事は悠は身を持って理解出来ていた。

 初めてペルソナに覚醒し、アブルリー・陽介のシャドウと戦った時に比べて今はペルソナの力も数か月前とは比べ物にならない。

 それは陽介達・堂島や菜々子・そして稲羽の人々との出会い。――それが絆、繋がりの数でありイゴール的に言えば”色”なのだろう。

 新たなに誕生して来たペルソナ達の力が上がっているのもそういう事であり、悠は己のワイルドが真っ白ではなくなっている事を今この瞬間、深く自覚する事が出来た。

 

 そして、そんな悠の考えを察しているのだろう。イゴールも迷いなく頷いた。

 

「……えぇ。空っぽの状態で始めた命の旅。――皆、ワイルドを持ちし愚者を背負う真っ白な旅人なのです」

 

――ですが。

 

 イゴールはまるで”例外”がいるかの様に話を区切ると、ややアンバランスな長い両腕、その内の右腕を払う様に振るとテーブルの上に真っ白な紙が現れた。

 そしてイゴールが今度はその紙の上に両腕を翳すと、その腕から沢山のタロットカードが出現する。

 そのカード達はゆっくりと回りながら落ちて行き、そのまま紙の中に吸い込まれるように消えて行ってしまうが、カードが消えた紙の場所には色が染まっていた。

 

「これは……?」

 

 悠は困惑しながらも染まりゆく紙の行く末を見続ける。

 赤・青・緑等の色に染まって行く紙。それは重なる事で美しい模様となり、同時に新たな色を生み出して行った。

 しかし、悠は目の前のその異常に気付いて行く。

 次々と色を取り込んで行く紙。しかし、それは徐々に美しい色から遠ざかって行くのだ。

 それらは薄暗い色になっていき、やがて紙全体を”黒”が一面染め上げた。

 その光景を見終えた悠は新たな展開を求める様にイゴールを見詰め、イゴールはいつもの笑い声で応えた。

 

「ヒッヒッヒッ!――これもまた一つの答え。一つの可能性なのです。黒のワイルド……否、言うならば”黒き愚者”でしょうか……」

 

――それが鳴上 洸夜様の”正体”ですかな?

 

「ッ!」

 

 イゴールのその呟きを捉えた瞬間、悠の心臓は大きく一回鼓動を刻み、我に返った様に悠は息を呑んだ。

 

「……理解できない。俺には分からない……イゴール。これが……ワイルドの終着点なのか!――菜々子や堂島さん、そして陽介達との絆も最後はただこんな……!」

 

 悠は目の前で今もカードを色として呑み込む真っ黒な紙を見ながらイゴールへ問い掛ける。

 ドロッとした様に全てを呑み込んで行く黒に、悠は雑味の様なものが一切ない純粋な恐怖を抱いてしまっていた。  

 不思議と紙がまだ真っ白な時は安心感があった。それは色――他者との絆を確かに感じ取る事が出来ていたからかも知れない。

 しかし今はもう違う。どれだけ呑み込んでも変わらない黒。目の前のそれが自分に言って来ている様に見えてしまう。

 

――足りない……もっと寄越せ。もっと絆を寄越せ。

 

 誰かが止めねば全てを呑み込んでしまう。そんな恐怖を更に抱く悠だったが、ずっと眺めている内に不意にある欲求を抱いてしまった。

 

(触れてみたい……) 

 

 それは好奇心から来たものではない。その事だけは悠は分かっていた。

 触れたい理由。それ純粋な理由という点では先程と同じだろう。全てを呑み込む黒に”魅了”されただけなのだから。

 

――触れてみたい。安心できそうだ。触れていない方が不安だ。

 

 そんな考えに呑まれながら悠は無意識のままに目の前の黒へと手を伸ばす。

 このまま黒の力を感じたいと思いながら……。

――しかし、その時だった。横から悠の腕を掴む者が現れたのは。

 

「呑まれては駄目よ……」

 

「ッ!――これは……」

 

 悠の腕を掴んだのはマーガレットだった。そして悠はマーガレットに掴まれた事で我に返り、そのまま彼女の方を向いた。

 

「気分はどうかしら……?」

 

「柔らかく、気持ちいいです」

 

「えっ――?」

 

 気分はどうかと聞いたマーガレットだったが、悠から帰って来た言葉を聞いて僅かに表情を固めたが、すぐにいつものクールな表情へ戻し、静かに笑った。

 

「ふふ……大丈夫そうね」

 

「お陰様で」

 

 悠は満足そうな顔を浮かべながらマーガレットへお礼を言った。

――すると。

 

「ヒッヒッヒッ……それもまた一つの可能性。必ずしもの"命の答え(到達点)"ではございません」

 

