新訳:ペルソナ4~迷いの先に光あれ~   作:四季の夢

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リメイクが来るし、結末は決まってるから完結させるべきだよなぁ……(;´・ω・)


第四十二話:真なる黒き絆

 

「洸夜……?」

 

 美鶴達の目の前の景色――学生寮。

 そこに立っていたのは、月光館学園の制服を着た洸夜の姿だった。

 

「兄さん……!」

 

 悠も嘗ての兄の姿に思わず手を伸ばしてしまう。

 しかし、伸ばした瞬間に姿を見せたのは洸夜だけではなかった。

 

「あれは……!」

 

 アイギスが思わず声を漏らした。

 それは嘗ての月光館学園の制服を着た美鶴達だったからだ。

 

 美鶴、明彦、ゆかり、順平。

 この四人が順番で現れては洸夜に激しい感情――少なくとも悠達に声は聞こえなかったが、激しい怒りの表情で洸夜に何かを言い放つ美鶴達の姿があった。

 

 しかし順平を最後に美鶴達の幻は姿を消してしまい、残った洸夜の幻にも異変が起こった。

 

『違う……! 違う……俺はこんなことを望んだ訳じゃない……!!』

 

 苦しむ様に胸を抑える洸夜の姿に悠と美鶴達は思わず手を伸ばすが、それと同時に洸夜の幻の背後に真っ黒な影が現れる。

 それは洸夜のペルソナ『アイテール』に似ていたが、どこか雰囲気が違う。

 禍々しい――否、純粋な黒。全てを受け入れる純粋な黒に染まったそれは、まるで力を解放するかの様に両手を広げると再び美鶴達の幻が現れた。

 

 そして彼女達の幻と洸夜の間に糸の様な繋がる線が現れる。

 しかし、それが繋がった途端、洸夜の表情が一変する。

 

『駄目だ……! 違う……これじゃ駄目なんだ……! 『■■■』……俺はもう……ここには居られない』

 

 洸夜はそう言って胸を抑えながら学生寮から出て行き、やがて幻は悠と美鶴達の目の前から消えてしまう。

 

「……今のは学生寮から出て行く前の洸夜さんでしょうか?」

 

 乾の予想するかの様な言葉に頷いたのは美鶴達だった。

 

「あぁ……間違いない」

 

「忘れるものか……」

 

 美鶴と明彦は思い出す様に呟いた。

 その表情は悲しみや後悔と言った感情が渦巻いていたが、目を背けずにその光景を見届けた。

 

 同時にそんな表情をゆかりと順平もしていたが、二人も黙って頷いていた。

 忘れるものか、当時の洸夜へ言い放ってしまった時のことなのだから。

 決して忘れてはいない。そして当時、我に返ったのもすぐだった。

 

 けれど全ては遅かった。

 美鶴が我に返り、洸夜へ連絡した時には洸夜は黙って学生寮から出て行った後だったからだ。

 そしてその時に言われた言葉。

 

『……俺の罰だ』

 

 洸夜はそれを言い残して消えてしまった。

 その後、すぐに新たなる事件が起きてしまったのも美鶴達が洸夜と接触できなかった原因だ。

 

――2010年3月31日の深夜、アイギス達特別課外活動部は時間が空回りする寮の中に閉じ込められてしまった。

――そしてアイギスの妹を自称するメティスの存在。

 

 それらを洸夜は知らない。

 知らないまま洸夜は後悔してしまっている。

 伝えねばならない。知らせねばならない。

 

「……全ては<黒き絆>だったんだな」

 

「……だが、それを言い訳をする気はない。あれを洸夜だけの責任にするのは俺自身が許せん」

 

「俺っちもっすよ……」

 

「私だって……言い訳にしない。絆……つまりは私自身も望んだことだった筈だもの」

 

 ゆかりはそう言って悲しみの表情で顔を下へと向けた。

 分かっていたことだった。

 

――<絆>

 

 負の感情、リバースコミュすらも絆としてしまう――<黒き絆>が全ての原因だったとしても、ゆかりは、そして美鶴達は責任全てを洸夜のせいにする気はなかった。

 当にそんな考えは捨てていた。

 

 そんな覚悟のお陰か、学生寮の景色は消えていき、気付けば再び奇怪な駅の景色へと変わっていた。

 そして悠と美鶴達の目の前には次のエリアへの階段があった。

 

「行きましょう」

 

「……うむ」

 

 悠の言葉に美鶴が応え、明彦達も頷くと彼等は階段を上がって行くのだった。

 

▼▼

 

 現在:黒の駅【第十エリア】

 

 先程までのエリアとは違い、この階には洸夜の過去の光景等はなく美鶴達は何の問題もな【第十エリア】へ入ったがエリアに入った瞬間、美鶴は我が目を疑った。

 

「これは……!」

 

 美鶴の視界に入ったのは先程までの構造やデザインではなく、完全に真っ黒な光景が広がっていた。

 完全な黒、闇、そして己の呼吸音以外は無音無臭。

 己の身体は見えるが、感覚が狂い、頭が混乱しそうになってしまうのは恐らくは時間の問題だった。

 

 しかし、美鶴はある事に気付いた。

 

「……皆!? 何処にいる!」

 

 美鶴は辺りを見回すが、辺りには悠やクマを始め、明彦やアイギス達の姿が無かった。

 

「くっ! 階の移動時に分断されたか!」

 

 美鶴は思わず苦虫を噛む様な心情で己の油断を後悔した。

 タルタロスでも似た様な事があったからと言って、この様な世界でも同じ事が起きない保証はない。

 ましてや、クマの言葉でこの世界には自分達への敵意や殺意に満ちているとあった。

 

 美鶴はこのダンジョンで少しでも気を抜いてしまった自分を恥じながらも、辺りを警戒していた時だった。

 

『皆さん! 聞こえますか!?』

 

 何も見えない黒の世界で突如、美鶴の耳に届いたのは風花の声であった。

 そして、それが彼女のユノの力である事も既に知っている為、それ程に驚くことはなく、美鶴は逆に冷静でいられた。

 

