新訳:ペルソナ4~迷いの先に光あれ~   作:四季の夢

46 / 47
旧作の改行した内容なので、少し飽きがあるかもしれませんが少し待っていてくださいね。
数話したらオリジナル展開が入りますので(;´・ω・)


第四十二話:大型シャドウ襲来

 

 洸夜の影の隣に現れたのは巨大なシャドウだった。

 鳥のクチバシの様な細い顔、薄汚れた長い白髪、首に着けているあらゆるアルカナを示す仮面のネックレス、ボロボロで暗い色合いの洋服、裁縫針の様に細い指。

 

 段々と姿を露わにする敵の姿に美鶴達も息を呑んだ。

 

「な、なによ……コイツ!」

 

「大型シャドウ……!」

 

 ゆかりと風花がそれぞれ口を開きながらも、その姿を露にした大型シャドウ『ドールマスター』が洸夜の影の隣に降り立った。

 

『人の負の感情により生まれし、この大型シャドウ。お前等が黒き絆を否定するならば乗り越えて見せるんだな』

 

 そう言って姿を霧の様に消す洸夜の影。

 そして、洸夜の影が消えた事で全員の視線はドールマスターへと向けられ、ドールマスターは針の指から虹色に輝く光の糸をドール達へと繋いで行き、ドール達はまるで新しい命でも吹き込まれたかの様にカタカタと動き始める。

 

 シャドウには足が存在しておらず、空中に浮かびながらドール達を動かすその光景はまさに人形劇。

そんな命を賭ける人形劇に明彦も血をたぎらせる。

 

「どうやら、あの変な人形を操っていたシャドウは奴の様だな」

 

「どちらにしろ相手は大型シャドウだ。明彦、油断はするな。……風花、あのシャドウの情報は?」

 

 美鶴の問いにユノを召喚して探知をする風花。

 洸夜の影はジャミングで探知を妨害されたが、今度の相手はジャミング能力を持っていない為、風花も自分の力を大いに発揮出来た。

 

「<ドールマスター>……アルカナは【愚者】弱点属性は物理、耐性持ちは光と闇です」

 

「物理が弱点……ですか?」

 

「おっ? それなら俺達が有利だな!」

 

 アイギスの言葉に順平が嬉しそうに言った。

 普通に考えれば無理もなく、下手に属性攻撃や弱点無しよりはやり易い相手だと言える。

 下手に小細工等せずに、ただ殴れば弱点を突けるからだ。

 しかし、それは美鶴達だって分かっている事であるが、心配は別の所にある。

 

「あの人形達、さっきまでとは動きも雰囲気も違う……」

 

 チドリの呟きに順平を除く全員が頷く。

 例えるならば、先程までは烏合の衆だったが今は訓練された軍隊の様だ。

 

「どちらにしろ、戦わなければならない相手だ。あんなものでもな……」

 

『カカカ……!』

 

 美鶴が疲れた感じに呟きながらドール達を見るが、美鶴、明彦、ゆかり、順平の形をしたドール達はただ口をカタカタと動かすだけ。

 やれやれと、メンバー達もそう思った時、ドールマスターが指を動かすと同時にドール達が一斉に美鶴達へ襲い掛かって来た。

 

「そんな単純な動きで俺がやられる思ったか!」

 

 基本的に先程のフロアの時と同じ様に単純な動きで仕掛けてくるドール達に、明彦はそう言い放ってペルソナも召喚しないで拳で反撃しようと目の前の自分と同じ姿をしたドールへ仕掛けた。

 だが、その時、明彦に思いしない事が起こった。

 

『ジオダイン!』

 

「なっ! クッ……!?」

 

 突如、明彦目掛けて拳の先からジオダインを放つアキヒコドール。

 身体を仰け反らして避けたは良いが、ジオダインが少しかすり、露出の多い明彦の服装が災いして身体に僅かに焦げあとが残ってしまう。

 自分の失態に思わず舌打ちする明彦だったが、ドール達の攻撃は終わらない。

 

『ブフダイン』

 

『アギダイン』

 

『ガルダイン』

 

 次々に放たれる属性技に対し、美鶴達は咄嗟にペルソナを召喚してそれを防ごうとする。

 

「ペルソナ!」

 

 美鶴達はペルソナを召喚し、相手の属性技に耐性を持つ美鶴達が前に出てそれを防いだが、それだけでは安心できないのが現状だ。

 

「明彦! ペルソナを召喚しろ! この人形達は既に生身で戦える相手ではなくなっているぞ!」

 

「分かっている。カエサル!」

 