 イゴールの声が再び悠を本題へと呼び戻した。

 先程まで悠は黒の力に魅了されてしまったが、イゴールは何事も無い様な様子で悠を見続けていた。

 

()()も……全てを受け入れる力でございます。――ヒッヒッヒッ……本当は()()も同じ力なのですがね……」

 

「そうは言うが……俺は確かに今――」

 

 ワイルド()の力の片鱗を知ってしまった。同じ力と言われても納得は出来ない。

 悠はそう思いながらテーブルに置かれた黒の紙へ再び視線を向けた。――そしてある事に気付く。

 

「!……紙が白い?」

 

 先程まで見ていた紙の色が真っ白に変わっていたのだ。

 全てを呑み込むかの様に底の見えない黒。それは既にそこには存在しておらず、代わりにアルカナカードを呑み込んでいるのは白だ。

 悠は自分が今まで見ていたのは幻、又は錯覚だったのかと混乱してしまうが、瞬きしてもう一度を同じ場所へ視線を向けた。

――そんな悠を迎えたのは”黒”だった。

 

「ッ!?――これは……」

 

 もう何が何だか分からず悠は混乱してしまった。

 目に写る物が次々と姿を変えてしまい、それが本当の姿なのかが分からない。

 

「ヒッヒッヒッ……」

 

 そんな悠を見ながらイゴールはは左手の人差し指を立てると、テーブルに置かれた紙がクルクルと回転し、それはやがて一枚のタロットカードに姿を変えた。

 悠側からは裏しか見えず、そのカードに書かれているアルカナは見えなかった。

 

「ヒッヒッヒッ……お分り頂けたでしょうかな?――その者の歩んできた影響によって人は白にも黒にもなられる。――鳴上 洸夜様の場合は少々特殊なモノと言えるでしょうが、再び戦いの場に戻る貴方様が知っておくべき事は……」

 

 そう言って手を翳すイゴールの手に一枚のタロットカードが舞い上がった。

 それは『愚者』のカードであり、愚者のカードはヒラヒラとイゴールの手の上で回り続けている。

 

「洸夜様のアルカナを支えていた軸となるアルカナは間違いなく『愚者』でありましょう。――ですが”黒”の力を支えていたのも『愚者』だけなのでしょうか?」

 

――愚者も”一色”ではないのですよ? イゴールはそう言って再び笑った時だった。

 

 悠は不意に意識が覚醒する感覚に襲われた。どうやらベルベットルームから出る時の様だ。

 

「ふふ……少しアルカナの意味も知った方が良いみたいね」

 

 意識が覚醒する直前、悠はマーガレットから一枚のメモを渡され、それを受け取ると同時に意識は覚醒していった。

 

 

▼▼▼

 

 現在:黒き駅【一階エリア・エントランス】

 

 意識が覚醒すると同時、悠は黒の駅へ突入した所であった。

 悠は錯覚の様に混乱する頭を落ち着かせながら、自分の手に握られているメモに気付く。それはマーガレットから渡されたメモであり、中にはアルカナの意味などが記されていた。

 

――何故か主に”逆アルカナ”の意味を……。

 

「……」

 

 悠は何か胸騒ぎを感じながらも美鶴達と共に周囲を見回した。

 中は外の外観通り、かなり複雑な構造をしており、クマとペルソナを召喚して辺りを調べている風花は表情を曇らせる。

 

「マズイクマね……これは」

 

「この世界から沢山の強いシャドウの気配を感じます。上のフロアも複雑な構造をして……あれ?」

 

 探知していた風花が何かに気付いた。

 

「どうした山岸?」

 

「桐条先輩……上の階から人の気配がします。一人……二人……五人程感じます」

 

 風花が感じた気配。しかも五人。その条件に該当する者達を悠は一つしか知らない。

 

「きっと陽介達です」

 

「?――君の仲間なのか?」

 

 明彦の言葉に悠は頷く。

 

「この世界にいるってことは全員がペルソナ使い?」

 

「はい。皆、自分と向き合ってペルソナ使いに覚醒しています」

 

 チドリの言葉に悠は陽介達もペルソナ使いである事を教えた。

 流行ってんのか?――後ろで順平がそう呟くのが聞こえたが、流行ですと言えばスベリそうなのを悠は感じ、特には言わないでおいた。

 

「……風花、それ以外には何かある?」

 

「ううん。外の様子が分からなくなっているけど……それ以外はないみたい」

 

 実はそれが風花にとって気にしている事であった。

 代わりに中が探知しやすいとかはないのだが、まるで鳥籠の様な罠にはまった動物の様な気持ちを風花は抱いていたのだが、今は先に進むことを皆は選んだ。

 