「風花か? 彼女は無事なのか!?」

 

 堂々と通信し、口調にも焦りがない為に風花は無事なのだと判断した美鶴。

 また、通信の内容も個人を指すと言うよりも、出来るだけ色んな人に聞かせる様な感じな為、美鶴は自分だけが離された訳でないと理解した。

 

『結論から言います。今、私は真田先輩と一緒にいるんですが、他の人は殆ど分断されている状況にあります』

 

 恐らく、美鶴達の声は聞こえていないだろう。

 同時に言われたりすればサポートに支障をきたすと思った為、風花は個人通信より誰でも聞こえる様に広範囲の通信をしていた。

 

 それは美鶴も分かっており、風花の言葉を静かに待った。

 

『あと、このエリアの事なんですが……実は、私でもよく分からないんです。ダンジョン全体を探知したのですが、探知がしづらくて……』

 

「やはり、そう簡単に突破はさせては貰えない様だな」

 

 風花の言葉に美鶴はやれやれと、ここにいないであろう洸夜の影に対してそう言った。

 薄暗いを通り越し、完全な闇のフロア。

 闇討ちには持ってこいの状況だ。相手に地の利があるならば尚の事。

 

 そして風花もまた、再び通信しますと言って通信を切ってしまう。

 探知に力を集中したいのだろう。

 

「明彦と一緒だと言っていたな。なら、彼女は安全な類だ」

 

 戦闘歴が長く、今でも心身共に鍛えている明彦はメンバーの中でも強い位置にいる。

 純粋な接近戦ならば最強かも知れない。

 

 そんな明彦が側にいるのだ、風花は明彦のサポートによって探知に集中出来ると思える。

 ただし、昔の様な無鉄砲な所が再発しなければだが。

 

 美鶴は信頼と一緒に不安な部分も思い出し、思わず溜め息を吐いてしまう。

 

「ハァ……私から他のメンバーに連絡は出来ない。こんな事ならば、無線機も装備しておくべきだった」

 

 影時間でも使用できる桐条製の特別な無線機。

 ここで使えるかは分からないが、無いよりはマシと美鶴は思っており、持っていない事に後悔するが、所詮は無い物ねだり。

 

 美鶴の中で、無線機も今後の必需品のリストに入り、今後に生かそうと美鶴は内心で誓ったその時だった。

 辺りの空気が変わり、重苦しく、空気がピリピリとし始めたのを美鶴は感じ取る。

 

――やはり来たか。

 

 自分達を潰したいのだ。相手がこんな奇襲に持ってこいの環境で来ない訳がない。

 美鶴は下手に音を出さず、サーベルに手を伸ばすと意識を辺りに集中させる。

 静か過ぎるが耳鳴りすら聞こえない無音の空間。

 この重苦しい空間を肌で感じながら、美鶴は更に意識を集中させた。

 

 音がした場所、そこにも何かいる。

 仲間ではない、別の忌々しい存在が。

 静かな間、少しの時の流れ。

 

――そして、その時はやって来る。

 

 背後から、ガタッと音が発生し、美鶴は俊敏に身体全体で振り向くと思わず首を傾げそうになった。

 

「……なんだアレは?」

 

 美鶴が向いた先にいたのは、カタカタと音を鳴らす人の形をしたよく分からないシルエットだった。

 よく見えない為、人形としか認識できず美鶴は目を凝らし、それの正体を確認しようとした。

 

 そして、相手も美鶴に気付いたのかゆっくりと美鶴の方へと近付いて来る。

 美鶴も、静かにサーベルを持つ手に力が入った。

 

 そして美鶴の目の前に、その正体が姿を現した。

 

「……明彦か?」

 

 美鶴の目の前に現れたのは、真田明彦その者の姿だった。

 なんだ明彦か、等と少しだけだが安心した美鶴だが異常はすぐに気づいた。

 

「待て……明彦は風花と共にいる筈!? では、この明彦は……!」

 

 近付いて来る明彦?から咄嗟に距離を取る美鶴。

 すると、それに反応したかの様に明彦?は飛び上がり、美鶴目掛けて拳を降り下ろした。

 

「……っ!?」

 

 美鶴はバックステップでそれを回避するが、地面には亀裂が入る。

 人の力ではない。

 美鶴もそれに対応し、戦闘態勢に入った。

 

「何者だ……お前は?」

 

 地面に拳をめり込ませたままの明彦?へ、そう問い掛ける美鶴。

 明彦?は、一瞬だけ痙攣の様に身体を震わせると顔を上げた。

 

「なっ!? 人形か……?!」

 

 その明彦?の顔は、まるで木偶人形の様に口が四角のスライド式、眼も無駄にリアルな出来だが左右非対称な動きをしながら美鶴を見つめた。

 

 よくよく見れば、間接部分も綿の入った人形の様にペッタンこで完全に人ではない。

 そして、アキヒコドールは口を高速で動かし、カカカカッと音を発しながら再度美鶴へと襲い掛かった。

 

『カカカカッ!』

 

「正体が分かれば容赦はせん! アルテミシア!」

 

 美鶴はアルテミシアを召喚する。

 召喚されたアルテミシアは刃の鞭をアキヒコドールへと放ち、そのまま突き刺さった瞬間、アキヒコドールは氷付けとなりそのまま氷殺された。

 

 案外呆気ないものだったが、美鶴はサーベルをしまわず、そのまま辺りを警戒した。

 自分に来たと言う事は他のメンバーにも敵が向かっている筈だが、問題は場所だった。

 

「しかし、どうやって……!」

 

 真っ暗で脳も混乱しそうなフロアで、下手に動けば自分が危ないのは目に見えている。

 なんとか効率良くメンバーと合流したいが、今の状況で風花から何も通信が無いのは恐らく彼女達も襲われていると判断するのが妥当。

 

 美鶴が何とか知恵を振り絞ろうと、額に手を付けた時だった。

 

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ! <変な桐条先輩>からの襲撃だぁ!!?」

 