 美鶴の言葉に明彦も漸く召喚するが、ドール達はそれを見て後退して行く。

 無闇な攻撃はしないのか、それともただの様子見かは分からないが、ドールマスターは気味の悪い笑みで美鶴達を見下す。

 

「風花、あのドール達の情報は?」

 

「えっと……あの人形達、全部にアルカナや技が存在しています。それぞれのアルカナと技はあの人形のモデルになっている人と全て同じです!」

 

 風花言葉に全員が成る程と思った。

 見たまんまと言う事であり、ある意味では己との戦いとでも言えるかも知れない。

 

『カカカ!』

 

 ドールマスターが再び指を動かすと、ドール達も再び一斉に攻撃を始める。

 

「あの大型シャドウをどうにかしない限り、あの人形達は止まりませんよ!?」

 

「それなら……!」

 

 乾の言葉にアイギスは空中へ飛び上がり、ドールマスターの背後へ一気に回り込むと背中の中からガトリング砲を取り出して引き金を引き、無数の弾丸がドールマスターへ降り注がれる。

 

『!』

 

 しかし、弾丸が当たる前にミツルドールとアキヒコドールが間に入って攻撃を遮った。

 その光景にアイギスは眼を開いた。

 

「速い……! ですが、これなら!」

 

 今度は頭部と指先の銃器を放つアイギス。

 先程からの攻撃の後ではこれは防げまい。

 そうアイギスは思っていたのだが、シャドウはアイギスの考えの先を行っており、二体のドールは四肢のパーツを全てバラしてアイギスの攻撃を防いだ。

 

「なんだあれ!? 人形達が全部防ぎやがった!」

 

「皆さん! まずは人形を全て行動不能にして下さい! 人形がいる限り、あのシャドウは攻撃を全て防ぎます!」

 

 風花の言葉に目付きを真剣なものへ変えるメンバー達。

 アイギスは少しでも戦い易くさせる為、ドールマスターへ攻撃を続ける事でドール達を足止め兼そのまま倒そうとし、残りのゆかりと順平のドール達へは美鶴達が相手をする。

 

『カカカ!!』

 

 美鶴達へガルダインとアギダインを放つドール達だが、すぐさまイシスとトリスメギストスが間に入り、盾となって技を無効化する。

 やはり、所詮は人形であり単純な攻撃だけしかしてこない。

 

「カーラ・ネミ!」

 

 攻撃の反動で動きが鈍くなっており、その隙に乾が二体の懐に入り槍を強化して凪ぎ払う形で槍を振って二体に刃が当たる。

 だが、乾は手応えを薄く感じとった。

 

――浅い……!

 

 そう、攻撃は致命傷にまではならなかった。

 

 後一歩の所でドール達が後ろへ下がったのが原因だが、下がったと言うのは謝った表現であり、誰かが引っ張ったのが正しい表現。

 

 そして、誰がそれをやったかは乾は分かっており、顔を険しくしながら上へ向けると、そこには意地の悪い笑みを浮かべるドールマスターがいた。

 

 ドールマスターはただドールを操っている訳ではなく、どちらかと言えば指揮官に見える。

 だがそれで、はいそうですかと言う美鶴達ではない。

 美鶴と明彦が追撃する形でドール達へ迫るが、ドールマスターの瞳が美鶴と明彦を捉えた瞬間、風花がそれに気付く。

 

「下がって! 大きい攻撃が来ます!?」

 

 風花が叫ぶが、メンバー達の頭上に蒼白い光の球体がそこにあり、その球体が急速に落下しメンバー達を襲う。

 

『メギドラオン』

 

「ッ!? 明彦! コロマル!」

 

「おう!」

 

「ワン!」

 

 美鶴の声に明彦とコロマルが答え、アルテミシアが鞭で弾き、拡散するメギドラオンをカエサルが地球儀を使い重力で更に弾き、ケルベロスがブースタで強化したマハラギダインで更に拡散させてメギドラオンの欠片はメンバー達を襲う事はなく、フロアの周りへ降り注ぐ。

 

 爆散するフロアの中、アイギスが相手をしていたドール達にもそれが直撃して粉々に砕け散り、ドールを失った事でドールマスターの守りが手薄となった。

 

 そこへチドリとゆかりが動いた。

 

「貰った……!」

 

「外さない!」

 

 ナイフを手にメーディアと共にドールマスターへ迫るチドリと、イシスを召喚したまま弓を同じくドールマスターへ向けるゆかり。

 だが、ドールマスターは残ったドール達を一斉に力を送り、最後の反撃に出た。

 

『マハタルカジャ+マハスクカジャ』

 