「……進むぞ」

 

 明彦の言葉に美鶴達、そして悠とクマも頷き、目の前にある階段を上がって次のフロアへと向かった。

 

 

▼▼▼

 

  現在:黒の駅【二階エリア】

 

 二階へと進んだ悠と美鶴達が見たもの。それは謂わば”迷宮”であった。

 外同様に複雑な形・色。黒の駅というだけあり、周りには改札機や切符販売機等も存在しているが、そのどれもが壊れていたり、柱にめり込むなど普通ではなかった。

 そして挙句の果てには悠達が進んでいる通路の床には線路まである始末。

 

「これ……電車が走って来ませんよね?」

 

 まさかとは思いたくないが、乾が不安そうに呟いた言葉に悠と美鶴達は思わず足を止める。

 

「そう言われるとかなり不安なんだけど……」

 

「悠、君達は私達よりこの世界を理解している。やはり可能性的にはあるのか?」

 

 不安そうにするゆかりの言葉に頷きながら、美鶴は悠へと聞いた。

 シャドウの力も強くなっており、その最中に電車が現れでもすればたまったものではない。

 故に美鶴達は可能性も含めて早めに知らねばならなかったのだ。

 

「すいません。俺も言い切れる程の根拠は……」

 

 聞かれた悠も少し考え込んでしまう。可能性的には絶対ないとは言えないが、悠も言い切れる程の自信はなく、答を求める様にクマの方を向いた。

 

「クマ。やっぱりそういう罠もあるのか……?」

 

「――ないクマ」

 

 クマはハッキリと言い切った。その表情にはいつものふざけた感じはなく、真剣そのものだ。

 そんなクマの様子に悠は驚き、明彦はクマに念を押すように問い掛ける。

 

「本当に大丈夫なのか?」

 

「――絶対ないクマ」

 

 有無を言わさないクマの言葉。それはハッキリとした口調であり、今までのクマを知っている悠からしても驚きを隠せない。

 

「クマ……どうしたんだ?」

 

「センセイ……クマはこの世界がこわいクマよ。――ずっと感じるクマ……!」

 

 そう言うクマの身体はどことなく震えており、悠も美鶴達もクマの様子に戸惑いながら彼の言葉を待つしかなかった。 

 

「何を感じた?」

 

「……分からないクマ。この”感情”がなんなのかクマには分からないクマ!――ただ言えるのは……色んな感情の中、クマ達に向けられている敵意……いや殺意クマ」

 

 恐れる様に発するクマの言葉に誰かが息を呑む。

 悠はまだ分からないが、少なくとも悠とは別の事で洸夜と縁がある美鶴達は薄々と感じていたのだ。

 それが何のなのか分からなかったが、今のクマの言葉で理解できた。

――それと同時、なぜ罠がないのかも理解出来てしまった。

 

「罠などではなく、自分の手で殺さなければ気が済まない……そういう事か?」

 

 美鶴の発した言葉。それを聞いた時、今度は分かった。

――全員だ。悠とクマを除いた影時間を生き抜いたメンバー達全員が息を呑んだのだ。

 

「やっぱ……おれっち達じゃ無理なんじゃねのか?――やっぱり鳴上先輩が望んでるのは俺等じゃなくて……『あいつ』なん――」

 

「いいえ」

 

 心に亀裂が走りそうになった順平だったが、彼の言葉を遮る者がいた。

――アイギスだ。

 

「洸夜さんは知らないだけです。――あの後の”戦い”を”……『あの人』の想いを。――ですが、それを伝えられるのは『あの人』ではなく、私達だけです」

 

 いつか絶対に洸夜に伝えなければとアイギスはずっと思っていた。

 あの後に起こった繰り返された”あの日”の事を洸夜は全く知らないと同時、それは『彼』の想いも知らないという事であった。

 本当ならばもっと早くアイギスは伝えたかったが、洸夜の様子もあってタイミングが合わず話せないでいたのだ。

 しかしアイギスは今回の異変も洸夜自身だけの問題ではなく、あの事件の『彼』についての”後悔”も影響していると思っているのだ。

 

――伝えなければなりません。それが出来るのは私達だけなのですから。

 

 アイギスは心中で強く決意を固め。そのアイギスの雰囲気で察する事が出来たのか、順平も美鶴達も力強く頷き合った。

 

「その通りだよな。――確かに鳴上先輩に伝えられんのは俺等しかいねぇもんな」

 

「その通りだ。私達が洸夜の事を分かっていないと同じく、洸夜もあの後に何が起こったのかを知らない。――絶対に伝えねば……」

 