 先程まで無音だったフロアの中、居場所が特定された。

 声で既に分かっていたが、こんな所に来てまで緊張感のない叫び声をあげるのは一人しかいない。

 

「……順平だな」

 

 無事の確認から来る安心か、それとも情けないからか、美鶴はやれやれと溜め息を吐きそうなったが、今はそんな場合ではない。

 声の感じからそれほど遠くはないと判断した美鶴は、先程の声を頼りに順平達の下へと走り出す。

 

 暗闇の中では方向感覚も狂ってしまう……だが。

 

「うおぉ!? この変な桐条先輩なんなんだよぉぉ!」

 

「順平! 少し黙りなさいよ!?」

 

「二人共、喧嘩しないで下さいよ……」

 

 認めたくはなかったが、この声が自分と順平達の距離を教えてくれている事に美鶴は悲しくなった。

 しかも先程から変な桐条先輩と連呼しており、それが更に美鶴の羞恥心と怒りのボルテージを上げて行く。

 

 恐らくは先程のアキヒコドールの美鶴版が純平達を襲撃しているのだろう。

 美鶴もそれは理解していたが、やはり何か嫌だった。

 

――早く合流しよう。そしてこのふざけた叫び声を止めさせる!

 

 そう決意する美鶴だったが、辺りは闇で床は愚か壁も識別しずらい。

 此方から呼ぶのも良いが、敵を近付けるかも知れない為に声を出すのは躊躇われる。

 

 だが、それでも幸いなのは手探りに近いとは言え順平達が確実に美鶴の方に近付いている為、何もしなくても着実に美鶴と順平達の距離が縮んでいる事だった。

 

 そして、美鶴がある所で曲がった時だった。

 

「あっ! 美鶴さん!?」

 

 曲がった先にいたのは、此方に走って来ていた乾達の姿だった。

 だが、背後からは余計な者も一緒に美鶴の方へと向かって来てもいた。

 

『カカカカッ!』

 

 赤い髪が目立つ先程のアキヒコドールと類似した美鶴人形が乾達の後ろを走っていたのだ。

 その右手には美鶴同様にサーベルまで持っている。

 そして、追い掛けられている順平とゆかりも乾の言葉で本物の美鶴の姿に気付く。

 

「美鶴先輩!」

 

(一瞬、人形だと思っちまった……)

 

 乾やゆかりとは違い、何故か目を逸らす順平はさておき、なんとか合流に成功した美鶴達。

 しかし、危険はそんな彼女等に容赦はしない。

 

「伏せろ!」

 

 美鶴は咄嗟に叫び、順平達はそれに従った伏せた。それと同時だった。

 ミツルドールが飛び掛かり、順平達に攻撃を仕掛けて来たのが。

 

 だが、美鶴は既に気付いており、カウンターと言わんばかりにサーベルを素早く降り下ろしミツルドールを両断する。

 

 勢いがあった為、それほど難しくはなく、自分がモデルであったとは言え美鶴は容赦はしなかった。

 そして、斬られたミツルドールは空洞の中身を見せながらその動きを止めた。

 

「人形……?」

 

 正体が分かっていなかったのか、ゆかりは息を乱しながらそう呟いた。

 

「他のメンバーは?」

 

 素早く順平達の状況を知ろうとする美鶴の言葉に、乾が答えた。

 

「僕達三人だけです。風花さんからの通信が途絶えたと思った矢先、さっきの人形が……」

 

「って言うか、この状況で風花から何も連絡無いって事は……」

 

 乾に続く様に順平は呟き、その意味を理解した美鶴は付け足した。

 

「恐らく、我々同様に襲われて探知どころではないのだろう。不幸中の幸いなのが明彦と共にいる事だ」

 

 はっきり言って風花の単独での戦闘能力は比無である。

 その為、何の守りも無い探知中の風花は無防備この上ない状況になってしまう。

 今回は幸いに明彦がいる為、その点は何とかなっているが問題は他にある。

 

「って事は、今状況が分からないのは……アイギスとコロマルとチドリさん。そして、悠さんとクマ?」

 

「そのメンバーなら大丈夫だとは思うけど、もし単独だったら……」

 

 ゆかりは心配そうに辺りを見渡すが、景色は真っ暗な闇の世界だった

 

「クソッ! 目が慣れるって問題じゃねえぞ。こんな真っ暗でサポートも無しじゃ、皆と合流どころか出口だって見付かりやしねえぜ!」

 

「落ち着け順平。ここで冷静さを失えば相手の思う壷だ。ここは何とか壁づたいにーーー」

 

 美鶴がそこまで言った時だった。不意に彼女達の目の前に黒い水溜まりが出現した。

 

「これって!」

 

 咄嗟に叫ぶゆかりを前に、水溜まりはやがて球体へと姿を変えるとそのまま裂け、巨大な口と舌を出すアブルリー系のシャドウが立ちはだかった。

 

 更に言えば、そのシャドウからは何処となく殺意に近い感情を感じ取った。

 ペルソナ使いだからじゃない。

 もっと別の意図があるとしか思えない程に尋常じゃない負の感情。

 

 親の仇でも見るかの様に、そんな感情を剥き出しのシャドウが四体も襲撃してきた理由、その答えは一つ。

 

「やはり……確実に殺しに来ているな」

 

「洸夜さんの……シャドウ」

 

 美鶴と乾が呟いた。

 しかし、事はそんなに悠長にしている暇等はなかった。

 洸夜や他の仲間の無事も分からず、不安が絶えない。

 

「なんなのよ……もうっ!!」

 

 ゆかりは空中に浮かぶアブルリー達に矢を放った。

 

 風を切る矢はそのまま一体のアブルリーへ刺さり、アブルリーは空中分解する様に消えて行く。

 だが、それはあくまで一体のアブルリーに過ぎず、残り三体は巨大な舌を使って矢を弾いて攻撃を避ける。

 

「カーラ・ネミ!」

 