『カカカカ!』

 

 物理・魔法・命中・回避を一斉に強化された二体のドールから、禍々しい光が放たれており、先程よりも素早い攻撃で目の前にいた美鶴と明彦へ襲い掛かる……だが。

 

『カカカーーー!』

 

「遅い!」

 

「隙だらけだぞ!」

 

 一閃するサーベル、降り下ろされる拳。

 それと同時に両断、破壊されるドール達。

 

「やはり、洸夜のシャドウの方が手強いな」

 

「まったく……コイツらにここまで苦戦するとは、俺もまだまだか」

 

 相手が洸夜の影だった事や過去の事も重なり苦戦を強いられた美鶴達だが、この程度の大型シャドウに負ける様な実力ではない。

 そして、己を守るモノを失ったドールマスターにまずはチドリが迫った。

 

「メーディア!」

 

 主の命に左手に持つ杯からアギラオをドールマスターの顔面へ放つメーディアに、顔面に直撃して腕を振り回すドールマスター。

 

 だが、攻撃はまだ終わっていない。

 まだ、ゆかりの攻撃が残っているのを忘れてはいけない。

 ゆかりは弓を構えたまま、暴れるドールマスターの額に照準を合わせる。

 

 失敗は許されない、いや、失敗等最初からする気なんて微塵もない。

 不特定に揺れる的だが、ゆかりは何の躊躇いもなく矢を放ち、その矢は吸い込まれる様にドールマスターの額を貫き、ドールマスターが地面に着く。

 

「今だ! 一気に畳み掛けるぞっ!!」

 

 美鶴の号令に一斉にドールマスターへ飛び掛かって行くメンバー達。

 その勢いによって砂埃が発生し、ドールマスターは勿論、攻撃している美鶴達も見えない。

 これが集団攻撃、伝家の宝刀『ボカスカアタック』である。

 

「攻撃やめ!」

 

 美鶴の声に攻撃を止めるメンバー達。

 煙が晴れるのを待ち、様子見をしていると煙は晴れ、そこにはボロボロになり粒子状になりながら消滅して行くドールマスターの姿があった。

 

「勝ちましたね」

 

「え、えぇ……スッゴい疲れたけど……」

 

「これ、めっちゃ疲れるんだよな」

 

「二人とも大丈夫……?」

 

 アイギスの言葉にゆかりと順平が肩で息をし風花が心配する中、周りがそれを見ながら微笑んでいた時だった。

 パチパチ……と、どこからか拍手の様な音が聞こえ始めた。

 

『あの程度のシャドウじゃ相手にならないか……』

 

 声はドールマスターの向こう側から聞こえ、ドールマスターが消えるとその姿を現すが、案の定、声の主は洸夜の影であった。

 

「大型シャドウは倒したんだから、そろそろ洸夜の下へ案内して欲しいんだけど?」

 

 もう洸夜の影の対応に慣れたのか、チドリが平然と言い放った。

 だが、洸夜の影は首を横へ振る。

 

『まだだ。お前達はまだ知らなければならない。黒の過去……黒の産声を……クク、全ては繋がっている』

 

 そう言って洸夜の影は消え、それと同時に入口と出口の鎖が消滅する。

 その事に誰も何も言わず、一旦だが危機が消えた事に安堵の息を吐いた。

 

「……あれが、洸夜さんの本心なんでしょうか? 僕、洸夜さんの事、全然分かっていなかったんじゃーーー」

 

 先程の洸夜の影の言葉が気になったのか、不意に乾がそんな事を言い放った。

 洸夜の影は自分は洸夜だといっていた、つまり洸夜の意思だとも取れる。

 

 乾がそれが気になっていたのだ。

 洸夜は本当は自分の事を何とも思っていなかったのでは無いかと。

 だが、そんな乾に明彦が声を掛けた。

 

「乾。一体、何が洸夜の本心なのか俺にも分からん。だが、だからこそ俺達は洸夜に会わなければならないんだ。結末がどんな形になったとしても、俺達はそれを受け止めなければならない」

 

 乾にそう言う明彦だが、その言葉は他の仲間達、そして明彦自身にも言っている様に思えるが、少なくとも乾に通じたらしく乾は小さくはい……とだけ言った。

 少し重い空気が流れるフロアだが、次の瞬間、聞き覚えのある二人の声が美鶴達の耳に届く。

 

「センセイ! 通れる様になってるクマよ!」

 

「本当か! 良し急ぐぞ!」

 

 それは先程のフロアに取り残されたクマと悠の声であった。

 戦いで忘れていたが、声からして無事なのが分かる。

 美鶴達は悠達が無事な事で安心したのだが、近付いてくる二人の声は何処か焦った様子。

 