 らしくなかったとバツが悪そうに呟く順平と、色々な想いを抱く美鶴。

 今も消えぬ”桐条の罪”――それに洸夜を巻き込んだと言っても過言ではなく、今までは大切な人である故に洸夜を救おうとしていたが、美鶴は桐条の当主としてでも洸夜と向き合う覚悟を決めたのだ。

 そんな仲間の姿。それを見ながら風花も嬉しそうに頷いていた。

 

(……洸夜さん。私達は皆で洸夜さんに会いに行きます)

 

 風花は喫茶店で洸夜に言われた話を思い出していた。 

 全てを語った訳ではない話だったが、洸夜から皆へと託された真実。

 洸夜はそれで全てを終わらせようとしたのだろうが、残念ながらそれで簡単に終わらせられる程度の”繋がり”ではないのだ。

 喫茶店では自分一人だけだった為、洸夜を救う事は出来なかったが今は皆がいる。――風花は心強さの様な、温かさを胸に抱きながら安心する様に小さく頷いた。

 

「皆で……洸夜さんを迎えに行きましょう」

 

「はい。――僕も言いたい事が沢山あります」

 

 何も知らなかった事もあるのだろう。乾も風花の言葉に力強く頷いている。

 しかしそんな様子の中、悠の心中にはある”不安”があった。

 それは恐らく戦うであろう抑圧された存在。――洸夜のシャドウの事。

 

(ずっと抑圧してきた心。それが自由を持った今、一体どれだけの力を持っているのか……)

 

 一人で兄を救うのではない。絆を力としてきた悠は不安を出さない様にしていたがそれは胸騒ぎの類なのだろう。

 洸夜のシャドウの力。それがずっと悠の中では消えず、寧ろ大きくなっていた。

 

――ペルソナとシャドウは同じ存在。

 

 嘗てイゴールから言われた言葉が悠の脳裏に過る。

 考えすぎだと思えればよい。だが同時に覚悟しなければならない。

――敵は洸夜が誕生させたペルソナの力を全て持っている可能性も。 

 

(俺も……全力で向き合わないと)

 

 覚悟を決めた悠は内ポケットから一枚のペルソナカードを取り出した。

 それは悠からしても特別な”ペルソナ”が宿っているカードであり、それ故に今まで戦いで召喚する事がなかったのだ。

 強い力には代償が伴う。このペルソナは強力過ぎるのだ。

 強力過ぎる為、今の悠では無理をする前提でなければ、このペルソナの力を活かす事が叶わない。

 だがそんな事は悠が一番理解しており、悠は落ち着いた様子で笑みを浮かべていた。

 

――覚悟が出来たからここにいる。

 

 強い想いと共に悠と美鶴達はこの黒の駅を再び進み始めた。

――ただ一人、クマを除いて。

 

「わからない……」

 

 悠も美鶴達も先に進んでおり、周りには誰もいない中でクマはただ呟いた。

 

「この世界に来てから色んなものが入って来るクマ……」

 

 困惑しているかのように、クマは両手で頭を抑えながら左右に振って呟く。

 この世界に来てからクマは、自分の”鼻”の調子が良い事にずっと疑問を感じていた。

 当初は、ここ最近は調子の悪かった事もあって喜びの感情が多かったが、調子が良かった時には感じとれなかった”感情”等を探知できることに気付き、それが違和感へと変わった。

 

――怒り・憎しみ・妬み。

 

 数多の負の感情が漂うこの黒の駅。だが、それを探知タイプの風花ですら細かに探知出来ていないのだ。

――にも関わらず、己がこの世界を”理解”している事が謎で仕方ない。変異シャドウ達の纏うオーラも負の感情から来る強化なのも理解しており、洸夜のシャドウが美鶴達を直接、手を下したい事も何故か分かっている。

 

――そう。分かり過ぎているのだ。この世界から放たれる力が自分に入って来るのも感じ、クマの混乱はピークに達しようとしていた。

 

「クマは……クマ……は……」

 

 何が何だか分からなくなってきたクマ。そんな彼の身体から漏れでるのは不気味なオーラ。

 シャドウ達が纏っている同じものであり、それがクマを包み込もうと広がった。

 

――時だ。クマの脳裏に”悠達”の姿が不意に浮かぶ。

 

「!――そうクマ! クマはクマ! 少なくともそう理解した筈クマ!」

 

 クマは纏わり付く迷いと共にオーラを振り払う様に体を振り回す。

 本物の自分。その事で悩んだが、そんな事は関係ない。この世界に来てから変になったからなんだと言うのだ。

 少なくとも、自分には悠達や菜々子が付いている。クマはその事を思い出すと、急いで悠達の後を追いかけた。

 