 それを見た乾が追い討ちを掛ける形でペルソナを召喚した。

 巨大な身体のカーラ・ネミが宙に浮き、アブルリー達にジオダインを放った。

 拡散する様に放たれたジオダインは、まるで多数の鞭の様に揺れる様な動きでアブルリー達を呑み込み消滅させた。

 

「全滅? いや!? 一匹生きてーーー」

 

「アルテミシア!」

 

 気付き声を発した順平の声を遮り、美鶴はアルテミシアの鞭で焦げたアブルリー最後一匹を絡め取ると、モーニングスターの様にアブルリーを鉄球代わりにして地面に叩きつけるとアブルリーは消滅する。

 

「何とかなったけど、皆の声も聞こえないし……風花からのサポートも無しじゃあこのフロアを脱出できないわよ」

 

 無駄撃ちしてしまった矢を回収しながら、ゆかりは言ったがその通りだった。

 このままではシャドウの奇襲が再び来るだろう。

 何としても早めにエリアを突破するしかなく、美鶴は己の無力さを呪った。

 

――クッ! 探知妨害と五感制限のフロア……風花でも苦戦していたんだ。私のアルテミシアでどうこう出来るレベルではない!

 

 何とか出口まででもと、美鶴は己のペルソナが持つ探知能力を使うが所詮が噛む程度しかない力。

 メインである能力でも無い為、フロアの探知が全く出来ない。

 やはり餅は餅屋。

 

 下手なサポートは己の力を無駄に浪費するだけだと理解し、美鶴は僅かな探知能力を止める。

 無いよりマシだが、有っても意味が無いならただの無駄装備。

 万が一なんていらない。使って効果が得られた時こそに、それの価値が輝くのだから。

 

「どうする……!」

 

 短い時間の中、風花のサポート無しで視界の悪いフロアの突破の答えを美鶴達が要求されている時だった。

 彼女等に聞き覚えある音色がフロアに木霊した。

 

――チリーン……!チリーン……!

 

 長く鳴り続ける音色。

 この様な限られたフロアでは、これ程まで長く全体に鳴り続ける筈はない。

 だが、現に音色は鳴っている。

 金属の不快な音ではなく、風鈴の様な心が不思議と落ち着く優しい音色。

 その音を美鶴達は知っていた。

 

「この音……!?」

 

「鳴上先輩の……鈴?」

 

 己の鈴を取り出して見るゆかりと純平。

 同時に美鶴と乾もそれぞれの鈴を取り出した。

 それは洸夜から貰った特別な鈴。

 

 本人が安い鈴だと言っていた為、安心して受け取れた物だが安いと言う割りにかなり丈夫で音色も心地よい。

 S.E.E.Sメンバーだった者は全員が受け取っており、今でも大事に身に付けている鈴だった。

 

 なにせ洸夜との数少ない繋がりだからだ。

 

 そして各々の鈴を見る美鶴達だが、どの鈴も鳴ってはいなかった。

 しかし、だからと言って何も起こっていない訳でもなく、美鶴は我が目を疑った。

 

「なんだこれは、鈴が……光っている?」

 

 美鶴の赤い鈴は彼女の手の中で、まるで蛍の光の様に光を発していた。

 赤い色が助け、蝋燭の火の様に優しく心落ち着かせる光であり、その現象は他の三人にも発生していた。

 鈴の音色が鳴りやまない中での不思議な現象。

 美鶴達はそれに只々、目を奪われてしまっていた時であった。

 

――チリィーン!

 

 不意に自分のすぐ側で鈴が鳴ったのを美鶴は気付き、反射的に音色の発生場所の方を向いた。

 明彦や悠達かも知れない。

 そう思った美鶴だがその目に写った現実は、事実は小説より奇なりであった。

 

「ッ!? 白い……鈴……!」

 

 美鶴はそれを見た。

 暗い闇の中、白く光った小さな鈴を腰にぶら下げた人物の影を。

 すぐに曲がり、背中から足までは見えたがなんせ一瞬しか見えなかったのだ。

 誰なのかまで分からない。そう、実際ならば。

 

 しかし、美鶴は誰なのかは分かった。

 いや、分かってしまった。

 

「まさか……! いや、そんな筈は……」

 

 己の答えを否定する美鶴。

 しかし、彼女の心は何度もその答えを提示して行く。

 

 それが答えだと、それが真実だと示すかの様に。

 また、その光景を見たのは美鶴だけではなかった。

 

 ゆかりも順平も乾も目撃しており、全員の眼は先程見た場所をずっと固定したままだ。

 

「今の……でも、そんな……!」

 

「いやいや、あり得ねって……だって、さっきの後ろ姿……!」

 

 困惑する二人。仕方ない事だった。

 その姿は、本来ならばもういない人なのだから。

 

「……罠でしょうか?」

 

 困惑はしているが、冷静に判断して考えた事を言う乾。

 精神的攻撃が狙いならば、これ以上に無い程に有効なのは美鶴達全員も認めるだろう。

 

 同時にそれは、決して許される事では無い事も。

 だが、美鶴達全員が感じていた事もあった。

 

 それは、先程の姿が何故か不思議と安心できたのだ。

 罠でここまで出来るのか、それ自体も罠と言えば切りがない。

 

「美鶴先輩!? シャドウが!」

 

「あの数は……まずいっ!?」

 

 ゆかりと美鶴が見たのは、壁や床から涌き出てくるシャドウ達の姿があった。

 視線と殺意を美鶴達に向けるシャドウの群れ。

 

 最早、猶予は無くなった。

 その時だった。ゆかりが先程の白い鈴を持っていた人物がいた場所へ走り出した。

 

 それに戸惑う順平は、手を前に出して止めに入った。

 

「ゆかりっち! そっち行ってどうすんだよ!? 罠かも知れないだぜ!」

 

 追い詰められている中でのリスクに飛び込む行為は避けたい順平だが、ゆかりは違い、振り向いてこう言った。

 

「どっちにしたって追い詰められてるんだから! 今更、罠の一つや二つなによ! それに……」

 

「それに……?」 

 