「クマ急ぐぞ! このままじゃ……!」

 

「耐えるクマよ! すぐに皆と合流するクマ!」

 

 なにやら不穏な会話が聞こえてくる。

 美鶴達は互いに顔を見合せ、もしかしたら悠かクマのどちらかが怪我をしたのではないかと予想する。

 怪我でもしたならば、この慌てた様子が分かる。

 そして、それから一分も経たない内に二人はフロアへ上って来た。

 

「着いた!……あ、美鶴さん!」

 

「皆いるクマ!」

 

 上って来た悠とクマは美鶴達を発見するや否や、美鶴達の下へ走るが悠は背中に何かを背負っていた。

 

「無事だったんだな二人共」

 

「心配したんですよ!」

 

 美鶴と乾がメンバー達を代表する形でそう言って二人の無事に安心するが、悠とクマは何処か様子がおかしかった。

 

「ふ、二人共……どうしたの?」

 

「何かあったの?……って言うか何か背中にいるんだけど……」

 

 風花とゆかりが何かを背負っている悠へ話し掛けた。

 すると、悠とクマは何処か辛そうな表情をしながら少しだけ黙るが、それからすぐに口を開いた行く。

 

「すいません。俺達のせいで……!」

 

「クマ……!守れなかったクマよ!」

 

 一体、何を守れなかったのか?

 美鶴達は互いに顔を見合せるが何だかんだで気になるのは悠が背負っている、何処か見覚えのある形をした何かであるが、今は悠達の言葉を待つことにした。

 

「美鶴さん……俺は……」

 

 そう言って悠は背負っていたモノを美鶴達の前へ置いて見せる。

 悠とクマは気まずそうだが、それを見た瞬間、美鶴達もある意味で眼を大きく開いてしまう。

 そう、悠とクマが背負ってきたモノ、それは……。

 

『……』

 

 何も言わないで横になっている順平ドールであった。

 これは一体、何を意味しているのか。

 美鶴達も突然の事に眼を点にしてしまいそうになるが耐え、代表して思わず頭痛を起こしそうになった美鶴が悠へと聞いた。

 

「悠……これは一体、どういう意味なんだ?」

 

「すいません。さっきのフロアで俺とクマは誤って順平さんを攻撃してしまったんです……!」

 

「ずっと回復はしていて、ジュンペーもカカカカ! って言って場を和ませてくれたんだけども、さっき突然喋らなくなったんだクマよ!」

 

 拳を握り締め、本当に悔しそうに言う悠とクマだが、美鶴達は一体どうすれば良いのか逆に分からなかった。

 わざとなのか、それとも本気なのか。

 どの道、こんな事をしている場合ではない為、美鶴達はゆっくりと本物の順平へ視線を送る。

 

――責任持ってお前が何とかしろ。

 

 そんな意思を込めて、美鶴達は本当に眼が点になって自分の人形とそれを見て悲しむ悠とクマを見ている順平に対処をさせようとする。

 別に責任は順平にないのだが、どうにかこの茶番を終わらせたかった美鶴達。

 チドリが放心に近い順平を押して前に出し、明彦が悠とクマへ語り掛ける。

 

「悠、クマ、君達はコレが何に見える?」

 

「何を言っているんですか、順平さんですよ」

 

「アッキー!仲間をコレ扱いなんて酷いクマよ!」

 

 言っている言葉は良いものだが、明らかに今は使って欲しくない言葉に明彦は溜め息を吐きながら、目の前にいる順平を指差した。

 

「じゃあ、君達の目の前にいるのは何に見える?」

 

 そう言って悠とクマの視線は目の前にいる本物の順平に向かされる。

 

「……多分、順平……さん?」

「あれ? なんでジュンペーがそこにいるクマか? ジュンペーは目の前で力尽きて……」

 

 真顔でそう言いながら、本物の順平と目の前に置かれている順平ドールを交互に見る悠とクマ。

 本物の順平、順平ドール、本物の順平、順平ドールの繰り返しで何度も確認する二人に本物の順平も敢えて沈黙で待っている。

 まさかこんな人形と本気で間違われているとは思いたくない順平は、悠とクマの言葉を待っている間はショックで燃え尽きたかの様に真っ白に見える。

 そして、何度か二人は見たのち、その時がやって来た。

 

「っ!?」

 

――しまった!