「センセ~イ! 待ってほしいクマよ!」

 

 

▼▼▼

 

【黒の駅・三階エリア:”裏切り”の魔術師駅】

 

――そんなつもりじゃなかった……誰も巻き込む気なんてなかった。――ただ、一人ぼっちが嫌だっただけなんだ……。

 

「……洸夜」

 

 新たなフロアに足を踏み入れるや否や。美鶴達の耳に洸夜の声が響き渡った。

 どこか無気力気味、だけど悲しさを纏わせた声。どうにかしてあげたくとも、洸夜の辛さの根源を知らず、今の状態では何もしてあげられる事が出来ない。

 そんなもどかしさを抱きながらフロアの前へと進むと、美鶴達が目にしたのは電車のホームであった。

 現実世界の面影は残されているホーム。悠と美鶴達が中央にまで足を進めた時、ホームに鳴り響くは警報の様な音。そして同時に一台の電車が入ってきた。

 まるで幼い子供が絵の具をぶちまけた様な複雑な色をした電車。その電車が停車すると、そのまま扉が解放される。

 

「乗る……?」

 

「えっ……乗らなきゃ駄目?」

 

 マイペースな様子で乗るのか聞くチドリの言葉に、ゆかりはこんな変な電車に乗らなければならないのかと戸惑いの言葉を呟く。

 別にゆかりも絶対に乗りたくない訳ではなく、もしこれに乗る事で洸夜を助けることが出来るならば迷いなく乗る覚悟はある。

 しかし、外見からして怪しさ満点のこの電車。ハッキリ言って罠臭が凄いのだ。

 

「……やはり罠か?」

 

「罠……にしては無駄が多い気がするがな」

 

 美鶴と明彦はそう言って互いに顔を見合わせた。

 先程のクマの話では罠で直接、自分達の命を奪う真似はしないと言っていたが、直接的ではない罠の可能性もある。

 乗りこんだ瞬間に分断されて別々に飛ばされる可能性もあり得る。

 しかし時間も限られおり、美鶴達は素早く話し合いを行い始め、風花とクマも何とか探知を試み始める中で悠は不意に見上げるとある物が目に入った。

 それは駅名が記された看板。それが吊るされていたのだが、駅名はそこには書かれてはおらず、代わりに一つの”イラスト”が記されていた。

 それはタロットカードの【魔術師】の絵。しかも逆位置でそれが描かれていたのだ。

 

――逆位置? もしかして……。

 

 逆位置の【魔術師】の絵。それを見た瞬間、悠は先程のマーガレットからのメモを思い出してそれを開いた。 

 メモにはアルカナの種類。そして正位置と逆位置の意味が記されている。

 その中で悠は【魔術師】の項目を探し、そして見つける事が出来た。

 

「魔術師。逆位置の意味は……混迷・無気力・裏切り・空回り……?」

 

 想像は出来ていたが、読む限りやはり良い意味ではないと悠は感じた。

 しかし、だからといってそれが何だと言うのかが問題だ。駅名に書かれた【逆位置の魔術師】の存在。 

 

「……何を示しているんだ?」

 

 この世界にとっての正解が必ずある筈。最悪、イゴール達の言葉も思い出さねばと悠が思った時だった。

――不意に”誰か”が自分の傍を横切って行く事に気付く。あまりに突然だった為、一体、誰がと悠はその姿を目で捉えると、それは”探し人”とも言える人物。

 

「――兄さん!?」

 

 それは実の兄――鳴上 洸夜その人だった。

 しかし、悠の声にも洸夜は反応する事はなく、そのまま停車した電車の中へと乗車してしまう。

 そしてその後を追いかける様に電車へと乗り込む悠を誰が攻められようか。

 そんな二人の姿を目撃してしまったクマと美鶴達もまた、もう相談する暇なんてなかった。

 

「センセイ!?」

 

「今のは洸夜か!?――追うぞ!」

 

 クマと美鶴の言葉を皮切りに、他のメンバー達も駆け出して急ぎ電車へと乗り込んだ。

――瞬間、悠や美鶴達は光に包まれた。

 

 

▼▼▼

 

 

『裏切りもの!!』

 

 目の前の少年の感情爆発な怒号。――それを幼い洸夜は黙って聞いていた。

 

――また始まった……けど、今回はおれが悪い。

 

 洸夜は静かに息を吐き、少年の言葉を正面から受け続ける。

 目の前でヒステリックの様に騒ぐ少年。それは洸夜にとって引っ越し先での友達なのだ。

 同じサッカーチームに所属しており、少年と洸夜はチームにとってのエース的存在。特に少年はサッカーが人一倍上手く、周りの大人達からの評価も高い程。

 そんな少年が信頼していたのが洸夜だった。洸夜のサポートもあり、試合では今まで以上に少年の力を発揮させていたのだ。

 

――洸夜とならやれる! 最強のコンビで試合に勝つんだ!