「『彼』と洸夜さんの鈴までは……疑いたくないの」

 

 ゆかりはそう言って、洸夜から貰った桃色の鈴を握りながらそう言った。

 

――大切な絆。あんな事をしておいて何を言っているんだと、ゆかり自身もそう思っていたが、だからこそ『彼』と自分達と洸夜の最後の繋がりである鈴まで罠だとしても疑いたくなかった。

 

 その言葉に、ゆかり以外の三人も思う事があったのか何も言えなかった。

 そして、再びゆかりが走り出すと今度は美鶴と乾も後を追う様に走り出す。

 

「えっ!? 桐条先輩! 乾もか?」

 

「ああ、私も疑いたくない。『彼』と、洸夜との鈴を……」

 

「どの道、後ろからシャドウが来ます。だから、僕は行きます」

 

「そう、だよな……」

 

 順平が呟くと、美鶴と乾はゆかりを追う様に走り出し、その二人を追う様に今度は順平も走り出した。

 後ろからシャドウ達が追い掛けてくる音が聞こえて来る。

 もう、これで後戻りも断たれた。

 

 白い鈴の音色を頼りに走り続ける美鶴達。

 右と左も分からず、ただ音色の方へ従い曲がり、そして走り続ける美鶴達。

 だが、いくら走ってもその距離は縮まない。

 一瞬、見える姿は普通に歩いている様に見えるがスピードが合っていない。

 

 速度を上げるが一瞬しか見えない。

 何とか見えないものかと、無意識の内に足が速くなるがやはり見えない。

 

 そんな事を幾つか繰り返す内、その時は起きた。

 ある場所を曲がると、美鶴達の目の前には次のエリアへの階段があった。

 

 白い鈴を持っていた者の姿はなかったが、次のフロアへ行けるのだ。

 この最悪な環境のフロアから脱出出来るが、美鶴達はすぐには登れなかった。

 

「明彦達は……いないか」

 

 階段の周囲を美鶴は見渡すが、何処にも明彦達の姿はない。

 まだ迷っているかも知れない中で、自分達だけが先に行く訳には行かない。

 

 だが、現実は美鶴達に迫って行く。

 

「やべっ! また来たぞ!?」

 

 順平の声に美鶴が振り向くと、シャドウが追い掛けて来ていた。

 スピードも速く、モノの数十秒で追い付くだろう。

 

 最悪、ここで皆が揃うまで戦う。

 そう、美鶴達が決心した時であった。

 突然、階段の周りから大きな光が発生し美鶴達を呑み込み、そのフロアから美鶴達は消えていた。

 

 

▼▼

 

 現在:黒の駅【第十一エリア】

 

「うっ……一体、何が……?」

 

 突然、光に呑み込まれた美鶴達。

 閃光弾の様な強烈な光では無かったが、うっすらと認識して行く視界は先程のエリアとは違うのが分かる。

 

 自分達に一体何が起こり、そしてどうなったのかを美鶴が確認しようとしていた矢先だった。

 

「美鶴……か?」

 

 声の方を美鶴が振り向くと、そこにいたのは困惑気味に自分を見る明彦の姿であった。

 だが、更に周りを見るといるのは明彦だけではなかった。

 先程まで共にいたゆかり達、そして別れていた風花やチドリ、コロマルが困惑気味に互いを見ている光景があった。

 

「明彦……? それに風花達も? 本当になにが?」

 

 先程のショックから頭を抑えながら美鶴が更に辺りを見渡すと、今自分達がいる場所は今までの異質な駅のエリアとは違い、広々とした一つの大部屋の様なエリアであった。

 

「明彦。お前は風花と共にいたんじゃなかったのか?」

 

 美鶴からの問いに、明彦は何とも言えない様な表情で頭を弄る。

 

「ああ、確かに俺は山岸と一緒にいた。だが、山岸がお前達に連絡した後、シャドウに襲われてな……その時なんだが」

 

 明彦は言葉を詰まらせる。

 何か言いずらい事でもあるのかも知れない。

 だが、美鶴は明彦が何を言いたいのか分かる気がした。

 

「白い鈴……でも見たか?」

 

 平然と言う美鶴の言葉だったが、それは図星であった様だ。

 明彦だけではなく、別行動していた者達全員が大きく眼を開いた。

 

 

「どうやら……俺と山岸だけじゃない様だな」

 

「と言う事は、美鶴さん達も見たのですね? 白い鈴を持つ人を……」

 

 アイギスのその言葉に美鶴は頷いた。

 全員が見ていた白い鈴を持つ者は同時に皆の所に出現していた。

 

 洸夜の影の罠ではないか、等と色々と疑問が存在しているが美鶴達には実はそんな事は大した問題ではなかった。

 

 一番の問題は<白い鈴>を持っていると言う事だ。

 

「……前に洸夜さんが言ってましたよね? 黒い鈴と白い鈴は一個ずつしか持って無いって」

 

「あ、あぁ……それは俺も知ってる。他の色はかなり被ってるけど、その二つだけはそれしか無いんだよな?」

 

 乾と順平が疑問の理由を話し出して行き、それに続く様にアイギスが付け足して行った。

 

「黒い鈴は洸夜さんが……そして、白い鈴は『あの人』が……」

 

「……何故、この世界にいたんだ? そもそも、本物だったのか?」

 

「しかし、明彦、お前も実際に見てあの鈴は本物だと思ったから言ったのだろ?」

 

 美鶴の言葉に明彦は小さく頷く様に、ああ……と言った。

 明彦は別に怪しんでいる訳では無く、ただ困惑しているのだ。

 もし、実際に目撃したのが『彼』ならばそれはそれで謎が生まれてしまう。

 

 それは、ゆかりも同じ様で風花の方を向いた。

 

「風花も見たのよね? 何か感じなかった?」

 

 探知タイプの風花ならば何か気付いたのかと思ったゆかりだが、風花はその問いに首を横へ振った。

 

「ごめんなさい……私も見たんだけど、何も感じなかった。まるで、そこには何も存在してなかった様に」

 