 

 まさにそんな表情をする悠とクマの二人に、遂に順平の我慢も限界に達してしまう。

 

「しまった! じゃねえよ!? どこをどうしたら間違えんだよ! 俺じゃん! 明らかに本物はオレッちだろ!?」

 

 必死に言い放つそんな順平に対し、悠とクマは冷や汗をかきながらもポーカーフェイスを決め込み、必死に眼だけ逸らしていた。

 

「も、勿論、冗談ですよ。いくらなんでも人形と間違える訳ないですよ……HAHAHA!」

 

「ク、クマも最初から分かっていたクマよ!? クマぐらいになれば本物と偽物ぐらい匂いで分かるクマ……」

 

「嘘つけ!? 眼が笑ってねえじゃん! 本気だったろ! 本気でオレッちとこの人形の区別がついてなかったろ!? 」

 

 あからさまな嘘を言う二人に畳み掛けるかの如く言い続ける順平。

 そんな順平に悠も言い返した。

 

「順平さん! 互いが互いを信じなければ、本当の絆なんて作れません!」

 

「どの面が言ってんだ!? お前、クールな顔してとんでもない事を言ってるぞ?!……って言うか! 眼だけ逸らしてる時点で後ろめたいと思ってるんだろ!?」

 

 そう、悠だけ先程から一回も順平に眼を合わせようとしていないのだ。

 絶対にこっちを順平を見ず、無理に見ようとしてもプログラムされているかの様に無駄のない動きで眼だけを逸らし続けるのだ。

 

「いや~それにしてもおかしいとは思ったクマよ? 何言ってもカカカカ! としか返さないもんだから」

 

「普通にふざけているだけだと思ってました。別に違和感もありませんでしたから」

 

 最早、自然に開き直っている悠とクマだが、順平は顔をピクピクと動かしながら聞き続けるが、後ろから笑い声も聞こえてくる事からゆかりやチドリ辺りが笑っている事が分かり、更に腹が立つ。

 

 そして、順平は目の前に寝かされている元凶であるドールを睨む。

 平然と間の抜けた顔をしているのがハッキリ言ってムカつく中、順平はある事に気付く。

 

――ん? この人形、額に何か書かれて……

 

 ドールの額を覗き込む順平。

 そこには、平仮名で"じゅんぺい"と書かれていた。

 子供のイタズラの様な文字。

 そんな文字に順平の堪忍袋の緒が切れた。

 

「どっせぇぇぇぇぇい!!」

 

 順平は素早く人形の頭を掴むと、そのまま上に投げた瞬間にトリスメギストスを召喚してそのままドールを一刀両断にする。

 

「あっ! 順平さんが!?」

 

「違うって言ってんだろぉぉぉぉぉぉ!!?」

 

▼▼▼

 

「と言う訳で、私達は君達が来るまで洸夜のシャドウと戦っていたんだ」

 

「そんな事が……」

 

 順平の一件を済ませた後、悠とクマは自分達がいなかった時に起こった事を美鶴達から聞いていた。

 因みに、順平は最後の悠の言葉に対するツッコミによって息切れを起こし休憩中である。

 

「それじゃあ、次のエリアに行けば良いクマね?」

 

「はい。ですが……」

 

 クマの言葉にアイギスも頷きはするが、その目線は心配そうに次のフロアへの扉へ向けられていた。

 今までの階段とは違い、どこか不気味な雰囲気のある扉。

 風花と乾も先程の洸夜の影の無表情が頭から離れないでおり、不安だけが積もっていた。

 

「黒の産声……あのシャドウ、そう言ってたわね」

 

「……黒の産声?」

 

 思い出した様に言うゆかりの言葉を悠も繰り返す様に呟くが、心当たりはまるでなかった。

 周りに重い空気と時間だけが過ぎて行く。

 だがそんな時、美鶴が一人扉の方へ歩き出し、それを見たアイギスが声を掛けた。

 

「美鶴さん。宜しいんですか? もしかしたら、先程の光景よりも……」

「大丈夫だアイギス。さっき、洸夜のシャドウの前でも言ったが覚悟なら、既に出来ている」

 

そう言って再び皆に背を向けて扉の方へ歩き出す美鶴の背に、他のメンバー達もそうだったなと言う感じで少し笑みを浮かべた後、表情を真剣なものにして美鶴の後を追う。

 

 それを見ていた悠とクマも、先程とは違う何かを美鶴達から感じ取ったのか安心した様子で皆と扉の前へと向かい、そのまま扉を静かに開く。

 

 しかし、悠達はまだ知らない、黒の産声の意味を。

 そして、悠達はすぐに知る事になる、黒の産声の意味を。

 

――これは……!

 

 悠達は再び見る。

 黒き愚者の過去を……。

 

End

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。