 

 幼い故に、少年は疑う事をしなかった。これからも長い先、洸夜が自分のサッカーを支えて行くものだと。

 だが、それはすぐに訪れてしまった。

 

『来週、鳴上が引っ越す事になった』

 

 チームの監督の言葉。それが一言一句、少年は忘れる事が出来ない。

 更に言えば、大会は再来週にある。つまり洸夜はそれよりも先にいなくなってしまうのだ。

 

 そして、そんな事実を聞いた少年が取った行動。それが――。

 

『裏切りもの!!』

 

 洸夜を一人呼び出し、思いっきり怒号をぶつける事だった。

 そしてそんな怒号を洸夜は黙って受け止めるしか出来ない。

 

 本当ならば、チームのメンバーにはもっと早めに言いたかったのだが、洸夜と悠の両親は多忙過ぎるのだ。

 いつ引っ越すかも分からいままの中、突然に両親から引っ越す事を告げられた洸夜がすぐに皆へその事を伝える事は出来ない。

 

 洸夜はこの少年が自分を信頼していた事は知っており、それもあって言い返す事は出来ない。

 元々、少年は感情が爆発する事が多かった。家に遊びに来るように言いながらも、自分の想い通りにならないと他の友人を、出てけ! と怒鳴って追い出す事も多かった。

 そんな少年の性格を知っているからか、洸夜は引っ越した後の不安を抱えるがそれを少年へ言う事は出来ないでしまう。

 

 そして結局は少年はずっと洸夜へ、裏切りものと怒号を飛ばし続けた後、不貞腐れた様に軽く洸夜の足を蹴ると去って行ってしまう。

 それが洸夜と少年の別れだった。

 

 

――そして洸夜が引っ越した後に始まった大会。そのチームの結果は一回戦、惨敗。

 

 原因は少年の独断専行。洸夜が消え、サポートする者がいない。チームプレイもしない少年一人のチームなど恐れるに足らなかったのだ。

 

『鳴上がいてくれればなぁ……』

 

『鳴上じゃなく、お前が引っ越せばよかったのに……』

 

 チームメイトの言葉。

 

『君は器が小さい。キャプテンでもエースでの器じゃない』

 

 他チームの監督にすらこんな事を言われてしまう始末。

 

――鳴上ばっかり……鳴上ばっかり……あんな裏切りものばっかり!

 

 ”孤独”になった少年。彼は洸夜ばかり信頼されている事に怒る。

――そして、洸夜の後姿を想いながら、己と繋がる一本の”繋がり”を恨みがましく掴み続けるのだった。

 

 

▼▼▼

 

 

 悠と美鶴達は意識を覚醒させる。まるで夢から目覚めた様な気分だった。 

 そして思い出すように悠達が背後を振り向くと、そこには既に電車の姿はない。

 

「今のは……?」

 

「洸夜……の過去だったのか?」

 

 悠と美鶴が思い出そうとする様に、ボンヤリしている頭を抑えながら呟く。

 

 幼い少年に怒号を浴びせられている幼い洸夜。そんな光景を自分達は夢の様な感覚で見ていた気がする。そう悠達は思えた。

 全員が見ていたのだ。あの光景を……。

 

「過去だったとしても……何故、私達はそれを見せられたのでしょうか?」

 

「……分からない」

 

 アイギスの疑問に明彦は首を横へ振る事しか出来ない。

 明彦だけではない。ゆかりや順平達も、さっきの光景に色々と思う事はあるがそれの真意を察する事はできなかった。

 

 周りは互いに悩みながらも、先程の光景を思い出して話し続けていた。――そんな時だ。

 

『裏切りもの……裏切りもの……ぜんぶ、あいつのせいだ……!』

 

 突然にフロアに響き渡る声。その声の主の方を皆が向くと、そこにいたのは先程の光景にいた少年だった。

 何やら恨みがましく呟いている少年だが、その姿は輪郭だけが同じであり、外見はシャドウの様に真っ黒で金色の瞳だけが光っている。

 普通ならば近寄りがたい。そんな存在なのだが、非現実慣れしているこのメンバー。

 困惑はするが、その時間は短く。目の前の存在を貴重な情報として見ることにしたのだ。

 

「鳴上洸夜を知っているのか?」

 

 美鶴が代表する様に少年?に問い掛ける。

 