 風花の言葉に全員が頭を下へ向ける。

 謎が謎を呼んで行くだけだった。

 

 犬であるコロマルはどうかと思い、無意識に皆の視線はコロマルへ向いてしまったが、コロマルはクゥンっと一鳴きすると前足で器用に顔を隠してしまった。

 

「何も感じなかったそうです」

 

 アイギスが通訳してくれたが、それは言わなくても分かった。

 結局、答えは分からず終いになりそうだ。

 しかし、やはりと言うか表情は不思議と笑みが生まれる。

 居なくなって尚、色々と『彼』らしい気がしたからだ。

 

 静かに微笑む面々だが、チドリがある事に気付く。

 

「あれ? 悠とクマは?」

 

 その言葉にハッなって美鶴達は辺りを見るが、何処にも悠とクマの姿はなかった。

 寧ろ、今まで何故気付かなかったと思ったが、過ぎた事は仕方ない。

 そして、美鶴はある答えを思い付く。

 

「まさか、まだ先程のフロアにいるのか!」

 

「迷子でしょうか?」

 

「アイギス。あの歳で迷子は無いだろう? どちらかと言えば遭難だな」

 

「いやいやいやっ?!アイギスも真田先輩も何、馬鹿な話ししてるんすか!」

 

「助けに行きましょう!」

 

 順平と乾がツッコミを入れながら後ろの階段の方へ近付いた時だった。

 突如、下への階段への入口全体を七色の鎖が封鎖する。

 ジャラララッと音を出しながら何重にも重なり、入口がどんどん見なくなって行く。

 

「なにこの鎖……!」

 

 突然の鎖の出現に顔を歪ませ、不快感を出すチドリ。

 だが、このままでは悠達が救出できない。

 

 そんな時、明彦が入口の前に立った。

 

「皆! 下がっていろ! 来い、カエサル!」

 

 明彦はペルソナを召喚すると、カエサルは巨大な剣振り上げると鎖目掛けて降り下ろした。

 巨大な質量の攻撃。

 

 人間やシャドウでもただではすまない攻撃だ。

 細い鎖で話にもならないだろう。

 

 そう、誰もが思ったが、カエサルの剣が鎖の束に当たる直前、ガキンッ! とまるで壁でも叩いたかの様に弾かれたのだ。

 勿論、鎖にダメージはありはしない。

 

「なんだと……!」

 

 まさか傷一つ付かないとは思っていなかった明彦は、鎖を睨み付けながらそう言った。

 まるでペルソナやシャドウの物理無効スキル。

 どうすれば良いのか、皆が考え様とそれぞれが振り向くと、フロアの真ん中に佇む者に気付いた。

 

 それは、美鶴達に見覚えのある人物の後ろ姿でもあった。

 

「洸……夜? いや、あれは……!」

 

 美鶴はすぐに気付いた。

 後ろ姿は洸夜だが、服装は多色の鎖のデザインが施されている。

 それは、洸夜の影の姿。

 

だが、美鶴達は別の事にも気付くと、思わず眼を鋭くして睨んだ。

 

美鶴達が見たモノ、それは……。

 

『コーヤ ノ セイダ! コーヤ ノ セイダ!』

 

『マモッテクレナカッタ! マモッテクレナカッタ!』

 

 洸夜の影の周りに揺れ動く、先程のエリアで襲ってきた人形達だった。

 美鶴、明彦、ゆかり、順平の姿に類似した形をした人形達が、洸夜の影に揺れ動きながらそう言っている。

 

 そう、それは洸夜と美鶴達の一件にとても類似していた。

 完成度は子供のお遊戯会の様に幼稚であったが、それが美鶴達の心を逆撫でして行く。

 

 そして、その光景に我慢が出来なくなったのか、美鶴と明彦が洸夜の影の下へ走り出すと、アイギス達も続く様に走り出した。

 

 そんな距離がある訳でもなく、美鶴達が洸夜の影の下へすぐに着いた。

 すると人形達が突然、震え出した。

 

『!?』

 

 元々の自分達のいた場所でバラバラに崩れさる人形達。

 それはそれで不快な光景であったが、そんな美鶴達に背を向けている洸夜の影がそのまま話し出した。

 

『やはり来たか……黒き絆を築いた者達よ。数多の駅を乗り越えた真なる絆を持ちし者達よ』 

 

「あんたの目的はなに? 自分は鳴上先輩だとか言うけど、この事が先輩の望んでる事なの!?」

 

『勿論だ。オレは洸夜で、洸夜はオレだから』

 

「その割には、洸夜さんらしい所が余り無い気がするんですけど?」

 

 洸夜の影の返しに乾が更に返した。

 洸夜の記憶を除けば、この世界やシャドウの行動は洸夜らしく無いと言うのが乾なりの答えなのだ。

 

『洸夜らしい……?』

 

 乾の言葉に反応を示す洸夜の影。

 何か思う事でもあるのかと思ったが、洸夜の影は大きく笑いだした。

 

『ク……ククッ……アッハッハッハッハッハッハ!』

 

 大きく、そして狂った様に笑い出す洸夜の影。

 タガが外れた如く大声で笑い、フロア全体に響き渡る。

 

「何がおかしいの……?」

 

 この笑い声が気に入らなかったのか、少し機嫌悪そうにチドリは洸夜の影に問い掛ける。

 それに対し洸夜の影は、そのシャドウ特有の禍々しく輝く金色の瞳でチドリ達を見据えた。

 

『黒き絆を築いた者達が何を今更……分かっている筈だ! 真なる絆とはなにか!』

 

「真なる……絆?」

 

「グルルル……!」

 

 洸夜の影の言葉に反応するアイギスとコロマル。

 思う事がある様に考えるアイギス、言い方が酷く、皆を悲しませる洸夜の影に敵意を向けるコロマル。

 

 話し方が曖昧なのだ。

 そろそろはっきりさせたい。

 

「……じゃあ。あなたの言う真なる絆って何なの?」

 

 風花は恐る恐ると言った風に聞き返した。

 すると、洸夜の影は再び表情を一変させると感情が無い様な無表情となった。

 

 人形の様に固定された表情はあまりに不気味であり、美鶴達に不気味さを与えるのには十分であった。

 

『真なる絆。それは……怨み、怒り、憎しみ、嫉妬、復讐。とても強い感情を媒体とした黒き絆だ』

 

 そう言いながら、更に禍々しく輝く洸夜の影の瞳。

 美鶴達もその瞳を見ていると、深い何か恐ろしいモノに呑まれそうな感覚に襲われてしまう為、話を聞くだけでも己を失わない様に集中する。

 

「……そんな感情。信頼も何も無いんだから寧ろそっちの方が絆なんて築けそうに無いけど?」

 

 一方的な言葉を並べる洸夜の影に対し、ゆかりが負けじと食って掛かる。

 しかし、洸夜の影は声を低くしながら言った。

 

『本当にそうか? 実際にそう言えるのか? お前等も本当は分かっている筈だ』

 

「……とっとと言えよ」

 

 洸夜の影の言葉並べに反論する気も失せたのか、順平は眼だけ睨みながら呟いた。

 そして、聞こえていたかどうかは分からないが、洸夜の影は順平の呟きからすぐに語り出した。

 

『例えば、最も最たるモノは<虐め>だ。互いを又は片方を一方的に傷付ける行動。下らない事で消える絆とは違い、これによって生まれる絆はとても強い……』

 

「……絆? 虐めが……誰かを一方的に傷付ける事が?」

 

 洸夜の影の言葉に風花は苦しそうに顔を下へ向けてしまう。

 虐めを体験している風花だからこそ、そして洸夜を大切に思っているからこそに風花にとっては二つの意味で辛い言葉だ。

 

「聞くな山岸! 虐めやら何やら、そんなモノは自分より下にいる者がいなければ不安がる本当の意味での弱者がする事だ!」

 

「ワンッ! ガルルル……!」

 

 強さに人一倍敏感な明彦とコロマルが反論し、風花を守ろうとするが洸夜の影の話は終わっていない。

 

『ならば聞くが、親友と呼べる者がいた。その時は楽しい思い出が生まれて行く。だが、下らない事でそれが消え、相手が憎しみの対象となった時に楽しい思い出はあるか? 憎い、相手の幸せや笑顔が胸糞悪い、最悪……死を望まないか?』

 

「……」

 

 沈黙を決め込む美鶴達。

 下手な反論しても何か言葉遊びしてくるのは目に見えている。

 ならば、いっそのこと全てを出させるまでは傍観者を決め込むのが得策だ。

 

『だが、虐めや嫉妬や憎しみはどうだ? 虐め側は忘れても、やられた側は決して忘れない! 何があっても忘れない……強い繋がりだ。これこそが黒き絆!』

 

 表情は一切変えず、口調だけで感情の全てを語る洸夜の影。

 その姿はまるで何者かの代弁者の様だった。

 

『その繋がりは長年経っても消えない! 寧ろ、新たな絆となって強くなる! 虐めと言う絆を与えた側の様に、与えられた側は恐怖、憎しみ、復讐と言う新たな絆を与え、繋がりは強くなる! 与えた側が忘れ、その者に大切な者達が生まれたとしても与えた側は絆を返そうとやがて<死>と言う絆によって真なる絆が完成する!』

 

 金色の瞳は更に輝きを増して行く。

 まるで、自己暗示を己に掛けているかの様な光景に、美鶴達は傍観者から不快感や嫌悪感によって言葉を失ってしまっていた。

 

『そして、完成された絆は新たな絆を永遠に生み出し続ける。次は嫉妬? 憎しみ? 復讐? 怒り? 幾つも繋ぐ無限の絆……まさに強く、永遠に続く真なる絆だ』

 

「狂っている……! 洸夜……これがお前の……私達が築いてしまった絆なのか……!」

 

 美鶴が漸く絞り出せた言葉はそれだった。

 最初に傍観者になったが、それは失敗であり、洸夜の影は何を言っても無駄だと漸く分かったからだ。

 

『本当に狂っているのはどっちだ? 自分可愛さだけの偽りの絆より、愚かな子供から意味なく老いる大人達でさえ築く絆の方が良いだろ? 永遠に忘れない絆。負の感情こそ……真なる意味での本当の絆だ!』

 

 まるで宣戦布告でもしているかの様に洸夜の影は言い放った。

 全てを出しきった、いやそれが洸夜の影の全てだと美鶴達は不思議と分かってしまった。

 

 だが、だからと言ってこれが洸夜の本心とは思っていない。

 美鶴達は洸夜と共に生活した数年の己の記憶に嘘はつけなかった。

 しかし、洸夜の影の瞳は美鶴達を捉え続ける。

 先程、言った事を真実だと思い込ませるかの様に瞳を輝かせながら、だがその時だった。

 

「違いますっ!!」

 

 突然の声に美鶴達は我に帰る。

 そして、クラッカーの様なショックを与えた言葉の元である風花の方を見た。

 

「確かに、虐めとか……傷つけられる事は忘れる事は難しいし、辛い事でもある。でも、その先が復讐や憎しみだけじゃない! 新しい繋がりが生まれたり、分かり会える事だってある! 私がそうだった様に!」

 

 嘗て、虐めの対象であった風花はその者達によって夜の学校、その体育館の倉庫に閉じ込められた事があった。

 

 閉じ込めた者達は、やがて誰かが見付けたり自力で脱出すると思っていたが、風花はそのままタルタロスへ迷い混んでしまう。

 

 そして、風花を閉じ込めた者達の一部が謎の症状で意識を失って行き、漸く事の重大さに気付いた一人の加害者が当時の美鶴達に相談する事態となったのだ。

 

 その加害者が、森山夏紀と言う風花のクラスメイトであり、事件の後に風花の親友となった人物である。

 虐める側から今度は風花の友として守る側になった夏紀。

 