――先程の光景は洸夜の過去だ。ならば、目の前の少年は洸夜の闇の根源。それに関わっている筈だ。

 

 ただ洸夜の事が知りたい。嘗て、自分の事を支えてくれた洸夜という一人の男。

 自分の辛さを洸夜が支えてくれた事。それに甘えてしまっただけの過去の自分。だが、それは今では後悔となってしまっている。

 そんな後悔を背負う美鶴。ハッキリ言って彼女は今、シャドウワーカーの美鶴として来ていない。

 桐条美鶴。そんな一人の人間としてここにいる。だが、それが親友としてなのか、桐条当主としてなのか、それとも一人の女性としてなのか。

 それは美鶴自身も分からない。――フリをしている。

 

 そしてそんな美鶴の言葉を聞いた少年? はというと、声に気付いて美鶴達の方を振り向いた。

――しかし、その表情は憎しみで歪んでいる。

 

『――知ってるさ。全部、あいつのせいだ……あいつのせいで俺の人生は狂ったんだ!!』

 

「それって鳴上先輩が引っ越して大会に出なかった事……?」

 

『そうだ!! あいつがいればあんな負け方はしなかった!――あいつが俺を”裏切った”からだ!』

 

 ゆかりの言葉を聞いた少年? は怒鳴りながら話を続けた。

 チームからの孤立。他チームの監督達からの評価。それらも全て、洸夜が自分の為に動いてくれず”裏切った”からだと。

 ただただ、ずっとその暴言を叫び続ける。その姿はただの自分勝手、そして自業自得による当然の結果だと美鶴達は感じていた。

 だが、それでも少年? からすれば洸夜との事は“裏切り”だったのだろう。

 

『そうだ……裏切った洸夜が全部……悪いんだ!!』

 

 溜め込んだものは全て吐き出すように、少年? が大きく叫んだ時だった。

 悠と美鶴達の脳内に何かが聞こえた。

 

――我は汝……汝は我……汝、ついに真実の絆を得たり。

――真なる【魔術師】の絆……それは即ち……“裏切り”の道標なり。

 

「裏切り……?――ッ! そうか!」

 

 悠は思い出した様にマーガレットからの“メモ”を取り出す。

 そしてそこに書かれている魔術師の項目。そこには逆位置の意味が書かれており、それは確かにあった。

 

――“裏切り”の文字が。

 

「まずい!」

 

 悠はその本当の“意味”に気付く。だが、既に遅かった。

 少年? の身体から強烈な黒い靄が溢れ出し、それはやがて一つの形となった。

 

――巨大な身体。燃える剣。それは嘗て、洸夜と『彼』が操った仮面『スルト』の姿を模したシャドウ――【裏切りの魔術師】だ。

 

 【裏切りの魔術師】が姿を見せた瞬間、悠達も戦闘態勢に入り、一斉にペルソナを召喚した。

 それが戦いの開始の合図。そして先に動いたのは【裏切りの魔術師】

 

『ラグナロク!』

 

 先制攻撃。しかも放ったのは炎系最強技の“ラグナロク”だった。

 地面を、周囲の空気すらやく獄炎となり悠達へと迫る。

――だが、これでやられる者達ではない。

 

「迎え撃て!――アルテミシア!」

 

 美鶴はサーベルは振り上げ、それに応える様にアルテミシアが巨大な氷塊を放つ。

 広範囲に広がる巨大な氷塊――“マハブフダイン”とラグナロク。それが激突し、強烈な衝撃と爆風を発生させながらも美鶴はそれを相殺させた。 

 だが、同時に美鶴は理解する。

 

――なんという強さ……! 満月の大型シャドウ……それよりも強い!

 

 先程の少年? の姿とは裏腹に、出現したシャドウの強さはとても高かった。

 強烈な炎技もそうだが、その纏う存在感もまた嘗ての強敵の比ではない。 

 風花やクマの言葉が表すならば、それだけ洸夜のシャドウの影響が強い証拠でもある。

――だが。

 

「引く理由にはならん!」

 

 激を飛ばす美鶴。その言葉と共にアルテミシアはブフダインを纏った鞭で【裏切りの魔術師】へ強烈な一撃を放った。

 そしてそれは【裏切りの魔術師】の身体へと直撃し、渇いた音と共に氷の破片が周囲へと飛来する。

 

『グゥッ!?――ユルサン!!』

 

 美鶴の攻撃に怯んだ【裏切りの魔術師】だったが、一気に上空へと浮かぶと剣の炎の火力を上げながら振り上げる。

 

「させません!」

 

「キントキドウジ!」

 