 やがて彼女は転校する事となるが、今での彼女と風花の絆は消えていない。

 寧ろ、強くなっている。

 勿論、世の中は風花の様に救われた者ばかりではないが、実際に体験し学んだ彼女だからこそ洸夜の影に反論しているのだ。

 

 また、それを教えてくれた者の中に、洸夜も入っている事も風花を洸夜の影に立ち向かわせる力となっている。

 

『……おめでたい奴だ。そんなもの、加害者が己の罪と罪悪感を精算したいが為の行動だと何故気付こうとしない? 絆の根元は、自分だけの為にと言う欲が生んだものでもある』

 

「あなたが洸夜さんの姿で何と言おうと、私はナツキちゃんを信じてる! 勿論、私の大切な仲間の人達も!」

 

 風花の言葉と共にユノが召喚され、彼女を優しく包み込んだ。

 それは、洸夜の影に立ち向かう事への風花なりの意思表示でもあった。

 

『お前がそうでも他はどうだ? この場にいる理由に、洸夜と弟である悠への罪悪感からでは無いと仲間達に誓えるか』

 

 無表情だが迫力の籠った洸夜の影の言葉に、思わずゆかりと順平は眼を逸らしてしまったが、美鶴は自分に言い聞かせる様に答えた。

 

「言い逃れはしない。私の中には確かに洸夜とその家族への申し訳なさがある。だが、ここまで来たのは洸夜に会いたいと言う私の意思だ! 例え、その結果が己を傷付けるだけになろうとも私はそれを受け止める!」

 

「俺もだ。洸夜から逃げる事は幾らでも出来る。だが、過去を背負ってアイツに会う、今がその時だ!」

 

 洸夜の影に、美鶴と明彦も己の意思表示を示しそれに答えるかの様にアルテミシアとカエサルが主の隣に降り立った。

 

「洸夜さんは僕に家族として接してくれました。荒垣さんへの復讐心だけで生きてきた僕に、洸夜さんは家族の暖かさを思い出させてくれた。だから僕はここにいる、洸夜さんや『あの人』……皆さんの為に!」

 

「私も皆から未来を貰った。これはきっと、これから先幾度と生まれ変わったとしても返せない物。だから、私は今は自分の意思で皆を助ける。メーディアも、もう無闇に誰かを傷付ける力ではなく、大切な人達を守る力だから!」

 

 それぞれの武器を構える乾とチドリの真上に降臨するカーラ・ネミとメーディア。

 主同様に、ペルソナ達も復讐や傷付ける力ではなく、誰かを守る存在に生まれ変わっている。

 

「私だって、もう眼を背けたくはないな。一応、子供達のヒーローなんだから、ちゃんと先輩に会わないと、自分のした事にケジメはつけられない」

 

「こう見えて俺だって、見た目と違って軽くはねんだ。鳴上先輩を助けるまでは途中放棄はしないぜ!」

 

「ワン!」

 

 ゆかり、順平、コロマル、それぞれの意思表示を済ませ、イシス、トリスメギストス、ケルベロスもその姿を現した。

 そんな姿に洸夜の影は更に声を低くし、美鶴達の行動に嫌悪感を露にした。

 

『それも己の自己満足に過ぎない。お前等も洸夜との黒き絆と『アイツ』の死があったからこそ、今まで心から消えなかったのだろ? 否定した所で絆は消えない!!』

 

 洸夜の影は高らかに叫び、美鶴達を全力で否定する。

 抑圧された存在、全てのペルソナの力を持つ愚者の片割れであるシャドウが自分達洸夜間の最後の障害であるのは美鶴達も既に気付いている。

 

「そうです。否定した所で真実は変わりません。あなたが洸夜さんだと言うならば、本当は分かっている筈です。本当の絆……繋がりを……」

 

 全てを見据えているかの様なアイギスの深く蒼い瞳が洸夜の影を捉えるが、そんな彼女の瞳と言動が洸夜の影の怒りに触れた。

 

『出来損ないのワイルドを持つ兵器人形が何をほざく! 感情もなく、自分の意思がなく全てを破壊する人形のお前が!』

 

「そうです、昔の私はただの兵器でした。ですが、もう誰か傷付けるだけじゃない! 大切な方々の為に私は戦う。『あの人』も……そう望むと思います」

 

 そう言って指の銃口を洸夜の影に向けるアイギスの隣に、彼女ペルソナであるアテナが舞い降りる。

 もう、美鶴達は止まらない。

 そう思わせる程何かを感じさせる程に。

 

『ワイルドばかりに頼っていた者達が調子にのるな。『アイツ』も洸夜も悠もいない。今のお前等に何が出来る?――さぁ、再び築こう。黒き絆を、戦いと言う名の新たなる絆を……!』

 

 洸夜の影はそう言うと指を鳴らした。

 それと同時に現れるのは巨大なシャドウだった。

 

 指から出る糸の様な物が美鶴達を模した人形を操り始め、人形達は狂った様な音を出しながら美鶴達へ襲い掛かり、美鶴達もそれを迎え撃つのだった。 

 

 

▼▼

 

 その頃、悠とクマはと言うと……。

 

 現在:黒き駅【第十エリア】

 

『……カ……カ……!』 

 

「大丈夫ですか、順平さん!」

 

「ジュンペー! しっかりするクマよ!?」

 

 真っ暗な空間の中、悠とクマは順平の形をしたドールを抱えていた。

 

 事の発端は風花からの通信の後、悠は共にいたクマの鼻を便りに皆と合流しようと考えていたのだが、曲がり角の直前、怪しい気配を感じた二人は先制攻撃を仕掛けた。

 

 そして、それが順平のドール。

 

 無駄に完成度が高い為か、それともわざとなのかは分からないが悠とクマは怪我をさせてしまったと思い、回復させながら出口を目指して行く。

 

「順平さんしっかり!」

 

「頑張れジュンペー!夜明けは近いクマよ!」

 

 彼等が美鶴達合流するのは、もうちょっとだけ掛かるのだった。

 

End

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