 アイギスは両指と頭部の銃器で乱れ撃ち。クマはキントキドウジで特大のミサイルを発射した。

 それらの攻撃。それは空中の【裏切りの魔術師】へ一斉に直撃し、煙を立ち昇らせながら地面へと落下し、激突する。

 だが、そこは大型シャドウ。ダメージを負いながらも立ち上がり、フロアに巨大な咆哮をあげた。

 

『シャドウ……タチ……ヨ……アツマレ!!』

 

 その咆哮と共に一斉にフロアの中に出現する黒い水溜り。そこから次々とシャドウが出現するや否や、敵を最初から理解している様に悠達の方へと近付いて行く。

 そこは当たり前だが、友好的な気配はなく、不気味なオーラを纏った強化状態で殺気を出しながら距離を詰めて行く中。悠達とシャドウの間を一つの閃が走った。

 それは一体のシャドウの頭部へと吸い込まれ、それが“矢”である事に気付いたのは、そのシャドウが倒れながら消滅してからだ。 

 

 今度は此方からの先制攻撃。順平が思わず振り向くと、そこにいたのは弓を構えたゆかりだった。

 

「はいはい……あんた達の相手は私達がしてあげるわ」

 

 仕方ない様に呟くゆかり。その言葉の意味を察し、順平やチドリ、そして乾やコロマルもシャドウ達へと向かって行っていった。

 

「よっしゃ!」

 

 金属バットでアブルリー型をぶっ飛ばしながら順平は突き進み、彼のペルソナのトリスメギストスもその金色の翼で切り込んで行く。 

 ゆかりは先程同様に弓で補助し、チドリ・乾・コロマルもペルソナや武器を使って次々とシャドウの数は減らしいった。

 

 このままの勢いで行けばシャドウはすぐに全滅するだろう。――なれば、残りのメンバーがすべきことは……。

 

「フッ!!」

 

 【裏切りの魔術師】の顔面へ明彦の強烈な拳がめり込んだ。更に彼のペルソナが追撃する形で剣で勝ちあげ、結果、【裏切りの魔術師】は宙へと再び身体を放り出される。

 そこを美鶴が、アイギスが、クマが、再び攻撃を繰り出して行き、徐々にダメージを蓄積させて追い詰めて行く。

――しかし、それで倒されるシャドウではなかった。

 

『ウオォォォッ!!』

 

 怒りで咆哮をあげる【裏切りの魔術師】は宙で体勢を直すと、剣の火力を上昇させ、再びラグナロクの放つ準備を始める。

 最初に撃ったものよりも威力が大きいのか、その為は先程よりも長い。

――故に、最後の一撃は思う存分に準備が出来ていた。

 

「イザナギ!!」

 

『ッ!?』

 

 悠が叫ぶ己のペルソナの名。その声に【裏切りの魔術師】は顔を上にあげるが、時既に遅し。

 強烈な雷を纏った大剣。それを既にイザナギは振り下ろし、そのまま【裏切りの魔術師】の身体へ叩き込む。

 そして、その一撃により地面に沈む【裏切りの魔術師】はその動きを止めた。

 

「終わった……」

 

「こっちも終わりました……!」

 

 悠の呟きに応えたのは乾だ。乾達が相手をしていたシャドウの群れも全滅しており、残された空間には先程の少年? の姿へとなった【裏切りの魔術師】だけがいた。

 しかし、既に少年? の勢いは消えており、ぐったりと肩を落としながら消滅し始めている。

 

『分かってた事だった……今のままじゃだめだって……洸夜がいてくれたから俺はチームにいられたんだって……全部、分かってた。――洸夜が裏切ってなんか……いない事……に……裏切ってたの…………俺だっ……た……』

 

 その言葉を最後に少年? のシャドウは消滅した。

 それと同時にホームに記された“逆位置”の魔術師の絵もゆっくりと消滅していった。

 

「……終わったんすかね?」

 

「……いや。やっと始まった」

 

「そうだな……」

 

 落ち着いた様に呟く順平。その言葉に悠と明彦は否定する。

 始まった。――否、ようやく知る事が出来たのだ。

 

――黒きワイルド。逆位置の絆。そして今回のシャドウ暴走。これら全ての原因は洸夜の過去。心の深淵に隠れている。

 

 そして、誰も口にはしないが薄々と勘付いてもいる。

 先程の光景。そしてシャドウとの戦い。洸夜の力――その“裏”の根源。

 

 それらを知る為に悠と美鶴達は再び階段を上って行く。

 

 女帝・皇帝・正義・戦車……次々と現れる光景。そして変異するシャドウを倒しながら。また一歩、また一歩と悠と美鶴達洸夜の下へと歩いて行くのだった。

 

 

END

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